あくまのこ

158 View

2025年3月19日全年齢,短編,現代パロ,連載中,カカサス小説ほのぼの

友達

 サスケと生活するようになってだいぶ忙しくなったと思う。朝一時保育へ預けてからの出勤、何としてでも定時で帰るためにガリガリ仕事をこなしてまた迎えに行き、スーパーに寄ってから子どもでも食べられる二人分の食事。
 世の中のお母さんたちは偉大だなぁと思いながら、食後にサスケに腕を差し出す。
 血の与え方に関しては注射器で血をとってコップで飲ませるのも考えたが、なにぶん素人だから針を適当なところに刺しても大丈夫なのかわからず、直接飲ませることにした。
 毎日少しだけ血を飲んでは「おいしい~!」と頬に手を当てながら喜ぶ様子を見るのも悪くない。
 ただこの生活には一つ懸念があって、それは一時保育を利用している他の子どもの年齢がサスケよりもかなり幼いことだった。
 小学校に入ったら同年代の子とやっていかなければいけないわけで、事前に同年代の子と接する機会を作りたかった。
 スマホで小学生の遊び場について調べたが、公園、キッズ向け遊戯施設、児童館と出てきたけれど、いきなり公園デビューしてもいいものなんだろうか。
 まあ、今のサスケの様子なら幼さもだいぶマシになってきたから案外上手くやれるかもしれない。
「サスケ、週末は公園に遊びに行くか。年下の子とばかり遊ぶより同じ年頃の方がいいでしょ?」
「公園……『公衆のために設けられた庭園や遊園地』?」
「あー……辞書の知識しかないか……。サスケくらいの子どもたちが遊ぶ場所だよ、近所に……うん、ちょっとした遊具がある公園あるから、行ってみよう。」
 公園が何なのか知らないのでは多分同年代の子との話についていけない。今のうちに行くべきだ。
「遊具? 遊べる? 行く行くっ!」
「おし、じゃあその前に約束だ。お前の一族が連れ去られた、これは俺以外には言うな。家族について聞かれても〝お父さんとお母さんは今はいない〟とだけ言うこと。なんでいないか聞かれたら〝わからない〟で通せ。いいね?」
 サスケが首をかしげる。
「兄さんのことは?」
 お兄さんは……いつ会えるかわからない。どう説明するのがそれっぽいだろうか……。
 腕を組んで考える。
「……海外留学中、ということにしよう。覚えれるか? 海外留学中。」
「海外留学……『外国に長期間とどまって勉学すること。』……わかった! 約束できるよ!」
「よし、いい子だ。じゃあ、土曜日は公園、な。」
 しかし……最近の子どもたちの遊び事情がよくわからない。もし全員携帯ゲーム機を持ってきていて通信対戦で遊んでいたりしたらどうしよう。いやいや、パワーの有り余った子どもなら身体を動かす遊びもするはずだ。多分。……ボールくらいは、用意して持って行った方が良いだろうか?
 ネットショップでサッカーボールくらいの大きさのゴムボールを買ってみた。明日には届くらしい。
 スマホの画面をサスケが覗き込む。
「ボール? ボールあるの? ボール遊び好きーっ! ボールどこにある?」
「今注文したばかりだから、ここにはないよ。明日届く予定だ、公園へ持って行こう。」
「やたっ!」
 コピー用紙に何やら絵を描きながら嬉しそうにしているサスケを見つつ、再びスマホで小学校について調べていると、とんでもないことに気がついた。小学校低学年の下校時間は14時くらい。下校後俺の仕事が終わるまでの間、誰かに見てもらわなければいけない。調べたら、学童保育所というのがそういう子どもの受け皿らしいが、この学区には学童保育所はひとつしかない。……満員で入れない、なんて事ないよな。
 今日はもう時間が遅いから、明日の昼休みに問い合わせてみることにした。
 ……本当に、世の中のお母さんたちは大変だ……。
 
