知られてはいけない
話せよ
「久しぶりだなぁー3人とも!」
ナルトもサクラもいつものように「おっそ――い!!」と言わなかった。ただ訝しげにカカシを見つめている。
「先生さぁ、任務行く前になんか説明すっことあんじゃねーの。」
「ん? ああ、今日は風が強くて……」
「そうじゃなくて! ……あの噂、本当なのかよ。」
ナルトが一歩歩み寄って拳を握りしめている。カカシは三人の顔をそれぞれ見てから、ニコ、といつもの笑顔で言った。
「……事実だよ。ただ、相手がいる話だからそれ以上のことは言えない。」
事実、という言葉に唖然とする二人。どう反応したらいいのかわからないんだろう。センシティブな問題だけに、カカシの言うように相手のことがあるからそれ以上のことは聞けない。
カカシらしい言い逃れの仕方だ。ずるい大人のやり口。今ここで本当のことを言ってやろうか? 性欲処理のためと言って12歳のオメガの子どもを襲ったのだと。
ギクシャクとした空気のままいつものつまらない任務が始まって、カカシはあの気持ち悪いボディータッチをする事なく夕方を迎えた。
うさんくさいあの笑顔でカカシが消えてから、二人に詰められたのは俺だった。
「サスケくんは知ってるんでしょ、本当のこと。」
「サスケがおかしくなったのも、もとに戻った直後にカカシ先生が長期任務に出て噂が流れ始めたのも、なんか関係あるんだろ。」
何て言うべきか迷った。でもありのままのことを言うわけにはいかない。
「カカシの言う通り……詳しくは言えない。ただ、被害者と近しい関係だとしか。」
察してくれ、そう目で訴えかけると、二人は黙った。
俺は踵を返して家に向かう。
自分の家ではなく、カカシのマンションに。
鍵を開けて扉の中に入ると、目の前にカカシが立っていた。短い呼吸、顔の横につかれた手、口布を下ろす指、紅潮した頬が露わになる。鼻をつく甘い香り。
「……抱きたい。」
「矯正プログラムとやらは意味がなかったらしいな。」
「サスケがいなくて半身が引き裂かれるような思いだった。」
「あんた何も変わってねぇよ。もう一度火影様に言いに行ってやろうか?」
カカシが喋るたびに甘い香りが強くなって心臓の鼓動が早くなる。これはカカシのフェロモン? 発情期でもないのになぜ身体が反応する?
カカシが目を閉じて眉間に皺を寄せ、ふらっとソファに向かっていく。
俺はダイニングテーブルに腰を下ろして、カカシを観察していた。
「……なんで、まだここにいるの。」
「あんたが俺のバックパックをどっかにやったんだろ。」
「俺のを使えばよかったじゃない。」
「自分の行動は自分で決める。」
「パックンから聞いた……全部読んだって。」
「あんたを知ったところであんたの罪は変わらねえぞ。」
「わかってる……けど……それでも今、サスケを抱きたい……。」
「抑制剤が足りねぇんじゃねーの。」
「効かないんだ、番になったせいなのか、何本打っても。」
「オメガの前では本当に無力なんだな、アルファ様は。ざまぁ……」
指で。
顎を上に向かされて、左腕を掴まれていた。
かち合ったその目は情けなく潤んで、何かを必死に我慢しているように眉に力が入っている。
濃い甘い香りに身体の中心がずくずくとうずいて、この男にこのまま抱かれたいとすら感じてしまう。
「ごめん……我慢出来ない……ごめん、ごめん……」
掴まれていた右腕をそのまま引かれて、浮いた腰と椅子の間にもう片方の腕が入り、ひょいと肩に担ぎ上げられる。
「ごめんじゃねぇおい待て!!」
寝室のベッドに優しくおろされたかと思うとキスがシャワーのように降ってくる。その口から漏れ出る甘い香りが口内に入ると頭がぼぅっとしはじめて、気がつけば俺は夢中になってキスに応えていた。
