看病

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全年齢,短編,原作軸,カカサス小説ほのぼの


 拝啓 第七班諸君 先生は風邪を拗らせた為、本日は各位修行に励むように。敬具』
 小さいしわくちゃの犬が集合場所に来たかと思ったら、しわくちゃに畳まれた紙切れを首輪に挟んでいて、読んでみたらこれだ。
「修行……って言っても先生がいないのに?」
 うーんと考え込むサクラ、暴れたそうにウズウズしているナルト、そして俺はいつもの任務帰りの修行と同じでいいか、と思いながらそのしわくちゃの紙の裏面に『ご自愛を』と書いてまたその犬の首輪に挟んだ。
 各位とあるから別に三人一緒に行動する必要はないだろう。
「俺は修行場に行ってくる。二人も好きにすればいいんじゃねぇの。」
 そう言い残していつもの場所に向かいながら、あのカカシも一応人間なんだな、風邪拗らせるなんて、と考えてふと、そういえば、カカシは独身……だよな、と立ち止まる。独り身で風邪を引いたときの苦労は身に染みてわかっている。このまま死んだら誰も見つけてくれないのではなどと弱気になったり、料理をする気力もなくてろくに食べられなかったり……カカシは大丈夫なんだろうか。
 修行が終わったら、プリンでも買って見舞いに行ってやるか、と修行場に着いて、荷物を下ろして忍具をホルダーにセットした。
 
 確かここだったよな。
 マンションの前に立ってみて、そういえば何号室か知らないなと思ったら、一階の集合ポストの304号室に「はたけ」と書いてあった。
 コンクリート製の階段を上がって304号室の前に立ち、呼び鈴を鳴らすが応答はない。多分中でぶっ倒れてんだろう。さて強行突破するか、買ってきた差し入れだけ玄関前にでも置いておくか、と考えていると扉が開いた。朝のとはまた違う少し大きい犬が鍵を開けて扉を開けてくれたらしい。何匹犬いるんだ?
「おい、邪魔するぞ。」
 がらんとしたリビングに声を張るが返事がない。寝室だろうか。冷蔵庫の中に買ってきたプリンを入れて、扉という扉を開けたら寝室のベッドで丸まっているカカシを見つけた。
 エアコンからこれでもかと温風が吹き出ているのにカカシは小刻みに震えている。寒気?
「おい、カカシ。生きてるか。」
 パイのように布団の淵を内側に包んで丸まっているうちの、唯一布団の外に出ている後頭部を小突く。
「……だれ……さむい……から、扉、閉めて……くれ……」
 病気になると誰でもこんな弱るもんなんだなぁ。扉を閉めて体感温度30度の寝室の中、もう一度その頭を小突く。
「今日メシ食ったか、差し入れ持ってきた。プリンとかなら食えるだろ。水分も取れ。」
 少しして、震える手がベッド横のテーブルを指差した。ここに置いておけってことか。
 キッチンに足を向けて、あの状態で何なら食べられるのだろうか、と買ってきたものの中からゼリー飲料とプリンを取り出し、スポーツ飲料のペットボトルと一緒に寝室まで持って行くと、カカシがこちら側を向いていた。丸まっているのは変わらないが。
「あ……サスケ……わるゲホッゲホッ! ……あー……と、ありがとね……ゴホッ、ゲホッ!」
 拗らせたってのは本当らしい。風邪薬とかないのだろうか?
「とりあえず、これ、ゼリー。これなら飲めるだろ。この家には薬はねえのか。今の症状は寒気と咳か?」
「う゛ん、喉の痛み……と咳と、寒気……」
 総合感冒薬があればいちばんいいが、なければ消炎鎮痛剤あたりか。今寒気ってことは、これから体温が上がりそうだな。
「薬はあるのか? 持ってくるから場所教えろ。」
「……ぱっぐん……サスケに……」
 ぱっぐん? なんだそれ。
 と思ったら朝のしわくちゃな犬がいつの間にか隣に座っていた。
「薬の場所だな、着いて来いサスケとやら。」
「……お前喋れるのか。」
「忍犬を舐めてんのか? 黙ってついて来い。」
 へえ。カカシの口寄せ契約は犬、なんだな。しかし犬の手足では戸棚の引き出しは開けられないらしい。リビングの角の引き出しを片っ端から開けていくと、薬の入っている引き出しがあった。ちゃんと消炎鎮痛剤も総合感冒薬も入っている。確か両方飲むと成分が重複するから感冒薬でいいだろう。
 寝室に戻ったら、さっきの状態のままゼリーにも口をつけていないようだった。仕方ないな。
 封を切ってカカシの口元にゼリー飲料の飲み口を差し出す。布団で隠れている口元を、布団を剥がしてその口元に押しつけた。……こんな顔だったのか。普通だな。普通すぎて面白みもない。
 カカシは押し付けられた口を開いてゼリー飲料を一口飲んでまた布団に潜り込もうとする。……これじゃ薬も飲めないな。……だからといって飲ませた方が良さそうだしどうするか。
 少し考えて、俺は口の中に水と薬を含んでカカシの口に寄せて舌で唇を開き、その中に水と薬を流し込んで顎を固定して口を開かないようにし、後頭部を支えて頭を上げた。喉が上下に動いたのを確認して口をこじ開けて薬が残っていないことを確認し、布団の中に頭を入れてやる。
 30分から1時間くらいで効き始めるだろう。それまでは横に座って忍術書を読むことにした。
 
