あの頃のぼくら
傷
任務が終わってカカシは報告に、そしてサスケはいつものようになが乃で料理の勉強に出かけていた。
今日は炊き込みご飯でおにぎりを作り、ご飯に含まれる水分が違うことでおにぎりの握り方も変わってくることがわかり、調理器具を安く買えるお店の情報なども教えてもらって、気分は上々だ。
カカシはもう家にいるだろうか。アパートの部屋はあえて鍵をかけていない。忍者にとっては鍵なんてあってもなくても同じだし、あったところで誰かに忍び込まれても盗まれるものなど何もないからだ。
そう思っていた。
カカシとサスケ以外の人物がアパートにいることなんて、うまく握れたおにぎりのおかげで、その可能性すら頭になかった。
台所の窓が暗かったから、カカシはまだ来ていないんだな、と扉に手をかけた瞬間だった。
誰もいないはずの部屋の扉がバンっと開き、中から黒い手が伸びて、サスケの顔面を覆った。
「!?」
驚く間も無くその手はサスケを部屋の中に無理矢理連れ込み、そして扉を乱暴に閉め、ガチャリと鍵をかける。
今夜は新月、そしてここは郊外で街の明かりはない、光が入ってこないアパートの中で何が起きているのか一瞬ではわからなかった。
ただ黒い手の主が短く「動くな、殺すぞ」とサスケに言ったことで、ぼんやりと状況が掴める。
何故。
何のために。
誰が。
「知っているぞ、お前、カカシと良い仲なんだろ。」
サスケの顔に血液がカッと集まる。
その時はじめて、サスケは黒い手の主から逃れようとした。が、地面に縫い付けられていて、その力は強く、まるで抵抗らしい抵抗はできない。
「動いたら殺すぞと言った」
カツ、顔の横にクナイが刺さる。
やばい。
殺される。
どうすれば。
「動くなよ」
胸が爆発しそうなくらい心臓は強く波打っている。この感情は、覚えがある。手が震える。足もろくにいうことを聞かない。背中を伝う汗が冷たい……恐怖。この感情は、恐怖だ。
「なに、毎日お前らがしてることをするだけだ。楽しもうぜ。」
黒い手の主がサスケの服に手を入れ、乳首を弄ぶ。
「っひ」
思わず引きつった声が出た。
さわさわと動き回る手が気持ち悪い。
その手はサスケのズボンに手をかけ、中のものを取り出して荒っぽく扱くが、それが反応することはなかった。当たり前だ、殺すと脅されながら勃つものではない。
「俺はいつもよぉ」
顔も見えないそいつがサスケの耳元でささやく。ねっとりとした吐息とともに。
「お前らのセックス の声聞いて、せんずりこいてんだよ。こんな壁の薄いアパートでやりたい放題やりやがって。」
考えたこともなかった。
そういえば、カカシとしている時、声を抑えるなんてしていない。隣の部屋にはきっと丸聞こえだ。そんな状態でカカシとしていた自分に愕然とした。少なくともこのアパートの住人は、サスケが毎日ナニをされているのか、知っているんだ。
盗まれるものなんてないと思っていた。
奪われる何かなんてもう、持っていないと思っていた。
愕然としている間に、腕は縛られ、口は猿轡のようのもので縛られ、壁際に吊るされていた。サスケは殺気にあてられ抵抗もできず、ただ混乱の中にいた。
なにをするつもりだ
目的はなんだ
なんで俺なんだ
なにをされるんだ
――どこまで、されるんだ?
