知られてはいけない

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2024年10月7日成人向,中編,原作軸,連載中,カカサス小説無理矢理,異種姦,オメガバース,エロ,自慰

報い

 蛇の言うようにこころを殺してみたら、何を言われても、何をされても、どう扱われても、まるで幽体離脱をして身体の外から自分を眺めているように他人事のように感じて、つらいとか、悔しいとか、そういうこともあまり感じなくなった。
 あんなに荒れていた気分は静かな海のように穏やかになって、感情なんてない方がいいんじゃないかとすら思える。
 ずいぶんと長く俺のこころは身体から離れたままの気がする。
 番になった、ところで所詮強引に結ばされたものだから、身体はカカシを求めてもこころは何とも思わなかった。蛇からも生理現象だと思えと言われて、身体が反応してしまうのは膀胱に尿が溜まったらしょんべんしたくなるようなもんなのかと納得した。
 カカシの家に住むよう命じられてから、カカシはよく喋った。何を言ってるのかは聞いちゃいないけど、カカシはもう無理矢理俺とヤろうとしなくなって、どうやら俺がこうなった原因が自分にあることはわかっているらしい。
 だからってもう二度と、カカシになんかこころを開いてやらねえ。そうやって無駄な時間を費やし続けていればいい。手折った花は枯れるだけだと思い知ればいい。どんなに言葉をかけたって、もう俺には届かないのだと思い知って絶望すればいい。
 
 そうして何日か経った。時間の感覚もなんだかどうでもよくなったから何日経ったのかよくわからない。その日任務が終わって解散した瞬間、両脇をナルトとサクラにがっしり掴まれた。
「何の真似だ」
「話があるんだってば」
「お願いだから一緒に来て!」
 両脇を抱え込まれたままズルズルと引っ張られていく。森の中まで連れて行かれて、ようやく解放されたと思ったら、ナルトに胸ぐらを掴まれた。
「サスケお前、何腑抜けた顔してんだってば! 最近おかしいぞ!」
 胸ぐらを掴む手をサクラが引っ張り離す。
「ちょっとやめてよナルト! ……サスケ君、何かあったのなら私達にも教えてくれない……?」
 何があった……言えない。ナルトやサクラだけじゃなく、誰にも言えない。かといって、このふたりはそんな回答では納得しないだろう。
 表情ひとつ変えない俺にナルトが再び胸ぐらを掴む。
「一発殴んねぇと目ぇ覚めねーのかよ、おい!」
「ナルトやめてってば! ……ねぇサスケ君、……カカシ先生と、何かあったのよね……?」
「サクラちゃん、なんでそんなことわかるんだってば」
「先生は泊まっただけって、言ってたけどサスケ君の先生を見る目がいつもと違うと思って……次の日からはサスケ君の様子も変わって……カカシ先生以外、考えられないの。それに首のそのガーゼ、……そんなところに傷ができるなんて、ひとつしか考えられない。」
 ……よかった、番だと気づかれたわけじゃなかった。しかしこの噛み跡は……見られたら、誤魔化しが効かない。
「……これは修行中にカカシの忍犬に噛まれた傷だ。雑菌が入ったから膿んでいてしばらくは外せない。」
「その、修行で! 何があったんだってば! 先生の家に泊まったって話だよな? 何かあったんだろそん時に!」
 ずい、と俺に近づくナルト、サクラも胸の前で手を握りながら一歩俺に歩み寄る。
 この二人が納得するような理由……もしくはこの二人の前でだけは以前と変わらない風を装う? いや、カカシだけに対応を変えるのはカカシと何かありましたと言っているようなものだ。……であれば、うまく言いくるめるしかない。
「俺たちめっちゃくちゃ心配してんだぞ!? なのになんでそんな平然として……!」
「お願いサスケ君、ひとりで抱えないで! ……元の、サスケ君に……戻って……」
 とうとうサクラは涙をこぼし始めた。
 こういうときは、どうしたらいい。今は蛇に聞くことができない。あれ、俺いつの間に蛇にこんなに頼ってた。でも蛇の言う通りにしていたら……いや、待て。よかった、のだろうか。娼館に行ったら結局カカシに捕まって、満たされないまま薬で無理矢理大人しくさせられた。あの娼館を知らなければ、カカシに反発してまた足を向けることもなかった。カカシの家に行くこともなかった。つまり、番にならずに済んだ。感情とこころを殺して楽になった……けれど目の前で今、サクラは泣いているし二人とも俺を心配している。仲間にそんな思いをさせてまで俺は自分のこころを守りたい、のだろうか。でも辛い思いをしたのは事実で、酷い扱いを受けたのも事実で……けれどその報いはカカシ一人が受けるべきであって、ナルトとサクラにこんな顔をさせるのは……間違ってる。
「……すまない、サクラ、ナルト。心配かけた。俺は……少しやり方を間違えていたみたいだ。」
 サクラが目を見開く。ナルトは一歩後ずさった。
「じゃあ、なんでそう……」
「それは悪いが、言えない。でも、もうふたりに心配かけるようなことはしない。悪かった。」
 ふたりの肩に手を置いて、元来た道を戻る。
「ちょっ……!」
「サスケ君!」
 立ち止まって、少しだけ振り向いた。
「……悪い、ちょっと用事ができた。また明日な。」
 
