あの頃のぼくら

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成人向,長編,原作軸,完結済み,カカサス小説エロ,オリジナル設定有,シリアス,ほのぼの,甘々

はじめてのデート

 嬉しくて嬉しくてやりまくってしまった結果、サスケは力尽きて結局俺のベッドで朝を迎えた。
 そして俺はというと、隣で眠るサスケが可愛くて愛おしくてずーっと寝顔を見てニヤニヤしていたら気がついたときには朝だった。
「ん……」
 サスケが身動ぐ。ぼんやりと目を開けたから、「おはよう」と笑いかけた。
 ふかふかの布団、温かい声、そしてカカシ。
「おは……っ!?」
 サスケはガバッと跳ね起きた。
 服を着ていない自分に気づく。いや、カカシも見たところ裸だ。どういうことだ? ここは……?
 ……そうだ、カカシの家だ。
「いっ……つぅ」
 股関節が痛い。そうだ、そうだ昨日の夜、帰ってきてから、シャワーを浴びて、それで、……それで。
「あんたっ、あんた、節操ってもんがないのかよ!!」
 昨晩言えなかったことがようやく言えた。
 もう無理、と言うサスケに、俺も無理、とやり続けたカカシを睨みつける。
「ごめんって~、でもサスケも、気持ちよかったでしょ?」
「そういう問題じゃねえよ、ウスラトンカチが!」
 真っ赤になったサスケは、さっさとベッドから降りて、服を着込み始めた。
 ああ、なんで可愛いんだ。その後ろ姿を抱きしめるカカシ。手は淫猥な動きでサスケの乳首と、股間を弄る。サスケの背中に、カカシの硬いものが当たっている。
「お、おい、カカシ?」
「朝立ちからのセックスもいいんじゃないかなぁ~なんて」
 服の上から、サスケのものをカリ、と爪で刺激した。
「~~っ! いい加減にしろ!!」
 すると、どこに隠し持っていたのか、カカシの顔めがけて、手裏剣が飛んでくる。
 さらりと避けると、それはベッドの奥の壁に刺さった。
 怒ってるところも、リスみたいでかわいいなぁ。
 ニコニコしているカカシに、今度は拳が迫る。顔に直撃する寸前に両手で受けて、その威力にさすがに少し反省した。
「ごめんごめん、もうしないから。許して?」
 ふん。
 サスケはジトッとした目で睨みつけると、台所に向かっていった。
 