 翌日、仕事の合間にその学童保育所に電話をしてみたら、どうやらまだ空きはあるようだった。が、母子手帳とやらを持っていく必要があるらしい、要は、予防接種や既往歴の確認をしたいと。そんなもの、サスケにあるわけがない。役所や警察にしたのと同じ説明をして、何とか入れて貰えないか涙ながらの演技で交渉したら、本人と会って話して決めるという話になってホッとする。
 そうか、予防接種……集団生活だからそういうの必要なんだな。今からでもした方が良いのだろうか。いや、サスケの身体にどう作用するのかわからないものを入れるのはちょっと怖いな……システムがどう動作するかもわからない。針を刺されたことで攻撃されたとみなして変なことをされても困る。……とはいえ、確か学校で集団予防接種を受けたような記憶がある。今もやっているかもしれない。その時に変なことになるくらいなら、今のうちに挑戦してみて、対処法を検討する方が良いだろう。
 保健所に電話をしてみたら、サスケのことは情報共有されているらしく、今からでも打てる予防接種を教えてもらい、公無料接種券を送ってくれることになった。届いたら休みをとって小児科に行かなければ。
 
 バタバタと慌ただしい平日が終わり土曜日の朝、俺はサスケに揺り動かされて目が覚めた。
「カーカーシ! 公園の日だぞ、おーきーろ!」
 眠い目を擦りながら時計を見ると7時前。もう少し寝たいと言いたいところだけど、目をキラキラさせているサスケには敵わない。
 起きて顔を洗い、牛乳をコップに入れて机に置いてから食パンをトースターに放り込んだ。
「あんまり早い時間に行っても誰もいないかもしれないよ?」
「そしたらカカシとボール遊びするからいいよ!」
 公園がよほど楽しみらしい。両手でコップを持って牛乳を飲みながら足をパタパタと動かしている。
 トースターがチン! と鳴ってキッチンに向かった。マーガリンを塗って皿に置くと、それをテーブルに持ってきてひとつをサスケの前に置く。
「わあ、いただきます!」
 サスケは甘いもの以外は何でも喜んで食べてくれる。その様子を見るのが結構楽しい。すぐにペロリと食べ終わって、また牛乳を飲み、ごちそうさまでしたと手を合わせると、ボールを取りに行って俺のパジャマを引っ張った。
「カカシー公園!」
「待て待て、皿洗って着替えてからだ。」
 少しむくれてから、サスケは一人でボールで遊び始めた。その間にささっと食器を洗って着替えると、今度こそと言わんばかりにまた服を引っ張る。
「もういいだろ、公園行こ!」
 まだ8時にもなってないけど……まあいいか。
「じゃあ、行くか」
 散歩がてら、少し遠回りをして公園まで行くことにした。学校はここ、学童はここ……児童館の中に学童保育所があるのか。そして公園は児童館の道を挟んで向こう側。
 そこそこ車が通る二車線道路で、公園の両端に横断歩道がある。……多分サスケが住んでいたところにこういうものはなかっただろう。
「サスケ、道を渡るときはこの横断歩道を渡るんだぞ。渡る前に手を挙げて、車が来ていたら止まってくれるまで待つんだ。いいね?」
「わかった!」
 いちから全部教えるとなると結構難儀だ。交通ルールを教えられるような絵本でも買うか……。
 サスケは教えた通りに左手を挙げて、右左を見てから横断歩道を渡り、念願の公園に着いた。
 誰もいないだろう、と思っていたが、一人だけブランコを揺らしている同年代くらいの金髪の少年がいる。サスケはボールを持ってその子の方へ走って行った。
 ちょっと様子見することにしようか。ふたりは何やら話してから、一緒にボール遊びを始めた。投げ合うだけの単純な遊びだけど楽しそうだ。
 しかし公園に徐々に子どもが集まり始めると、金髪の子はサスケに手を振ってブランコに戻って行った。再びサスケがその子に近づいて話をする。そしてその手を引っ張って、俺のところまで連れてきた。
「なあカカシ、親がいないと仲間外れにされるのか? ナルトがそう言ってる。」
 ……なるほど、何か事情がある子らしい。
「サスケはナルト君と仲良くなりたいんでしょ? 親なんて関係ないよ。さっそく友達ができてよかったね。」
 サスケはナルト君の顔を見る。
「友達? 俺たち友達?」
 ナルト君はニカっと笑った。
「おう! 俺たちもう友達だってばよ!」
 二人は笑い合いながら、ブランコの片隅に置いてあったボールを取りに行き、またボール遊びを始めた。
 子どもが遊ぶ様子を見ているのは微笑ましい……が、ものすごく暇だな……?
 次は本でも持ってきて読むか、いや子どもから目を離すのも良くない気がする。しかし見ているだけ、というのは果てしなく暇だ。
 スマホで「子ども 公園 見守り」と検索するとやはり暇を持て余している親が多いようだった。お母さんであればママ友談義でも始められそうだが残念ながら俺は親でもないし女でもない。
 見たところ、保護者同伴で公園に来ているのはもっと幼い子ばかりで、多分サスケの年頃には親の目から離れても良いくらいの成長をしているんだろう。
 しかしサスケは今日がいわば公園デビューなわけで、さすがに放ったらかしで帰るわけにはいかない。何しろシステムがもしかしたら何かの拍子で動くかもしれないし、サスケ自身が同年代の子に対してどう考えてどう動くのか見ておきたい。
 ……とはいえ、何事も起こりそうになく、平和で、眠くなるほど暇だ。
 さっきの訴えも気にかかる。ナルト君同様、今サスケも両親がいない。その事で、仲間外れにされるのであれば小学校に入った後いじめとかにあわないだろうか。……いや、すでにナルト君という友達がいるんだから、クラス全員と仲良し、よりも少数の気の合う子と深い関係を築く方が良いのかもしれない。
 
