蛇足の蛇足集

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小話集,超短編,カカサス小説

うちは踊り

 盆踊りの最後といえばうちは踊りだった。神社の境内で踊るそれは楽しくて
 事件後集落を出て里主催の盆踊りでも当然うちは踊りがあるのだろうと思っていたけれどなかった。考えてみれば盆踊りは神社でしか踊ったことがない。何とかして里の盆踊りにうちは踊りを追加できないだろうか。そう思ったが7歳の俺はどうすることもできず、うちは踊りのない盆踊りなんて、と里主催の祭りに出向くことは無くなった。
「というわけだから俺は祭りには行かない」
 ナルトとサクラが顔を見合わせる。
「そんなに好きだったの?その踊りが。」
「ならさ!火影のじっちゃんに頼んでみるってばよ!」
 そんなにうまく行くだろうか。一人で神社を調べてみたが「一族の繁栄を願って神社に奉納する舞」という記述しか見つけられなかった。つまり太鼓のリズムも分からなければ音源もわからないし踊り方も中央の女性陣が踊っているのを真似て踊ったにすぎないからはっきりと覚えていないのだ。
 ナルトと一緒に火影室の扉を叩いたが、三代目火影は
「初めて聞くのう……祭りは里主催じゃが盆踊りは実行委員会が仕切っておるからそちらに聞いてみよ」
 と言われ、実行委員会の扉を叩いたら
「盆踊りの曲目は女性会が仕切っているかそっちに行ってみて」
 と言われ、女性会の扉を叩くと
「男子禁制です」
 と呆気なく放り出された。
 盆踊りではなく祭り自体の実行委員会に行ってみたら
「それならまずは後援会に行っておいで」
 と言われ、後援会事務所の扉を叩くと
「で、いくら後援してくれるの?」
 と一言めから金の話である。だがちょっと待て、金を出せば何とかなる可能性があるのか?
「いくら出せば盆踊りの曲目を追加できる?」
「盆踊りは最初の曲だと50万円、途中でいいなら20万円、大トリにしたいなら200万だな。」
「そんな金持ってねえって……」
「いや、ある。」
「へ?」
 サスケは一族全員分の資産を相続しており口座には相当な大金を眠らせていた。普段は質素に暮らしているがうちは関連の支出にはこの口座から金を出しているのだ。200万など安いものだ。
「200万円出そう。それで大トリの踊りをうちは踊りにできるんだな?」
「本気か?盆踊りに200万円本当に出すのか?」
 サスケは力強く頷いた。

 これで根回しは出来た。あとはうちは踊りの詳細を調べることだが、神社に行ってみてもやはり大した資料は残っていない。歴代氏子総代の冊子をパラパラめくってみると最後に書かれているのはうちはフガク……父さんの名前だった。氏子総代は祭りの準備にも携わるはずだ。
 実家にそれらしきものがないか探した。主に父さんの部屋だったところだが、最後の年の予算書と企画概要が見つかり読んでみると盆踊りに関してはやはりうちは一族の女性会が仕切っていたらしい。その人の名前から住所を調べて家の中を探させてもらったら音源と思われるものが見つかった。あとは太鼓のリズムと踊りだ。引き続き家探ししたがその家からはそれ以上の情報は見つからなかった。
 ナルトの部屋に行って音源を再生してみると確かにうちは踊りの音源だった。このまま使える。しかし後がわからない。
 と、そこにサクラがやってきた。
「やっと見つけた!こんなところにいたのね。」
 図書館に向かったサクラは何か資料を手に入れられたのだろうか。
「どうだった?」
 食い気味に尋ねると、サクラは誇らしげにフィルムテープを取り出す。そのタイトルは「うちは一族の神事ドキュメンタリー」、つまり神社に奉納する舞についてもわかるかもしれない。が、それを再生できる機械を誰も持っていなかった。
「誰なら持ってるかしら?」
「カカシ先生……だめ元で行ってみるか?」
「資料館に行ってみましょ、再生できるかはわからないけれど多分機械自体はあるはずよ。」
 そうして向かった資料館だが、館長がそのフィルムを見ると「懐かしいものを持ってきたねえ」と奥の部屋に案内する。スクリーンと何やら機械が置かれたその部屋で様子を伺っていると館長はフィルムをセットしてゆっくりと再生を始めた。それはやはり集落の祭りの様子を写したドキュメンタリーだった。最後にうちは踊りのシーンになったところでナルトが「ちょい待って!」と再生をストップさせる。
「あのさあのさ!この踊りの部分、普通に見られるように録画することできねーかな!」
「なら画面をそのまま録画してみようか、ちょっと待っててね。」
 館長は部屋から出て行って、ビデオカメラと三脚を手にまた戻ってきた。
 スクリーンの前に三脚とカメラをセットしてまた再生を始める。
 踊りは6パターンくらいのポーズを繰り返していくだけなので簡単にできそうだ。太鼓の音もちゃんと入っている。
 全ての再生が終わると、撮ってもらったフィルムとビデオテープを受け取って頭を下げて資料館を後にする。あとは女性会にこれを持って行くだけだ。

 再び女性会の扉を叩いた。サクラがいるから入れてもらえるだろう。中から出てきた女性にサクラが菓子折りを渡すと、部屋の中に入れてもらえた。
「話は聞いたわよ。大トリにうちは踊りを入れるんでしたね。」
「音源と踊りのデータはこれです。よろしくお願いします。」
「まかせてちょうだい、当日楽しみにしていてね。」
 金を出すだけでここまで対応が変わるとは。いや、サクラが「こういう時は持っていくもんなのよ」と買った菓子折りの効果かもしれない。
 サスケはサクラとナルトに感謝しつつ、一週間後に控えた祭りが待ち遠しかった。

 果たして当日、浴衣姿の三人は祭りの会場である里の広場にやってきていた。盆踊りの曲目を見るとしっかり最後にうちは踊りと書かれている。
 屋台をそこそこ楽しみながらいよいよその時間になった。人々は「うちは踊り?」「何だこの曲」と興味津々である。中央に小さめの円を形成している女性会の方が曲に合わせて踊りを始めて、盆踊りの参加者もそれに合わせて踊り始めた。サスケたちも中に加わって踊り始める。曲の最後にパン、と手を鳴らすと踊りは終わりだ。
 そこそこに盛り上がっているところに手つづ花火が始まった。
「あら?去年は花火なんてなかったのに」
 祭りのチラシをよく見たら「スポンサー うちは一族」と書かれている。あの200万円が花火になったということだろう。
 大盛り上がりで祭りが終わった帰り道、サクラがサスケに尋ねる。
「どうだった?お祭り。」
「お前らのおかげでうちは踊りも踊れたし楽しかったよ。」
「また来年も200万出すのかぁ?」
「金は使うべきところで使わねえとな。」
 おそらく今日二人の協力がなければうちは踊りという文化は失われていたことだろう。サスケは念願のうちは踊りを復活させることができて満足だった。
「2人ともありがとな。」
 サスケがそう言うと、2人とも「来年も楽しみだな!」と笑い合った。

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