ズボンが脱がされる。腰を後ろにグイッと引かれ、お尻を突き出すような姿勢になった。
こわい、こわい、こわい。
おそらくローションをつけたぬるりとした手が、肛門を広げ、その指をするりと入れる。
「んん………!!」
いやだ、カカシ、カカシ、誰か、
そのサスケの願いが届いたのか、アパートの階段を登る足音が聞こえて来る。
「喋るなよ」
首筋にクナイをピタリとつけ、それでも後ろの穴に入る指を動かすのは止めない。
「っ………!」
足音はサスケの部屋の前で止まった。
「暗い……まだ帰ってない?」
カカシの声が、扉を一枚隔てた向こうから、聞こえてくる。
カカシ、
声を発せようにも、喉仏が動くだけで喉を引き裂きそうな位置にクナイがある。
「なが乃かなぁー」
言いながら、カカシはドアノブを回した。
しかし、扉は開かない。
「ん……」
扉の向こうの気配が逡巡した、その直後だった。
ドン! と音がしたかと思うと、サスケに突き付けられていたクナイがカランと落ちた。
「……!?」
「くっ何が……! ぐぁっ」
いつの間にか、台所の窓が開いていた。黒い影を組み伏せる、銀色の髪。少ない光量のなかで、必死にその姿を見るが、カカシ、と思われる影が、何者かを床に縫い付けていることしかわからなかった。
「サスケんちはね、台所も鍵かかってないのよ」
玄関の向こうにあったカカシの気配がスッと消える。影分身だ。
「色々と言いたいことはあるんだけど」
普段と変わりなかったカカシの声に、じわりと怒気がはらむ。
「ただの上忍ごときが俺を出し抜けると思うなよ」
ガンっ
「ぎやあ、あ、うあああ!! や、やめ、」
悲鳴が響く、ザン、と何かを切り落とす音がする。
「うわあああああっ!!」
想像したくないが、多分、想像通りのことが起きている。
「ふぁふぁひ!」
猿轡のせいで、言葉にならない。
「ちょーっと待っててね、ちょっとだけ。」
カカシは玄関の鍵を開けると、血に塗れた影を蹴り出した。
「あ、あああ! うああ!!」
「黙れよ、殺すぞ」
カカシの殺気がうずくまる影に向けられる。額当てをずらし、写輪眼を出した。
「一晩中、死に続けろ」
どんな幻術を使ったのかはわからない、が、パチリと室内の電気がつけられた時、そいつを改めて見ると、血まみれの股間を手で覆いながらピクピクと痙攣していた。
「あ……」
サスケの縄と猿轡が解かれる。ズボンも履いてから、カカシはサスケをギュッと抱きしめた。
「カカシ、俺、こんな、」
汚されてしまった。
見も知らぬ誰かに、大切なところを見られて、弄ばれてしまった。
「…………」
カカシは口を開かず、ただ腕に力を込める。
「ごめん、俺、おれ……」
あんな奴にいいようにされてしまった。
サスケが謝ることじゃない、と言いたかった。もう大丈夫、安心して、と声をかけたかった。
でも強烈な怒りが消えなくて、カカシは何も言えなかった。あんな奴に、いいようにされて――。
「シャワー、浴びよ?」
やっと捻り出した言葉に、サスケは小さく頷いた。
熱いシャワーが浴室を蒸気で満たしていく。
「何、された?」
カカシがサスケの身体を洗う。丁寧に、丁寧に。
「ちんちん、触られて……」
カカシがサスケのそこに手を伸ばす。
きめ細やかな泡でつつみこみ、シチュシチュと上下に手を動かす。
「ッカカ、んっ……」
サスケは思わず声を出したが、慌てて抑える。喘ぎ声が近所に聞かれるのは、もういやだ。
「それで?」
背中に、カカシのものが当たっている。
サスケのものも、カカシの手でカチカチに硬くなっていた。
「……けつの穴に、指、入れられた。」
ふーん、カカシは無機質な相槌を打ちながら、サスケのお尻に泡を撫でつける。後ろの穴にそっと中指をあてがって、ずぷぷ……とゆっくり挿入していった。
「っふ、んんっ……ぁっ」
細長いカカシの指が穴の中に収まると、今度はその指を抜き差しして、サスケの感じる場所を刺激する。
「カカ、シッ、い、いれられただけでっ、そこまで、してない……!」
サスケは壁にしがみつき、カカシの指に翻弄されながら、湧き上がる快感で頭がおかしくなりそうなのを必死でこらえた。
「カ、カシ、あぅっ、あっ……! もう、やめっ、ぅあっ」.