 午前中はひたすらボールで遊び続けて、お昼少し前にナルト君はどこかへ帰って行った。公園から子どもたちがパラパラと帰っていく。サスケもボールを持って俺の方へ駆け寄ってきた。
「カカシ、お腹すいた! ナルトはしせつでご飯食べるんだって!」
 しせつ? ……施設? 親がいない……そうか、孤児施設にいる子なのか。それで仲間外れにあっているんだろうか?
「よし、一度帰るか。何が食べたい?」
「えっとねーうーんと、親子丼!」
「昼から親子丼か……米炊くところからだなぁ……親子丼は夜にして、ハンバーガーでも食いに行くか?」
「はんばーがー? ……『ハンバーグをパンにはさんだもの』……ハンバーグ……『「ハンバーグ ステーキ」の略。ひき肉にパン粉・玉ねぎなどをまぜて、フライパンで焼いた料理。』……んー、よくわかんない……」
 もしかしてサスケは、洋風の料理……中華とかも、食べたことがないのだろうか。……食育も必要、ってわけだな。
「ハンバーガー、うまいよ? 食べたことがないなら尚更行ってみよう。」
 手を繋いで、駅前のチェーン店に向かった。チーズバーガーを注文して食べさせてみたら、案の定ガツガツと食べておいしい~と頬に手をあてる。フライドポテトもはじめて見たらしく、最初のひとつは戸惑いながら口に入れたが、これもおいしいと目を輝かせてパクパクと食べた。
 ナルトにも食べさせたいと言って聞かないからポテトのSサイズをテイクアウトしてまた公園に……と思ったら、ナルト君と午後は児童館で遊ぶ約束をしたらしい。
 学童保育所でもあるし、いい機会だから一緒に行って挨拶をすることにした。
 