 森の中から道に出て、里の中心に向かって歩く。誰からの助言でなく、自分の意思で。中央よりもやや北にある建物。ぐるりとカーブした階段を上がって廊下を歩き、扉の上のプレートを確認してノックする。
「入りなさい」
 中から聞こえてきた声、ひと呼吸おいて扉を開けて中に入った。
 デスクの上で手を組み、真剣な眼差しを向けるその人――三代目火影を前にして、俺は「人払いを」とだけ告げた。
 三代目火影はパイプの持ち手を机にコン、と置き、2秒開けてもう一度コン、と置いた。
「話があるようじゃの。」
「人払い、というのは二人きりで話をしたいという意味です。カカシもどこかにやってください。」
 表情も変えないまま、三代目火影はパイプを口で咥えて、ふー……と紫煙をゆっくり吐き出した。
「望み通りにした、話を聞こう。」
 俺は入り口から部屋の真ん中まで歩を進めて、軽く深呼吸をする。恥ずかしい、などと言っていられない。事実を、淡々と伝える。それだけをすればいい。
「発情期の最後の日、カカシの家で、俺はカカシの抑制剤を全て壊しました。その後、カカシとセックスをして、うなじを噛まれ、無理矢理番にさせられました。」
 すでに知っているのか、それともその程度のことでは驚きはしないのか、三代目火影は顔色を変えることも身動きもしない。
「それで」
「その後カカシは毎日のように無理矢理俺を襲ってくるようになりました。俺のことを“性欲処理係”だと言って。」
 やはり表情ひとつ動かさないまま、続きを促す。
「……それで。」
「第七班からカカシを外してください。発情期以外は俺に近づかないようにしてください。あんな奴が上司だとは、俺は認めません。」
 話を聞き終えると、またパイプを咥えて、そして紫煙を吐き出す。
「一度組んだ班編成を変えるのは前例がほとんどなく、理由が理由である事から人員を交代するための大義名分も作れぬ。すなわち第七班からカカシを外すことは難しい。しかし看過出来る状況でもない。」
「では……」
「カカシを二週間の禁固及び矯正プログラムの対象とする。その二週間は別の上忍を代わりに用意する。……どうじゃ、これで納得できるか。」
「……もうひとつ。カカシがオメガの少年をレイプした、という噂を流してください。」
 沈黙が流れる。迷いなのだろうか。それとも考えているフリだろうか。火影ともあろう方が判断に悩むとは考え難い。この噂が流れれば、カカシの名声は地に落ちるだろう。でもそれだけのことをしたのだから、甘んじて受け入れるべきだ。
 たっぷり時間を置いてから、三代目火影はパイプを机に置き、俺に目線を向ける。
「……よかろう。他にはないな?」
「はい。」
「うむ、下がってよい。」
 頭を下げて、火影の執務室から出ると、俺はすっとした気分だった。
 二週間は顔を合わせることもない。
 そして出てきたら不名誉な噂が流れていて軽蔑の眼差しを向けられる。
 ざまぁみろ。
 軽い足取りでカカシの家の鍵を開ける。この家に住むのも今日までだ。
 ソファに座っていたカカシは「おかえり」と、力無く笑う。無視して洗面所に行き手を洗ってからタオルで水分を拭き取る。
 リビングに戻ると、カカシは虚空を見上げていた。
「……わかるよ、何となく、何しに火影室に行ったのか。……そうだな、俺は……罰を受けるべきだ。……こんなにも愛おしく想ってるサスケに、俺はやっちゃいけないことをしたし……言ってはいけないことを言った。好きで、大好きで、愛おしくてたまらないのに……支配しようとした……報いは受ける、べきだ……。」
 独り言なのか、俺に向けて話しているのかわからない。わからないけど今……カカシは何て言った?
 愛おしい? 大好き?
 確かにそう聞こえた。聞き間違いなんかじゃない。怒りの感情が湧き上がってくる。胸が熱くて手が震えそうになる。
 何なんだ。
 ……何なんだよそれ。
「……おい、あんた、まさかわざと俺のうなじを……」
 カカシが目を見開いて俺の方を向く。返事が返ってくるなんて思ってもみなかったという顔で。
「……やっと、返事してくれたね。……うん、そうわざと。サスケを独り占めしたかった。サスケにとって特別な存在になりたかった。……最低でしょ、……ごめんね。……謝って済むことじゃないのは、わかってるけど。謝らせて欲しい。申し訳ないことをした。ごめん。……ちゃんと罰、受けてくる。」
 また力なく笑ったかと思ったら、玄関から荒めのノック音、カカシが立ち上がり、扉の鍵を開けると暗部が二人……いや、三人。そしてカカシは、そのまま玄関の外に出て、扉を閉めた。
 カカシの家に、俺とカカシの忍犬達が残された。