芽生え
コン、コン
ドアからノックの音が聞こえたのは、カカシがシャワーを浴びて髪を乾かしている時だった。
腰にタオルを巻いてドアスコープから外を覗ってみるが、誰もいない。
「……?」
ガチャリ
鍵を開けて少しだけ扉を開けてみると、そこにはバックパックを背負ったサスケの姿があった。
背が低くて見えなかっただけらしい。
「サスケ? どうした?」
サスケはカカシを見上げて何かを言おうとし、目線を下げてから少し考え、もう一度カカシを見上げる。
「俺んちのシャワーが止まらなくなって水浸しなんだ。今日泊めてくれないか。」
他に頼る大人がいなかったんだろう。サスケはまた目を伏せる。
「……迷惑なら、俺一人で何とかする。」
教え子にこんな事を言われて、放っておくのも忍びない。
「おもてなしは出来ないけど、それでもいいなら泊まっていきな。上がって。」
玄関の扉を開けて迎え入れると、サスケは遠慮がちに室内に足を踏み入れた。
「悪い、面倒かける。」
「なに、困った時はお互い様。ね。」
脱いだ靴を丁寧に揃えて、サスケは所在なさげにキョロキョロと室内を見渡す。
「俺パジャマに着替えてくるから、ソファにでも座って待っててくれる?」
「わかった」
バックパックを脇に下ろし、革張りのソファに座ると目の前にはローテーブルと大きなテレビがある。テレビの画面は真っ黒で何も映していない。
手持ち無沙汰になったサスケはバックパックの中から忍術書を取り出すと、カカシの着替えが終わるまでそれを読み込むことにした。
間もなくして、カカシが奥の扉から出てくる。
「何もない部屋でごめんね。飲み物も酒しかないから水でいい?」
「大丈夫だ。」
「そう? テレビでも見る?」
ローテーブルの上のリモコンをチラッと見る。
カカシが普段どんなテレビを見ているのかは興味があった。
サスケはリモコンに手を伸ばし、テレビに向けて電源ボタンを押すと、少しの静寂の後、画面いっぱいに現れたのは男女が身体を重ね合っている姿だった。
『あんっ❤️あんっ❤️もっとぉ❤️あん❤️先生、もっとぉ! ❤️』
「っ!! ちょっ! サスケ消して! 消して消して!!」
「……………………………」
サスケはそのまま立ち上がり、テレビ台に置かれているDVDのパッケージを手に取る。
「……『先生、やめないで』…………」
カカシが慌ててリモコンを奪い電源を消す。
静寂に包まれた室内。
DVDのパッケージをまじまじと見つめるサスケ。
そっとテレビ台の上にそれを戻すと、バックパックに忍術書をしまってそのまま背負った。
「悪い、やっぱアンタの家はやめるわ。屋根の上で寝た方がマシだ。」
静かに玄関に向かい、靴を履いてノブに手を伸ばしたところで、カカシは慌ててその手首を取り、もう一方の手は扉にドン、とついてサスケを縫い止める。
「ご、誤解しないでくれ! いつもはテレビ見てないの! たまたま入ってたのがその……あれだっただけで……ああいう趣味はないの!! ……挽回、させてくれ……! 屋根の上はっ、駄目……!!」
頬を染めて取り乱すカカシを見るのははじめてだった。
「……別に、あんたは大人だからああいうのも見るだろ。あんたの趣味に口出しする権利もねえし。腕離せよ。」
「屋根の上はだめ、それだけはだめっ!」
必死なカカシの形相に押され、サスケははぁ~と深いため息をついて、「わかったよ」と小さく呟いた。
カカシはほっと腕を撫で下ろし、
「ありがとね」と言いながらかがんでサスケの頬にキスをする。
「!?」
(しまっ……!! いつもの癖で……!! )
サスケが咄嗟にカカシの身体を押す、が、サスケの力ではカカシは動かない。
「なななにすんだてめぇ!!」
「ちがっ……! これはいつもの癖でええと……とにかく違うんだ!!」
「なんだよ癖って!」
「俺の家女しか来ないから……その……」
「女、いるのか」
「今はいない! 断じていない!」
サスケがアームカバーでキスされた頬を拭う。
その目は警戒心MAX。
挽回すると言った矢先にこれでは警戒されるのも仕方がない。
「……こほん。明日も朝早いから、もう寝よ? な?」
「……俺はソファ借りて寝る」
「ベッド使ってもいいんだよ?」
