誘惑

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成人向,短編,原作軸,カカサス小説エロ描写有,ほのぼの

 第七班はゆずを運ぶ商人の護衛任務で温泉街までやってきた。本来であれば納品先の温泉宿にゆずを送り届けるのを見送って終わりだが、下忍になりたての子どもたちがはいさようならと黙って帰るわけがない。せっかくだから入って行きなという女将さんの配慮もあって、その日は宿に泊まることになった。
 波の国以来の泊まりがけの任務だが、今回は敵がいない平和でのんびりとした、しかもちゃんとした旅館に泊まれるという好条件に三人とも浮ついている様子で、ナルトはすぐに入浴場まで駆けて行って、サスケは部屋の窓から温泉街の景色を眺めながら何やら考え事、サクラは土産物を眺めながら目をキラキラさせている。
 それぞれ温泉宿を楽しんでいる様子だが、この状況は修行のために用意した場だった。ナルト、サスケ、サクラそれぞれに課題を出し、その局面をどう対応するのか観察後、フィードバックという名の説教……となる予定の修行。
 
 一番に温泉に浸かりに行ったナルトがラッキーなことに誰もいない貸切状態の浴場でゆず湯を満喫していると、脱衣所に誰かが入ってきた。
 あー、もう貸切状態は終わりかぁ、と思っていたら入ってきたのは身体にバスタオルを巻いただけの裸のお姉さん。
 え!? 俺ってば男湯と女湯間違えた!?
 股間にタオルを当ててザバっと立ち上がり、お姉さんに向かって叫んだ。
「すみませ――ーん!! 間違えました!!」
 いきなりの大声に驚いた様子のお姉さんの方をなるべく見ないようにしながらそろそろと脱衣所に向かって行くと、温泉で温まった肩にひんやりとした手が載せられる。
 え、と思ってその手の主を見たら、お姉さんは優しく微笑みながら囁くように言った。
「良いのよ、一緒に入りましょ? ひとりは寂しいと思っていたの。」
 何が起きているのかわからないままお姉さんに手を引かれてとぽんと再び柚子湯の中に入る。
「君くらいの男の子、元気いっぱいで好きなの。君は?」
「あ、お俺ナルトです! 俺もと、年上のおおおねえさんはす、好き、です、けど……」
「あら、奇遇ね、じゃあこういうことも興味あるかしら……」
 俺の手がお姉さんの両手に包まれて引き寄せられる。その先にあるのはタオルからはみ出そうな豊満な胸。
 え!? ど、え、ええーっ!? いいの!? いやいや、ええ!?
 予想だにしていなかった事態にされるがまま、その胸の上に手が置かれた。
 や、わらかっ……!
 お姉さんの顔に視線を移すと、首をかしげて微笑んでいる。……さわっていいってこと!?
 とどめとばかりにお姉さんがささやいた。
「好きにしていいのよ……?」
 胸に触れている手の指を少しだけ曲げるとやわらかく弾力のある紛れもないそれはおっぱい。
「あら? さっきの元気はどこにいったのかしら……お姉さんも、ナルト君を好きにしちゃっていい……?」
 少しずつ近づいてくるお姉さん、もといおっぱい、心臓がはち切れんばかりにどきどき脈打ってごくりと唾を飲む。そのやわらかいおっぱいを包んでいたバスタオルがはらりとはだけて、俺の顔は完全におっぱいの中に埋まった。
 !?
 何か言おうにもおっぱいで口まで塞がっている。手をわたわたと振ってみてもクス、と笑う息遣いが聞こえるだけ。頭の中はおっぱいのやわらかさでいっぱいだ。
 その状態が十数秒続いたところで、ぼん、と音がしてお姉さんはおっぱいもろとも姿を消した。
「……え? ……は? ……ええ!?」
 辺りを見回すと、すぐ後ろに立っていたカカシ先生からゲンコツをもらう。
「ってぇ~~……」
「ナルト、不合格。忍たるもの……何だった?」
 ニコッと笑いながら問いかける、カカシ先生のその笑顔が本物ではないことぐらい俺でもわかる。
「裏の裏を読め……? んん!? どっからどこまで!?」
「ぜ、ん、ぶ、この試験のために用意したものだ。簡単に女の誘惑に引っ掛かってんじゃないの。敵の刺客だったらお前とっくに死んでるからね?」
「けどあんな試験ずりぃってば……」
「反省文に書く内容を考えておきな。さて次は、と。」
 
 カカシ先生は背を伸ばして、旅館の本館の方に目をやった。
「どれもかわいい~~……サスケ君、どんなのが好きかな……。」
 サクラは土産物屋の前で簪を見つめていた。この温泉街では近くを流れる川で宝石のような綺麗な石がとれるため、それを加工したアクセサリーが定番の土産物だった。
 粒の大きな石は目が飛び出るような金額だけど、小さいものなら私のお小遣いでも買える!
