伸ばした手

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2025年1月27日成人向G,中編,現代パロ,完結済み,カカサス小説無理矢理,エロ,シリアス,モブサス,変態,性癖強め,暴力的描写有,甘々

隣に

 俺もね、会社辞めた
 理由はまあ、色々
 それでさ、サスケの隣に行こうと思ったんだ
 引っ張り上げるって言ったろ
 でもサスケは低いところに堕ちちゃったんだろ
 そのままじゃ、手が届かないから
 手が届くように、サスケのとこまで行こうって
 サスケの隣を歩こうって、思ったんだ
 あれ、なんか変な話してる?
 そんなにわかりにくいかなぁ
 ま、とにかくそういうわけだから
 これからはずっとサスケの隣にいるよ
 何があっても絶対に
 堕ちるならさ、一緒に堕ちよう、サスケ
 俺ずっと隣にくっついてるから
 
 もう鳴る必要のないアラームが鳴って目が覚めた。
 温かくて安心する……この腕……背中……?
 ぱち、と目を開いて、大きな身体に包まれるように抱きしめられて眠っていたことがわかった。けど、なんで? 誰? でも、抱きしめられている今の感覚はとても心地よくて、またまどろみそうになる。自分の全てを委ねているような感覚……遠い遠い昔……まだ幼かったころ、こんなふうに抱きしめられて眠るのが好きだった。もう朝起きる必要ないんだし、このまままた……。
 ……待て、待て、待て、誰だよこいつ。
 筋肉質な肩に埋めていた顔を上げて、その顔を見ると銀色の髪に特徴的な目の傷。……カカシ!?
「ん……起きたの……?」
 目をこすりながらあくびをしているのは確かにカカシだ。なんで? 昨日何が……あった……、あった、昨日ヤクザの事務所に自分を売りに行ったら、途中からなぜかカカシが入って来て、カカシが俺を管理することになって、帰り道聞かされた話に何でだよ! っていちいち言いながら、その後俺の家まで着いて来て……俺、カカシと寝たんだ。
 寝た、寝た? 何だその言い方違うだろ。カカシとやったんだ。セックスしたんだ。でもカカシのそれは俺の知ってるセックスと全然違った。俺で欲求を満たすようなものじゃなくて、むしろ逆の、俺を、まるで……。
「おはよう、サスケ」
 見たことがない優しい顔で俺に話しかけるこいつは本当にあのカカシなのか。その頬をつまんで引っ張る。
「いてて、なに? どした」
 カカシだ。
 俺カカシとやった後そのまま裸で寝たんだ。
「……なんでだよ。」
 カカシはそれを聞いて笑う。
「昨日からずっと、そればっかだね。」
 起きて、シャワー浴びて、飯食って、洗濯して、一息ついたところでベッドに腰掛けていたカカシが手招きする。
「いつ呼び出されるかわからないから、それまでしっかり『躾』をするよ。」
 仕事の時の顔、カカシにとってこれは仕事。……そうだ、俺はウリセンの店で、これから身体を売って生きていくと決めた。カカシの仕事はその俺の躾と管理。
「昨日のおさらい。」
「ウリは全身を使った接客業、お客様が求めているものを提供する。営業と同じ。」
「ウリをやる理由は」
「奨学金の返済のため、両親は事故で他界、頼れる親族なし、人肌が恋しい」
「よし、同情を買え。お前を買ったことでお前を助けることになると、客に自分は良いことをしていると思わせろ。」
 頷いた。客を満足させる、肉体的だけでなく、心理的にも良い気分にさせて帰らせる。相手が何を望んでどんな言葉を求めているのかを読むのは得意だ、営業と同じことをすれば良い。
「ただし入ってから三日間は初々しさを強調しろ。入ったばかりの若い子を指名する奴がどんな奴かはわかるな。例えばどんなことをしたら良い?」
「緊張している風に見せる。フェラは少し下手くそにやる。わざと石鹸落としてみせたり、次はどうするのか考えるフリをする。あと上目遣いで客にこれでいいか確認を入れる。」
「それでいい、客からアプローチがあったら驚いた風を装いながら感じているふりをしろ。雰囲気次第では泣くふりをしてもいい。」
「〝はじめてのお客様があなたでよかった〟だな。」
「よし、マインドと手法は合格、次、実践ね。服脱がすのとシャワーは省略。事務所でフェラがCと言われていたな、そこをまず鍛える。」
 カカシが服を脱ぎはじめたのを見て俺も服を脱ぐ。実践、何回もやられてきたしフェラもさせられてきた、慣れてる、のに相手がカカシ、だとなんでこんなに、……緊張? ……ちがう、こころに何か引っ掛かりを感じる。
 ……これは仕事で、訓練。頭切り替えろ俺。
 裸になってベッドに座るカカシの足の間にしゃがんで、それを咥えようとした……ら、頭を手で抑えられる。ふぅ、とため息。何がだめだったんだ?
「……座学が必要だな。隣に座って。」
 枕元にあったスマホを取り出して何やら操作する。少しして、見せられたのは普通のAVの動画。
「よく見ておけ。」
 一時間あるその動画を見つめる。酔った勢いでホテルに入り貪るようにキスをしながらお互いの身体を撫で回し、少しずつ服が乱れていく。
「ちなみに、キスの経験は?」
「……ない。」
「なら今学べ、動画を見ながら。」
 頷いて、顔を上げてカカシの顔を手で包み込み、動画のように唇にしゃぶりついて舌を入れる。と、カカシも俺の後頭部を手で支えてちゅ、くちゅ、と舌を絡めながらゆっくりと押し倒された。舌だけじゃなく口の中全てを貪るように唾液をやりとりしていると、もっとしたい、もっと長く、と感じている自分に気がついて、これを客に思わせなければいけないとぼうっとしかけていた頭をフル回転させてカカシのそのキスの仕方をコピーする。
 動画の場面が変わって前戯に入っていた。スカートのまま下着だけ下ろされた女が手マンされて壁にしがみつき喘ぎながら震えている。
 カカシの口が離れていって、俺も起き上がり再び動画に目を落とす。
「キスはこれから何かにつけするから、今のうちにしっかり覚えな。……はじめてにしては、まあまあだったよ。」
 動画に目を落としながら、カカシも俺もそれが勃っていることに気づいて、キスってそんなに……効果というか、スイッチがセックスの方に切り替わるというか、そういうものなんだとはじめて知った。カカシも俺とキスをして……勃ったんだと思うと、なんだか妙な気持ちになる。
 動画は手マンでイッた女が崩れ落ちて、腕を引かれてベッドに移った。いよいよかと思ったら、次にし始めたのは……胸をひたすらまさぐったり舐めたり……。そうか、女は胸、あるもんな。と思ったら、カカシの手が俺の胸に伸びて小さい乳首を指で転がし始める。
「俺……男なんだけど」
「サスケって乳首は全然開発されてないよね。」
「どういう意味だ?」
「んー……今はあえて開発しないでおくか。」
「開発?」
「男も女もね、最初から乳首でこんなアンアンならないのよ。こうやって触ったり舐めたりしてると少しずつ感じるようになってくる。……うん、下手な演技させるよりはその方針がいいな。」
「俺もその内この女みたいになるのか。」
「うん、俺が開発する。」
 ぞくぞくする。中に入れられる以外にも気持ちいいことがあるなんて。少しずつ……ってどのくらいかかるんだろう。
 男が女の豊満な胸の間にちんこをはさんで動かし始めた。えーと……そうだ、パイズリってやつだ。その流れでそのままちんこが女の口元に寄せられる。
「ここからがフェラね、今の時間見とき。」
 時計を確認する。9時50分。
 動画に視線を戻して、女がどんな風にフェラチオをするのか、俺はじっくりと見て脳に刻み込む。
 男が我慢できないとばかりに本番に入るまでの間ひたすら観察して、俺のするフェラがなんでだめで、どういうフェラが好まれるのか、多分理解できた。
「時間、見てみな。」
 時計を見上げた。10時7分。フェラチオだけで、一時間の動画のうち17分の時間が割かれていることになる。カカシの言わんとすることがわかった。
「……それだけ、男にとって重要……気持ちいいってことか。」
「少し訂正すると、サスケはフェラでしっかりと気持ち良くさせなければいけない、ってこと。……俺は流石にフェラチオの経験はないからサスケに実践してやることはできないけど、今後優先順位高めで訓練するよ。」
 気持ちいい思いができて、その上金がもらえる仕事なんて俺にピッタリじゃないか。俺は安易にそう思っていた。
 こうなったらもう底辺の底辺まで堕ちてやる、これ以上深いところなんてないぐらいに。
 そして何年かしたら俺はきっと用済みになるから、臓器売買か何かでどっかに売り飛ばされる。俺のつまんねえ人生は、それで終わり。それでいいと思っていた。
 なのになんでかカカシがついてきて、今俺の隣で、この底辺で生きるためのすべを一緒に考えてくれてる。俺のことを引っ張り上げると言って、俺のところまでくっついてくると言って、会社を辞めてまで、俺のことを。……何でそこまでして俺なんかのことを。
 
