あの頃のぼくら
デートの続き
家に帰ると、案の定カカシが待っていた。
「あれ、早かったね、」
サスケはローテーブルの前でくつろぐカカシの目の前に、団子屋の包みを置く。
「団子一本だけじゃ、足りねえだろ。」
そういえば、まだまともな昼食は取っていなかった。
サスケがゴソゴソと包みを開けると、串に丸い五平餅が三個刺さったものが十本入っていた。
「タレの中にクルミが入ってるんだ。美味いぞ。」
珍しい形だ。聞くところによると、山の方ではこういうものが昔から作られているらしい。
一口頬張ると、クルミ味噌のタレ、炭火で焼かれた香ばしさ、いくらでも食べられそうなくらい、美味い。
「どこのお店で買ったの、教えてよ。」
「……気に入ったのか?」
「うん、どこ?」
サスケはフン、と鼻を鳴らす。
「第五市街区の東の外れだ。そこに古い店構えの団子屋がある。」
「なるほど~」
カカシが二本目に手を伸ばす。
「よく知ってるねぇ、そんなとこ。」
「昔からよく食べてた……し。」
サスケの言う昔は事件の前のことだ。あまり深堀しないほうがよさそうだ。
「ほんと美味しい、ありがとね」
ニコ、と笑いかけると、サスケは少し俯き赤くなる。
「別に……俺が好きだから買ってきただけだ。気に入ったんなら……よかった。」
ああ、サスケの髪の毛をわしゃわしゃして抱きつきたい。思えば今日は色々と邪魔が入ってあまりイチャイチャできていなかった。
「さめてもうまいけど、どうせならあったかいうちに食べろよ。」
サスケも包みに手を伸ばして五平餅を口に放り込む。
以前波の国でナルトと張り合ってご飯食べてた時はリスみたいにほっぺたがギューギューに膨らむほど頬張っていたけど、今は張り合う相手がいないからか、上品に一口ずつ食べている。
サスケは一緒にいる人が違うだけでいろんな面を見せてくれる。俺が独り占めするのがもったいないくらい。でも、カカシだけに見せるサスケの姿は絶対に他の奴には見せてやらない。
「サスケ、食べ終わったらさ」
「……ん?」
「ベッド行こうよ」
「はぁ!? ……!? 何でそんな唐突なんだよ。それにまだ昼だぞ?」
「いーじゃーん。ほら、アレだよ。埋め合わせ。デートもちゃんとできなかったし、ほら、ね?」
埋め合わせ、と言われるとサスケは弱い、何しろカカシの奥義を教えてもらったのだ。それなりの代償は覚悟してあった。ただデートするだけ、と思って油断していたが、埋め合わせと言ってやらしいことをするのはサスケの予想の範囲内だった。
「いいけど……歯は磨いた後でないと嫌だぜ」
三本めの五平餅に手を伸ばしながら、顔が赤くなっているのが自分でもわかる。
恋人同士なんだから、やらしいことするのは別になんてことない、普通のことだ。そう、普通のこと。
カカシは小さくガッツポーズをして、四本目の五平餅に手を伸ばす。時間はたっぷりある。思いっきりサスケを可愛がることができると思うと、俄かに興奮してくる。
「楽しみだなぁ~」
「そんなにか……?」
「ネコ騒動以来だもん」
「そういえば……そうだったな。」
ネコ騒動。思い出すとサスケは恥ずかしくて面を上げられなくなる。セックスなんて普通のことだ、と思ってもどうしてもまだ少し抵抗は感じるし、恥ずかしいし、気持ちいいのは確かだけど……人としてこれでいいのかと思ってしまう。
サスケはなるべく時間をかけて五平餅を口に運んだ。
寝室に誘うカカシはすでに手つきがやらしい。肩に触れたかと思えばすっと撫でて余韻を残す。今からセックスする、って今まで散々してきたのに、いざとなるとやっぱりドキドキする。
ベッドサイドに座ると、カカシはサスケの首元にチュッと軽いキスをした。と思ったら、服の中に手が入ってきて、つつつ、と脇腹を摩り、胸の突起を羽根のように優しく撫でる。ピク、とサスケが反応すると、満足げに口角を上げた。
サスケが顔を上げると、その唇が奪われる。ついばむように角度を変えて、そして貪るように口内を犯していく。
サスケはカカシのキスに弱い。
「んっ……は、ぁ……」
サスケのものがどんどん硬く反り立つ。ズボンを脱がないとキツイくらいに。それを知ってか知らずか、カカシはズボンの上からサスケのものをさする。
「っあ」
思わず漏れた声に、カカシはまた口角を上げた。
「キツそうだね」
そう言いながら、ズボンを脱がそうとはしない。ズボン越しに上下にさすりながら、キスの続きをする。
「っ、んぁ、は、ぁ、ぅ」