 でもどれも綺麗で迷っちゃうな~。
 品定めをしていると、横に誰かが並んだ。誰だろう、と少し視線を向けるとそこにはサスケによく似た男の人。その面影があまりにもそっくりで思わずドキッとしてしまった。
 その人は深い紺色の中にキラキラ光る粒の入った石の簪を手に取ると、私の方にそれを差し出す。
「あなたにはこれが似合うんじゃないかな?」
 声までそっくりなその人を見上げると、左目を前髪で隠した黒髪の……まるで大人になって、少し優しくなったサスケ君のような人だった。
「……あ、失礼。これ全部、僕の作品なんです。」
 照れたように笑う笑顔、その口元までよく似ている。
「え、すごい……全部素敵で、選べないくらい、……素敵です。」
 私はその人の目に射止められたまま、目を逸らせないでいると、何かに気付いたようにその人はつぶやいた。
「……瞳の色が、綺麗ですね。」
 ドキッとしてしまった。この人はサスケ君じゃない……のに、そのそっくりな目で見つめられると胸がドキドキと高鳴ってしまう。
「あの、ありがとう、ございます」
 視線から逃れようと商品の方に目線を移すと、手を握られた。
「その瞳の色……ぴったりな石があるんです。よかったら工房に来てくれませんか? ぜひあなたに贈りたい。」
 再びその顔を見ると、真剣な眼差しで瞳を見つめている。
「そんな、悪いです……」
「遠慮しないで下さい、僕があなたに贈りたいんです。さあ、こちらに。」
「え、あのっ……!」
 その人はそのまま手を引いて歩き出した。思わず、ついて行く。辿り着いたこぢんまりとした部屋は色々な道具が整理して置かれていて、窓の前にある机にたくさんのキラキラ光る石が置いてあった。その中から、ひとつ手にとってきて、工房の入り口に立つ私の手のひらにそっと乗せられる。
 少しだけ青みがかった、薄い緑色の石。角度を変えると、黄緑色に光る。
「わぁ、きれい……」
「あなたの瞳も、同じくらい綺麗だ。」
 え、と顔を上げたら、その人の顔がすぐ目の前にある。しかもその顔がどんどん迫ってきて、思考が止まった。
 え、え、え、待って、待って、え!?
