伸ばした手

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2025年1月27日成人向G,中編,現代パロ,完結済み,カカサス小説無理矢理,エロ,シリアス,モブサス,変態,性癖強め,暴力的描写有,甘々

離さないで

 いよいよその日が来た。お世話になった店長に挨拶をしてから指定されたマンションに手を繋いで2人で向かう。
「……サスケ、お前の優秀さを見せつけてやれ。」
「わかってる。」
 ノックをして開かれた扉、軽く会釈をする俺の横で、サスケは穏やかな笑顔で挨拶をした。
「うちはサスケと申します。今後、お世話になります。」
 扉を開けた男はふむ、と納得したようだった。中に招き入れられて契約書に名前を書き、説明を受けてから、男が立ち上がって廊下の途中にあった部屋のドアを顎で示す。
「必要ないかもしれないが一応決まりだ、腕を見せてもらう。」
「存分に……見てください。」
 サスケは教えた通りの所作で椅子から立ち上がると、その男について部屋に入って行った。
 ……きついなぁ。今までも他の男に抱かれに行くサスケを見送るのはいい気分がしなかったけど、この位置、部屋の場所、マンションの構造、壁の薄さ……嫌でも声を聞かなければならない。
 
 薄暗い部屋、ダブルベッドに腰掛けた男の前に跪いてその手を下から支えて持ち上げてキスをする。
 その表情、視線を見て、俺は目を細める。
「俺を試している……その目、……興奮します。俺のことたくさん見てください……身体もこころも全て……。」
 後頭部に手を添えてその口に控えめなキスをする。キスをしながら男の身体を弄り服をはだけていく。そうしながら俺の股間を男にこすりつける。
「あなたとこれから何をするのか……想像しただけで俺はこんなふうになってしまいます。こんな俺は嫌ですか……?」
 男の股間に触れると、しっかり勃っていた。唇を舐めて嬉しそうに笑ってみせる。
「せっかくですから一緒に……楽しみましょう。」
 ズボンのチャックを下ろしてそれを出すと、俺は見せつけるように舌でねっとりと舐めて、その顔を見上げながら口に含んだ。
 
 しばらくしてから、聞こえ始めた嬌声。今すぐやめさせたい気持ちに、これはサスケの大事な試験なんだと言い聞かせて、拳を握りしめながらただ、そこに座って、その声を聞き続ける。
 ここにサスケを連れて来たのは俺だ。サスケは今までもずっとこうして男に身体を差し出してきた。これが今のサスケの生き方で、俺はそれをサポートする立場。恋人であろうが何であろうがそれは、これからも変わらない。
 耳を覆いたい。聞きたくない。けれどこれが俺たちの現実。俺たちのいる場所。この声は、サスケが頑張っている声。俺が聞いておかないでどうする。隣にいると決めたこの俺が。
 
 声が聞こえなくなってから、しばらくして、入って行ったときと同じようにして男とサスケが出てきた。
「……文句のつけようがない。あなたは素晴らしい腕をお持ちですね。」
 俺に向かってそう言った男に、俺は反論した。
「サスケの努力の成果です。」
 サスケに用意された待機部屋は普通のマンションの一室で、ただ寝室にずらりと服がハンガーにかけられて並べられていた。
 お客様によって趣向が違うから、呼び出しと共にどの服を着るのか指定されるらしい。お客様の待つ場所までの交通手段はタクシーで、その決済用のカードがサスケに渡される。
 今までと全く違う世界、けれどやることは同じだ。
 今夜、サスケが新しくキャストに加わったことがお客様方に伝えられるらしい。何事もはじめてを好む人はいる。きっとその知らせの後、すぐに最初の客がつくだろう。呼び出しはいつかかるか分からない。生活の拠点をこの部屋に移すよう言い渡された。食事中だろうが、寝ていようが、呼び出されたらすぐに向かわなければいけない。いつ呼び出されてもすぐに行けるように、準備をした状態での生活になる。
「サスケ、ここからは自分の価値を上げなさい。客を全てリピーターにするつもりでやれ。当面の目標値は6割だ。手玉に取れ。出来るな。」
 サスケは力強く頷いた。
「そのすべは、あんたが教えてくれた。やってやる。」
 新しい生活が始まった。
 想定通り、その日の夜に最初の客がついた。指定された服を着てすでにマンション前に止まっているタクシーに乗り込むと、行き先を言わずとも走り出した。着いた先はでかいホテルで、指定された部屋の扉をノックするとカチ、と音が鳴る。鍵が開いたんだろうか、ドアノブを掴むとするっと動いたからそのまま扉を開いて接客を始める。
 
