好きだから

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全年齢,超短編,原作軸,カカサス小説ほのぼの,平和IF

 玄関のチャイムが鳴って扉を開けるとそこにはカボチャを抱えたサスケがいた。
「……どうしたの、それ。」
「1個88円だったんだ、買うだろ普通。けど俺一人じゃ食べきれねえから一緒に食おうぜ。」
 サスケはカカシの答えを待たずに玄関に入ってくる。
「邪魔するぞ。」
「……まあ、別にいいけど……」
 カカシは扉を閉めてサスケと一緒に室内に入る。
 すると、サスケがリビングにこたつがあることに気付いて動きを止めた。
「……こたつ……!?ローテーブルはどうしたんだ?」
「ああ、もう寒いからローテーブルはしまって代わりにこたつ出したの。」
「そういうことは早く言え!」
 と、言われましても。
 サスケは足早にキッチンに向かい、カボチャと買い物袋を置いてまな板を取り出し始める。
「待ってろ、カボチャ料理するからあんたはご飯炊いてくれ。」
 
 そうして出来上がったのはカボチャサラダ、カボチャの煮付け、薄切りカボチャとベーコンの香味焼き、そして味噌汁。
 出来上がった料理をこたつに運ぼうとするサスケをカカシが制する。
「食べるのはダイニングテーブル」
「なんでだ?こたつに入って食べようぜ。」
「こぼして汚したりしたくないし、テーブルで食べようよ。」
「俺はそんな食い方しねえ」
「だめ、食べるのはテーブル。」
 カカシがサスケの持つ料理を奪い取ってテーブルに並べていく。サスケは小さく舌打ちをしてご飯とみそ汁の用意をした。
 
 カボチャ調理の皿は全て綺麗に完食されていた。
「二人で……食べ切れる、もんなんだな……」
「ちょっと……お腹いっぱい……だけどね……」
 サスケが立ち上がってお皿をシンクに運ぶのを見て、カカシもその隣に立って洗うのを手伝う。
 洗った皿を拭いて食器棚に片付けると、サスケはこたつに向かって行き、もぞもぞと入り始めた。
「……こたつ、そんなに入りたかったの?」
「うちにはこたつ布団しまうスペースないし、こたつ自体あんまりリサイクルショップに出回らねえ。あと、普通の家具屋で買うには高くて買えないんだよ。
 ……あー、あったけえ……」
 サスケはこたつの机に腕を重ねると、その上に横向きに頭を載せて至福の表情を浮かべている。
「サスケでもそんな風になるんだねぇ。」
「だってこたつだぜ?なるだろ。」
「ところでさ、サスケ。」
「……なんだよ。」
「いつ帰るの?」
「気が済んだら。」
「なにそれ、気が済まなかったら泊まるつもり?」
「かもな。」
「いやいや、帰りなさい。」
「……気が済んだらな。」
 ……全く。
 カカシはため息をつきながらサスケの向かいに座ってこたつにもぐりこむと、リモコンをテレビに向けて途中まで見ていた映画の続きを観始めた。
 
 途中から、サスケはそのままの姿勢ですうすうと眠り始めた。カカシは苦笑しながらその肩にブランケットを掛けてやる。
 あのサスケがこんなに無防備な姿を見せているのが何だかとても新鮮で可愛らしい。サスケも12歳の子どもなんだなぁと改めて思う。その眠る顔をしばらく見てから、カカシはまたテレビの画面に視線を移した。
 結局二十一時過ぎまでサスケはこたつで眠っていて、起こすのはかわいそうかなと思いつつ、泊めるわけにもいかないので、肩を揺すってさすがにもう帰りなさいと促したら名残惜しそうにこたつから出て、あくびをしながら帰って行った。
 