 児童館にはいろんな年頃の子どもたちが思い思いに遊んでいた。図書館も併設されていて、熱心に本を読んでいる子もいる。俺は管理室の扉をノックして、館長さんに挨拶をした。すると、どうやら館長さんが学童保育所の所長も兼ねているらしく、先日電話で対応してくれたその人だった。
「急に伺ってすみません、せっかくなのでご挨拶をと思いまして。」
 館長さんは穏やかに笑いながら、サスケの方へ目をやった。
「サスケ君は良い子ですね、『良い子』というのは私たちにとってはあまりいい表現ではありませんが、純粋で偏見もなく……ナルト君とも仲良くしてくれて。」
「……その、ナルト君てのは、そんなに……何というか、訳ありなんですか? 普通の子に見えますが。」
 館長さんは少し考えて、また口を開いた。
「仲良くしてくれるからには、お話ししておいた方が良いでしょう。彼はここ一帯の集落では有名な『狐憑き』の家の子なんです。生まれた直後に家が火事に遭って、ご両親がどうにかナルト君を助けたんですが、ご両親はその時の火傷が原因で息を引き取られ……彼はそれから孤児院で育っています。本来であればそういう子は養育里親さんのもとで一般家庭と同じように育てられるんですが……『狐憑き』の子だからと里親さんが見つからず、今も孤児院で生活しています。」
 ……狐憑き? こんな都会でもそんな伝承が信じられているなんてあるんだな。
「狐憑きというのは、具体的にはどういった?」
「その名の通り、その家系の子には悪い狐が憑いている……という伝承です。狐が表に出てこないよう、封印のお札を肩身離さず持っているので、私たちは実際に狐が表に出ている状態は見たことがありません。ただ、過去……ずいぶん古い話のようですが、狐が表に出て厄災と化した、という話があります。その厄災にまつわる数え歌が今もこの地域に伝わっているくらいですから、『狐憑き』というのは恐らく彼が大人になってこの地域を出ていくまでついて回るんじゃないでしょうか……。私は生まれが九州なのでこの辺りに越してきたのはここ10年くらいですから、普通の子……にしか見えないんですけどね。」
 なるほど、ナルト君は親がいない、だけではなくそんな事情があったのか。試しに右目を閉じて左目だけで見てみても、他の子どもと何ら変わらないように見える。そんな子と仲良くすることでサスケも仲間外れにならないだろうか? ……と思ったけれど、ふたりが仲良く遊んでいる様子を見て、まあサスケも訳ありだしなぁ、とそのまま見守ることにした。仲間外れにされたらその時また考えればいい。
 
 夕方までナルト君と遊んで、施設に帰る時間になったから、とナルト君が帰って行って、サスケはキョロキョロとあたりを見回して他の子に声をかけようとしては避けられて、俺のところに駆け寄ってきた。
「俺悪いことした? ナルト以外誰も遊んでくれない……。」
「良いじゃないの、ナルト君とたくさん遊べて楽しかったろ? 友達はひとりずつ増やしていけばいいさ。帰って親子丼、一緒に食べるか!」
 サスケは目を輝かせて「うん!」と元気よく答えた。 
 帰り際に館長さんに会釈して、俺たちの公園と児童館デビューは終わった。