 コップに水を注ぎ、ぐいっと飲み干す。
 まさかカカシがあんなに何回もやるとは思ってもみなかった。いつもは一回だけだったし。股関節はまだガクガクする。あんなポーズで何時間もやってれば当然こうなる。気持ちよかったのは確かに事実だけれど、と思うと顔が上気してくる。
 決めた、今日は絶対にやらない、やらせない!
 というサスケの思いとは裏腹に、カカシは今日はどんなセックスしようか、と考えていた。
 同棲を始めてから、はじめての朝。
「それでさ、今日は足りないものを買いに行こうよ。」
 いつもの服に着替えたカカシが、額当てを付けながら言う。上忍はいつ任務の打診があるか分からないから、休日でも基本的にはいつでもこのスタイルだ。
 サスケは額当てをつけるかどうか少し考えて、今日はしないことにした。
「俺も、買いたいものがある。あんたの台所、使わせてもらうぞ。」
 酎ハイ保管庫と化しているシステムキッチンを、使えるようにしたいと。
「ついでに、食材も買いたいし」
 これまでガスコンロすらなかったから、きちんとしたキッチン設備が整っているカカシの部屋にいると、なが乃で学んだことを実践したくなる。そのためには調理器具を揃えて、調味料なんかも買わなければ。
 買い物に行こう、という点が一致したところで、さっそく出かける準備を始めた。
 サスケは大切にとっておいた口座の通帳の残高を確認する。貯金ってのは、こういうときに、使うもんだよな。
 日々の生活費はなんとか下忍の給料だけでやりくりができているから、今までに貯めていたお金には手をつけずにいられている。
 肩掛け鞄に財布と、通帳を。ハンカチとティッシュ、それに鍵もポケットに入れる。
「行くか」
「行こっか」
 カカシはサスケに手を差し出した。その意味を考えて、少しだけ迷ってから、カカシの手を取った。大きくて、ちょっとひんやりしている、いつものカカシの手だ。
「とりあえず、商店街に行こうか」
 カカシが繁華街に足を向ける。カカシの部屋は里の中枢に近い場所にあった。ここからいちばん近い商店街には、当然ながら里の関係者がたくさんいる。
「なぁ、行くなら、別の商店街にしないか。見られたら、あんたやばいんじゃねえの?」
 繋いだ手はそのままに、サスケがカカシを見上げる。
 ふむ、確かに。
 里の関係者がいることを警戒してサスケがこの手を離してしまっては、せっかくのデートなのに興が削がれる。
「じゃ、あそこにするか。ちょっとお高い土地柄だから、売ってるものも高そうだけど。」
 ピッと指を刺した方向には、火の国の中でも大名や大商人の屋敷が多い地区がある。
「いや、いや待て」
 サスケが「高そう」に反応した。
「出来るだけ、安く済ませたい。そこはだめだ。あと忍者の格好したあんたがあそこにいると、目立ちすぎる。」
 カカシが、いつもの忍服なのを見て、なるほどとうなずく。
「行くなら、あっちだ。」
 サスケは反対側を指差した。そちらには火の国でいちばん賑わう、屋台や商店が立ち並ぶ地区がある。
「でもさ、そっちだと、他の下忍の子とかいそうじゃない?」
 いちばん賑わっているために、いちばん知り合いに会いやすいのもその地区だろう。一楽もそちらにある。特に今日休みのナルトやサクラがいてもおかしくない。見つかったら言い訳が面倒だ。
「ん~~……どうしよっかね」
 カカシが考え込む。
「……やっぱ、近所のほうが無難だな。あいつらに見つかるくらいなら、中枢の人間の方がマシだ。どうせ前の部屋引き払ったら、その後の住居は申告が必要だし。いつかバレる。」
 バレたときに、サスケに手を出したカカシがどうなるのかは未知数ではあるが。
「それか、どっちかが変化の術使うとか……」
「えっだめ、それはだめ、だってサスケと一緒に見知らぬ人間が歩いてたらそれこそ里が警戒するし、サスケが変化しちゃったら、せっかくのサスケとのデートなのに俺が楽しめないじゃん。」
 俺はあくまでサスケとデートしたいの、と真剣に言う。
「……ま、あれだ。」
 カカシは、すでに上層部にはカカシとサスケの関係は筒抜けだろうと踏んでいた。だからこの場合一番いい選択は。
「やっぱここからいちばん近いとこにしよう。いても上忍だろうし。俺がちゃんと、なんとか誤魔化すよ。」
 サスケはじーっとカカシの顔を見つめ、少し横に視線をずらした後、「カカシがそう言うなら」と、最初に提案した繁華街に向き直した。
 