 宣言通りにカカシは事あるごとに俺にキスをする。これは訓練、そう思ってもキスをするたびに俺はドキドキして、もちろん真面目に練習はするけれどこの人にまた抱かれたいと感じる。けど「挿れてくれ」と言えなかった。カカシにとってこれは仕事で躾で、俺の欲求を満たすためにしてるわけじゃない。
 5回目のキスが終わったとき、「うん、キスはもう合格」と言われて、もうカカシとキスができないのかと思うともやもやした。
 でもフェラの練習の後。ガチガチに勃っているそれを見て我慢できなくなって俺はカカシに懇願した。
「中に、挿れて……ぐちゃぐちゃにしてくれ、お願いだから。」
 カカシは思いの外あっさりと「いいよ」と言って俺の服をはだけはじめる。けどそれはやっぱり今までやられてきたセックスとは全然違って、何もかもが優しくて、愛しむようなセックスで、ガンガン突かれて揺さぶられたいと思っていたのに、そんな優しいセックスでも俺のこころは満たされていた。終わってからも、抱きしめられながらキスをして、これも訓練なのか、それとも他の何かなのか、わからなかったけどカカシに抱かれている時間、俺はずっとこころからあふれる何かで胸がいっぱいだった。
 その何かが何なのか俺にはわからない。知らない。感じたことがない。だから言葉にできない。それがもどかしい。
 感謝してる、カカシが隣にいてくれることが、俺はすごく……、なんて言えばいいのかわからない。
 
