伸ばした手
複数犯
足が震えているのがわかる。
どうするべき、どうしたらいい。
今日一緒にホテルに泊まっていたカカシなら何か……でも今俺は営業部から注目を集めていて、きっとこのメッセージを送った奴も俺のことを見ている。これをカカシに転送する操作も見られているかもしれない。何しろ送り主が誰なのかわからない。
考えろ、これをばら撒かれるとどうなる。……ちょっと待て、音声を確認してない。
ワイヤレスイヤホンを鞄から出して耳につけ、小さめの音量で10秒の動画を再生する。後ろの男の声は入っていない、代わりに情けなく喘ぐ自分の声。
このたった10秒だけをばら撒かれたら、これがレイプされている動画だとはわからない。俺が掘られて喘ぐ奴だと知られるだけ……。
表情に出すな、再生を止めてイヤホンをしまって、次にするべきことは……さっきまでの、続き。明日の準備。ゆっくりと手を動かして考える時間を稼げ。どうするのが最適解か、それを考えるのは得意なはずだろ、俺は。
「あ、顧客フォローのこと聞いておかないと。」
カバンを持って島の端にあるカカシのデスクに向かう。自然な話だ、はじめて契約を取ったのだから、その後のことを聞くなんてことは。
「係長、聞いておきたいことが……」
肩をぐいっと掴まれた。
「おいおい、先輩である俺たちも頼ってくれよな!」
知らない人、このタイミングで声をかけてくる人、こいつ……。
「直属の上司はカカシなので……」
「んな事気にするなよ、こう見えて教えるのは得意だぜ?」
にこやかに笑いかけてくる。営業スマイル……その面の奥で何を考えてる。
背中に手を回されてくるっと反対側を向かされる。ぼそ、と聞こえるか聞こえないかという声で「チクろうとしてんじゃねぇ」と耳元に息がかかる。
暴れてでも助けを求めるか、このまま従うか、逡巡する間もなくもう一人が反対側から肩に手を置く。
「遠慮するこたねえよ、こう見えてこいつ毎月営業成績5位以内に入ってるんだぜ?」
囲まれた、肩はがっしりと掴まれている、暴れようがない、何よりもこいつら、こうする事に慣れている……!
苦渋の思いで小さく答えた。
「では、……よろしくお願いします……」
背中を押されて足を前に出す。その先に目に見えている地獄に向けて。
……悔しい、悔しい。カカシが朝俺に覚えているかと尋ねた理由がこんな事だったなんて。
そのまま部署の外に出て階段を上がっていく。5階にはサーバールームと倉庫があるだけだ、滅多な事では人は来ない。そのトイレの入り口にご丁寧に「清掃中」の看板をかけて中に入ると背中をドンと押されて前につんのめった。
「躾が必要だなぁ、そう思うだろ?」
「ああ、俺らの遊び道具だって自覚してもらわねえとなぁ。」
営業スマイルから下卑た笑に変わる。1人がズボンのチャックを下ろしてそれを取り出した。
「咥えろ、歯ァ立てんじゃねぇぞ。」
誰も来ない場所、二対一、やり慣れた手口、何も知らない俺は、抗ったところできっと痛い目を見るだけ。
近づいて膝立ちになり、息を止めてそれを口に咥える。最適解は何だ、早くこれを終わらせる事、それならもう腹を括るしかない。
舌を動かして扱くように顔を動かす。少しずつ硬く大きくなるそれをしゃぶりついて舐めて刺激して、早く出してくれと願いながら頭を掴まれて喉の奥にぐいっと押し込まれる。
「ぉぇっ、げほ、んぐっ!」
僅かな希望だった射精をする事なく顔を引き剥がされ、見上げるともう1人がそれを出して待っている。
……何で、こんな事に。
何で、こんな目に遭わなきゃいけないんだ。
必死に咥えながら目頭に涙が浮かぶ。
もう一人の方も満足したのか……そんなわけがないけど……顔を引き剥がされた。
「お利口じゃねぇか、従順な方が俺は好きだぜ、サスケ。下脱げ。」
ズボンの金具を外してボタンを外す。チャックを下ろして下着ごとズボンを下げる。靴を脱いで、ズボンを足から抜き去った。俺は下半身丸出しで、相対するのはそこを勃たせた男二人。……こわい、あの動画のようなことを、きっと……こわい、けど、終わらせなければ終わらない……。
「いい子だ、足開いてけつをこっちに向けろ。何、安心しろ。〝優しく教えてやる〟」
ヌル、と何かがお尻の中に入ってくる。指、指だ、何かぬるぬるしたものをつけた指。奥に入れては出すのを繰り返している。ぬるぬるのおかげか痛みは感じない、けど本来出すための穴に入ってくる異物感、抵抗感、指一本でこんなにもきついのに、あれを入れる? 無理だ、道理に反してる、おかしい、こいつら、頭がおかしい……!!
