知られてはいけない
ほどいて
屋根の上に蛇がいた。
長い尾を使って書いたらしい小さな紙切れをクシャッと丸めて配下にいる小さい蛇の口に入れると、顎で東の方角を示す。
その方向に向かおうとした小さい蛇を、カカシが摘み上げた。
「なーんか、変な感じはしたんだよねぇ。」
小さい蛇の口をこじ開けて中にある紙切れを取り出し、その字を読む。
『うちはサスケ 失敗』
カカシは顎に手を添えた。
「これは……どういう意味かな、蛇君」
蛇はその場から素早く去っていった。
番としてサスケに認められた。けれど俺の犯した過ちが許されたわけじゃない。どう距離を保ったらいいのか、どう対応したらいいのかわからないまま、またサスケとの同居生活が始まった。
基本的にサスケはいつも不機嫌そうにしている。許せない存在である俺が常に視界にいるのだから不快にもなるだろう。
サスケに対する情動は強いけれど、二週間ぶりに目の前にした時と比べたらまだ我慢できる程度だった。
だからあの日以後、サスケに手を出さずに済んでいる。
サスケが何を考えていて、何を望んでいるのかわからない以上、敢えて踏み込んだり自分から接触したりすることは避けてきた。
本当は抱きしめたいし髪を撫でてその匂いを嗅ぎたいし出来ることなら素肌の体温を感じながら濃密な時間を過ごしたい。けど俺にはそんなことをする資格はない、そこはきちんとわきまえたいと思っている。
けれど夜一緒にベッドに入ってさあ眠ろう、という瞬間だけは、理性を保つのに必死だった。
すぐ隣にサスケがいて、サスケの匂いがして、無防備に眠っていて、……キスくらいは許されるだろうか、いやだめだ、抱きしめながら眠るのは……だめだだめだ、という煩悩と戦いながら羊を数えることだけを考えるように意識を集中させる毎日。
寝不足気味の日が続いた。
サスケは苛立っていた。
あの日以来カカシが迫ってこない。
それどころか、俺から距離を置いている。
あの日のあれはいったい何だったのかというくらい指ひとつ触れてきやしない。
俺はカカシの匂いを感じるたびにあの日のセックスを思い出してるっていうのに、唯一距離が縮まるベッドの中でもカカシは反対側を向いておやすみと一言言うだけだ。
微かに匂うカカシの甘い香りに反応してしまう身体が憎い。あっちはその気がないのに俺ばかり意識して馬鹿みたいじゃねえか。
図書館で番に関する本を何冊か借りて読んだ。番になると発情期に出るフェロモンが番にしか効かなくなるのはカカシから聞いたから知っていた。問題はそれ以外の普通の日にもフェロモンの影響があるのかどうか。確かなことは書かれていなかったが、番になると惹かれあい身体を重ねるごとに繋がりが深くなってお互いに求め合う、ということはわかった。
十中八九カカシが狙っていたのはこれで、無理矢理だろうが身体を重ね続ければ俺がカカシに惹かれるようになると考えたんだろう。……実際、カカシがいない間の俺はずっとカカシのことばかり考えていた。悔しいけどカカシの思い通りになった訳だ。
こころを殺していたときは地獄のようだった。喜怒哀楽の全てを捨ててただ生きているだけの日々。
襲われたら嫌でも身体が反応して、それから目を背けるために蛇の言う通りに『これはただの生理現象だ』と思い続けた。
……蛇、そういえば最近口寄せしていない。カカシがフェロモンに敏感になってからは役目が無くなったし、そもそも発情期になってもカカシにしかフェロモンは効かなくなったのだから匂いにそんなに敏感になる必要もなくなった。
いつものようにベッドに入って待っているとカカシもそろっと入ってきて俺の反対側を向く。
「おやすみ」
そう言ったカカシの甘い香りがいつもより濃い気がして、カカシの方を見た。
その俺の動きに気づいたらしい、カカシはもぞ、と背を丸めて「何か用?」と布団の中で喋る。
