先生と呼ばないで

27 View

2025年3月31日成人向,短編,原作軸,完結済み,カカサス小説エロ描写有,シリアス

まなざし

 もうサスケを相手にするのはやめようかとも思った。でもそうしたらサスケは勝手に俺のことをやっぱり尊敬のまなざしで見るようになるだろう。そんなまなざしを向けられるなんて反吐が出る。お前は俺に何をされた、させられた、そして最初に何を思った。それを思い出させてやるまでは、やめることはできない。
 それともサスケの大切な仲間に手を出してやろうか、それも考えた。しかしサスケと違ってナルトやサクラは弄べば誰かにチクるだろう。その相手はチームメイトかもしれない。そうなると第七班は機能しなくなる。本来の任務を全うするには、身寄りがなく多くを語らないサスケに対象を絞るのが好適だ。
 なのにサスケはいつまでもあの目で俺を見続ける。その目を見て苛つくようになって、最中目を閉じるように言ってその前後も顔を見ないようにした。
 何回も喉の奥まで押しつけてえずくほど苦しい思いをさせても、慣らさずに入れて痛いだけのセックスをしても、逆にしつこいくらいに喘がせても、サスケはあのまなざしをやめない。苛立ちが募っていく。
「お前さ、バカなの?」
 家に来い、と言う代わりに、行動でわからないのであれば言葉でわからせようと思った。
「……なんで。」
 サスケは眉をひそめる。ひそめる、だけ。
「俺がお前をどう見てるか、どう扱ってるのか理解してる?」
「何だよ、今更。」
 今更、……そう、今更だ。本来であればわざわざ言うまでもない。だけどお前が理解できてないからわざわざ言ってやってんだよ。
「やっぱりお前、バカだわ。いつまでも親でも慕う子どもみたいな目で見てきてさ、その慕っている俺はお前なんて性欲処理の道具としか見てないってのに。」
 サスケは何かを言おうとして、やめた。俺が話すのを促すように顎を引く。
「ある意味、哀れだよ。お前、そんな俺以外に頼る相手が誰もいないのな。だからって、いつまでもそんな目で見られるのはいい加減目障り。鬱陶しい。気持ち悪い。」
 俺を観察するように見る目、違うだろ。そこは、嫌がられている事に対して負の感情を抱くところだろ。
「何を勘違いしてんのか知らないけど、俺はお前が最初に見定めた通りの〝そういう人間〟だよ。妙な期待持つのやめてくんない? ほんとに苛々する。」
 生理的嫌悪の目を向けてもなお、サスケの顔色は変わらない。……本当に何なの、こいつ。何考えてんの。
 
 〝俺を慕うのはやめろ〟
 そう言うカカシが、俺を遠ざけようとしている、ことはわかった。俺を遠ざけて、どうしたいんだろう。どうなる事がカカシの理想なんだろう。俺がまた以前のように、カカシを卑しい大人だと見下して、そうやって見下す俺に痛い目を見せて悔しがらせるのを楽しみたいのだろうか。
 それとも、これをもって俺とのそういう関係性を断つという意思表示なんだろうか。
 でも俺はもうカカシを見下すことは出来ない。
 そして、自分を孤独に追いやろうとするカカシを看過することもまた出来ない。
 孤独のつらさはよくわかっている。多分カカシは俺よりも長い間、そうやって人を遠ざけて孤独の中にいる。そしてきっと、〝そういう大人〟のふりをして、弱い立場の人間を搾取して、自分は尊敬される価値のない人間だと自ら自分を咎めている。
 ……どうしてそこまでして自分を責めるんだ。何故蔑めるんだ。
 俺にも……覚えがないわけじゃない。あの日何も出来なかった弱い自分を責めて、自分の幼さ、力のなさ、勇気のなさ、全てにおいて自分を否定するものばかりで、こんな弱い自分は悪い大人から搾取されても仕方がないと諦めて受け入れて、自分は生きている価値があるのか問い続けて、……そう、自分には価値がない、と思うことでこころの平穏を保とうとしていた時期が、あった。
 自分には価値がない、そう思うことで悪い事があってもすべてそのせいにできた。一時的には、それは自分を納得させる事ができて気持ちは楽になった。
 でも俺にはやるべき事があって、いつまでもそんなメソメソしている訳にはいかなかった。だから価値がどうとか考えるのはやめて、力を磨く事に重きを置くようになって、いつの間にか価値がない、なんてことは思わなくなった。それはアカデミーの連中のレベルが低かったからでもあるし、それだけの努力をしてきた自負があったから。
 ……カカシも、力が及ばず何かを失った経験がある、のだろうか。大戦を経験しているはずだから、そういうことがあってもおかしくはない。けれど、大戦を経験していても今普通に過ごしている者が大勢だ。カカシは、もしかしたら優秀な忍であるがために、過去に誰かを守れなかったことを余計に悔いているのだろうか。
 ……こんなのは俺の勝手な想像でしかない。けど過去に何かがあって今のこんなカカシになってしまっているのは、多分間違ってはいない。
 ただ、部下の一人に過ぎない俺が、カカシの過去なんて知ることは出来ないだろうし、知ったところで俺がそんなカカシを慰められるとも思わない。
 俺に出来ることは、俺にとってカカシは尊敬に値する忍だと、伝えることだけだ。だからそんなカカシが自ら孤独に向かおうとしているのも、やっぱり俺は放置できない。
 あんたは仲間を大切にしない奴はクズだと言った。俺にとって、あんたは大切な仲間の一人だ。なんて言おうものなら生意気だと思われそうだから、言わないけど。
 でも、だからカカシを放ってはおけない。俺を遠ざけようとしていても、無理矢理そばに着いて回る。生意気だろうが何だろうが、あんたは第七班の大事な仲間で、俺たちにとって尊敬に値する忍で、だからもう自分を咎めるのは、陥れるのはやめてくれと訴え続ける。
 それが、俺だけがカカシの負の一面を知っている、俺の役割だと思う。
「あんたが何を言おうと、何をしようと、何を考えようと、俺は俺の考えを変えることはない。俺はあんたを忍として尊敬している。」
 苛立ちを隠さない目。
 言葉通り、カカシは俺が鬱陶しいんだろう。でも、これがあんたが受けるべき正当な評価だ。あんたは立派な忍で、上司で、そして先生だ。
「過去に何があったとしても、俺たちにとってカカシは信頼できる先生で、上司で、そして強くて仲間思いな忍だ。それは揺るぎない事実だから、俺はあんたを尊敬することをやめない。」
 苛立ちを隠さないまま、カカシは何かをぼそっと呟いた。何を言ったのか聞けないまま、カカシは俺に背を向けて立ち去っていく。
 俺は黙ってその後ろを歩いた。
 あんたはどこに向かおうとしてる。その先が孤独なのだとしたら、俺もついていく。そしてひとりにはさせない。あんたは俺たち第七班の、大切な先生なんだから。
 