 唇に柔らかいものが触れた、と思った瞬間、建物の外にいた。周辺に人の気配はない。
「え? 何っ!? 幻術!?」
 咄嗟に身構えるが、その頭に大きな手がポンと置かれる。
「サクラ、不合格。忍云々の前にまず女の子なんだから軽率に男性と二人きりの状況になるな。隙もありすぎ。」
「カカシ先生!? 不合格……って……じゃあ、……どういう事? ええっ??」
「ま、想像にお任せしとく。さて、次か。」
「え、ちょっと待って先生!」
 にこ、といつもの笑顔のまま、カカシ先生はその場から姿を消した。
 
 窓の桟に腕をのせて街並みを見ていたら、部屋にカカシが入ってくる。俺は少し振り向いてからまた窓の外に目を移した。その隣に、カカシが腰を下ろす。
「なーに見てんの」
「別に……あんたには関係ない。」
「俺はもっとサスケのこと知りたいんだけどなぁ……。」
「知りたい……って、何を。」
 窓の外からカカシに目を向ける。いつものポーカーフェイスを保ったまま。
「何見てたのかなぁ、とか。どんなことが好きかなぁ、とか。いい機会だし、普段俺に言えないようなこととかあったら、教えてよ。」
 今更、何を言い出すんだこいつ。
「ついこの前、あんたが俺を……どう思ってるのか聞いたばかりだ。俺からあんたに言う事はもうない。」
 カカシが俺の手に自分のそれを重ねる。
「……俺はもっとサスケのことが知りたい。あのとき俺に聞きたかった答えは、こういう意味だったんでしょ。」
 カカシが俺に近づいてきて、抱きしめられた。カカシの行動の意図を探ろうと身動ぐが、カカシは力強く抱きしめていて離そうとしない。
「っ何がした」
「サスケ、俺もサスケのことが好きだ。」
 ……その言葉。そして、この行動。……カカシがそんなことを、言うわけが、ない。
「……てめぇ、カカシじゃねえな。」
 抜き身で腕の拘束から逃れ、カカシと距離を置き戦闘体制に入る。
「何者だ、目的は何だ。」
 ホルダーの中のクナイに手を伸ばしたところで、窓辺にいたカカシはぐにゃりと歪んで部屋に溶け込むように姿を消した。
「幻術……」
 術師の姿は部屋の中にはない、廊下か、それとも屋根か、と思考を巡らせていたところに、部屋の扉が開いてカカシが入ってきた。また幻術か?
 入ってきたカカシはニコッと笑ってサスケに言った。
「ごーかっく! 何を見たかは知らないけど、よく『自分が一番欲しいもの』の誘惑を見破ったな。」
 カカシの張ったトラップ、だったのか。警戒を緩めて身体の力を抜いた。
 ……自分が一番欲しいもの。幻術のカカシがした一連の行動を思い出して顔が熱くなる。
「嘘言ってんじゃねえ、俺があんたにあんな事求めてるわけねえだろ!」
 沈黙が流れてから、自分が余計な事を口走っていたことに気がついて、顔が真っ赤になった。
「俺に……えっと、あんな事って……?」
「今のは聞かなかったことにしろ。」
「いや気になるでしょ俺が何したの。」
「聞くなって言ってんだろ!」
 カカシが俺に歩み寄って、真剣な目で俺の顔を覗き込む。その視線から逃れようと顔を逸らして横を向いた。
「……そういえばこの前、俺に自分のことどう思ってるかって、聞いてきたよね。……関係ある?」
「もうこの話は終わりだ。」
「関係あるんだね?」
「終わりだって言ってんだろ!」
「もしかしてサスケ、俺のこと」
「それ以上口開くなウスラトンカチッ」
「頼む、確認させてくれ」
「嫌だ」
「サスケは俺のことがす」
「カカシ先生――っ!!」
 ナルトが勢いよく部屋に入ってきた。
 続いて落ち込んだ様子のサクラも手に5枚の紙を持って入ってくる。
「書いたってばよ!! 反省文っ!! ったくひでーこと考えるよな、先生は!!」
「ほんと……落ち込むわ……自分が情けない……」
 三人全員、カカシの何らかのトラップに引っかかったらしい。カカシが二人の方を向いてニコッと笑う。
「お前らは警戒感がなさすぎだ、サスケは合格だったよ?」
「え」
「えっ!」
 文字がびっしり書かれた紙をカカシに雑に渡して二人が俺に駆け寄る。
「サスケ君は誰に何されたの?」
「サスケはおっぱいじゃねえよなさすがに!」