上半身の服を脱ぎ去ったカカシは俺の服もたくし上げて、キスをしながら熱い手が胸の突起に触れると俺の身体はビクッと震えた。
唇が離れていって胸に移るとそこをねっとり舐めたり舌で転がして、その度に走る甘い痺れに声が漏れる。
ドキドキと拍動する胸、短い呼吸、全身の熱感、局部から溢れる蜜、頭の中が霞で覆われたように何も考えられなくなる。俺は今、カカシが欲しい。ただそれだけしか考えられない。
余裕のない顔をしたカカシが胸から唇を離して脇を撫でながらその指を下に滑らせて俺のズボンを脱がせる。
しっかり勃ち上がったそれを躊躇なく口に入れて舐め回されただけで俺は簡単にイってしまった。
全部飲み込んだカカシは濡れそぼった後ろの穴に指をそわせながらまたキスをする。
「んっ! あ、あっ! ふ……んっ、あ……ぁあっ! っあう!」
ビクビクと跳ねる身体、中はもう緩みきっていて、前戯なんて必要なかった。
はぁ、はぁ、と荒い呼吸のカカシがズボンを脱ぎ去ってそこにその大きいものをあてがい、苦しそうな顔でまた「ごめん」と呟く。
ずくんっと一気に入ってきたそれに俺はまたイッて、歓喜する身体のままに喘いで、脳はバカみたいに快楽のホルモンが放出されていて、カカシと繋がっているという幸せで心が満たされていた。
「あ゛っ!! カカ、ぅあっ! あっ、気持ちっ、ぁああっ!!」
「サスケ……愛してる、愛してるっ……!」
「ああっ! あ、あっ! カカシっ、んぁっ! あああっ!!」
……途中から、ほとんど覚えていない。
俺たちはひたすら本能のままに終わりの見えないセックスをして、欲望をぶつけ合った。
それは気持ちよくて、幸せで、永遠にこの刻が続けばいいのにと感じたくらいにこころが満たされていた。
ふと気がついたとき、俺はベッドに仰向けで膝を立てて横になっていて、荒い呼吸をそのままに、ナカがきゅう、と切なく締まるのを感じながら、目はカカシの姿を追っていた。
カカシはうつむきながらベッドサイドに座って、また「ごめん」と呟く。
カカシの手帳に書かれていた、あの強引なセックスのことを思い出していた。
〝身体もこころも歓喜に震えて、ずっと見つからなかった半身とようやくひとつになれたような、言葉にならない幸福感と快感。……俺はそれをしないでいられることが出来なかった。〟
その感覚、今ならなんとなくわかる気がする。この満たされた感覚。溢れる幸福感。でもこれが強引に俺をやった免罪符になるわけじゃない。
重い身を起こしてうつむくカカシに目をやる。
「何が〝ごめん〟だ」
「好きになって、ごめん」
「謝るところが違うだろ」
「番にしてごめん」
「あんたがやったことは」
「無理矢理してごめん」
「ごめんごめんって、それ言えば許されると思ってんのか!」
「許されるわけがない」
「だったらなんで今も……!」
「サスケが目の前にいると自分が止められない」
「俺のせいにするな」
「だからもう、この家から出ていって」
「出て行ったって、また修行中に襲ってくるんだろ」
「もう、しない」
「信用できねえ」
「反省してる」
「だったら今もやってねぇだろ! いい加減に……」
ベッドから降りて、カカシの髪を掴んだ。
「話せ! 全部、あんたの考えてること、すべて!」
髪を掴まれて上を向いたカカシの目が右下を向く。
「……手帳読んだなら……わかるでしょ、俺がどういう人間か。」
「ああ、失敗してばかりのバカで愚かなクズなのはよくわかった。それをわかっていてなんで同じような間違いを繰り返すんだって言ってんだ!」
「……ごめん」
「ごめんじゃなくて、話せよ俺に! あんたの番なんだろ俺は!」
番、という言葉に、カカシは目を見開いて俺を見上げた。