恋人未満
隣に
カカシの言葉を聞いて、カカシが俺を大切に思ってくれていたこと、俺のことをずっと好きでいてくれたことを知って、俺はあの日のメッセージでカカシをひどく傷つけるようなことを書いてしまっていたことに気がついた。
俺の方が自分のことしか考えず、相談もせず、こころを打ち明けることもせず、身勝手にカカシを避けてカカシを傷つけていたことを知って……あの日カカシをブロックしなくてよかったと、こころの底から思った。
カカシが話を終えて、また背中をさする。その手に込められた思いを知った今、……俺も、ちゃんと自分の言葉で話さないといけない。
「……カカシに、少しもやっとしてるって話をした日、俺がメッセージを送った日。カカシと『遊ぶ』ことが、つらくなった。」
カカシは落ち着いた声で「うん、」と続きを促す。
「カカシはあくまで遊びでそういうことをしているだけだと思うと、胸がチクチク痛んで、俺は俺がカカシのことを好きになってしまったことを、本気になってしまったことを自覚して。でも最初に本気にならないって約束をしていたから、その約束を守れなかったことが申し訳なくて、」
「それは俺の……考えが、サスケと一緒にいるうちに、変わっていったことを俺が言葉にしなかったんだから、そう思われても仕方ないよ。惰性でこのまま、なんて軽く考えて、サスケに何も伝えてなかった……俺が悪い。」
でもカカシだけが悪いわけじゃない。むしろ、俺の方がずっと悪いことをしてしまった。
「俺……、カカシにとっては俺は遊びはするけどただの友人であって、恋人未満までの関係にしかなれないって、思うとつらくて、もう今までと同じ関係ではいられないって、俺も相談も何もせずに。カカシの顔を見るだけで胸がいっぱいになって、その気持ちをカカシに知られたらいけないって勝手にひとりで考えて、振られるくらいなら自分から離れようと思って。」
「……うん。」
「こわかった、カカシからもうこの関係はやめようって言われるのが。遊ぶのをやめて、友人として関係を続けていくこともできたのかもしれない。でも好きになってしまった、だからただの友人としてあんたと過ごすことも、続けることはできないって、思って、」
「うん、……わかるよ、その気持ち。」
カカシがまた背中をさする。その手の温かさが嬉しい。嬉しいのに、俺は。
「今までなんでも話してきたのに、俺は自分のことしか考えずに、……あんたに、ひどいメッセージ送りつけて、避けて、話をすることからも逃げて、今、俺あんたに悪いことしてしまったことにやっと気がついて、どう謝ったらいいのか、わからなくて、……ごめん、もっと早く、あの夜ちゃんとカカシの話を聞くべきだったのに。」
また少し沈黙が流れて、カカシが口を開いた。
「俺もそれは、突然サスケの家に行って、サスケのこと何も考えてなくて、俺も身勝手だった。だからサスケが謝ることじゃないよ……。」
「でも俺は好きになっちゃだめだって、俺それしか考えてなくて、忘れようと思って、忘れることができなくて、あんたからのメッセージもずっと見られなかった。読むのがこわかった。それでこんなに時間が経って、その間ずっと俺、あんたを傷つけ続けてた……」
「傷ついてなんかないよ、こうしてまた俺の目の前に来てくれたこと、感謝してる。メッセージを読んでくれたことも、嬉しかった。」
「……でも俺は、カカシに謝らないといけない。ひどい別れ方をしたことも、話し合うことから逃げたことも、向き合うのを避けてきたことも、全部。……ごめん、本当に、悪いこと、した。」
「もう、いいよ終わったことだから。……ねえ、サスケ。また前みたいに、戻れないかな俺たち。……前と同じじゃなくて、恋人としてまた、一緒にいたい。手を繋ぎたいし、抱きしめたいし、恋人としてサスケのことを愛したい。サスケが俺と同じ気持ちを持ってくれてるのか、俺はそれが知りたい……今すぐじゃなくてもいいから、よく考えてからでもいいから。」
カカシは、自分の後ろを手で探って、カサ、と音がする何かを手に取った。