「……逆にお前ら、何があったんだよ……。」
「いやさ! 風呂入ってたらボインなねーちゃん入ってきて!」
「私はちょっと言えない……」
「そんで俺の顔をおっぱいに!!」
「こらナルト、声がでかすぎだ。」
「とにかくおっぱいがさ!!」
「サスケ君は何があったの?」
「サクラと同じだ、言わねえ。」
「凄かったんだってばおっぱいが!!」
 その三人の輪の中にカカシが入り込む。
「ナルト……お前どんだけおっぱい好きなのよ。」
「男なら誰でも好きだろ!? カカシ先生だってエロ本読んでるじゃねーか!」
「小説は小説、ファンタジーの一種。現実でそんな都合のいい展開になるわけないでしょ。……反省が足りないみたいだな。」
「だっておっぱ……むぐ」
 なおもおっぱいを連呼しようとするナルトの口がカカシの手で塞がれる。そして一言。
「ナルトは温泉街の周り50周走ってこい。反省しろ。」
「えぇ~!? そんなぁ……」
 露骨に嫌な顔をするその頭にゲンコツが入った。
「文句言わずにさっさと行け。」
 ナルトは頭に手を当てながら不満そうに呟く。
「……俺にだけ厳しすぎだってば……」
「また文句言ってるわよ先生!」
「ん~、もう一発いる? ゲンコツ。」
 握りしめたカカシの拳を見て、ナルトは無言でさささっと着替えて「ちょっくら行ってくる!」と走っていった。
 
 静かになった室内、カカシが部屋の真ん中の襖を動かし始めた。あてがわれた大部屋は真ん中で襖で二部屋に区切れるようになっている。片方は女の子のサクラの寝場所になるんだろう。俺達もカカシを手伝って、押し入れから布団を出したり机を寄せたりして寝る準備に取り掛かる。
 俺は男部屋に布団を3つ並べて、サクラは自分の布団を自分で敷いた。
 準備が整ったところで、温泉に浸かりにいく事になってそれぞれ男湯と女湯に分かれて入っていく。つまり、カカシと俺が二人、一緒に温泉に入るわけで。当然のように中座された話の続きが始まった。
「あの日俺に聞きたかったのって、」
「その話は終わりだって言ってんだろ。」
「待って、俺真剣に聞きたいの。」
「何も答えねえからな。」
「要するに俺がサスケのことをどういう対象として」
「うるせえその口塞げ!」
「……お願いだから少しだけ俺に向き合ってよ。」
 身体を洗い終わったサスケがザバっと湯をかぶって立ち上がり、大きな岩に囲まれた柚子湯の方へ向かっていく。カカシもそれを追いかけてサスケの目の前に陣取った。
「……ごめん、あのときはサスケがそういう感情を持ってるなんて思ってなくて、だから上司としての言葉をサスケにかけた。それとは違う本音もあったけど言わなかった。」
「……あんたはそれでいいんだよ別に、あいつらと同じように上司としてこれからも接すればいい。」
「サスケはそれでいいの? 俺はサスケが今日幻術で俺が何をしたのを見たのか知りたい。もし俺の本音とサスケの本音が同じだったら?」
「そんなわけない、あんたは大人だし本音って言ったってどうせ俺がいっとき望んだようなものじゃない事はわかってる。」
「俺のこと勝手にわかったように言わないでよ。俺はサスケのことが好きだ。この好きは……つまりサスケのことが大事で、抱きしめたいし、その先だってしたい。」
「……その先って、何だよ。」
「……もしも俺のとんでもない思い違いだったら今から言う事は全部忘れてくれる?」
「……それは……内容による。」
「俺だってこんな事サスケに言うのめちゃくちゃ勇気要るんだよ、もし全くの見当違いだったら気持ち悪がれるの目に見えてるから。でもさっきのサスケの様子見てもしかしてって思って今すっごい勇気出してるの、だから俺のアテが外れてても笑ったり軽蔑したりしないで、聞いてくれ。」
「……わかったよ、笑いも軽蔑もしない……。」
 お湯の中で、カカシが俺の手を握った。俺は水面に落としていた視線を上げてカカシの顔を見る。
「サスケと、……キスがしたい。俺の好きは、そういう好き、なんだ。」
 俺はカカシの目を見つめたまま何も答えなかった。カカシの言葉が頭の中で反復していた。なんて答えるべきなのか頭がぐるぐる回る。
 