あくまときつね

 家に帰ってさあ食事の支度をするかとコンロに火をつけようとしたら、チ、チ、チと音はするものの火がつかない。何度か試してみたけどだめだったから、多分コンロの電池が切れたのだろう。予備の電池があったかなとリビングに探しに行こうとしたら、サスケがその様子をじっと見ていたことに気がついた。
「火つかない?」
「ああ、多分電池切れ……」
 だと思う、まで言う間もなく、サスケは口からコンロに向けて口から炎を吹いた。
「あれ? つかない」
「ちょ、ちょっと待て、チチチ、って音がしてる時にそれやってくれる?」
 コンロのスイッチを回して、チ、チ、と音が鳴った瞬間またサスケが口から炎を吹く。見事にコンロの火はついた。しかしちょっと待ってくれ。
「サスケ、お前炎出せるの?」
「出せるよ? でも火は神聖なものだからだいじなんだぜ!」
 まだ俺はサスケのことを完全に理解できていなかったらしい、不思議な赤い瞳と、空を飛べる翼、物質にとらわれず行き来できる透明な身体、そして口から炎……他にもまだ何か隠し持ってやいないだろうか?
「……サスケ、火は……そうだな、神聖なものだ。だから他のヒトの前では絶対に出してはいけないよ、わかったね?」
「わかってる! 人間は火出せないから俺たちが与えてたんだから、人間のふりをするならそんなことしない!」
 状況をよく理解しているようで安心した。
「他に俺が知らないサスケの得意技とかって、ある?」
「んー? 全部知ってると思うけど。」
 システムからサスケの仕様を長々と聞かされたが、その中に炎を出せることは含まれていなかった。システムもサスケの一族の全てを網羅している訳ではないのだろう。
 辛くないエビチリを作って惣菜のサラダを皿に開けてテーブルに出すと、サスケは「エビだ!」と喜んだ。エビがわかる……ってことは内陸部ではなく海岸に近い地域なんだろうか。
 少しずつ少しずつサスケがいたコタンに近づいている感じがする。先日メモをとったアイヌの郷土に詳しそうな人に尋ねるにしてもある程度情報が揃ってからの方がいい。
 ご飯をよそって二人で食べ始めると、サスケは「うまーい!」と頬に手を当てた。うまい? あれ、朝まで「おいしー」じゃなかったか。
「言い方変えたの?」
「なんかさ、ナルトにそれガキっぽいって言われたんだ。」
 全体的に口調が少し男の子っぽくなっている気がする。成長、と捉えていいんだろうか。ともかく幼さが目立たなくなるのはいいことだ。やっぱり同年代の子と接する機会をつくってよかった。
 
 平日は一時保育、週末は公園や児童館、と過ごしてサスケはどんどんわんぱくさを見せるようになった。
 保健所から予防接種の無料接種券が届いて、恐る恐る小児科に行ってみたけれど、懸念していた予防接種は何も起こらず終わってホッとした。しかし小児科の先生から、こってり絞られた。アレルギーの有無を確認せずに何でも食べさせていたけれど、万が一サスケに何かアレルギーがあったら救急車レベルで命に関わるのだと。
 そんなこと考えもつかなかったけど独身の男がいきなり幼い子を育てることになった訳で知らなくても仕方がない面もあるんじゃなかろうか。ましてやサスケは特殊な子どもなわけで。という言い訳すら怒られそうだった。そういう子を見つけたらまずは医者に連れていって虐待の形跡やアレルギーもそうだし年相応の成長が出来ているか確認するものらしい。
 だって警察も役所もそんなこと教えてくれなかったんだから仕方がないじゃないかと言いたくもなったが、先生の言うこともまあもっともだ、そこまで気が利かなかったのは落ち度として認めざるを得ない。
 
 サスケは公園や児童館にも慣れて、打てる予防接種も打ったし、児童館で遊ぶ様子から学童にも入れることになった。役所からは就学通知も無事に届いて、一時保育を利用しながら毎日のように外食で色んな食べ物を食べさせるのは財布が痛むが仕方がない。
 この調子で4月の入学式……あ、ちゃんとした服がいるのか。くそ、また財布が……まあいい、小学校に入れば少しは生活も落ち着くだろう。
 月に2回来ると言った児童福祉士もサスケが俺に懐いて、色んな勉強もしてるんだとサスケが嬉しそうに話すのを見て安心したのか引き続きよろしくお願いしますと立ち去った。
 万事うまくいっている……と言いたいところだけど、遊ぶ相手だけはやっぱりナルト君だけで、他の子からは避けられているようだった。
 まあその辺りも学校に入ればサスケならうまくやれるだろう、と楽観的に考えていたが、いつものように血を与えていてちょっとした疑念が湧いた。
 俺はサスケを人の子として育てようとしているが、お兄さんがサスケを引き取りに来たらまた元の生活に戻るのではないだろうか。ということは、悪魔……淫魔……吸血鬼……まあいいや悪魔で。悪魔の子としても育てる必要があるのだろうか?
 ……しかし元の集落に戻るのは危険だ、またサスケの言う白い服のやつらに捕まるかもしれない。願わくば早くお兄さんにサスケの家族探しの張り紙を見つけて欲しいが、お兄さんがカムイ……神、として讃えていた人々を放置してサスケを探すのもまた考え難いように思う。今ももしかしたら人々のためにその役割をまっとうしているのかもしれない。ということはやっぱり基本的には俺から探しにいくスタンスでないと二人を再開させるのは難しそうだ。ただ、そのときのために……ナルト君には悪いが、サスケのその力の使い方を忘れないように練習台になってもらおう。
 我ながら酷いことを考えるものだ、が、致し方ない。
 サスケにそのことを話したら、サスケは知らない人よりもむしろナルトがいいと言い出した。サスケの中では血を飲む代わりに夢を見せることは良いことなのだ。確かに考えてみれば元の集落ではその能力からカムイと呼ばれていたのだからそうする事で有り難がられる、良い事だと認識しているのも頷ける。
 