 子どもゆえの純粋さなんだろうか。あのまなざしを向けられると、俺の負の影が色濃く映し出されるようで嫌になる。
 ……思えばミナト先生も、三代目火影様も、俺に暗部らしからぬ任務ばかり課して、子どもと関わらせようとした。そして卒業したてのルーキーを預かるように言われて、下忍の面倒なんか見る気がなかった俺は何かと理由をつけてそいつらを切り捨て続けて、でもナルトに弁当を差し出したサスケを目にして、思わず出してしまった合格。
 あのとき落としておけばよかった。俺は前途ある子どもを導くような人間じゃない。でも受け持ってしまったからには、今度こそ全員守らなければいけない。一人も死なせはしない。
 そう思う気持ちとは裏腹に、俺にはそんな高尚な任務にあたる資格なんてないと葛藤して、結果サスケに手を出した。そうだ、こういう俺が本来の俺だ、センセイなんて柄じゃない。そうしてサスケを屈服させることで葛藤する気持ちは落ち着いた。
 俺は、最低だ。それがお似合いだ。
 手を出さずに、これをきっかけとして前を向く選択肢だってあった。ミナト先生も、三代目火影様も、きっとそうなることを望んで俺に任務を貸していたんだろうと思う。でも俺には、そんな子どもの純粋なまなざしは眩しすぎる。俺なんかと関わらずに、そのまま明るい道を進むべきだ。俺はただ、敵を殺す為の人間兵器として生き続けることが出来ればそれで良かった。
 大戦が終わったことを喜んでいない訳じゃない。平和な世の中になったのは喜ばしいと思う。だけどその平和の中に取り残された俺は、敵を殺す技術以外何も残っていない俺は、自ら平和をぶち壊しでもしないと取り残された孤独に耐えられなかった。壊して、壊して、そして底辺に足をついたとき、自分がいるべき場所はここだと安心感を覚えて、そうすることをやめなかった。
 俺は先生なんて柄じゃない。
 第七班を受け持ってからも、真面目にその任をする気はなかった。殺すべき相手が目の前に現れるまでは。
 守らなければ。今度こそ死なせない。誰一人として。そうして殺すべき敵と対峙しているとき、俺はこれが俺の本来の役割だと感じたし、久しぶりにやる気がみなぎった。
 ……それがサスケが俺を見る目を変えたきっかけになったんだろう。搾取の対象にしたのにサスケは何をされようが俺のことを諦めない。どうしたらいいのか、もうわからない。どうすれば俺はまたあの落ち着く底辺に戻れる。軽蔑と失望と憐憫のまなざしを向けられる。
 誰にも語れない心中を吐き出す先だった石の前に立っても、何をどう言えばいいのかわからなかった。そんな俺を見たら、きっとオビトは「バカだなぁ」って笑うんだろう。あいつは些細な悩みは全部笑い飛ばして、そんなことよりも、と夢を語る奴だった。
 ……夢、俺の夢って何だ。俺はどうなりたい。……わからない、何もわからない。ただもう、サスケにこれ以上何をしてもあいつが俺を見るまなざしを変えないことだけはわかった。そんな目を向けられるくらいなら、いっそ何もしないほうがマシだ。
 ……こころを入れ替えて真面目に先生でもやってみるか、とあの三人を思い浮かべて、やっぱり俺には眩しすぎると思ってしまう。
 さっさと中忍試験を受けさせて、第七班を解散させよう。俺が教えるんだから、あいつらはすぐに強くなる。いや、強くする。部隊長としての心得も叩き込んで、さっさと俺の元から去るように……それが一番だ。
 