 サスケからの答えは返ってこない。でも握った手をふりほどくこともなかった。
「もしサスケも同じ気持ちなら、今、してもいい……?」
 サスケの喉仏が動く。否定はしていない。嫌なら、違うなら、俺を避けるだろう。そうでない、という事は。
 顔を寄せて、一瞬唇同士が触れる。
 サスケはのぼせたのか、違う理由なのか、真っ赤な顔で俺のことをただ見つめる。
「サスケの口からも聞きたい、俺のことをどう思ってるのか。」
 サスケの瞳孔が揺れた。
「おれ、も」
 視線がまた水面に落ちる。
「あんたが、好きだ……あんたと、同じ」
 お湯の中で手がぎゅっと強く握られる。
「……成立、だよね?」
「……何が」
「俺たち、恋人……で、いいんだよね?」
「たぶ、ん、……いい、と思う」
 そう言ってみてから、思考にストップがかかる。待て、……待て、これも幻術か、何かの策かもしれない。
「……とでも、言うと思ったか。その手には乗らねえぞ。」
 俺はザバっと立ち上がって湯船から出た。カカシを残してひとりで脱衣所に向かう。
「サスケ、これは試験じゃない、本当に……!!」
 俺の後をカカシが追う。バスタオルを手に取っていたところを後ろから抱きしめられた。
「幻術じゃない、本物だ、騙してもいない、本気だ。」
「ファンタジー、そんな都合のいいことが現実に起こるわけがない、あんたが言った言葉だ。」
「ならサスケにとっても、嬉しいってことでしょ? 夢物語じゃない、これは現実だ、お前を抱きしめるこの俺が偽物だと思ってるのか?」
「種明かしは終わってるじゃねえか。芝居はもういい。さっさと着替えて寝るぞ。」
「芝居なんかじゃないって言ってる。……嬉しかった、好きだと言ってくれて、同じ気持ちだとわかって。」
 ……都合がよすぎる、そんなことあるわけない、騙されないぞ、俺は。
「ほら、あんたのバスタオル。早く部屋戻るぞ。もうこの腕どけろ。」
 俺はタオルを受け取って、サスケの身体から手を引いた。あんな試験こんなタイミングでするんじゃなかった。でもあの試験がなければサスケの本音が垣間見える機会もなかった。お互いに好きだとわかっているのに自分の気持ちを信じてもらえないもどかしさ。どうしたらサスケに伝わるのか、どうしたら信じてくれるのか……。
 落ち込みながら身体を拭いて浴衣に着替えて、先に行くサスケの後ろをとぼとぼと歩いた。
 
 部屋に戻ると走り終わったナルトが仰向けで大の字になっていた。そのナルトを浴衣のサクラがつついている。
「ちょっとナルト……汗かいたんだからもう一回お風呂入ってきなさいよ。」
「もう……動きたくないってば……」
 サスケが呆れ顔でナルトを蹴飛ばして布団の隅まで蹴飛ばす。
「風呂入らねえならせめて端で寝ろ、汚ねぇ。」
 三組敷かれた布団を動かして、ナルトが乗っている布団だけ端に追いやられて、代わりに残った二組はピッタリと隣り合う形になった。
 今日の任務の反省点や今後気をつけるべきことをサクラとサスケが話し合っているのを見ながら、俺は窓辺でビールをあおる。ヤケ酒……というわけにはいかないから、ささやかにビールを一缶だけ。
 どうすればサスケは信じてくれるのか、そればかり考えているうちにあっという間に飲み干していた。
 時間をあけて改めて伝えれば? もしくは何度でも言い続ける? ……でも試験のおかげで、サスケはしっかりと何でも疑ってかかるようになってしまった。修行の目的は果たせた、けれどそのせいで想いが伝わらないなんて、忍の世界は残酷だ。
 ナルトは大いびきをかきはじめていて、時間的にもそろそろ寝る頃だった。俺はパン、パンと手を叩いて、話し合う二人に言った。
「そろそろ寝なさい、電気消すよ。」
 立ち上がって、布団に向かう。そこではじめて、自分とサスケの寝る布団がすぐ隣同士くっついていて、つまり手を伸ばせば触れられる距離で寝る事になるのだと気がついた。
 サスケの望む俺……以上のことをすれば、想定外のことをすれば、現実だとわかってくれるんじゃないのか。
 ただもしかしたら、想定外すぎて嫌がられる、かも、しれない。けど、温泉でキスをしたときのあの感じだったら、受け入れてくれる可能性はある。