「一応これ……プロポーズの、つもりで……、貰ってくれたら、嬉しいんだけど。」
それを俺の方へ差し出す。包装紙に包まれた一本の薔薇。
「……俺と、付き合ってください。……で、合ってるのかな、プロポーズなんてするの、はじめてで……なんか、雰囲気作れなくて、ごめんね。でも、俺の気持ちを受け取って欲しい。」
差し出された赤い薔薇を見て、俺ははじめて顔を上げた。カカシは、緊張した面持ちで俺を見ていて、その顔を見て、やっぱり……俺は涙がこぼれてしまった。
一度こぼれた涙はどんどん目から溢れてきて、その一輪の薔薇を受け取って、俺はぼろぼろに泣いていた。
胸が熱い、喉まで出かかっている言葉を、言葉にできないまま泣いて、そんな俺をカカシは抱き寄せて、カカシの胸に俺の涙がじわじわと染み込んでいく。
俺も好きだ、俺も一緒にいたい、友人としてじゃなくて、カカシの恋人として。
それを自分の言葉でカカシに伝えないといけないのに嗚咽ばかりで言葉にならない。
泣きながらカカシの身体を俺も抱きしめて、強く抱きしめて、カカシは俺が落ち着くまで背中をさすってくれた。
「……ッカシ、……っ、おれも、……いっしょ、にっ、……っうぅ、いた、い、……っ」
あとから、あとから、あふれてくる涙を吸ったカカシの服が濡れて冷たくて、こんなに泣いたのは一体いつぶりだろう。これ以上、濡らしたら……でも今の顔を、見せたくない。
「……ありがとね、サスケ。ちゃんと伝わったから。また一緒にたくさんの時を過ごそう。俺、今嬉しいよ。すごく嬉しい。俺のメッセージ、読んでくれてありがとう。今日、ここにきてくれてありがとう。話をしてくれてありがとう。好きになってくれて、……ありがとう。俺も、サスケのこと好きだ。大好きだから、大切にしたい。サスケのことも、サスケと過ごす時間も、全部。」
……俺だって、嬉しい。嬉しい、けどなんて返事をしたらいいのかわからない。
「……ごめ、ごめん、俺ちゃんと、言えなくて、」
「なんで、謝るの? ……嫌だった……とか?」
カカシの顔が曇った。俺の馬鹿、ちゃんと言わないからまたカカシを不安にさせて。
「ちがう、嬉しいけど、俺、なんて言ったらいいのか、ごめん……」
カカシの顔がまた柔らかくなる。少し照れたように眉を下げながら。
「……よかった。それじゃあさ、今からはこれからのこと、考えようよ。」
「これから……」
抱きしめられて、密着している身体のカカシの股間が固くなっているのがわかって、思わず笑ってしまった。
「これから、って、そっちかよ……」
「……うんまあ、それも含めて……今サスケを抱きたいし、サスケを愛したい。……なんかごめんね、ほんと雰囲気壊してばっかで。」
「最初っからあんた、ウスラトンカチだよ……そういうところも、……好きだけど……。」
頬を大きな手が包んで、顔を上げるとすぐに唇を塞がれた。いつものキス……と何かが違う。なんだろう……蕩けるような気持ちよさ、求め合うキスじゃない、大切にしたい気持ちが伝わってくるような、優しいキス。
そのまま抱き上げられて、ベッドにそっと下ろされてだんだん頭がぼんやりとしてくる。このままずっとキスをしていたい。
そんな想いは虚しく唇が離れて、でもカカシは耳、首、鎖骨……とキスしたり舌を這わせながら俺の顔を見上げる。
「サスケを丸ごと食べたい。」
「……骨くらいは残してくれ。」
「骨も全部しゃぶり尽くしたい……。」
「それじゃ、一緒にいられないじゃねえか。」
「ううん、俺の中でずっと一緒にいられる。だからもうどこにもやらない……離さない。」
「バ、カッ、っ、ん、」
胸の突起を舐められて、甘い快感に身体が震える。
快感を追い求めていた遊びの時とはやっぱり何かが違う、愛しむような少しゆっくりとした愛撫。
恋人として愛したい……ってこういうことなのか? ただ気持ちいいだけじゃなくて、愛されている実感と充足感でこころが満たされていく。
「っぁ、カカシ、っん、は……、カカシと早く、……繋がりたい……。」
カカシは状態を起こして、笑った。
「……俺も。」