 色んな客がいた。俺のことをあれこれ詮索する奴、ちんこ勃たないようなじーさんだけど、手だけで俺をイかせ続ける奴、キャスト同士ヤるのを見物する奴、けど7割方は割と普通の人ばかりだった。
 ただ、長いと一晩中相手をしなければいけなくて、そういう日はさすがに心身ともに疲れる。カカシは日中家を空けていて顔を合わせられるのは朝と夕方だけになった。その短い時間に、抱きしめ合ってキスをして求め合う。それだけで俺は頑張れた。カカシがいる、それだけで俺は何だってできる。
 給料が振り込まれる通帳、何も手をつけていないから残高がどんどん増えていく。上に来てから、金額の桁が変わった。その金額も、月を追うごとに増えていった。接客回数が増えたわけじゃない、ということは俺の単価が上がっている、ということ。カカシの指示通りに出来ている。このまま……カカシは何を、どこを目指しているんだろうか。この貯めているお金にも意味があるんだろうか。
 聞いてみたくて、でもいざカカシの顔を見たらその胸に顔をうずめて抱きしめてほしい気持ちの方が勝って、結局聞けないまま、気づいたら半年。
 夕方帰ってきたカカシを出迎えたら、いつもよりも優しい笑顔がそこにあった。
「ただいま、サスケ。少し良い報告、持って帰ったよ。」
 革靴を脱いで鞄を持ったままテーブルにつくと、カカシは晴れやかな顔で言う。
「2ヶ月後、少し生活が変わる。日中も一緒にいられるようになる……予定だ。ま、ちょっと課題はあるけど、うまくやるつもり。」
「どう変わるんだ? どうやって……」
「詳しくは、まだ内緒。……わかるね。」
 ……わからない。けど俺にも言えない、もしくはここでは言えないようなこと。ヤクザ絡みの何かだろうか。また別のところに行く? でもどこへ。
「さ、ごはんにしよう。」
 この話は、終わり。詮索もしない。誰にも悟られてはいけない内容。大丈夫、守れる。
 頬をパチンと叩いて、台所に立つカカシの隣に並んだ。
 
 月に2回は指名してくる常連の男性。俺に開示されている名前は「サイトウケンタ」。今はもう敬語も崩して、「ケンタさん」と呼んでいる。乳首が未開発だと知って喜んでた1人。少しずつ感じるようになっていくのを、きっと自分が開発していると思ってるんだろう。そう思わせるのがカカシの策だったのだから、見事に引っかかってくれたうちの1人だ。ただ、決して悪い人ではない。初めて指名された日、俺のことを見て、驚いていた。
「ごめん、まさかこんな、ええと、若い子だと思わなくて、こんなおじさんでも大丈夫かな……。」
 若いのを売りにして、若い男を好む客ばかりの中で、ケンタさんの反応は新鮮だった。人を買う奴なんてみんなろくでもない、と思ってた。ケンタさんに呼ばれるたびに、この人が買ってるのは俺じゃなくて、俺と過ごす時間なのかと気がついて、俺は客を手玉に取ることしか考えていなかったのを少し改めて、俺と過ごす時間の質をいかに上げるかを意識するようになった。
 欲望をぶつけ合う快感の強さは今でも頭に染み付いている。けれど愛情に包まれた営みの心地よさも知ったし、人肌の温もりと情のあたたかさも知った。
 知った上で、俺に夢中にさせるために、俺から気がそれないように、常連客は丁重に扱った。敬語は崩していても、俺はケンタさんの表情、仕草、声色、全てを観察しながらケンタさんが欲している言葉をかけ続ける。
 そういう努力の賜物か、常連客だけでスケジュールを回せるようになってきた折でのカカシの「少し良い報告」。
 良い方向に事が運んでるように感じた。俺の努力と、カカシの努力の成果が2ヶ月後に出る。……こういうときこそ、気を抜かず襟を正して真剣に仕事に向き合わなければいけない。
 