 ナルト君が眠っているだろう、という時間にサスケを元の姿に戻して向かわせた。出来たらその様子も確認したかったが流石に普通の人間の俺には無理だ。
 向かわせてから、サスケが戻ってくるのをソワソワしながら待っていたら、壁をすうっと通り抜けてサスケが帰ってくる。
 どうだった、と話を聞く前にサスケが話し始めた。
「ナルトの血、なんかちょっと他の人間と違った。どうしようと思ってちょっとだけにして、夢はちゃんと見せてきたよ。」
 他の人間と違う血……? 狐憑き……が関係しているんだろうか。よくはわからないが、ともかくそうであればなるべく普通の人の血を与えたいから、ターゲットを別の人にしなければならない。少し考えて、じゃあ次は児童館の館長さんにしてみるか、と提案してその日は寝ることにした。
 4月が近づくにつれ、入学準備のためのランドセル、勉強机もどき、ボールや服に本と、一人暮らしの部屋にはさすがにこれ以上サスケのものが増えるとごちゃごちゃしすぎて収拾がつかない。引越しも視野に入れるか、と思い、ネットで部屋探しをしていると格安の物件を見つけた。どうやら前の住人が自殺した部屋らしい。が、サスケと一緒に内見に行ったとき、確かにその人と思われる残滓があったが、サスケが「俺ここがいい!」と言い出してその残滓に赤い瞳を向けた瞬間、それは忽然と姿を消して、黒い瞳に戻ったサスケが俺に「なあ、いいだろ?」と俺の服を引っ張り、ずるずるとその物件に決めることにした。駅からは多少遠くなるが学校には近くなる。

 引っ越すことを役場や学校や学童に伝えて手続きを終えて軽トラをレンタカー屋で借りて二人で力を合わせて引っ越し作業が終わり、2DKの部屋が新しい家になった。
 一部屋はサスケの部屋にして、もう一部屋はリビング、キッチンが広いからそこにダイニングテーブルを置くことにして……一時保育に外食に引っ越しに家具家電に学校の準備に……12月のボーナスは綺麗になくなった。むしろ赤字だ。でもまあ、しょうがない。
 ネットでの事前調査によると小学校の入学式後、引き取り訓練やら何やらで、何かと仕事を休まなければいけないらしかった。行事以外にも、集団生活だから感染症にかかりやすいだとかで休みを取らざるを得ない機会が増えそうだと知り、俺は意を決して上司に「訳あって遠縁の子を引き取って育てることになり小学校に入学させるためしばらく休む日が多くなります」と伝えた。
 その上司は家庭もあって今お子さんが3年生だ。だからだろうか、「独り身なのに大変だね、なるべくフォローするようにするから、大切にしてあげなさい」と寛大に理解をしてくれて助かった。
 