 俺は真ん中の布団に入り、ナルトと反対側の布団をポンと叩いて、「おいで、サスケ」と声をかけた。
 サクラは襖を閉めてもう向こう側だ。
 サスケは部屋の電気を消してから、隣の布団に入って……俺とは反対側を向いて、横になった。
 
 避けられているようでつらい気持ちを抑えながら、サクラの部屋の方から動く気配がなくなるのを待って、サスケの布団の中に手を忍ばせる。気配を察知したのか、サスケが身じろいだところに腕を伸ばして引き寄せ後ろから抱きしめた。
 サクラに聞かれないように小声で、その耳元に声をかけた。
「俺はサスケが好きだ、抱きしめたいしキスもしたいし、それ以上のことだって……したい」
 耳とうなじに触れるだけのキスをする。何度も何度も。我慢できなくなって舌を這わせるとサスケはぴく、と震えた、手は浴衣の隙間からサスケの身体を直接撫でながら抱きしめる。時折震えるように反応するのを愛おしいと思いながら、身体を密着させて股間を下半身に押し付けた、男ならこれがどんな意味かわかるはずだ。
 上半身を撫でていた手を少しずつ下にすべらせてサスケのそこに触れた。
(拒否されませんように拒否されませんように拒否されませんように)
「……嫌だったら、言って」
 サスケのそこを直に握って上下に扱きはじめた。少しずつ硬く勃ち上がる。サスケの息遣いが荒くなっていくのに俺自身も興奮していた。腰をぐ、ぐ、とサスケに押し付けながら、サスケのそれを扱いていると、……もっとしたくなる。
 俺は浴衣をはだけて自分の勃ち上がったそれを出し、サスケの浴衣を捲り上げてその足の間に挟んで、腰を動かしはじめていた。
「サスケ……こんな俺は、嫌か。でも俺は、サスケとこういうことが、したい……っ」
 サスケの息が荒くなる、それを扱く俺の手にサスケの手がのせられた。小さく首を横に振るのを見て、イキそうなのかと判断し、ぎゅっと握って手の動きを早める。
「や……、ぁ、……っ!」
 ビュク、ビュク、と勢いよく出る温かいものを手で受け止めて、肩で息をするサスケが落ち着くのを待った。
「サスケ、好きだ。……俺の好きは嫌? それともまだ信じられない?」
 下半身に伸びる俺の腕に、サスケの腕が絡みつく。
「……ラトンカチ」
「……それってどういう意味……」
「あんたの……どうすんだよ、これ……」
 俺の……サスケの太ももに挟んだそれ。その先の方にサスケの精液をつけて、サスケの手を誘導した。
「この先のとこ、ぎゅって握っててくれる?」
 こくりと頷いたのを確認して、俺は腰を動かす。柔らかいサスケの太ももに挟まれて、亀頭がぬちゅぬちゅと刺激されて、それがサスケの手だと思うと興奮して、挿れたい気持ちをぐっと抑えながら、往復を繰り返してしばらく、俺も果てた。
「今の俺……サスケにとって、都合のいい俺だった?」
 首を横に振る。
「俺の好きは、サスケとしたいことは……嫌だった?」
 首を横に振る。
「俺の気持ちが芝居じゃないって、わかってくれた?」
 頷く。
「サスケは俺のこと、好き……?」
 反応がない。
「嫌い、になった?」
 首を横に振った後、サスケがもぞ、と動いてこっちを向いた。かと思ったら俺の額にサスケの額がゴチンとぶつかる。
「……物事には順序ってもんがあるだろ」
「うん、けど、こうでもしないと俺の気持ちわかってくれないんじゃないかって……」
「付き合いはじめて、手繋いだりとか、キスしたりとか、そういうのの後だろ、普通こういうことはっ」
「ごめん……嫌だった?」
「……あんたなら、いい……」
「えっいいの」
「だめだ」
「えっ」
「順序守れ」
「あっ、はい」
「まずは、付き合いを始めるところからだ」
「……手、繋いでいい?」
「……ん」
 サスケが左手を俺の右手に重ねた。俺はその指を広げて間に挟み、恋人繋ぎにする。
「キスは……?」
「まだだめだ」
「……厳しいな」
 でも手を繋いでいるだけで、気持ちがつながっているような気がする。今はこれだけでも、十分だ。
「ごめん、服……直してから、寝てね。」
「……ウスラトンカチ」
「ごめんって……」