「あんたのベッドで寝るのは不安しかねぇ」
「さすがに俺も男の子には手を出さないから」
「出したじゃねぇか」
「それはその、ほんと申し訳ない……」
サスケがポケットの中を探り、中にあったものをカカシの胸に突きつける。
「道中アスマ先生から『念のため持ってけ』と言われて渡された。何だと思う。」
サスケが手を開いて落としたそれをカカシがキャッチすると、それはゴムだった。
(っアスマ――ー!! )
カカシは髪をかきむしりたなるのを抑えて、それをサスケに返す。
「いくら俺でもサスケには手を出さない。お前は大切な教え子だ。それは保証する。」
……キスしておいて、何が保証だ。
「だからベッドで寝な、何もしないから。本当に。」
訝しげな目で見られる。
そんな目で見られる事をしでかしたのだから仕方がない。
でもサスケを管理下に置くのは任務でもあるからして、屋根の上だろうが一人野宿させるわけにはいかない。
「……本当に何もしないな?」
「約束する。」
「……わかったよ。」
サスケはバックパックを下ろし、もう一度靴を脱ぐ。
「寝室、どこだ」
「一番右の扉。先に寝てていいよ。」
「………」
「何もしないって、本当に。」
「……おやすみ」
「ん、おやすみ」
寝室の奥にサスケが消えて行ってから、カカシは、はぁぁ……と膝を折る。
(やっちまった……色々やらかしてしまった……)
とりあえずDVDプレイヤーから円盤を取り出すと、ケースにしまってクローゼットに放り込む。
それにしてもアスマの奴、どういうつもりであんなもの……と考えかけて、自分の女性遍歴を思い起こし、渡されても仕方がない……かもしれない……と反省するが、時すでに遅しだ。
冷蔵庫から酎ハイを取り出して一気飲みすると、途中だった髪のブローを再開して心を落ち着かせる。
寝室に入ったサスケはバックパックからパジャマを取り出して着替え、ポケットの中に入っていたゴムを脇に置いてカカシのベッドの端に入った。
(『先生、やめないで』………)
はじめて見たAVに、まだ心臓がドキドキしている。
(ああいうのが、好きなのか……いや、もう寝よう。)
程なくして、サスケはスウスウと眠りに落ちて行った。
それを見計らって、カカシも寝室に入る。
ベッドの隅で静かに寝息を立てるサスケにほっとして、自分も布団の中に入ると写真立てが目に入る。
はじめて受け持った下忍の三人。
護ってやらなきゃいけないのに、波の国で俺はサスケを助けられなかった。
眠っているサスケを腕に抱く。
「今度は、ちゃんと護るから……」
自然に出た言葉に、
「るせぇ……ウスラトンカチ……」
と返ってきた。
苦笑いしながらサスケを抱きしめると、その小さな身体はカカシの腕の中にすっぽり収まる。
サスケは起きるでもなく、寝るでもなく、そのまま受け入れてくれている。
こんな小さな身体なのに、無茶をさせてしまった。本当は危険な任務だとわかった時点でやめるべきだった。その判断が出来ていなかった。……サスケを危険な目に合わせたのは、全て、俺の責任だ。
「……おやすみ」
返事は返ってこなかった。
………腰に。
何かが当たっている。
狸寝入りを決めたはいいが、その硬いものがサスケは気になって仕方がなかった。
サスケを抱きしめるカカシの手が、パジャマの裾の中をさわさわとなではじめた。
が、カカシは静かに寝息を立てている。
この状況を、どう分析したらいいのかわからなかった。
カカシの手がいよいよ乳首に届こうとした時、サスケはガバッと起きて手を振り払う。
「……おい」
スウスウと眠るカカシの手は、行く場所を失って布団を探っている。
「っおい、起きろウスラトンカチ!」
カカシの頬をつねると、ようやくその右目を半分開いた。
「……ん? まだしたいの……」
「あほか、どんな夢見てんだよっ」
ゴン、と頭を殴ると、ようやく目を覚ましたようだ。
「……あれ? サスケ? ……あ、そうか、サスケか……」
むくりと起き上がると、やっぱりカカシの股間は傘を張っている。
腰に当たっていた硬いものは間違いなくこれだ。
「どうせエロい夢でも見てたんだろ。それどうにかしろ。気になって眠れねぇ。」
そこまで言われてようやく自分の状況に気がつく。
