あの頃のぼくら

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成人向,長編,原作軸,完結済み,カカサス小説エロ,オリジナル設定有,シリアス,ほのぼの,甘々

覚悟

「よう」
 崖の上からかけられたのは、久しぶりに聞くサスケの声だった。
「俺を、強くできるか。」
 立ち話も何だし、と岩がゴロゴロしている崖の上で二人、向かい合って話す。
「できると踏んで、俺を探したんだろ?」
 サスケはコクリと頷く。
「何よりあんたは、俺と同じ目を持っている。」
 写輪眼をどう使いこなすのか、それをまず知りたいと。
「まあ、色々と教えられることはあるとは思うよ。ただ、サスケに今欠けているのは、リーくんのような"決め手"じゃないかと思ってる。」
「……あるんだな?」
「でも、会得するのは難しいよ。時間的に間に合うかもわからない。」
「上等じゃねーか。」
 その顔は、充実感とやる気に満ちていた。
「まずは見本ね。」
 カカシは手にチャクラを集中させる。その動きをサスケは写輪眼で観察する。
「この技はコピー忍者と言われる俺の、唯一のオリジナル技だ。」
 チャクラが普通の目にも見えるほど集中し、バチバチと弾ける。
「単純だけど、このチャクラコントロールは結構難しい。よく見てな。」
 瞬時にカカシが動く。チチチ、とつんざくような音と共に、巨大な岩目掛けてその拳を打ち込むと、それは大きな音を立てて粉々に砕け散った。
「今のは手加減してるが、まあこれくらいの威力はある。技の名は、雷切。千鳥とも呼ばれている。」
 写輪眼は、動きは真似できてもチャクラコントロールまではコピーしきれない。
「修行の第一段階は、わかっていると思うがチャクラの使い方だ。ただ、知っての通りチャクラには限界がある。一回一回集中してやんなさい。」 
 
 かくして、カカシとのマンツーマンの修行が始まった。
 
 夜、サスケはチャクラが尽きて疲れ果てていた。
 家には戻らず、可能な限りこの場所で過ごしたいとカカシに言ってみたものの、大蛇丸のことがあるから家にいた方が安全だ、と説得され、渋々二人で家に帰った。
 身体のだるさを感じながら、確かにこんなに疲弊した状態で万が一敵に出くわしでもしたら、いくらカカシがついているとは言え、危険だと思い直す。
 
 それだけ密度の高い修行をしたわけだが、カカシの言う通りそんなに簡単に会得できるものではないようだった。いつかやった木登りの修行とは比べ物にならない。
(だが、だからこそモノにしねーと)
 首筋に痛みが走り、手で押さえる。大蛇丸の呪印は、チャクラが尽きようとすると一層痛み、暴れ出そうとする。カカシが封印したとはいえ、この呪印にも神経を注がなければいけない。
 一度呪印の力が暴れたとき、俺は我を失った。そんな危険な力に頼るわけにはいかない。そんな力を使って我愛羅に勝てたとしても、それでは意味がない。
 何より、あの不気味な奴に与えられたものなんかを利用するのは、気持ちが悪い。
 
 ガチャ、と鍵を開け、電気をつける。
「今日はシャワー浴びて、早めに寝ようね。」
 さすがにこの状況でやらしいことはしないらしい。少しほっとしつつ、寂しいような気もするが、サスケも素直に頷く。
 しばらくは食事も簡単に済ませよう、と帰り道で買ったインスタント食品の入った袋を、カカシは台所に置いた。
「……あんたまで、付き合わせちまって、悪いな。」
「先生だからね、一応。味噌ラーメンでいい?」
 袋の中からゴソゴソと取り出したのはカップ麺だ。
「ああ、何でもいい。」
「お湯作って待ってるから、ひとまずシャワー浴びてきな。」
 至れり尽くせりだ。
 こんなに俺につきっきりで、ナルトはいいのだろうか?
 思いながら、バスタオルと着替えを持って洗面所に入っていく。
 カカシはコンロに火をつけると、ヤカンにたっぷり水を入れて温めはじめた。
 
 サスケが風呂から上がると、カカシは待ってましたとばかりにラーメンにお湯を注ぐ。
「そうそう、サスケお前、病院抜け出してきたんだって? お医者さんのいうことは聞かなきゃダメだよ。身体の調子はどうなの。」
 カップ麺と割り箸をふたつ持って、カカシがローテーブルに移動する。サスケはささっと体を拭いて、寝間着に着替えると、頭をシャカシャカ乾かしながらローテーブルまでやってきた。
「そんないつまでも休んでらんねーよ。自分のことは自分が一番わかってる。」
 インスタントのラーメンなんて、いつぶりに食べるだろうか。
「まったく……。食べたらすぐ寝なさいね。あ、そうそう。今日は気が立って眠りにくいかもしれないから、今日からこの薬追加で飲んでみて。一回に小さじ半分ね。」
 カカシは台所から小瓶を持ってくると、サスケに渡した。
 漢方薬なのだろうか? 瓶の中の粉薬をしげしげと見つめ、サスケは「わかった」と小さく頷く。
 
 今日は手にチャクラを集中させるところからいきなりつまづいた。目に見えるほどの大量のチャクラを扱うのは初めてだから、まだ要領が掴めない。
 はじめて父さんから火遁を教えてもらった時を思い出す。
 最初は惨めなもんだった、だが、練習を重ねてコツを掴み、しっかり術として扱えるようになった。
 だから今も、自分がやるべきことは決まっている。
「カカシ……試験が終わったら埋め合わせするから、この一週間は頼む、力を貸してくれ。」
 カカシは驚いたように目を丸め、そしてニコ、と笑う。
「だからー、俺一応サスケの先生なんだから、そんなこと、気にしなくていーの!」
 温かい。
 こんなに温かい場所で俺は、強くなれるんだろうか。
 孤独が俺を強くするのだと、そう思っていたのに。
 カカシはどこまでも、どこまでも、温かくて。
 いいんだろうか、といつも思う。
 と、カカシがサスケの頭をクシャッと撫でた。
「サスケ、そんな顔するな。利用できるもんは全部利用しろ。俺が教えてやるって言ってるんだから甘えなさい。」
 肩にぽん、と手を置かれる。戸惑いが顔に出ていたらしい。
「埋め合わせ、楽しみにしとくから。ね。」
「……ああ、わかってる。」
 サスケはカカシの顔を見て、フッと笑った。
 
 甘えても、いい。いつかあんたは俺に言った。「利用するだけして、価値がなくなったら捨てていい」と。
 カカシの覚悟を、俺は受け取った。甘えてもいい、利用できるものは利用しろ。それが一番の近道になるのなら。
 でも、甘えっぱなしというわけにはいかない。そのためには、もっと早く、強くならないと。俺だってカカシの役に、立ちたいんだ。
 いつか、隣に立てるくらいに。