あつさ

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ワンドロワンライ,全年齢,超短編,原作軸,カカサス小説シリアス

 ふとしたときに感じるその視線の熱さを無視して今日も報告書を出しに一人火影の執務室に向かう。
 その視線は何か言いたげに揺れた後、踵を返して自分の家に向かって歩いていく。
 波の国で見せた写輪眼が気になってるんでしょ、わかってるよ。ちゃんとその内使い方を教えるからそう急くな。
 ……とでも言ってやれば、あの子は納得するんだろうか。

 新人下忍を受け持つのにも慣れてきて、波の国の報告書も書き終えて、ようやく向き合ってやれる時間が取れるようになったのはその数日後。
 任務が終わった後に声をかけて、ふたりが帰ったのを確認してから改めてサスケに向き直る。
「用件は想像ついてるか?」
 サスケはまっすぐに俺にその熱い視線を向けながら答える。
「あんたからの用件はわからないが、俺もあんたに用事がある。」
 そうだろうね。知りたいことだらけでしょ。
「……ま、道端じゃ何だ。演習場にでも行くか。」
 歩き出した俺を追う視線。1メートルほどの距離を開けてサスケも歩き始める。
 初夏の西日を浴びながら辿り着いた第三演習場。適当な丸太に腰を下ろして、隣に座るようサスケに促した。けれどサスケは俺の目の前に立ったまま、顔を左斜め下に向ける。なんだか緊張しているようだ。どうしてそんなに緊張することがあるのだろうか。
「俺は……」
「うん。」
「あんたのことを尊敬しているし、その……あんたのことを、もっと、知り、たい」
「答えられることなら教えてあげるよ。」
 にこ、と笑顔を作ってサスケの顔を覗き込む。
 西日を背に陰になっているサスケの表情はよく見えない。
「あんたは、俺のこと……どう、思ってる?」
 てっきり写輪眼のことを聞いてくるのかと思っていたから、想定外の質問に開きかけた口をまた閉じた。この子はどんな答えを望んでいる?何を思って最初にこの質問を選んだ?
「……大切な部下で、教え子で、……」
「そういうことじゃなくて」
 左下を向いていた顔が俺に向けられる。熱い視線と共に。
「部下でも、教え子でも、忍でもなく、ひとりの人間として、俺のことをどう思ってる。」
 ……困ったな、そんな質問が来るとは思っていなかったから、答えを用意していなかった。
 笑顔を向けるのをやめて、考える。数泊の刻を経ても、ありきたりな答えしか思い浮かばない。
「……何事も懸命に頑張る子だ。だから力になってやりたいと思う。手を貸したいと思う。」
 サスケの手がぎゅっと握り締められる。
 望んでいた答えではなかったのだろうか。
「……変なこと聞いて、悪かった。そうだよな、俺はまだ……子どもだ。」
 ああ、しまった。「ひとりの人間として」と聞かれたのに、俺は「頑張る”子”」と言ってしまった。まあ、紛れもなくサスケは子どもなんだけど、サスケが聞きたかったのはきっともっと別のことだったんだ。けど、別のことって、いったい何が聞きたかったんだろう。
 サスケはこぶしを握り締めたまま、俺の隣に静かに座って俯いた。
「それで、あんたの方の用件は何だ。」
「あ、ああ……写輪眼のことを、教えてやろうと思ってね。」
「そうか。……。」
 どこか上の空で、写輪眼に全く食いついてこないのが意外で。サスケにとってさっきの問いかけはきっと大事なことで、そして俺の答えに落胆してしまったのだろう。どう答えていればサスケは納得してくれていたのだろうか。そんなことを考えながら、とても修業を始めよう、と言い出せる雰囲気ではない中、西日を浴びながら俺たちはただ黙ったまま隣り合って座っていた。

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