「いや、これは、決してサスケに欲情したとか、そんなんではなくて……!」
「わかったからさっさと処理してこい!」
「ええ、オカズもなしに抜けないって……」
「ぐだぐだうるせえ。俺がやる。脱げ。」
「………!? ちょ、ちょっと、待って、ま、」
サスケがカカシのパジャマとパンツを下ろすと、半勃ちのそれが現れる。
サスケはそれに手を伸ばし、上下にしこしこと扱きはじめた。
(……でけぇ)
自分のものしか触ったことがないサスケには新鮮だった。触っているとみるみるうちに硬くなっていく。
「サスケ!? 待って待って何してんの……!?」
「いいからさっさと出せ。」
裏筋からカリ首、亀頭まで満遍なく扱いていると、次第に我慢汁が滲み出てくる。それを亀頭にクルクルと撫でつけ、手を上下に動かす。
「……っは、やめなさいっ、自分でする、自分でするからっ!」
サスケの手を退けて、自分でそれを握りしめる。
そして上下に動かすのを、サスケがじっと見ている。これじゃ公開オナニーだ。
戸惑いながら気持ちいいポイントを集中的に扱くと、射精感が高まっていく。
「……っ、サスケ、ティッシュ取って……」
言われてサスケはベッドサイドにあるティッシュの箱をカカシに渡そうとする、が。
「~~っ、は、ぅ……っ」
あ、だめだ、ティッシュが間に合わない。
ピクンと身体が揺れ、ビューッビューッと勢いよく出た白濁液は、それをまじまじと見ていたサスケの顔に直撃した。
「……っな!?」
さすがにサスケもそれは想定していなかったようで、慌ててティッシュを手に取り顔に着いた性液を拭う。
はぁ、はぁ、……
射精が終わったカカシが、今度はサスケの股間に目をやる。
「……サスケも勃ってるじゃない……俺の見て興奮したってこと?」
カカシの精液を拭き取りながら、サスケが「なっ……!!」と顔を赤らめる。
お返しだ。
カカシはサスケのパジャマとズボンをずるっと下ろすと、小さいながらもしっかりと勃っているそれを扱きはじめた。
「っま、俺のはいいっ! さわんなっ……!」
「サスケの真似」
「~~っ!!」
サスケの頬がピンクに染まっていく。時折ピクンと身体が跳ねるのが可愛らしい。
「っ、は……、やめ……っ」
呼吸が荒くなっていく。
サスケはカカシの腕を掴んではいるが、それ以上の抵抗らしい抵抗はしない。
「っは、出るっ……!」
それを合図に、カカシはサスケを抱き寄せ、手の動きを早める。
サスケはカカシの胸におでこを押しつけて、「っぁ、」と小さく漏らしたかと思うと、ピュッ、ピュッ、と精を放った。
「……サスケ、顔にティッシュついてる。」
カカシがサスケのおでこに張り付いたティッシュを取ると、サスケは「誰のせいだと思ってんだよ……」と胸の中でぼやく。
サスケの精液で汚れたパジャマを着替えようとするが、サスケはカカシの胸に顔を埋めたまま動かない。
「サスケも、顔洗お。俺も着替えるから。」
促して、ようやくカカシから離れたサスケの顔は真っ赤に染まっていた。
「っ、洗面台、借りるぞ」
サスケが慌ててベッドから降り、寝室から出ていくのを見守った後、カカシもパジャマのボタンを外し始める。
すごく
すごくいけないことをした気がする。
のを、考えないように、考えないように、ふー……と深く息を吐く。
新しいパジャマを着て、汚れたパジャマを洗面所にある洗濯機に入れにいくと、ちょうどサスケが濡れた顔をタオルで拭いているところだった。鏡に映るカカシとサスケの姿。カカシの胸元までしかないサスケの頭を、くしゃっとなでる。
「ほら、もう一回寝るよ。」
「ガキ扱いするな」
タオルを洗濯機に放り込み、カカシと目を合わさないように寝室へ入っていくサスケをカカシは見守る。
胸に込み上げるこの感覚は何だろう。
それを深掘りしてはいけない気がして、それでも中を覗き込みたい欲求に駆られる。
だめだ、だめだ、
高鳴る胸の鼓動を無視してカカシも寝室に入る。
サスケはまた端の方で布団に入っていて、カカシもその隣に潜り込む。
ドキドキして眠れないのは、カカシだけか、狸寝入りしているサスケもそうなのか……。
カカシは頭をブンブン振って、羊を数えながら無理矢理眠りについた。