「は……ぁっ、ン、っ……ぁ、」
抱きしめられながら、少しずつ入ってくるそれに、嬉しさが溢れてくる。奥まで入って、ぎゅうっと抱きしめられている腕の力が強くなって、いつもよりゆっくりな動きなのに、いつもよりもずっと気持ちよく感じるのはなんでだろう。
今までは気持ちよさで頭がいっぱいになっていた、けど今はカカシへの気持ちで頭がいっぱいで、身体中で感じるカカシの体温が、しっとりと滲む汗が、何かを耐えているような表情が、奥まで入っている熱い塊が、その全てが愛おしく感じてより深く繋がろうと抱きしめ返して腰を浮かせる。
「……そんなにされると動けないよ……?」
「……奥、まで、なかっ、……が、良い……っ、」
「奥……ね、わかった。」
ゆっくりと腰を引いて中から抜けていく感覚にゾクゾクと震えて、ぐいと奥まで突かれてしがみつく背中に爪を立てる。
「あ゛っ! あ、きもち、ん゛っ! へん、カカシっぁあ! こんな、あ゛っ! だ、だめ、んぅっ!! おかし、いっ、こん、あっ!! 気持ちい、いっ、カカシっ……!」
何度となくカカシとはセックスをしてきたのになんでこんなにも気持ちいいのか、激しいわけでもないしあそこを虐めるように突いているわけでもないのに、中だけでなく全身で感じてしまう、気持ちいいと。
「ッごめ、我慢できない……動くよ」
ぐちゅんっ! ぐちゅっ、ぐちゅ、ッパン、パンッ、パンッと繋がっているところがたてる音が変わってカカシの腰つきが早くなった、けど奥を突くたびにぐっ、ぐっ、とさらに奥へと押し込まれて感じたことのない何かを感じて声を上げながら必死にしがみつく。
突かれるうちにだんだん柔らかくなってきているのか、ぐにゅ、ぐに、と中の感じ方が変わってきて、無意識に「だめ、だめっ」と泣きついていた。
身体中が熱くなってきて、あ、なかで、いく、と思ったそのとき、カカシは強く腰を打ちつけてぐぼっと奥のさらに奥にそれが入って、「ひあ゛っ!!」と首をのけぞらせながら身体が痙攣する。そのまま何度もその奥の中にぐぷ、ぐぽっと抽送をして、最後にひときわ奥に、奥の中に入れたまま、カカシは腰をびく、と緊張させて、はぁっ、はぁっ、と息を吐いた。
奥の中に入っている、それだけで意識が飛びそうなくらいの快感に震えながら、俺はずっとこのままカカシを感じていたいと、その背中にしがみつき続けた。
「……サスケ」
まだ息が落ち着いていないカカシが俺の名を呼ぶ。
いつもは落ち着いたらすぐに抜いてシャワーを浴びに行っていた。
「……大丈夫?」
いつもの激しい上にねちっこい遊びと比べたら、と思ったけど、それとはまた違う感覚で心が満たされていた。
「だいじょ、……っ、ぶ、……んっ」
ぐぶ、と奥の奥からゆっくりとそれが抜けて、また変な感覚が背筋を走る。
「……このタイミングで言うの、ってなんか嘘っぽくて好きじゃないんだけど、言いたくなるもんなんだね。」
「なに、を……」
「サスケ、大好きだよ。」
「……わからなくもない……けど、……俺もカカシが好きだ。……どうだ、嘘っぽい、か?」
「いんや、……すごく嬉しい。」
「……俺もだ。」
少し笑い合って、キスをして、抱きしめあったまま、これからはこれが日常になっていくのかと思うとなんだか変な気持ちになる。この気持ちはなんだろう。でも、あたたかい、心地よい気持ち。
遊びはするけど、カカシとはずっと恋人未満の友人だった。
その関係も嫌いじゃなかった。むしろ居心地がよかったし、だから俺たちはずっとこのまま、恋人未満のままそれなりに楽しくやっていくんだろうと思っていた。
どこが別れ道になったのか、それともカカシの言うようにそのまま関係が発展していった可能性があったのか、わからない。
けどまた、元通りではないけど、カカシがいる生活に戻ることが嬉しい。
色褪せていた日常はすっかり色を取り戻して、道端に咲く花を見て綺麗だな、と思えるようになった。
そして隣を歩くカカシにそのことを伝えて、ほんとだねと優しく笑う顔を見て、俺の頬もまたほころぶ。
これから歩むのは、そんな生活でそんな日常。