 いつか来たマンションの一室の前で、控えめに深呼吸をしてから目の前の扉をノックする。
 7ヶ月前に見た時と変わらない様子で管理人が扉を開けた。
「わざわざアポイントを取らなくても、私はいつもここにいますが。」
「まあ、一応それなりの話を持ってきましたので、ね。」
 会釈して室内に入り、椅子の横で立って待つ。管理人の男が腰掛けて座るように目で促したのを確認してから、腰を下ろした。
「それなりの話、というのは?」
「ええ、単刀直入に。サスケを身請けします。」
 男は目を見開いて、はじめて俺に動揺を見せた。
「あんた本気か?」
「ええ、本気ですし、ビジネスの話です。それで、いくらです?」
「払えるのか? 今のサスケの値は一億を超える。」
「一億といくらですか?」
「一億二千万円、もちろん一括だ。」
 鞄から取り出した冊子に万年筆でサラサラ、と文字を書いて、複写の紙を丁寧に切り取り、男に差し出す。
「小切手で……何でしたら、換金も同行しますが。」
 男は小切手の数字の桁を確かめて、はぁ、とため息をついた。
「何かある二人だとは思ってましたよ、しかし、まさかねぇ、参ったなにしまってあったノートパソコンを取り出して、何やら操作した後、プリンターから紙が二枚出てくる。
「誓約書、とあるがうちはサスケの身元を完全に手放して一切のデータを破棄する内容です。質問があれば何でもどうぞ。」
 誓約書を手に取って内容を確認する。確かに男の言う通り、今後一切俺とサスケに関与しないことが書かれている。
「あんたのところと縁が切れる、ってのはヤクザとも縁が切れると考えていい?」
「その認識で相違ありません。」
 気がかりだっただけにほっとした。これで俺は約束を果たせる。
 最後まで文章のどこかに引っ掛けがないか確認して、今日の日付を書いてサインをした後、親指に朱肉をつけて2枚の紙に押し付けた。
「これでいいですね?」
 紙を差し出すと、男は笑顔を見せた。
「ええ、いいですよ。勝負をしていたわけじゃないが、あなたの勝ちだ。」
 二枚のうち一枚をクリアファイルに入れて鞄の中にしまう。駆け出したい気持ちを抑えながらそのマンションを後にして、サスケのいる待機用の部屋に向かう。
 鍵を開けて勢いよく玄関の扉を開けた。机で新聞を読んでいたサスケが驚いた顔で俺を見て、その俺の顔を見て、驚きから喜びの顔に変わる。
「カカシ、何したんだよ、もう教えてくれるだろ?」
「お前を買った! さすがサスケだ、すごい値段だったよ!」
 抱きしめる腕に力がこもる。やった。やった。やっとここまで来た!
「買っ……? え、どういうことだ?」
「お前はもうこんなところにいなくていい、いつか話したよな、また俺の部下として働いてくれって。」
「買ったって、そういう……!? 金はどうしたんだよ!」
「この一年間、ぼーっとしてたわけじゃない。若い頃に取った宅建士の資格を更新しに行って、退職金と貯金で会社を作った! 二ヶ月前に良い報告、って言ったろ。あの日に渋谷の12億のテナントビルの両手取引の契約がまとまったんだ。つまりお前を買うための金が入る契約がまとまったのがあの日だった! サスケ、俺と一緒に来てくれ、これからも隣にいてくれ、サスケの口から、聞かせてくれ。」
 俺の背に回された腕に力が入る。
「俺だって、これからもあんたの隣にいたい……!」
 居酒屋でマワされてから地獄に突き落とされて、この地獄をずっと歩いていこうとしていた俺を引っ張り上げようとした会議室でのあんたの顔、今でも覚えてる。
 会社クビになって堕ちるところまで堕ちてやる、と思ってた俺のそばまでついてきてくれたのは驚いたし、嬉しかった。
「お前を引っ張り上げる」
 そんなこと叶いっこないって内心笑ってた。けどカカシが本気だとわかって、そしてこの地獄の歩き方を教えてくれて、もしかしたらいつか叶う日が来るかもしれないと思うようになった。
 俺カカシについていく。カカシが俺に伸ばしてくれた手、離さないから覚悟しろよ。
 背中に回した手に力を入れながら、涙が次々に溢れ出る目をカカシの胸に押しつけた。声を殺したまま泣いて、泣いて、気持ちが落ち着いてきたところで顔を上げる。
「んじゃ、まずはあの縁起の悪い部屋から引っ越すか。二人で住む部屋を探そう。ああ、そうだ明日からのサスケの職場も案内しないとだな。さあほら、サスケ。」 
 手が差し出された。俺はその手を両手で握りしめた。 
「一緒に、連れて行ってくれ。」