ぬちゅぬちゅと音を立てて指が出入りする。だんだんとスムーズになっていくその動きに変化が起きた。腸壁の上を擦り始めた。そしてその瞬間、俺の口から信じられない声が出た。
「っあ!」
思わず口を手で覆った。けれど指はしつこくしつこくそこを擦り続ける。その度に堪えられない声が出る。
「っぁ、あ、っく、あ、あっ、っあ!」
ビリビリと痺れるような刺激がなかで主張する。こんな、これ、そんな、うそだ、気持ちいい、なんて、うそだ。
指が二本になっていた。何の抵抗もなく受け入れる俺の尻の穴、上を押されるたび自慰でも感じたことのない感覚に声が漏れる。
「なぁ~悪くねぇだろ、アンアン女みてえに喘いでよぉ。でも本番はこれからだぜ。」
指が抜けていく感覚に背筋がビクビクと震える。抜けた、あの刺激は終わり、……違う、違う本番って、つまり……!
お尻に熱くて硬いものが当たる。ビクッと肩を揺らし、体が震えないよう堪えるので精一杯だった。こわい、こわい、こわい、こわい……!
ぐに、と先端の柔らかい部分が押し込まれてミチ、ミチ、と中にそれが入ってくる圧迫感とぬるついているとはいえ許容量を越えそうな太さに皮膚が引き攣られる痛み。パァ、パァ、と大きく息をしながら、それが動き始めるともう早く終わってくれと祈るばかりになった。
「おい力抜け、きつすぎんだよ」
「っひ、」
お尻をパチンと叩かれる。その跡がヒリヒリと熱い。
力、抜かないとまた、叩かれる……っ。
息を整えてお尻に意識を向ける。緊張で身体中ガチガチに固まっている中、お尻の力を抜く。と、ぬちゅんっと奥までそれが突っ込まれた。思わずまた力が入る。
「……っぅあ゛!」
「さすが物分かりがいいなぁ期待の新人君」
力、抜け、抜け、抜けっ……!
ぐちゅ、ぬちゅ、ちゅく、とそれが出入りする。力を抜いているからなのか、圧迫感と異物感が少し和らいだ。
「いい感じになってきたじゃねえか、こっからはお前も楽しめよっ!」
ぬちゅっ!
動きが変わった、穴の上をぐりぃっと擦って奥に突き上げられる。その瞬間、目から火花でも出たような衝撃的な感覚が背筋を駆け上がる。意味がわからないまま俺の喉が振動していた。それが出入りするたびに、自分でもこんな声が出るのかと驚くような高い声が上がる。
「あっ! あ、あっ、あぅっ! あっ、あ! っあ!」
何、これ、変、あっ、駄目、こんな、うそ、うそだ、気持ちいい、なんて……!!
「いい声出すじゃねえかほらもっと鳴けよ!」
ぐんと動きが早まって俺は頭を横に振りながらそれでもそこから駆け上がる快感にいつしか我を忘れていた。
「あ、あああっ!! あっ! あ、あっ! ああっ!!」
不意にずるっとそれが抜けて代わりに指が二本、そこを集中的にグチュグチュと素早く刺激される。
「ああああやめ、や、あああ、だめでるでちゃ、あ、あああああっ!!」
ビク、ビク、と腰が揺れた。射精していた。はーっ、はーっ、と呆然と息を吐くが、息を吐く暇もなくまた剛直が中をえぐる。
「っ~~あああ!!」
「っはは、お前好きなんだろ、けつ掘られんのがよ、言ってみろよ、気持ちいいんだろ?」
「ぅああっ! きもち、いっあ、あっ! あああっ!!」
笑い声、もう、なにが、どうなって、っ気持ち、いい、気持ちいいっ……!
