知られてはいけない

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2024年10月7日成人向,中編,原作軸,連載中,カカサス小説無理矢理,異種姦,オメガバース,エロ,自慰

 アパートの扉を後ろ手で閉めて、ふう、と息を吐く。
 靴を脱いでバンテージを外しながら、肩に乗っている蛇に話しかけた。
「蛇……お前を選んだのは、……単に嗅覚が効くからじゃない。」
「ああ、よーくわかってるぜ。オメガが俺たちを口寄せするのはほとんど同じ理由だ。」
 手を止めて、蛇に目をやる。
「疼くんだろ、相手してやるよ。」
「……話が早くて助かる。」
 いくら薬を飲んでいても、夜一人で布団に横になっていると身体の感覚が研ぎ澄まされて、ある一点がどうしても気にかかる。疼く、そう。その表現がしっくりくる。指を入れても、どれだけ掻き回しても疼きは酷くなる一方で、思い起こすのはカカシから感じたあのアルファの匂い。カカシの……が欲しい、挿れて欲しい、ぐちゃぐちゃに乱して欲しい。それが叶ったらどんなに幸福だろう。でも……カカシは単なる上司で、上司としてあの場にいただけで、俺のことを部下としてしか見ていない。見てくれない。俺は一生ひとりでこの疼きと付き合っていかなければならない。けど蛇がいれば……。
 気付いたら、下着が濡れていた。確かめると、とろりとしたものが漏れ出ている。しゅる、と床に降りた蛇が舌をチロチロと出して、俺の顔を見た。
「さっそくやるか?」
「風呂場、で」
 濡れた下着をズボンごと脱いで、アームウォーマーを外して上の服も脱ぎ去ると、浴室の扉を開けた。
 
 シャワーが流れる水の音にくぐもった声が混じる。他の住人に聞かれるわけにはいかない。でも奥深くまでナカを刺激される快感は想像以上だった。
「っん、っく、……っ!! は……っ、ぁっ、んっ!!」
 慣れた様子で気持ちいいポイントを抉っては奥までズンと入り込み抽送を繰り返す蛇を、浴室に座り込んで後ろ手をつき、射精しないようにだけ注意を払いながら、ナカの感覚に身体がビクビクと踊る。
「はっ、あ、……ッカシ、カカ、っぁ、っ!!」
 ひときわ大きな快感にビクンッと背が反る。慌てて自分のそれを確認したが、射精はしていなかった。ナカ、だけで……イッた?
 にゅるる、と蛇が顔を出す。
「……感想は?」
 荒い息を整えながら、まだじんじんと疼きが残っているのを感じて、どう答えるべきか考えようとするが、考えがまとまらない。
「足りねえなら、満足するまで付き合うぜ。」
「……たの、む……。」
 シャワーの流れる音は、深夜まで鳴り止まなかった。
 
「おい、起きろ薬飲め。」
 蛇の声で目が覚める。久しぶりによく眠れた気がした。枕元でとぐろを巻いている蛇が目に入り、昨夜のことを思い出して思わず赤面してしまう。
「そういうのは後だ、早く薬を飲め。」
 顔を隠すように起き上がると、冷蔵庫から3倍量の薬を取り出してコップに流し入れ、一気に飲み下した。
「……悪い、助かる。……その、昨日、も……」
「気にすんな、オメガの扱いには慣れてる。」
 何回イッたのかも覚えていない。シャワーの水を浴びながら浴室の壁にもたれかかっているところを起こされて、倦怠感で重い身体をどうにか動かして水を止めて、雑にタオルで身体を拭いた後、気を失うように布団に倒れ込んだ。だから今も裸のままで。脱ぎ散らかされた服を拾って洗濯機に放り込み、箪笥から新しい服を取り出す。
 発情期になる度に、これを繰り返すのか。
「一言だけ言わせてもらうが、お前が口にしていた名前、上司だろ。やめておけ。」
 蛇に目を向ける。
「何を……」
「カカシ。お前の上司の名だろ。」
 胸の鼓動が高鳴る。俺がオメガだと知っている唯一のアルファ。
 わかってる。カカシは上司として部下の管理をしているだけで、そこに特別な何かなんて存在しない。……わかっている。
 それでも鼻腔をつくあの匂いが頭から離れない。
「忠告はしたからな。」
「……ああ、わかってる。」
 カカシの忍犬の監視を受けた3日間。
 蛇と共に過ごした4日間。
 ちょうど一週間経った朝、ようやくこの厄介な発情期から解放されると思っていた。
 でも開口一番に蛇から言われた「薬を飲め」という言葉に、薄暗い気持ちにならざるを得なかった。この発情期はいつ終わるんだ。俺のオメガ性が強いから? わからない。
 毎晩蛇に慰められて、身体は満足してもこころはどこか空虚だ。それも当然だろう、発情期なのだから、この身体が求めているのは生身の人間だ。でもそれはかなわない。オメガだということは、一生、カカシ以外の誰にも知られてはいけないのだから。そう、カカシ以外。
「随分とつらそうだな。花街にでも行くか?」
 顔を曇らせる俺に蛇が何か言っている。花街? なんだそれ。
「変化で大人に化けて薬を飲まずにアルファとのセックスを楽しむ、そういうのもたまにはアリじゃねえの? それに、お前と同じオメガもたくさんいるぞ。」
 変化……すれば俺だとはバレない。バレなければフェロモンを出しても、セックスをしても……。
「興味があるなら、知り合いの店を紹介するぜ。」
 静かに変化の印を結んだ。その誘惑は、発情期の俺の興味を引くのに十分だった。
 
