出会いのお話
ふたり
サスケは台所で漢方薬を飲み下した。苦いこの薬もそのうち慣れてくるだろう。
振り向くと部屋の中にはカカシの姿がある。
「俺もう寝るから」と声をかけると、カカシはニコニコ笑いながら手を広げてきた。
「何それ」
「おやすみのギュウ」
「は?」
「え?」
カカシは相変わらず何を考えているのかわからない。俺は手を広げるカカシを無視して布団へ向かった。
すると、寝袋を布団に寄せてカカシが近付く。
口布で隠された口元が目に入ると、落ち着かない。
「えーしないの? おやすみのギュウ。しようよ。」
「なんでそんなことしなきゃいけないんだ。」
「だって俺たちほら……恋人になったわけじゃん……?」
コイビト
その単語で二人ともカーッと赤くなった。
恋人、恋人なのか、俺たちは……?
「やめろ気色悪りぃ」
布団をガバッとかぶり、カカシに背を向けた。
恋人、こいびと、コイビト……頭の中がカカシの言葉でいっぱいになる。
「そんな……ひどい」
「サスケにとってはあれなのか? 俺たちって」
「カラダだけのカンケイなの……?」
わざとらしい涙声。
「……そんなことは言ってない」
カラダだけの……、それは、サスケも嫌だった。やらしいことするためだけに一緒にいるなんて。馬鹿みたいじゃないか。
「なら恋人同士じゃない! ほらギュウしよギュウ」
カカシをチラと見るとまたマヌケな顔で手を広げている。
「俺はもう布団に入った。もう寝る。バカなことばかり言ってねーであんたも寝ろ。」
「ギュウは?」
「なし」
「えぇー。じゃあ……」
のそりとカカシが動いて、サスケに覆い被さる。
「サスケをギュウしながら寝る」
「どーしてそうなるんだっ」
手をつっぱり抵抗しても、敵う相手ではない。
「サスケ」
「なんっ」
口布が下げられた。
カカシの唇が露わになるのを、サスケは呆然と見つめた。
この、唇……。
思い返すと、身体の芯が熱くなる。
カカシはサスケの後頭部を手で押さえ、チュッと音を立ててキスをした。
「ギュウがダメなら、キス。」
甘ったるい声、触れた唇の柔らかさ、一人じゃない温かさ。
カカシはまたのそりと動いて寝袋に入っていった。
(俺も、嫌いじゃない。いや、……)
結局、サスケは言えないまま、布団をかぶり直して眠りについた。
(俺はもう、ひとりじゃない、のか……? )
カカシの寝袋をチラッと見て、また反対側を向いた。