腰が砕けそうになるのを、腰をがっしりと掴まれて高く上げられる。
どれくらいの間それが続いていたのかもわからない、奥にググッと押し込まれて熱いものがじわっと広がり、ようやくそれが抜けて俺は膝を折ってへばりこんだ。
直後、また腰を掴まれる。
「次俺な。せいぜい喘いどけ!」
二人目、そう二人いた。カリのでかいそれが上をえぐって奥に突く。俺はまた喉を震わせた。
カカシはサスケが戻るまで残っていようと溜めていた雑務で時間を潰していた。一時間は経っただろうか、長いな。そう思ったところでサスケを連れて行った二人が営業部に戻ってくる。
「……サスケは一緒じゃないの?」
「俺たちは忘れ物取りに来ただけっすよ!」
「サスケはとっくに帰ったぜ?」
機嫌よさそうに笑いながらカバンを持って出ていく二人。サスケが……上司の俺に挨拶もせず帰るような子とも思えないが……。
昨日のことが頭をよぎる。
まさか、いや……。
勝手に単独犯だと思っていた。
頻繁に開かれる飲みの席、総合職入社で営業に来たほとんどの新人が優秀な成績ながら数ヶ月もせず自己都合で辞めている。一人だけ退職面談で理由を聞いてみた事があった。その子は顔を伏せて「自分には無理だと思いました」とだけしか言わなかった。
営業職として入った子は普通に馴染んで少しずつ成長を見せている。
優秀な新人潰し……としての、宴会、その度に起こるレイプ……幹事のアスマはそんな奴じゃない、が、アスマの下にいる職員は営業成績上位の者が多い。今日コンプラに突き出した奴も先月の成績は三位……。
想像が悪い方へ悪い方へとはたらく。
……あいつら、エレベーターではなく階段を上っていった。話をするための会議室は下の階だ。教えるなら会議室を使うだろう。ではどこに行ったのか。
ガタッと立ち上がって鞄を掴み足早に部署を出て階段を上がる。総務と企画のあるフロアはもう誰もいない。次の階に行く。やはり誰もいない。最後の5階……ここは最初から誰もいないフロアだ。……誰もいない、というのは何かをするにはうってつけでもある。
サーバールームは一般社員は入れない。倉庫も鍵がかかっていた。鍵は総務部が管理している。振り向いて、エレベーターの奥にあるトイレに目を向けた。
悪い予感が、当たりませんように。
コツ、コツ、コツ、とトイレに近づいて、扉を開けた。人の気配がある。思い切って中に入ると、窓際で、下半身が裸の黒髪の青年がしゃがみ込んでいた。
「……サスケか?」
彼はビク、と肩を揺らして、そして震え始めた。近づいてジャケットを脱ぎ、下半身にかける。
「落ち着いて、俺だ。」
サスケは大粒の涙をこぼしながら静かに泣いていた。ふつふつと怒りが込み上げる。でも今はサスケのケアが先だ。
「ズボン、履ける?」
こくりと頷いた。手探りでズボンを手に取り、よろけながらゆっくりと足を通す。
「かかり、ちょ……おれ、……っ」
「無理に喋らなくていい、泣きたいだけ泣きなさい。つらい……事が、あったんだよね。泣いて当然だ。」
サスケは静かに涙を落とし続けた。俺は背中をさすってやるくらいしか出来なかった。
どれくらい泣いていただろうか、サスケは袖で涙を拭って立ち上がり、俺に顔を見せないように、よろめきながら壁を伝ってトイレの外に向いはじめた。その後ろ姿に声をかける。
「あの二人、でしょ。」
サスケは何も答えない。
「何があったかは想像がつく、然るべき処分を……」
「しないでください何も、誰にも、言わないでください」
「サスケそんな事言ってたらまた……」
「俺はカカシが期待するような人間じゃない……俺も、」
トイレの扉を開く。
「人間のクズの、一人です……」
扉をくぐって、サスケは出ていった。どういう意味だ、今のは。一体何があったんだ。追いかけるべきか、そっとしておくべきか、悩んでいるうちに追いかけられる時間を費消してしまっていた。
複数犯だった。今わかっているのは三人。あと何人いる? それともアスマの下にいる奴ら全員抜き打ちチェックを入れて炙り出すか。……それには、サスケに起こったことを部長に伝える必要がある。
部長はどちら側の人間だ。それがわからない以上、握りつぶされて終わる可能性がある。時期尚早だ。場合によってはより酷い目に遭うのはサスケになる。
最善の手は何か考えろ。
まずは……サスケのこころを開いて、何があったのか事実を確認することからだ。そのためにするべきことは。
落ちているジャケットを拾って着込む。
絶対に許さない。
トイレを出て、エレベーターのボタンを押した。