蛇足の蛇足集

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小話集,超短編,カカサス小説

責任

 ……なんだよ、チビ。頭すりつけてくんな。
 お前ひとりなのか。
 母ネコは……いなさそうだな。
 何必死に鳴いてんだよ。
 俺は何もしてやれねぇぞ、悪いけど他当たれ。
 ……っても、他に誰もいないか。
 ニャーニャーうるせぇな。
 何言ってんのかわかんねぇよ。
 着いてくるなよ。
 ニャーニャーうるせぇって。
 何もしてやれねぇって言ってるだろ。 
 ……水なら、あるけど、飲むか?
 おいおい、そんなに喉乾いてたのかよ。
 いいよ、全部やるから好きなだけ飲め。
 じゃあな。
 ……着いてくんなって。
 早く家帰らねぇと見張りの暗部がうるさいんだよ。
 ほら、来た。いつもの銀髪の狐面。
 ……おい、あんた、何抱き上げてんだよ。
 俺は知らねぇぞ。
 わかったよ、帰るって。
 拾ったからにはそのチビ責任持って面倒見ろよ。
 ……いつものだんまりか。
 そいつ、たぶん腹すかせてるから。
 なんか食わせてやれよな。
 ……あんた相手に何喋っても意味ねぇか。
 つーか、一応俺の護衛なんだろ、あんた。
 ネコ抱いてて護衛できるのかよ。
 まあいいや。
 ほら、家着いたからあんたもチビ連れて帰れ。

「おおい、テンゾウいるかー」
 平屋の扉をカカシがガンガンと叩く。
 見せたいものがあるから着いてこい、と言われてたどり着いたのがここ、テンゾウとやらの家だった。
 しばらくして、家の主人が迷惑そうな顔でガラガラと扉を開くと、カカシの額当てを小突く。
「今はヤマトだって何回言えばわかるんだ。」
 どこかで見たことがあるような顔だな、と記憶を掘り起こしていると、テンゾウ改めヤマトはニコッと口角を上げて家の中へ手招いた。
「ま、それはいいとして、とりあえず上がってくれ。」
「お邪魔します、と。ほら、サスケも。」
 玄関に入っていくカカシに続いて中に入り、後ろ手で扉を閉めるとほんのりと獣臭さを感じる。
 犬が猫でも飼っているんだろうか。靴を脱いでついていくと、畳が敷いてある庭に面した広い部屋に通された。
 ヤマトはキョロキョロと庭を見渡してから、屋根の上を覗き込むようにして言った。
「そこにいたか、サスケ。」
 ……サスケ?
 屋根の上から1匹の黒猫が降りて来て、ヤマトの腕の中におさまる。
「紹介するよ。同僚のカカシとその……元部下、で良いのかな。サスケ君だ。お前と同じ名前だよ。」
 黒猫のサスケはヤマトの腕の中からトン、と畳に降りると、二人の足下にやって来て少し匂いを嗅いだ後、額をサスケの足にすりつけた。
「おい、カカシ。見せたいものってまさか、こいつか?」
「うん、もうすっかりおじいちゃんだけどね。元気なところを見せてあげたいなと思って。」
 サスケの頭にはてなマークが浮かぶ。なんで猫?なんで俺と同じ名前?なんで元気なところを見せたい?
「悪いが、言っている意味がよくわからない。俺とこいつになんの関係があるんだ。」
「関係ねぇ……ま、名前が同じってところかな。」
「はぁ?」
 カカシが「大きくなったなぁ」と言いながらサスケの足に頭を擦り付ける黒猫の背中を撫でる。
「保護猫カフェでこの子を見つけてね、譲渡してもらったんだよ。賢いし、時々ネズミとかハトを捕まえて誇らしげに俺の前までくわえてきたり。」
「俺が保護猫カフェに連れて行ったのよ、面倒見てもらえませんかって。そしたら次に行ったときにはもう譲渡済みで、譲渡先の名前見たらテンゾウって書いてあって少し驚いたね。暗部がペット飼うなんて聞いたことなかったからさ。」
「おいカカシ、喋りすぎだ。」
「ま、ちゃんと責任とったよ、ってことを伝えたかっただけ。テン……ヤマトならきっと可愛がってくれてるだろうから。」
 サスケは話が全くわからないまま、ただ足にすり寄る自分と同じ名前の黒猫を見つめていた。

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