「あんたこそ、何かあったんじゃねえの。匂いが強い。」
「……ごめん、それなら今日はリビングで寝る。」
「そうじゃなくて……あんた、欲情してんじゃねえのか。」
沈黙、の代わりにわかりやすく甘い香りが強くなる。
俺は起き上がってカカシの布団を引っぺがした。
がしっと股間を掴むとやっぱり勃っている。
「サスケ何、何してんの!?」
「あんたの番だぞ俺は! 誤魔化せると思ってんのか。」
「だって俺は……その……サスケに酷いことしたし……」
「俺の前では思ってること正直にそのまま話せと言ったはずだ。」
「う……、……したい……です……。でも俺から誘う資格なんてないから……。」
「俺が誘うのを待ってたって? それなら今からルールを作る、いいか。一、欲情した時は正直に俺に言え。二、無理矢理じゃなければしてもいい。三、一人で抱え込む癖やめろ。以上だ。わかったかウスラトンカチ!」
信じられない、という顔で俺を見上げる。間抜け面しやがって。こんな奴が上忍で上司だなんて、情けない。
戸惑いを隠さずにカカシが口を開く。
「本当に……正直に、言ってもいいの? 引かない?」
「毎日襲いに来てた奴が今更何言ってやがる。」
「それは本当に申し訳……」
「その話は今はいいから話せ!」
「……毎日でも、……したい。ベッドに入るたびに……抱きしめたくなる、キスもしたい、できることなら、セックスも……。」
しどろもどろに喋るカカシが伺うように俺を見る。俺はため息をついて、寝間着を脱ぎ始めた。カカシが慌てて上半身を起こす。
「サスケいい! いいから!! 無理にそんなことむぐっ」
脱ぐ手を止めようとするカカシの口を指で挟んだ。その顔に近づいて、首筋にあるフェロモンの分泌腺がカカシのすぐ鼻先にくるように耳元で話しかける。
「あんたは感じないのか、俺の匂いを。」
ぶわっと甘い香りが広がって、上半身を脱ぎ終えた俺をカカシが抱きしめた。
「サスケもその……欲情……してるの?」
「……あんたの匂いのせいだ」
「してもいいの……?」
「だめだったら脱いでねぇ」
この匂いを嗅ぐと頭がぼうっとしてくる。カカシとキスをしたいし抱きしめ合いながらセックスもしたい。
俺もカカシと同じだ。
オメガのことなんてちっともわかってない偉そうなアルファ様だと思っていた。所詮俺みたいなオメガは劣等種で、アルファのカカシに対抗するために発情期を逆手にとってざまぁねぇなと言うつもりだった。
最大の誤算はカカシが俺を好いていたこと……番になってしまってから、何もかもがぐちゃぐちゃになってしまった。
そのぐちゃぐちゃに絡まった糸を今俺たちは少しずつ解いているのかもしれない。本当に運命の番だというのなら今じゃなくてもいずれ俺たちは惹かれ合う運命だった。
人の噂も何とやら……ナルトもサクラもどう飲み込んだのかカカシに対して普通に接するようになっていった。第七班として元通りになった俺たちはつまらない任務をこなしながらどうでもいい会話をする。
サクラだけは相変わらず聡くて時々俺とカカシのことを聞いてくるが、いつもカカシがうまく誤魔化すから何とかなっている。
蛇との口寄せ契約は辞めた、というより辞めさせられた。契約書の巻物も禁書扱いになったらしい。詳しくは何も教えてもらえなかったが、どうやらあの蛇達は外部と内通していたらしく、俺のことも誘導してどうかしようと企んでいたらしい。肝心なところをぼかされて結局よくわからないが、あの蛇はともかく悪い奴だった、ということのようだ。
屋根の上に蛇がいた。
長い尾を使って書いたらしい小さな紙切れをクシャッと丸めて配下にいる小さい蛇の口に入れると、顎で東の方角を示す。
その方向に向かおうとした小さい蛇を、カカシが摘み上げた。
「なーんか、変な感じはしたんだよねぇ。」
