蛇足の蛇足集

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小話集,超短編,カカサス小説

たからもの

宝物を探しにいこう
そう言ったあんたの手を取るのを躊躇した。
俺の宝物は過去にしかなくて、今から探そうだなんて無理なんだ。
上げかけた俺の手を見たあんたはフッと笑った。
じゃあ俺の宝物を探すのを手伝ってよ。
顔を上げるといつもの笑顔がそこにある。
あんたの宝物ってなんだ?
ふふ、何だろうね。
俺は差し出された手を取って、歩き出したあんたについて歩く。
見覚えのある景色。
見覚えのある道。
見覚えのある建物。
そこは俺の家。
鍵のかかっていない扉を開けて中に入ると、あんたは俺を抱きしめた。
……無事に見つかったよ。
あんたの腕の中で俺の顔が熱くなっていく。
あんたにとって俺って何だ?
尋ねた疑問はいつだってはぐらかされてきた。
その答えがようやく返ってきたのに、俺はただあんたの胸の中で押し黙るばかりで何もできなかった。

どうせ、ナルトやサクラにもそう言うんだろ、「先生」。
折りたたんだ腕にグッと力を入れてその胸の中から逃れようとしてもあんたは抱きしめる腕を緩めなかった。
ほのかに漂う酒の香りに顔を上げる。
酔ってんのか。
そうだ、酔ってるんだ。そうでもない限りあんたがこんなこと言うわけがない。
酒の力借りないと恥ずかしくて言えないんだよ。
情けないでしょ、と言ってあんたは笑う。
あんたにとって俺はただの都合のいいガキだろ、俺はその目があるあんたに師事するしかないんだから。
うん、そう思ってたけどね。いつからかなぁ、お前が大切な存在になっていったの。
小さい部屋の真ん中で、あんたは俺を抱きしめ続ける。
俺はどうしたらいいのかわからないまま、顔を伏せた。

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