 次の日、チャイムの音に玄関を開けると、そこには大きな大根を二本抱えたサスケがいた。
「近所のおばちゃんがくれたんだけど、」
「いや大根は日持ちするからいいでしょ。」
「今日も飯作ってやるから入れろよ。」
 その目は早くこたつに入りたいと言っている。
 カカシはため息をついてサスケを迎え入れた。
「ったく、明日からはもう入れないからね?」
 サスケは玄関に脱いだ靴を揃えて置くと、キッチンに直行して下ごしらえを始めた。
 大きな鍋を取り出してぐつぐつと煮込み始めると、まっすぐこたつに向かって行きもぐりこむ。
「一時間は煮込むから待っててくれ。」
「はいはい。」
 カカシもこたつにもぐりこむ。
 サスケは傍らに置いてあった買い物袋からみかんを4つ取り出して机の真ん中に置いた。
「なんでみかん?」
「こたつと言ったらみかんだろ。あんたも食べて良いぜ。」
 サスケは みかんをひとつ取って皮をむき始めた。
 カカシもひとつ手に取る。
「じゃあ、いただきます。」
 カカシがみかんの皮をむいてから、2つに分けてそれぞれ口に放り込んだのを見て、サスケが目を見開いていた。
「は?そんな食い方アリなのか?普通1つずつ取って食べるだろ。」
「この方が口中にみかんの味が広がっておいしいじゃない。」
 サスケは手元のみかんを見つめて、5つまとめて取ると、口に入れた。
 じゅわっとみかんの果汁が口いっぱいに広がる。
「確かに……一理あるが……そんな食い方だとすぐみかんなくなっちまうじゃねえか。」
「美味しく食べるのが一番でしょ。すぐなくなるのは……ま、しょうがない。」
「なんだよ、それ。」
 サスケはひとつずつみかんを取りながら食べ始めた。その顔は少しほころんでいる。
 この顔を見られるのなら、サスケを家に入れるのも悪くないかもな。
 そう思いながら、カカシはもうひとつのみかんに手を伸ばした。
 
「牛すじ大根、大根とツナのサラダ、大根の味噌汁。」
 やっぱりそういう献立になるのね、と思いながらカカシは椅子に座る。
「本来なら一晩置いておきたいが、まあいい。いただきます。」
 サスケは味噌汁を一口飲んでからサラダに箸を伸ばす。
 カカシも牛すじ大根を取り皿にとって食べ始めた。
 
「……余ったな。」
「……余ったねえ。」
 大きな鍋にはまだ三分の一ほど牛すじ大根が残っていた。
「タッパーに入れて持って帰る?」
「あんた明日の夜食えよ。味がしみてて多分今日よりうまいぞ。」
「そう?……ならそうしようかな。」
 食器を洗い終えたサスケはまたこたつに直行して潜り込む。
「はぁ……こたつ……」
 その幸せそうな顔を見ていると、カカシは明日も来る?と言いそうになるがぐっと堪える。
 サスケは結局その日も二十一時までこたつに居座り、カカシから帰りなさいと言われてしぶしぶ出て行った。
 
 それからもサスケは何かと理由をつけてカカシの家を訪れ、料理を作ってふるまいこたつに入る日が続いた。
 夕方に玄関チャイムが鳴るたびにまたか……と思いつつ、サスケの作る料理はおいしいのでカカシは結局家の中に入れてしまう。
 カカシはいつものようにこたつに潜り込んで幸せそうにしているサスケに話しかけた。
「ねえサスケ、何でそんなしょっちゅううちに来るの?」
 サスケは机の上に横たえていた頭を上げて、まっすぐにカカシを見る。
「……好きだからに、決まってるだろ。」
「えっ……」
 その真面目でまっすぐな視線と台詞に、思わずドキッとしてしまう。
「……こたつが。」
 ……まあ、そう、でしょうね。
「そんなに……好きなら買ってあげるよ、こたつ。」
「こたつ布団しまう場所ないって言っただろ。」
「一人用ならそんなに場所取らないよ。」
「この大きさだからこそいいんじゃねえか!」
 こたつにおさまりながら、サスケは縄張りを荒らされた猫みたいな顔で机を抱える。
「……はあー、もう、しょうがないな……わかったよ。もう食べ物は持ってこなくていいから、来たいときに来なさい。」
「いや、飯は作る」
「……嬉しいけど、なんで?」
「こたつ代だ。」
「……お前のそのこたつへの情熱って何なの?」
「貴重で尊いこたつに入れるんだから……それなりの礼はしないとな。」
 そしてサスケは上機嫌で、また机の上に頭を預けた。