 翌日夕方、店長を名乗る男から連絡が来て、指定された場所に行った。店長は思っていたよりも若い人だった。入社試験としてその人の相手をして合格をもらってから、写真を撮って契約書を書き、店のシステムと接客の流れを教わってから、先輩との実践練習。色んな人がそこに在籍しているらしかった。「タチ専」と呼ばれている「挿れる方」専門の人、両方できる人、そして俺のような「ウケ専」。
 こんな所にいるくらいだから皆それぞれ事情がある、けど自ら語られない限り詮索しないようにと釘を刺された。つまり、俺のことも自分で言わない限り誰も聞いてこない。
 昼に仕事や学校に行っている人もそれなりにいて、朝から晩までずっと待機部屋にいるのは俺とあと1人だけらしかった。その人も部屋の隅でずっとスマホを見ていて俺に関わってくることはない。
 最底辺だと思っていたそこは、思っていたよりも居心地がよかった。
 名前を呼ばれて、はじめての仕事が始まると思って、カカシに教わったことを思い出しながら接客室に入ったら、そこにいたのは事務所で俺をやったあのヤクザの姿だった。
「躾はされてるな? まず成果を見せてもらう。」
 二日間ずっとカカシと訓練してきた、カカシからの合格ももらった。……大丈夫だ、できる。
 男の様子を観察しながら、先輩に教わった手順に従いながら、教わったすべてを使って「接客」をした。男は一言もしゃべることなく、俺を見定めるように見続けて、そして終わったらすぐに立ち去った。
 後片付けをして服を着直してから待機部屋に戻ると、店長に呼ばれる。
「サスケお前、本当にウリ初めてか? どんどん客付けするから常連に繋げろ。あと伝言だ。『一年じゃなく三ヶ月以内に目標を変更』。……短い間になりそうだが、う
 ちでしっかり経験値を稼いで上に行け。」
 ……上、って事はみっつあるうちの上客向けの……男版コールガール? ともかく訓練の成果は認められたらしい。当然だ、この二日間カカシとそれだけのことはしてきた。三ヶ月、やってやろうじゃないか。カカシがいてくれる限り、どこで何をさせられようが、何も怖くない。
 
 たったの二日間、けれど濃密な二日間。その二日間で、俺の中でカカシの存在は大きくなっていた。けれどカカシに対して感じるこの気持ちの名前を俺は知らない。カカシは俺のことをどう思っているんだろう。同情……哀れみ……そういうものは感じない。一緒にいると感じるあたたかい毛布で包み込まれているような安心感。
 ……母さん、から感じていたものが一番近いかもしれない。でも違う、……なんて表現したらいいのかわからない。
 
 初出勤を終えて帰ってきたサスケの目は、いつか見たような暗い眼差しではなく、営業部に入ったばかりのときと似た、やる気を秘めた前向きな眼差しだった。
 ……どん底からは、引き上げた。ただ、状況は必ずしもいいわけではない。ヤクザと関わったからには、簡単には足を洗えない。高級娼婦《コールガール》になったら更に抜け出すのは難しくなる。そして、抜け出したとしてその後どうやって普通の人と同じ生活に戻るか、果たして戻れるのか、わからない。わからないけど、引っ張り上げると決めた。サスケの隣に居続けると決めた。これから何があろうと、俺はサスケと共にあり続ける。できることなら、サスケのこころの支えになりたい。お前はもうひとりじゃない、ひとりで抱え込まなくていい。俺がいるから。そう伝え続ける。
 自分でもどうしてこんなにサスケを助けたいと思うのか、よくわからない。同情しているんだろうか。依存させたいんだろうか。それとも別の何かなんだろうか。
「初出勤、どうだった?」
「……客4人、あとヤクザの事務所の奴が見にきた。三ヶ月で上に行くのが目標、に変わった。多分、悪くはなかったんだと思う。」
 手招きされて、歩み寄ると抱きしめられる。
「……うん、よくやったね。お疲れさま、その調子だ。」
 ……嬉しい。
 褒められる事には慣れている、はずなのに、カカシに褒められて抱きしめられて、今すごく嬉しいと感じている。
 俺もカカシの背中に手を伸ばしていた。
「……うん……。」
 抱きしめ合う心地よさ、安心感、喜び。
 カカシだから、カカシがいてくれるから、カカシのおかげで、……やっぱり、この気持ちをあらわす適切な言葉がわからない。
「……ありがとう」
 俺の隣まで来てくれて、ありがとう、カカシ。