 数十分後、カカシが布団から顔の上半分だけ出した。
「……ゼリー……もらっていい?」
「ん、ああ」
 蓋を開けてゼリー飲料を布団の前に差し出すと、布団の下から手が伸びてそれを掴み、また布団の中に戻っていく。
 まだそんなに寒いのか。薬効いてねえのか。
 まあ、そのうち効くだろう、と再び忍術書に目を落とした。
 
 そうしている内に夜の蚊帳が降りて、まだ布団で丸くなっているカカシを横目に変えるか、残って面倒を見てやるか悩む。
 この調子で今日1日過ごしたのなら腹も減ってるだろうし、水分を十分に取れていない、あとトイレにも行ってないのではないか。
「おい、カカシ起きてるか」
 声をかけると、もぞ、と目から上だけ布団から出す。顔が真っ赤だ。熱が出始めたのだろうか。
「体温計、どこにある」
「……はからなくても……たかいのは……わかるから……いい……」
「エアコン、どうする。消すか?」
「おねがい……」
 リモコンを手に取って、運転ボタンを押す。30度の設定で部屋の空気が淀んでいたから、窓を開けて空気を入れ替えた。
 心地よい夜風が入ってきて春らしい気温にホッとする。このまま朝まで30度の部屋にいたら俺までくたばりそうだった。
 頃合いを見て窓を閉めてから、浴室に行って熱いお湯で濡らしたタオルを固く絞ってまた寝室に戻る。
 もう丸くはなかったがカカシはやっぱり頭まで布団をかぶっていた、のを引っ剥がしてパジャマのボタンを外していく。
「サス、ちょ、まって、なに? やめ、」
「病人は黙ってろ。」
 露出した肌を濡らした熱いタオルで拭いてから、乾いたタオルで拭いていく。ゴロンと転がしたら何の抵抗もなく転がったから、上半身のパジャマを脱がして腕と背中も同じように拭いていった。
 いつの間にか隣にいた忍犬が、クローゼットに鼻先を向ける。開けると、パジャマが畳んで入れてあったから下着とパジャマを取り出して、新しいパジャマを着せてボタンを止めた。
 続いて下半身に移ろうとズボンを一気に下ろして脱がせ、足も拭いていく。最後に残った下着に手を伸ばしたら、カカシが手で制した。
「……そこは、さすがにじぶんで、やるから、……」
 肘をついてゆっくりと起き上がり、下着に手を伸ばして俺の方を見る。
「……ごめんけど、向こう向いててくれない……?」
「男同士で何言ってんだ。さっさとしないと下半身が冷えるぞ。」
「いやでも……」
「あんたがやらないなら俺がやる」
 下着を無理矢理引っ張って下ろしたらカカシは極部を手で覆った。
「自分でするって、ほんと……ほんとに……」
 タオルを弱々しく掴まれて、それをカカシに渡す。ちんこ見られるのがそんな嫌なのか。小さいとか? ……まあ、誰にでもコンプレックスのひとつやふたつあるか。
 見られたくなさそうだから仕方なく後ろを向く。少しして武器終わったらしい、ベッドの上に置いてあった新しい下着が引っ込んでいった。
「履いたら教えろ、ズボン履かせるから。」
「……うん、……もう履いた……」
 振り返ってみたらカカシは再びベッドの上に倒れていた。新しいズボンを履かせてやって、布団をかける。
 熱が出てきたせいか、少しは動けるようになったらしい。プリンの方に視線を向けていたから、封を切ってスプーンですくって口元に持っていったらゆっくり食べ始めた。手間のかかる……でもまあ、さっさと復帰して貰わないと困るから今夜は付き添うか。
 プリンを食べ終わったら催したらしく、壁に手をつたいながら起き上がって「……トイレ」と立ちあがろうとするがフラッフラだ。肩を支えてやろうとしたが体格的に難しかった。一応、無事にトイレまで行って帰ってくるまで見守って、また布団に戻ってきたカカシにペットボトルの水の蓋を開けて押しつけた。
 ぐいと上を向いてふらつく肩を支えて飲むのを見守る。半分くらい一気に飲んで、カカシはまた布団の中に入っていった。
 布団の中から篭った声で「……ありがとね……」と言われる。
「いいからさっさと治せ、もう寝ろ。」
「う゛ん……」
 そのまま静かになって、多分寝たんだろう。
 布団を少しめくって、カカシの額に自分の額をくっつける。かなり熱は高そうだ。
 布団を戻して、俺も寝ることにした。
 さっき開けたクローゼットにあったタオルケットを勝手に使って、バスタオルを丸めたものを枕にして横になる。
 