 目標、出来たじゃねえか
 
 聞こえた声にハッとして石を見た。石が喋るわけがない。今の声は何だ、幻聴? 俺はとうとうそこまで狂ってしまったのか?
「あんたはそれでいい、俺達を強くして、導いて、その背中で忍とは何たるかを語って、それでいい。カカシ。」
 背後からの声、振り向くとサスケがそこにいる。追いかけて来ていたのか。そんなことにも気がつかないくらい、俺は頭がいっぱいで周りが見えていなかったのか。
「俺達から早く遠ざかりたい、そんな動機だって構わない。だから俺達の先生として、師として、上司として、俺達を引っ張り上げろ。」
 俺はさっき考えていた事を、口に出していたのか? 多分、サスケが言っていることからすると、きっとそうだったんだろう。
「だから、今はそれだけ考えて、自分の事は何も考えるな。俺達を強くする事だけ考えろ。」
 ……部下に、命令されるなんてなさけない上司だな。まあ、俺は最初から上司なんて向いてないんだからそれもそうか。
「あんた俺のことバカだ、バカだ、って言ったけど、あんたも大概バカだぜ。周りが何も見えてねえ。周りどころか自分の事も碌に見えてねえ。」
 言われっぱなしなのに、言い返す気にならない。サスケの目がまた生意気な目に戻ったからだろうか。
 誰にも言うつもりがなかった自分の気持ちを聞かれてしまったからだろうか。
「何回でも言うからな、俺にとって、俺たちにとってあんたは強くて仲間思いで優しい先生なんだ。そして大切な仲間の一人なんだ。俺たち第七班は、あんたがいないと駄目なんだよ、あんたが欠けたら駄目なんだ、それくらい、カカシ、あんたは第七班にとって必要な存在だ。あんたが自分をどう評価していようが、それは変わらない。」
 サスケは必死な形相で俺に声をかけ続ける、俺はサスケに対して酷いことばかりしてきたのに、それでもサスケがこんなに俺に声をかけ続けるのは一体何故だ。
「返事くらいしろウスラトンカチ、あんたが今するべき事は何だ、考えるべき事は何だ、答えてみろよ!」
 そう言われて、俺はため息をついて、サスケに歩み寄った。そしてその頭に思いっきりゲンコツを落とす。
「卒業したての下忍の分際で生意気言ってんじゃないよ、偉そうに説教垂れて何様のつもり?」
 サスケは顔を歪めて頭を手で押さえながら、それでも生意気なまなざしを俺に向ける。
「卒業したての下忍から説教くらうようなバカの教え子様だよ。あんたが変なこと考える度に説教しにくるからせいぜい雑念を捨てて早く俺たちを育てることだな。あんたが教えたら、すぐに強くなるんだろ? ……やってみせろよ。どんなに厳しい修行だろうが食らいついてやるからな。」
 挑発的なまなざしが、俺の中の何かに火をつける。何に火がついたのかその時にはわからなかった。
 けれど後から、それが「やる気」だとわかって、こんな俺のこころにそんなものを抱かせたサスケの、子どものまなざしにはやっぱり敵わないと思う。
 眩しいけど、仕方がない。こいつらを早く育て上げて手放さないと、この眩しさからは逃れられない。
「……ま、明日からはみっちりしごいてやる。そこまで言うからには根を上げないでよ?」
 サスケは頭をさすっていた手を下ろして、俺をまっすぐ見つめたまま右手を差し出した。……握手?
「あんたが手を抜いてバカなこと考えてないか見張ってるからな、〝カカシ先生〟」
 いちいち生意気な言い方をする。ったく何なんだこいつは、本当に。
 差し出された手を握ってやった。サスケの顔が少し弛んだところで、その握った手に思いっきり力を入れる。
「いっ――――――!!」
「俺は先生なんて柄じゃないの、だからその呼び方辞めてくれる?」
「っ――わかった! わかったから離せカカシ!!」
 ぱっと手を離してやると、すぐ引っ込めてもう片方の手で握り潰された手を撫でる。
 その様子を見て、笑ってしまった。
 いつもの作り笑顔じゃなくて、本当の。

27 View

2025年3月31日成人向,短編,原作軸,完結済み,カカサス小説エロ描写有,シリアス