知られてはいけない
本当の
冷蔵庫の奥にある瓶を取り出してコップに注ぐ。ぐいと飲み干すと水筒にも同じ量を注いでバックパックに入れた。
カカシも同じように水筒に薬を入れてバッグに忍ばせる。そして抑制剤も普段より多く。
「本当に他のアルファには影響がないのか。」
「うん、そこは安心していいよ。」
一緒に玄関を出て、お互いに反対の道を進む。
まっすぐ行けば集合時間に十分に間に合うのに、カカシは律儀にいつものあそこに寄ってから来るらしい。手帳を読んでわかったカカシの秘密のうちのひとつ。
ただの遅刻魔だと思っている二人はカカシが来ると声を揃えて「おっそーい!!」と騒ぐ。
今日あいつは何を報告しに行ったんだろうか。あるいは相談に行ったのだろうか。片眼を託して死んだ友にいつまでも生きているかのように話をしに行くカカシはバカな奴だと思う。そうやって過去を引きずっているから今を見誤るんだ、きっと。
強くて頼り甲斐がある大人で上司と見せかけてその内側は迷いと悩みと後悔の塊だと知ってからカカシを見る目が少し変わったと思う。
そんな弱さを表に出さないように嘘で塗り固めて優秀な忍を演じてるに過ぎないのに誰もがその嘘に騙されてカカシを過大評価している。
その期待の目に応えようと無理している姿はある意味気の毒にも感じる。俺が優秀なアルファのうちは一族を演じているのとどこか似ていた。
嘘をつき誤魔化し取り繕ってきた長年の癖が抜けないのか俺の前でも強がるカカシに何度「本当は何を考えてるんだ」と尋ねてきたことか。
俺はカカシの強さも弱さも賢さも愚かさも全て知っている唯一の人間だというのに、バレバレの嘘ばかりつくカカシに苛立ったり呆れたり哀れに思ったりする。
でもその弱さを秘めながら食いしばって立ってるのがカカシなんだ、俺がオメガだと悟られないよう必死に修行に励むのと同じで、カカシもきっと「はたけカカシ」であろうと必死なんだろう。
でも家でふたりきりのときだけはその嘘で固めた仮面を外したっていいじゃないかと思う。俺はちゃんと知ってるんだから。わかってるんだから。素の弱さを見せたっていいじゃないか。そういう話をすると決まってカカシは「子どもが生意気言ってんじゃないの」と笑う。
そうだよ、俺は子どもだよ。この年齢の差は埋められない。けれど俺だって成長して歳をとる。あんたと一緒に歳を重ねて大人になる。一緒に過ごす時間が増えれば増えるほどあんたのことをもっと理解できる。
また過ちを繰り返したらバカだなって笑ってやるよ。後悔するようなことがあればそれでもあんたは生き残ってるじゃねえかって言ってやる。生きていれば後悔なんて乗り越えていけるだろ。同じ失敗を繰り返さなければいいだけだろ。まあ、あんたバカだから繰り返しそうだけど。
お互いにひとりで踏ん張ってきた。努力してきた。強い優秀な自分を演じてきた。
でもこれからはふたりで支え合えるだろ、俺はガキだけど、けどあんたの番なんだから。あんたが俺を番にしたんだから、だから……。
任務が終わって、いつもの場所で修行に励む。より速く、より強く、より広く、より鋭く。強さを磨いて、磨いて、越えなければいけない存在を打ち消すために。
息が上がっているのとは少し違う動悸を感じて、俺はバックパックの中の水筒に手を伸ばした。
その手を包み込んだのはカカシの大きな手。
「もう帰ろう、夜になる。」
その手は、その言葉は、これから何をするのか示唆していた。それに応えるべきか考えていると、カカシは笑顔を貼り付けたまま「嫌……だった?」と聞いてくる。そんな顔をさせてるのは俺だ。本当のことを言えと言い続けながら、カカシに優しい大人の役割を担わせて。
「……嫌じゃない。帰るぞ。」
水筒に伸ばした手を引っ込めてバックパックの口を塞ぐ。一緒に並んで歩きながら、どんどん動悸が激しくなっていく。我慢していた呼吸も短くなって、目が霞んでカカシ以外よく見えない。
「着いたよ、もう大丈夫。」
抱き上げられて汗で汚れた身体のままベッドに運ばれた。
「はぁっ、カカシ、っはぁ、カカシ、もう、ほし……」
全身が紅潮して下半身は前も、後ろも、とろっとした液体が溢れていた。優しい大人の仮面をかぶっていたカカシは、服を脱いだ瞬間俺のアルファにその顔を変える。
「サスケ、サスケ俺だけの……」
身体の形を確かめるように手をすべらせる、それだけでどうしようもなく身体が疼く。
「っあ、カカ、んっ! はぁっ、俺、だって、んっ! あっ」
後ろに伸びた手はクチュクチュと入口をほぐしてからぬるっとなかに入ってくる。
「っああ! あっ、あ、カカ、カカシっ! だ、あっ、だめ出ちゃ、っあ! あああっ!!」
白濁液が散って濃密になったフェロモンにカカシの表情が変わる。愛しいものを見る目から、俺を独占しようとする本来のカカシの顔に。
溢れる蜜でぐちゃぐちゃになったそこから指が抜かれてカカシのものがぐちゅん! と奥まで入ると、俺は一瞬意識が飛んで背をそらせてまた射精していた。
「あ゛っ! ああ゛っ! ~~っ!! だ、きも、ちっ、ああ゛っ!!」
奥を突かれるたびにびゅ、びゅ、と透明な液体が前から溢れる。
「ッカシ、カカシ、カカシっ! カカシ、カカシッ……!!」
「はぁっ、サスケ、サスケッ、サスケッ……!!」
ナカでドクンっと脈打って熱いものが広がる。ググッと奥の奥に押し込まれて、また始まる抽送。
誰にも渡さない、触れさせない、どこにもやらない、俺だけの……。
夢でも、見ているかのようだった。
カカシだけを求める俺と、俺だけを求めるカカシ、普段取り繕っている理性を全て吹き飛ばして、純粋にただ求め合うセックスは、いつもと全然違って、こころに湧き上がってくる熱い感情が、そのまま声になっていた。
それを聞いてカカシは俺を強く抱きしめて同じ言葉を口にする。その響きが頭にこだまして、泣きそうなくらいに幸せで、俺はその言葉を繰り返しカカシにぶつけた。
俺たちいま、こころからつながってる。こころもからだもつながってひとつになってる。その高揚感と溢れる幸福感で、それはまるで、夢を見ているようだった。
目が覚めて、まだ繋がっていて、抱きしめられていて、抱きしめていて、カカシが俺の目を見ながらキスをする。
「おはよ、サスケ。」
まだ硬いナカのものをぐっと奥に押し込まれてビクビクしながら声を漏らす俺。
「か、かしっ、っ奥、っぁ、おく、にっ……!」
「ねぇ、言ってよ、もう一回……っ。聞きたい……サスケ」
ぐ、ぐ、と奥を刺激されて、俺は震えながらカカシをぎゅっと抱きしめた。
「あい、して、る……っ」
「サスケ俺も……愛してる、愛してる。」