知られてはいけない
わけわかんねぇ
喉に熱いものが込み上げてきてトイレに走る。吐き出した胃液で口中が酸っぱくなって、気持ち悪くなってまたえずく。
わけがわからない。
わけがわからない。
わけがわからない。
カカシは確かに愛してると言った。俺を?
そして運命の番だとも言っていた。俺が?
強制的に発情期になったときにカカシ以外のアルファと接していないから運命だのはよくわからない。けどそれならなんでそうと、番になった日に言わなかったんだ。上司としての体面ってやつか。ならなんで嘘をついてまで俺を襲った?言ってたことが本当なら俺との繋がりを強めるため?そうまでして執着するのは何故だ。
トイレから出て洗面台で口の中をゆすぐ。
パックンが足元に寄ってきて「何か思い出したらしいな」と話しかけてきた。
「何なんだ……あいつは、一体何なんだ……!」
「……失い続けた末にお前という光明が現れた。だが血に塗れた人間が天上人を手中に納めるには羽根をもぐしか手段を知らなかった。……結末は哀れだな。」
「意味わかんねえこと、言ってんじゃ……!」
「いい年して誰かを愛するということを知らねえんだよ。大切な人を失い続けてきたからな。」
頭を掻きむしりたくなる。
何なんだ愛って、俺にもわかんねぇよそんなこと。
さっきの机に向かって手帳の入っている引き出しを開けてそのまま引っこ抜いた。
手帳が入ったままの引き出しをローテーブルの上に置いて一冊ずつ手に取っては読み込んでいく。
一番古いものは……10年前、暗部だったらしい。最初の方はただのメモ書きだ。パラパラめくっていくとぎっしりと細かく書き込まれたページがところどころにあった。
そういうものも全部読み込んでいたら、忍犬に肩を叩かれる。
「ガキは寝る時間だろ」
ふい、と時計を顎で示される。23時。まだ読んだ手帳は3冊。
明日も任務がある。睡眠は取らなければならない。続きはまた明日だ。
「……わかったよ。」
読みかけの手帳を伏せて浴室に向かいシャワーを浴びてから寝室の広いベッドの隅で布団に潜る。
『サスケ』
まただ、カカシの声。
『……いや、何でもない。……おやすみ。』
まるで今言われているかのような錯覚を覚える。
錯覚なのに、妙に生々しい。
答えてなんかやらねぇ。
頭まで布団をかぶって目を閉じた。
『あっ!あ、あっ!もっ、もっとお、くあああっ!!』
『サスケっ、は、はぁっ、サスケ、』
くの字に曲げられていた身体がぎゅうっと更に折り曲げられて、愛おしいそれが奥に当たったまま抱きしめられる。
「あ、……あっ、はぁっ、ぁっ……!」
奥に当たっている感覚だけでイってしまいそうなくらい気持ちよくて俺はただ声を漏らし続ける。
不意に耳を口に含まれてビクッと身体が揺れた。そして囁かれる低い声。
『っごめ、ごめん、俺もう、上司で、いられない……っ!』
律動がグンと激しくなって、あまりの激しさに何度も射精して、そして俺も縋るようにその大きな肩に手を回した。
ずっと欲しくてたまらなかったそれに翻弄されて、大声で喘ぎながら、微かに聞こえた低い声。
『サスケ、サスケ……俺だけの……っ』
パッと目が覚めたら朝だった。
何かを抱きしめていると思ったらカカシの枕。
無意識にこれを?
嫌いなはずなのに、憎いはずなのに、その残り香は妙に落ち着いて心地いい。
「今の夢……最初のセックスの……」
気持ち良すぎて記憶が飛んでいた、ひとりで落ち着いて寝ていたからなのか、その記憶が蘇ったのか、カカシの言葉を思い出したことで呼び起こされたのか……。
カカシの枕を隅に追いやってベッドから立ち上がる。今はカカシはどうでもいい、今日も任務だ。
カカシの代理できた上忍はパッとしない男だった。カカシは長期任務で不在、ということになっているらしい。
さあ、行こうかと「代理」が言った瞬間、カカシが背中を叩いたあとすっと手を滑らせるあの感覚が蘇る。
それだけじゃない。任務中もずっと何かとカカシがスキンシップをとってきたタイミングであの大きな手の感覚が頭をよぎる。
任務後に修行をしていても、カカシが来る時間になると無意識にそちらを見てしまう。
あんなに嫌で、屈辱的で、悔しかったのに何でこんなにもカカシのことばかり頭に浮かぶのか。
苛立ちながら、どうしようか悩んで、またカカシの家に帰ってきた。
さっさと夕食とシャワーを済ませてから昨日出しっぱなしにしていた手帳の続きの読み込みに入る。
時期的には俺の護衛任務とやらに就いていそうだが、流石に任務内容については触れられていなくて、簡潔な文章が続く。
わけわかんねえ。
そのわけわかんねえことをわかんねえままにしたくない。
ここに答えがあるのなら何時間かけてでも全部読んでやる。
二週間が過ぎるのはあっという間だった。
その間に「あの噂」はサクラとナルトの耳にも入ったらしく、長期任務に対しても疑心を抱いていた。オメガの少年をレイプしたことで何か処分を受けているのではないかと。
実際それは正しい。けど興味がないふりをして本人に聞けばいいんじゃねぇのと興味なさげに答えたらそれ以上言及することはなかった。
そのカカシが今日から任務に復帰する。
心なしか落ち着かない様子の二人を少し離れた木陰から見つめながらあいつが来るのを待った。
待ち合わせ時間からたっぷり3時間待たされて、まるで何事もなかったかのように現れたカカシはいつもと全く変わらない様子だった。