 ただの風邪と思っていたらまさかこんなにこじらすとは思っていなかった。かろうじて書いた部下への伝言をパックンに任せて布団に入るが寒気でガチガチと歯が鳴る。エアコンをマックスまで温度を上げて、もう使わないだろうとベッドの端に押しやっていた毛布もかぶって丸くなっていたら、いつの間にか夜だったらしく、多分様子を見にきてくれたのであろうサスケが薬の場所を聞いてきた。
 おぼろげな頭でパックンに頼むと薬を見つけて持ってきてくれたらしい。パキッとシートから薬を出す音がした。せっかく持ってきてくれたんだから飲まなければ、と思うものの寒気で身体がこわばっていてどうにも起き上がるのが難しい。
 どうしよう……と思っていたら布団がまくられて唇に柔らかいものが触れた後、口の中に冷たい水が流れ込んできた。嚥下しやすいように首を支えてくれて何とか飲み込んでから、あれ、え、いま、なに、え、まさか、口移し……!? とはいえ何かを言う気力もなく、というより寒気をどうにかしたいと布団に潜り込んだ。潜り込んでからもあれはやっぱり口移しだったのか、サスケとつまりキスを……? まさかあのサスケがそんなことする? とぐるぐる考えながらウトウトしたり半分気を失いながら気がついたら身体がぽっぽっと熱くなってきた。
 これからやっと熱が上がるのか……何日続くんだろう……と思いながらサスケがまだいるのか確認する。座って何かを読んでいたサスケがそれに気がついて、熱が上がってきたことも見てわかったらしい。
 どこかにいったと思ったら布団を全て剥がされてパジャマを脱がし始めて何事かと思ったら身体を拭いてくれてさっぱりして気持ちがいい。じとっとしたパジャマの着替えまでしてくれて、はたと全身、つまりあそこも拭かれるのかと気がつきパンツは死守……出来なかった。気合いで起き上がって手で隠してお願いだからとそこは自分で拭いてパンツも履いたら力尽きてまたベッドに横たわる。
 ズボンを履かせてくれて布団がかけられて、部屋の空気が入れ替わり、スッキリしたけど頭は熱でぼんやりしたまま。何とかトイレだけ行って、渡された水を飲んでもう一度布団に潜ってから、そういえばお礼言ってないと気がついて、布団の中からありがとうと伝えた。
 それからはまた気絶するように意識を失って、何だかおでこがひんやりする、と目を開けたら至近距離にサスケの顔があって心臓が跳ね上がった。
 サスケの顔はすぐに離れていって布団もかけられ、どうやら熱を見てくれていた、のではなかろうかと思ったが、薬のときのき、きす、といい、今の体温の確認の仕方といい、あれ、サスケって、こんなになんていうか、人と近い距離? というのか、そういうの、平気なの? ていうか薬を飲ませる方法として口移しって普通考える? などとまたぐるぐる考えながら大人しく布団の中にいられることを享受した。
 
 2日後、全快とは言わないまでも任務に出られるくらいには回復して、サスケは結局その二日間、夜俺の家に泊まり込んで何かと世話をしてくれた。
 シャワーを浴びるのも一人じゃ心配だと着いてこようとしたのを大丈夫だからと断るのに苦心したけど、なんというか、サスケ、距離感、ちょっとおかしくないか。
 などとは口が裂けても言葉にできず、そのうちお礼するねと頭を撫でた。その手をサスケの手が包んで自分の頬に当てて、「まだ熱、あるじゃねえか」と言われたとき、ほんとうに俺はサスケって俺の恋人か何かだったっけ? と思ってしまったくらいに自然に俺の手を頬に当てたまま俺を見上げていて、手を引っ込めて「俺がガキの頃は父さんがおぶって医者まで連れてってくれたっけなぁ」などと誤魔化したら、サスケは真面目な顔で俺に言った。
「あんたをおぶるのはさすがに無理だ」
 そうじゃない、そういう意味で言ったんじゃなくて! ただの話の種だよわかんないかなぁ!
 しかしサスケは終始真面目に俺のことを心配して付き添ってくれたわけで、距離感はちょっとおかしかったけどその気持ちには感謝した。距離感はだいぶおかしかったけど。

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