 通ったことのない道。
 行ったことのない街並み。
 徐々にその風景が異質なものになっていく。
 木の格子の向こうにいる無数のオメガたち。
 人が通るたびに駆け寄り格子を掴んで覗き込み、俺もオメガだとわかると静かに戻って行く。
 アルファやベータを求めているんだろう。彼らもきっと発情期で、身体が性交を望んでいる。
 その通りの一角にある店に蛇が顔を向ける。
「あそこだ」
 そこは格子牢のない、見たところは旅館のような建物だった。
 中に入ると受付があり、その中に蛇がしゅるる、と入っていく。
 何やら会話しているようだがよく聞こえない。
 しばらくして蛇が戻ってくると、年配の男性が一緒にやってきて二階に上がるよう俺に指示する。
 その人はここの主人で、、通されたのは六畳ほどの和室。布団が一組だけ敷いてあった。窓からは外を覗き見ることができる。
「うちは高級娼館で、君は体験入店の立場。客は選べないけどいいね? その窓からフェロモンを出して客引きをすると良い。まあ、うちは常連さんも多いから、客引きするまでもなく客は付くだろうけどね。」
 薬の効果が徐々に弱くなってきていた。体温が上がり始めて、呼吸が短くなっていく。
「ああ、大事なことを忘れていた。これを飲みなさい。避妊薬だ。」
 受け取ったカプセルを口の中に放り込む。誰でもいい。早くこの熱を、疼きを、本能を満たしてくれ。
 窓辺に座って通りを眺めるが、午前中だからか人通りは少ない。
 いつになったら客がつくんだろう。もしかしたら夜までつかないかもしれない。
 その頃には完全に薬の効果は切れて……自分はどうなってしまうんだろうか。
 そう思っていた矢先に、部屋の戸が2回ノックされた。
 振り向くと、静かに開く引き戸の向こうに背の高い男――アルファの姿。
「おお、すごいな……。この子本当に初物?」
 え、この声。
「さっき入ったばかりでお客様が初ですよ、どうぞお楽しみください。」
 この声、聞き慣れた、まさか、そんな。
 戸をくぐって中に入って来たのは、浴衣姿の――カカシ、だった。
 心臓が急激に拍動を強くする。
「とりあえずきみ、布団においで。」
 言われた通りに布団に座ろうとしたら、手首を掴まれて押し倒された。ああ、俺はこのまま、カカシと、セックスを。
 そう思っていたのに、待っていたのは平手打ちだった。
 ジンジンと痛む左頬。何が起きた?
 カカシの顔を見上げると、呆れたような目で俺を見ている。
「なーにやってんの……」
「……え?」
 フェロモンは? 出てるはず。アルファはオメガのフェロモンに無条件で欲情する、んだろ。
 俺のフェロモンは強いって、カカシは言っていた。
 なのに目の前のカカシは、俺に欲情している様子がない。
「忍犬の見張りを解いてたと思った? 変化して出てきたかと思ったら……おおかた蛇がたぶらかしたんでしょ、サスケ。」
 なんで? 見張り? まさか蛇とのことも知られてる?
 全部、カカシにバレてた?
「……あんたには、わかんねえよ!」
 発情期のつらさなんて。どれだけ苦しいかなんて。こんなところに来てまで欲していることが、アルファのカカシにわかるわけがない。
「じゃあ、なに。俺が来なかったら、どこの誰かもわかんないおっさん相手でもセックスしてたわけ?」
 顔を背ける。
 そのつもりで来たんだ、当たり前だ。なのにあんたは邪魔をするってのか。辞めさせようとでも思ってるのか。……何の権利があって。
「ただのオメガの部下なら好きにさせてたけどね、サスケ、お前は特別なの。」
 ……うちはだから? 一生隠し通さないといけないから? そんなの、糞喰らえだ。
「そうまでしてセックスがしたいってのなら、俺が相手する。」
 その言葉に、一瞬耳を疑う。
 カカシが? 俺と? セックス? ……本当に?
 背けていた顔。視線だけカカシに向けると、口布を下げたその顔が俺に迫っていた。