小さい蛇の口をこじ開けて中にある紙切れを取り出し、その字を読む。
『うちはサスケ 失敗』
カカシは顎に手を添えた。
「これは……どういう意味かな、蛇君」
蛇はその場から素早く去っていった。
番としてサスケに認められた。けれど俺の犯した過ちが許されたわけじゃない。どう距離を保ったらいいのか、どう対応したらいいのかわからないまま、またサスケとの同居生活が始まった。
基本的にサスケはいつも不機嫌そうにしている。許せない存在である俺が常に視界にいるのだから不快にもなるだろう。
サスケに対する情動は強いけれど、二週間ぶりに目の前にした時と比べたらまだ我慢できる程度だった。
だからあの日以後、サスケに手を出さずに済んでいる。
サスケが何を考えていて、何を望んでいるのかわからない以上、敢えて踏み込んだり自分から接触したりすることは避けてきた。
本当は抱きしめたいし髪を撫でてその匂いを嗅ぎたいし出来ることなら素肌の体温を感じながら濃密な時間を過ごしたい。けど俺にはそんなことをする資格はない、そこはきちんとわきまえたいと思っている。
けれど夜一緒にベッドに入ってさあ眠ろう、という瞬間だけは、理性を保つのに必死だった。
すぐ隣にサスケがいて、サスケの匂いがして、無防備に眠っていて、……キスくらいは許されるだろうか、いやだめだ、抱きしめながら眠るのは……だめだだめだ、という煩悩と戦いながら羊を数えることだけを考えるように意識を集中させる毎日。
寝不足気味の日が続いた。
サスケは苛立っていた。
あの日以来カカシが迫ってこない。
それどころか、俺から距離を置いている。
あの日のあれはいったい何だったのかというくらい指ひとつ触れてきやしない。
俺はカカシの匂いを感じるたびにあの日のセックスを思い出してるっていうのに、唯一距離が縮まるベッドの中でもカカシは反対側を向いておやすみと一言言うだけだ。
微かに匂うカカシの甘い香りに反応してしまう身体が憎い。あっちはその気がないのに俺ばかり意識して馬鹿みたいじゃねえか。
図書館で番に関する本を何冊か借りて読んだ。番になると発情期に出るフェロモンが番にしか効かなくなるのはカカシから聞いたから知っていた。問題はそれ以外の普通の日にもフェロモンの影響があるのかどうか。確かなことは書かれていなかったが、番になると惹かれあい身体を重ねるごとに繋がりが深くなってお互いに求め合う、ということはわかった。
十中八九カカシが狙っていたのはこれで、無理矢理だろうが身体を重ね続ければ俺がカカシに惹かれるようになると考えたんだろう。……実際、カカシがいない間の俺はずっとカカシのことばかり考えていた。悔しいけどカカシの思い通りになった訳だ。
こころを殺していたときは地獄のようだった。喜怒哀楽の全てを捨ててただ生きているだけの日々。
襲われたら嫌でも身体が反応して、それから目を背けるために蛇の言う通りに『これはただの生理現象だ』と思い続けた。
……蛇、そういえば最近口寄せしていない。カカシがフェロモンに敏感になってからは役目が無くなったし、そもそも発情期になってもカカシにしかフェロモンは効かなくなったのだから匂いにそんなに敏感になる必要もなくなった。
いつものようにベッドに入って待っているとカカシもそろっと入ってきて俺の反対側を向く。
「おやすみ」
そう言ったカカシの甘い香りがいつもより濃い気がして、カカシの方を見た。
その俺の動きに気づいたらしい、カカシはもぞ、と背を丸めて「何か用?」と布団の中で喋る。
「あんたこそ、何かあったんじゃねえの。匂いが強い。」
「……ごめん、それなら今日はリビングで寝る。」
「そうじゃなくて……あんた、欲情してんじゃねえのか。」
沈黙、の代わりにわかりやすく甘い香りが強くなる。
俺は起き上がってカカシの布団を引っぺがした。
がしっと股間を掴むとやっぱり勃っている。