 4月に入ってからは本当にバタバタだった。上司の理解もあって何とか入学直後の学校行事を無事に済ませると、サスケは小学生として毎日学校に通い、俺が迎えに行くまで学童で遊び、そして一緒にスーパーに寄ってから家に帰って食事をとるという新しい生活が始まった。
 俺は休みをもらった分しっかり働いて何とか仕事の遅れも取り戻し、その新生活は順調に流れていった。 
 悪魔の子としてのサスケも血を飲んで夢を見せる要領を掴めてきたらしく、館長さんには悪いけど、ただサスケは血を飲む練習をした次の日に館長さんから今日どんな夢を見たのか聞くのが楽しみなんだ、とサスケなりに今の生活を楽しんでいるようだった。
 勉強も遅れるどころか貰った教科書すべて2~3日で読破して頭に入れているおかげで、授業でも積極的に手を挙げている、と個人懇談で先生から聞かされて、ただ先生もナルト君としか仲良く出来ていない様子が気がかりなようだった。敢えて別々のグループにして体育やグループワークをさせてみているものの、その場ではうまくやっているように見えるが休み時間に他の子と親しくしている様子が見られないんだとか。
 まあ、入学したばかりだし他の子どもたちはすでに同じ保育園や幼稚園出身の子と仲が良かったりするだろうから、時間が解決するだろうと俺は少し楽観的に考えていた。
 俺が言うのも何だけどサスケは優しいし、見た目も良い方だし、運動神経もいいし、勉強もできる。完璧とも言っていいほどよくできた子だし、素直で純粋で魅力もあると思う。
 その証拠に、学校ではナルト君としか遊んでいないようだけど、ナルト君がいない学童では年齢関係なく色んな子と少しずつ接点を持ち始めているようだった。
 ただ、ナルト君が児童館に遊びにきた時はやっぱり二人きりになってしまうようだけど。

 「狐憑き」ってのはそんなにも根が深いものなんだろうか。そう思ってこの辺りの土地神様を祀っている神社に話を聞きにいってみたら、神社でもその話は知っているけど管轄はお寺になるらしい。指示されたお寺に伺って住職と話をすることができて、昔狐が表に出たときの伝承についても絵巻物を出して説明をしてくれた。
 何でも、狐憑きの女の人が子を宿すとその子に狐が移るらしい。そして生まれた瞬間に封印の札をお腹に貼らなければいけないところ、思いがけない早産でその女の人は自宅で出産してしまい、封印されなかった狐がその赤ちゃんを依代にして具現化、九つの尾を持つ狐の妖怪が一晩にして辺り一帯を地獄に変えてしまったという。具体的な被害の様子も描かれていた。倒壊した建物176軒、死亡した人213名……。それ以来狐憑きの女の人が身籠ったときにはあらかじめ産まれてくる赤子用の封印の札を肌身離さず持つようにさせたところ、それ以来狐が表に出ることは”今のところは”ない、とのことだった。

 ただ、と住職が続ける。
 最近ナルト君の中の狐の力が強まっていて、毎月新しいお札を渡しに行くが、より強い封印の札を渡さないといけなくなっていて、このまま狐の力が強くなり続けたらじきに対応しきれなくなるかもしれない、と。
 その「最近」の時期がサスケと遊ぶようになった時期と重なって、まさか異形同士が呼応して力が強くなる、なんてことがあるのだろうかと考える。
 だけどサスケとナルト君を引き剥がすという選択肢はなかった。ナルト君がひとりぼっちになってしまうし、サスケもせっかくできた友達と仲良くしちゃいけない、なんてのは酷だ。
 貴重なお話をありがとうございます、とその寺を後にして、さてどうしたものかなと考えながら、一度ナルト君を家に呼んでその中の狐とやらがどれだけのものなのか見定める機会を作ってもいいかもしれないと思い、サスケに今週末ナルト君を連れておいでと言ってみた。
 サスケは大喜びできれいな部屋をさらにきれいに整頓して、これナルトにも読ませたいんだ、と本を何冊か出して、なかなか寝付けないくらいに楽しみにしているようだった。

158 View

2025年3月19日全年齢,短編,現代パロ,連載中,カカサス小説ほのぼの