下半身に血液が集中しているのがわかる。ドクン、ドクンと脈打ち、痛いほどだ。それはカカシも同じだった。サスケはカカシの股間をチラと見ると、手を伸ばしてズボン越しに撫でる。
「っちょ」
「……何だよ」
「……いや、えっと……」
戸惑うカカシに気を良くしたのはサスケだ。
「なぁ、今日は特別なんだろ?」
「うん、まぁ……」
「じゃあ、今日は俺が挿れる方、ってのは?」
「えっ!?」
カカシが思わず後ずさりしようとするのを、サスケはキスでその場に止める。貪るようなキス。そう、さっきカカシがしたように。そして股間をさわさわと撫でる。
「っく、ちょ、ちょっと待って、待って……!」
サスケは聞こえないフリをして、ズボンのジッパーを口で下ろしていく。
カカシはパンツにやらしい滲みをつくって、開放されるのを今か今かと待っていた。
ニヤ、と笑って、ズボンも脱がせると、それは勢いよく存在を主張する。
「サスケ、ストップ! やめっ、っ!」
カリをチロチロと舐め、先走りの液体をクルリと亀頭になじませる。
「イヤ、なのか?」
男前なサスケの顔が迫る。俺が女の子だったらすぐ落ちてたかもしれない。じゃなくて。
「いやっていうか……なんていうか……ええと……」
「じゃあ、なんだよ。」
「いつも通りが、いいなぁー俺は、なんて。ほら、埋め合わせなんだから、俺を尊重してよ、ね?」
サスケはため息をつく。残念そうに。
「そう言われると、しょうがねえな」
思わず
「また今度、な?」
なんて余計な一言を言ってしまう俺の馬鹿。
「じゃあ、明日な」
「えっ……」
また今度、なんて大人の世界では永遠にこない、いわば方言だ。それがサスケには通用しなかった。ダメだとは言えない。なんてこった。
これは覚悟、しておかなければならないかもしれない。
心を入れ替えて、目の前のサスケを堪能することにする。もどかしいのかサスケは自分でズボンを脱いでいた。
「……んだよ。」
見とれてしまっていた自分が情けない。実際何をしてもサスケは様になるのだ。女の子がキャーキャー言うのも頷ける。最初の、自慰に戸惑って俺に頼ってきたあの可愛いサスケはもういない。
やらしいことに慣れきって、あわよくば俺を押し倒そうとする男らしさまで身につけて……。
成長期だもんな、うん。
上の服もバサっと脱ぎ捨てて、サスケは俺の上にまたがる。
「……対面座位?」
「なんだそれ。」
「……いい、知らなくて。」
「入れるぞ」
「えっあ、……っ……う」
ハァッ
サスケの息遣いが聞こえる。
「ん、……は、……っく……」
しょうがないな、この子は。
「サスケ、口」
カカシが誘うと、サスケは唇を差し出す。甘い甘いキスをしながら、カカシはゆっくりと腰を動かしてサスケの中にそれを入れていく。
「んっ……、は、あっ!」
全部おさまったところで、その動きを律動に変えると、サスケはカカシにしがみつくように首に手を回し、思う存分喘いだ。
「んっ、あ、あっ!ぅあ、あ、っあ!」
カカシはそれをいいことに、サスケの首筋や耳たぶを舐め、キスマークをつけていく。
上に乗れば主導権を握れるとでも思ったのだろうか、しかし下から揺すぶられてすっかりカカシのペースだ。
(絶対、このサスケの方が、可愛い)
普段の可愛くないムスっとしているニヒルなサスケがこんな声を出して、こんな顔をするんだ。俺にだけ見せる俺だけの顔。
サスケの背に手を添えて、ゆっくりと押し倒すと、いつもの正常位になりガンガン腰を打ち付ける。
「っあ、んぅ! は、あ、ぁあっ! カカッ、」
揺さぶられながら苦しげにカカシを呼ぶのは、限界が近いということ。
「俺もっ、サスケ、……っ!」
「カカ、シ、あぅっ、あっ、あっ!」
一段と奥へ突きつける。同時に、受精することのない精子がサスケの中で弾けた。
二人の荒い息が重なる。
「サスケ」
息を整えるサスケを抱き寄せ、汗ばんだ肩にキスをする。
「好きだよ」
「ん……俺も」
この日がサスケと過ごす最後の日になるなんて、このときは思いもよらなかった。
こんな日が続いていくんだろう、そんな希望的観測、俺はサスケのことを全然理解できてなかったんだという証にしかならなかったわけだ。
次の日、カカシは、自宅ベッドに、サスケは病院にいた。
あいつが、うちはイタチが里に訪れた。そして二人とも完膚なきまでにやられた。
サスケと話をしなきゃ。そう思っても不器用な俺はサスケを繋ぎ止められる言葉を紡げなかった。
大蛇丸の呪印にだけは、頼らないでくれ。そう、強く願ったところで、俺にできることは何もなかった。
サスケは病院から、いや里から、姿を消した。