ぐり、と強く刺激される。
「っ――!!」
サスケの精液が勢いよく飛び散った。
「は、ぁ、はぁ、カカシ……かか、し」
サスケが後ろを振り向くと、カカシは怒っているような、悲しんでいるような、なんとも言えない顔でサスケの身体から指をゆっくりと引き抜いた。
「っん……」
敏感になっているそこに、サスケが小さく反応する。
「ごめん、俺が」
配慮が足りていなかった。危険性の予測が足りていなかった。来るのが遅かった。
そんな自分に腹が立つ。
サスケを責める気はない。十二歳の、下忍になったばかりの子に、多くを求めるのは無茶だ。
サスケは黙ってうつむいた。怖かった、なんて子どもみたいなこと、言えない。恐怖で身体が動かせなかったなんて。死ぬのが怖かったなんて。
俺は、なんて、弱いんだ。
サスケの拳がギュッと結ばれる。情けない。カカシに見せる顔がない……。
「俺、もうシャワー出る」
浴室の扉に手をかけたが、筋肉質な腕に阻まれた。ちらりと背後を伺うが、前髪に隠れてカカシの表情が読めない。
「カカ……」
腕を引かれる。カカシの胸に、サスケの頭がポンと当たった。
「ごめん、サスケ。お前は悪くない。」
背中に手が回され、カカシはギュッとサスケを抱擁する。
「あのさ、明日から」
「……?」
「俺んちに、引っ越さない? ここ、引き払ってさ。」
カカシが住む家には、よほどのことがない限り、手を出そうとする輩は来ない。それに、少なくともサスケのアパートよりは、防音性も高い。
サスケを抱きしめるカカシの腕は、少しだけ震えていた。
「明日、任務あるじゃねぇか。」
「サスケんち、ほとんど家具とかないから、大丈夫だよ。」
サスケもカカシの背中に手を回す。
「……決まり、ね」
「ん……」
カカシはサスケの顎をくいとあげると、その口にしゃぶりついた。シャワーの音でかき消されるキスの音。
再び、後ろの穴をカカシの指が弄る。
「サスケの顔、見ながらしていい?」
返事を待たずに、カカシはサスケを持ち上げた。
「え、あ、っあ、っ、」
ズブブと、ゆっくりカカシのものがサスケに入っていく。
「あっ――!」
サスケはカカシの首にしがみつき、その刺激に耐えた。しかし、カカシはサスケがカカシの胸に顔を埋めることを許さなかった。
「見せて、顔」
真剣な眼差しに、どうしたらいいかわからない。耳まで顔を真っ赤に染めたサスケは、カカシから視線を逸らし、突き上げられる刺激から逃れようと腰をくねらせた。でもその動きは、カカシにとって心地よさしかない。
「はぁっ、あ、んんっ、う、っ!」
なるべく声を殺すサスケに対して、カカシは理不尽なほど激しく突き上げる。
軽い身体。痩せて、小さい、まだ子どもの身体。この子にセックスを教えたのは俺だ。そのせいで危険な目に遭ったのはこの子だ。
腹が立つ、自分に。でもこの感情をどう処理したらいいのか、わからなかった。
「ごめ、もういく……」
「ぁっ、は、あぁっ、あ! んんっ、カカ、シッ……!」
「いく、いくよ、サスケ、……っ!」
カカシはサスケの中に、一段と、深く貫く。
「っあ――――!!」
ドクン、ドクンとサスケの中にカカシの精液がほとばしった。
カカシはぐったりとしなだれるサスケを抱きしめ、もう一度名前を呼ぶ。
「サスケ。二度と、こんなことが起きないようにする。絶対に、お前を守る。」
そして、いつも閉じている左目を開けた。
「辛い記憶は、消してあげるから」
「まっ……!」
ギリギリで、目を逸らした。大丈夫、多分術にはかかっていない。
「それは、ずるいだろ、カカシ! あんただけ、背負うつもりかよ!」
顔を伏せて、怒鳴る。しまった、と思った。こんなに大きい声を出したら、また誰かに聞かれる。
「バカか、ウスラトンカチ、あほ!」
カカシの腕の中で暴れると、拘束がゆるみ、その中から脱出できた。と同時に、まだサスケの中にあったカカシのものがずるりと抜ける。その感覚に、背中が痺れる。
「……っ! あんた、ほんと、バカじゃねーの、バカだバカ。あほ、ダメ人間!」
うつむいたまま、カカシの胸板を叩く。うろたえるカカシに、サスケが続ける。
「俺の痛みを、俺の感情を、俺の責任を、勝手に持っていこうとするな。」
「ご、ごめ……、そんなつもりじゃ」
「そんなつもりじゃねーか、そんなこともわかんねーほどガキじゃねえよ!」
シャワーヘッドをつかんで、身体をささっと流し、今度こそ浴室の戸を開く。
「俺は、弱いけど、そんなに弱い人間じゃねえっ!」
バタン!
乱暴にしめられた戸を、カカシは呆然と見つめる。
なんで俺って、こんな情けない人間なんだろう。子どもだと、守ってやらなきゃいけないんだと、辛いことは消してしまおうと、そんなことを思うということは、俺はサスケを下に見ていた。でもサスケは俺の思っているような子どもじゃないんだ。そう感じ始めたところで、サスケから追い討ちがきた。
「わけがわかるまで、出てくるなよウスラトンカチ!」
流れ続けるシャワーは、小一時間カカシに降り注いだ。