「サスケ何、何してんの!?」
「あんたの番だぞ俺は! 誤魔化せると思ってんのか。」
「だって俺は……その……サスケに酷いことしたし……」
「俺の前では思ってること正直にそのまま話せと言ったはずだ。」
「う……、……したい……です……。でも俺から誘う資格なんてないから……。」
「俺が誘うのを待ってたって? それなら今からルールを作る、いいか。一、欲情した時は正直に俺に言え。二、無理矢理じゃなければしてもいい。三、一人で抱え込む癖やめろ。以上だ。わかったかウスラトンカチ!」
信じられない、という顔で俺を見上げる。間抜け面しやがって。こんな奴が上忍で上司だなんて、情けない。
戸惑いを隠さずにカカシが口を開く。
「本当に……正直に、言ってもいいの? 引かない?」
「毎日襲いに来てた奴が今更何言ってやがる。」
「それは本当に申し訳……」
「その話は今はいいから話せ!」
「……毎日でも、……したい。ベッドに入るたびに……抱きしめたくなる、キスもしたい、できることなら、セックスも……。」
しどろもどろに喋るカカシが伺うように俺を見る。俺はため息をついて、寝間着を脱ぎ始めた。カカシが慌てて上半身を起こす。
「サスケいい! いいから!! 無理にそんなことむぐっ」
脱ぐ手を止めようとするカカシの口を指で挟んだ。その顔に近づいて、首筋にあるフェロモンの分泌腺がカカシのすぐ鼻先にくるように耳元で話しかける。
「あんたは感じないのか、俺の匂いを。」
ぶわっと甘い香りが広がって、上半身を脱ぎ終えた俺をカカシが抱きしめた。
「サスケもその……欲情……してるの?」
「……あんたの匂いのせいだ」
「してもいいの……?」
「だめだったら脱いでねぇ」
この匂いを嗅ぐと頭がぼうっとしてくる。カカシとキスをしたいし抱きしめ合いながらセックスもしたい。
俺もカカシと同じだ。
オメガのことなんてちっともわかってない偉そうなアルファ様だと思っていた。所詮俺みたいなオメガは劣等種で、アルファのカカシに対抗するために発情期を逆手にとってざまぁねぇなと言うつもりだった。
最大の誤算はカカシが俺を好いていたこと……番になってしまってから、何もかもがぐちゃぐちゃになってしまった。
そのぐちゃぐちゃに絡まった糸を今俺たちは少しずつ解いているのかもしれない。本当に運命の番だというのなら今じゃなくてもいずれ俺たちは惹かれ合う運命だった。
人の噂も何とやら……ナルトもサクラもどう飲み込んだのかカカシに対して普通に接するようになっていった。第七班として元通りになった俺たちはつまらない任務をこなしながらどうでもいい会話をする。
サクラだけは相変わらず聡くて時々俺とカカシのことを聞いてくるが、いつもカカシがうまく誤魔化すから何とかなっている。
蛇との口寄せ契約は辞めた、というより辞めさせられた。契約書の巻物も禁書扱いになったらしい。詳しくは何も教えてもらえなかったが、どうやらあの蛇達は外部と内通していたらしく、俺のことも誘導してどうかしようと企んでいたらしい。肝心なところをぼかされて結局よくわからないが、あの蛇はともかく悪い奴だった、ということのようだ。
あっという間に月日が経って、そろそろ発情期が来るんじゃないかと毎日朝起きるたびにカカシの方を見る。
カカシは笑っておはようと言いながら頭を撫でて、俺はガキ扱うするなとその手を振り払う。
そんなある日、カカシはいつもの笑顔でおはようと言ってから、今日から3倍量ねと付け加えた。
あっという間に月日が経って、そろそろ発情期が来るんじゃないかと毎日朝起きるたびにカカシの方を見る。
カカシは笑っておはようと言いながら頭を撫でて、俺はガキ扱うするなとその手を振り払う。
そんなある日、カカシはいつもの笑顔でおはようと言ってから、今日から3倍量ねと付け加えた。