出会いのお話
告白
心地よい疲れと肌の温もりに目もまどろむ。
そのまま眠りに落ちそうなところをぐっとこらえて、腹の上にいるカカシをどかす。
「汚れ、てる。シャワーを……」
カカシものそりと動いて、ローションと精液で汚れた服を見つつ「あー、あー……」とこぼした。
「先、行ってこいよ」
サスケが勧めるので、遠慮なく風呂場を借りることにする。「ありがとね」カカシはぼんやりした頭で立ち上がった。
(股関節が痛い……)
先ほどまでカカシがいた、カカシが……していた、そこを見つめる。どろっとしたものが出る感触がしてお尻を受かせると、それは白い……多分、カカシの精液だった。
さっきまでのことが夢でもなんでもない現実なんだと知らしめるものだ。
俺は、カカシと、……セックスをした。半ば強引で、でもカカシの荒い息を感じていると拒めなくて、そして……。
カカシは上司で、上忍で、先生で、男で、セックスをする相手というのは異性で、好きな人で、子どもが欲しくて、じゃあ俺たちはなんでセックスをしたんだ。俺たちは一体何なんだ。
恋人……ではない。そもそも男同士で。俺はそれでもカカシのキスが忘れられなくて。カカシは……カカシは俺のことをどう思ってるんだろう。
風呂場から出てきたカカシにバスタオルを放り投げる。
「お、ありがとね」
そう言うと、カカシは頭をシャカシャカ拭き始めた。
まるでなにもなかったかのように振る舞うカカシ。特別なことはなにもしてないかのように。
(何でもないことなのか? 大人のあんたにとっては。)
汚れてしまったシーツを布団から引き剥がし、予備のシーツを敷く。何事もなかったかのように、セックスの痕跡を消していく。
それが寂しいような、切ないような、変な気持ちが覆いかぶさってくる。
「なあ、あんたって」
汚れたシーツを抱きしめて、言った。
「あんたって、誰とでもするのか、こういうこと。」
「へっ!?」
カカシは変なところから声が出た。
理性の糸を引きちぎってサスケにしてしまったことをどう言い訳したらいいのか考えている矢先だった。
「ち、ちがうよ……うん、違う」
部下で、生徒で、男で、まだ子どもであるサスケを抱いておいて、節操なしに手を出すのかと問われると、答えづらい質問だった。
違う、サスケがやらしいことを言うから、俺も――。
やらしい雰囲気になったら誰とでもやるのか? いや、そんなことはない……はずだ。
「じゃあ、なんで……」
『したかったから』なんて理由では納得してくれないだろう。サスケをぐちゃぐちゃに犯したかった。サスケが自慰をする度に嫌でも思い出すよう、記憶に刻みつけたかった。
でもサスケが知りたいのは多分そういうことじゃない。女の子風に言えば「私ってあなたの何なの?」ということだ。過去にビンタをもらった女の顔が浮かぶ。
『勢いで……』これはビンタが来るパターンだ。
『つい……』これもダメだ、最低だ。
「……悪い、サスケ、俺んなかでもまだ整理できない。でもお前としたかったんだ。それ以上の答えは、ちょっと待ってくれないか。」
俺は素直に謝ることにした。これでサスケが納得してくれるかはわからない。でも今はそれ以上のことは言えなかった。
「ただ、誰とでも、ってわけじゃない。でもサスケの気持ちを十分に聞かずに無理矢理やっちゃったのは、謝りたい。すまなかった」
謝られてしまうと、カカシは俺を抱いたことを後悔しているかのような、そんな印象を受けてしまう。
いや、教師として、上司として、後悔しているのかもしれない。したかったからした。そんな動物みたいな理由で教え子とセックスしたことを。
でもカカシのあの熱い吐息は、珍しく余裕のない表情は、「忘れられないようにしてあげる」という言葉は、まっすぐに俺を見ていて、そしてニセモノなんかじゃなかった。あの最中は少なくとも。
「俺は、嫌じゃない、嫌じゃなかった。びっくりはしたけど。」
何言ってるんだろう俺、こんな事言って。カカシを困らせるだけなんじゃないか?
「びっくりはしたけど、あんたなら、別に。」
何でそう思えるんだろう。泊まり込んで来て二日目の口移しはあんなに嫌だったのに。
「カカシ」
「サスケ、俺は」
言葉に詰まる。顔を真っ赤にしながら、「あんたなら」と言うサスケにかける言葉として適切なのは何だ?
ああ、理性なんて戻って来なければよかった。こんな言葉を聞いたら、抱きしめてキスをするしかないだろ、理性さえなければ。
口元を抑え、真剣なサスケの眼差しから逃げる。
逃げていいのか? 理性が飛ぶくらい、俺はサスケのことを。
「好き、なのか……?」
「何で疑問形なんだよ」
「あっいや。こんなこと、はじめてで――」
出会って一週間もたってない、サスケのことを俺は。
細い腕を握って、胸が痛んだ。
痛いくらいの警戒に、胸が痛んだ。
なが乃で大切にされてるのを知って、引き離したくなった。
いつからだろう、そう、あのキスの瞬間だ。
理性が飛んだ昨日のキスの瞬間から、俺はサスケを独占したいと思っていた。
これはどういう気持ちなんだろう。
答えを出しちゃいけない気がした。
それは俺が先生だから。上司だから。大人だから。
でもそんなことは二人の間でそんなにも重要なことだろうか。
「俺は」
サスケのことが
「好き、なのか……」
「だから、なんで疑問形なんだよ!」
サスケが抱えていたシーツを洗濯機に放り込んで、つかつかと近づいてくる。
そして俺の首の後ろに手をかけると……背伸びをして、キスをした。
「俺は何回でもしたい。あんたのキスが欲しい。セックスも嫌じゃない。あんたは? 俺と同じなのか? それとも、違うのか?」
「し、たい……よ。したかったからしたんだし。俺も」
今度は、俺が背中を丸めて、サスケにキスをする。
「俺も、サスケと同じだ」
「なら、いい。さっさとそこどけ。シャワー浴びてくる。」
肩をドンとおされ、うろたえていると、サスケは服を脱いで風呂場へ消えていった。