蛇足の蛇足集

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2025年2月14日小話集,超短編,カカサス小説

いっしょにおしごと……?

カカシが作った会社の事務所に来た俺は期待に胸を膨らませていた。ふたつ向かい合わせのデスクの手前に応接用のソファとローテーブルがあるだけのこぢんまりとした事務所。
「俺は何をすればいい?営業か?客を落とせばいいのか?」
早口で捲し立てるその口を手で塞がれた。
「頼みたいのは内勤だ、今は外注に出してるけどゆくゆくは全部サスケに任せたい。そのためにまず宅建の資格を取ってね。あと宅建業法は目を通していつでも参照できるように、基本的には俺が外回りで取ってきた契約の契約書作成をしてもらう。最初は媒介契約書でこれを作るには登記簿謄本の見方を知っておく必要がある。今までの書類を参考にして謄本の読み取り方がわかったら媒介契約書の作成を任せる。媒介は三種類あるけどこれはちょっと調べればわかるから任せる。今日三件媒介もらうアポがあるから俺はすぐ出てそのまま外回りするからあとはよろしく、あ、お茶の淹れ方も覚えといてね。じゃ、あとは任せた。」
バタン、と入り口の扉が閉まって俺は事務所にひとり取り残された。
ええとやるべきことは宅建業法読むのと謄本の読み取り方を覚えるのと媒介契約?三種類調べて宅建士の勉強、で合ってるかと聞きたいがカカシはもういない。
信頼されている証拠だと言い聞かせてひとまず宅建業法の条文を一通り読み込んで、書棚を漁って契約書一式取り出すとその中から媒介契約書を探して、登記簿謄本とやらを探す。売買契約書をチラッと見たがそんなに難しい内容ではなさそうだった。媒介契約書も同じく。謄本の方は……それっぽいものが3つあった。5枚ホチキスで止められているものと10枚くらいホチキスで止められているものと1枚のもの。10枚の方は見たところ会社について書いてあるものだった。5枚の方は土地。1枚のは建物と書いてある。
これ全部読み取りが必要なのか。いや待てよ。媒介契約書を見ると土地の謄本と建物の謄本に書かれている一部がそのまま書かれているだけだ。つまり会社のやつは今のところ必要ない。謄本も表題部と一番新しい情報だけ確認できれば良さそうだ。思ってたより簡単そうだ。
と思って重要事項説明書と書かれている冊子をパラパラとめくってみたらこれはそれなりに勉強をしなければ無理だと思い知らされた。知らない単語のオンパレードが20枚くらいある。後ろの方は多分行政が出している資料をそのままつけたものだろうからいいとして、問題は知らない単語のオンパレードの方……宅建の資格を取ればこれもわかるのだろうか。っていうか。
一緒に来てとかもう一度部下になってとか言われたからてっきりこれからは日中も一緒にいられるんだと思ったのにカカシは一日外回り……俺は一日事務所で勉強……思ってたのと違う。そりゃあ、俺が契約書とかの書類をバリバリ作れるようになれたらカカシの助けになるんだろうけど、だけど……。
あ、お茶の淹れ方……、デスクから立ち上がってちょっとした台所に行く。緑茶の茶葉と急須、湯呑み、そして給湯器。こんなんバカでも出来るだろ。舐めてんのか。と思ったら給湯器の横に張り紙があった。お茶の淹れ方の手順が書いてある。やり方まで書いてあるんだから敢えて頭に叩き込むまでもない。
デスクに戻って引っ張り出してきた契約書一式を読み込みながら時間を潰した。
入り口の扉が開く音がして、客かと思い立ち上がったらカカシの姿がそこにあった。
おかえり?でいいんだろうか。いや、職場でおかえりもおかしいか。と思っているうちにカカシが鞄からデスクにクリアファイルを2つ出す。中には媒介契約書が入っていた。
「スキャンしてデータ取ってからファイリングね、で、今から一時間昼休憩。」
顔を見ると抱きつきたくなる気持ちを抑えて今は仕事中だと自分に言い聞かせる。
「わかった、データの保存場所を教えてくれ。」
「それは休憩終わってからね。弁当買ってきたから、一緒に食べよっか。」
応接用のテーブルにビニル袋が置かれる。そっか、昼だから昼飯か。
袋の置かれたテーブルに近づいたら不意に抱きしめられた。
「……っ!」
「そんな顔で見つめられたら俺だって我慢できなくなるよ、サスケ。」
表情のコントロールは自信がある方だ、だってこのスキルで男を落としまくってきたんだから。けどカカシを前にすると俺の表情筋はバカになってしまうらしい。
「……だって一緒に仕事って言ったのに、全然一緒にいられない……。」
「ま、営業だからそこは仕方ないよ。」
「俺のもやもやを晴らすならハグだけじゃ足りないからな。」
「んー……例えば何をしたら満足できる?」
「……ナニをしたら満足してやる。」
「仕方がないなぁ……、そんなサスケも好きだよ。隣の部屋に行こう。
隣の部屋?
カカシの視線の先には扉があった。地味すぎて見落としていた。扉の鍵を開けて俺の背中に手を添えて中に招き入れられる。ソファベッドが置いてあって、壁全体に扉にも何か貼り付けてある。
「ちゃんと防音仕様にしてあるから思いっきり喘いで大丈夫だよ」ソファベッドをベッドの形にしてその上に座って両手を広げるカカシに抱きついた。寂しさを取り返すようにキス、キス、キス、いつのまにかはだけられていたズボンを脱いでソファベッドに上がった。
「……次のアポ何時」
「14時半だけど」
「……なら、昼休憩の時間はなし」
「しょうがない子だなぁ……おいで。」
「……♡」

こうしてふたりはしあわせにくらしたとさ。
めでたしめでたし。

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