「まずはね、大きいものから買うのよ、こういうときはね。食材とかは、一番最後。」
 言いながら、家具屋に入っていくカカシの半歩後ろをサスケがついていく。もちろん手は握ったまま。
 カカシはベッドのある区画に来ると、ふむ、と考え始めた。
 俺も万年寝不足だし、一日の1/3を過ごす場所だし、この際ちょっと奮発していいベッドを買ってもいいかもしれない。
 サスケは、カカシが見つめているベッドの値段を見て落ち着かなかった。シングルなのに、十万とか、二十万とか、それが安い方なのだ。
 俺の布団、いくらだった? 掛け敷き枕付きで一万円もしなかったよな?
「ウォーターベッドもありか……」
 カカシが呟いたのを、聞き逃さなかった。
 ウォーターベッドってあれだろ、海外のコメディドラマでトラブルが起きるとすぐに水がピューピュー出るやつだろ?
「俺は普通のがいいと思う」
 今朝手裏剣を投げたばかりだ、今後何を思わず投げてしまうかわからない。それだけはダメだ。
「うーん、こういうのは寝てみて決めるのもアリだよねぇ」
 ウォーターベッドを諦めきれない様子のカカシが、店の人を呼ぶ。
「はい、なんでしょう」
「ちょっと、横になってみていいかな?」
「もちろんです、こちらで靴をお脱ぎになってください。」店員がいそいそと椅子を二つ並べる。
 カカシはそのうちのひとつに座ると、つないでいるサスケの手を引っ張り、椅子に誘った。
「二人で寝てみないと、わかんないでしょ」
「お、おう……」
 サスケはチラリと目の前のベッドの値段見る。
 二十八万円。
「あのーちなみにこれ、ダブルあります?」
 カカシが靴を脱ぎながら店員に尋ねる。
「ダブルもございますよ、お値段が四十万円になりますが……。」
 よんじゅうまん。
 サスケはその場で倒れそうなのをこらえて、平静を装った。
「どれどれ……」
 カカシがベッドに横になり、サスケも続いてカカシの隣に横になる。
 スプリングが効いているが、フワフワしすぎず、ギシギシと音が出ることもない。横になたっただけで「あ、このベッドなら寝れる」と多幸感が溢れてきた。
 他にもいくつか試した後、最終的にはカカシがどれかに決めた。値段は聞かなかった。
「んじゃ次、サスケのタンスだけど……」
「そんなに服ねぇし、安いのでいいぞ。これとか。」
 サスケが指をさしたのは、特価品の五段衣装ケース。タンスというよりは、何でも入れのような。
「うーん、うちの雰囲気に合わないから却下!」
 しかし、カカシに却下される。
 本当にこのくらいで大丈夫なのに、と思っていると、カカシが「これとか、どう?」とサスケを誘った。
 桐のタンスだ。上の段には小物を入れる小さめの引き出しが三つついていて、クナイや手裏剣を入れるのに良さそうだった。
 二段目からは二つの引き出し、下の方の二段は着物も収納できるようになっている。
 とてもいい品だとはわかるが、どうしても値札に目がいってしまう。十万円。
「おい、カカシ、俺あんまり持ってないぞ」
「そんなこと気にしなくていーいの。俺が俺の部屋に置きたい家具を選んでるんだから。」
 でも使うのはサスケだ。これから十万円と思いながらこのタンスを使うのはちょっと勇気がいる。
「店員さん、ベッドも買ったんだし、これちょっとまけてくんない?」
 カカシが店員に笑顔を向けると、店員は「そうですね……」と電卓を叩き始めた。
「八万八千円まででしたら。」
「もう一声!」
「うーん、では、八万五千円で」
「できたら端数切って欲しいんだけどな~」
「うっ、八万円……ですか。少々、お待ち下さい。」
 苦い顔をした店員が奥に入っていく。しばらくして、初老の男性と連れ立って戻ってきた。
 初老の男性はカカシを見るなり、「おや」と目を丸くする。そして、隣にいるサスケも見て、なるほどと言わんばかりに髭を触った。
「お久しぶりですね、カカシさん」
「どーもー、毎度でーす」
 この二人はどうやら顔見知りのようだ。
「今回は、ベッドとタンスですね。毎度ありがとうございます。」
 さて、と店員のメモを見ながら電卓を叩く。
「そうですね、新生活が始まるとお察ししました。私からのお祝いの気持ちも込めて、合わせてこの金額でどうでしょう?」
 カカシは提示された電卓の数字を見ると、ニコッと笑って「わかりました、では、これで」とカードを渡した。いくらになったのかは、サスケは見ない方がいいと判断して、他の家具を眺めるフリをしていた。
「配送なんですけどね、出来たら今日中か明日、夕方以降がいいなぁ。あ、それとついでに古いベッドの処分をお願いしたいんですけど」
「はいはい、ちょっと待ってくださいね、ええと――うん、今日の十七時過ぎなら伺えますよ。ではお住まいの住所とご連絡先をこちらに書いて頂いて……」
 諸々の手続きが終わり、カカシとサスケは家具屋を後にした。
「ほら、」とカカシが手を出す。
 サスケは黙ってその手を握った。
 次に立ち寄ったのは調理器具のお店だ。なが乃の女将さんに勧めてもらった、比較的安価なお店だという。
 ここではカカシに出させない、と、サスケは財布を握り締めた。
 まずは包丁とまな板、鍋を大小二つ、フライパン二つ……菜箸やお玉、フライ返しなどもカゴに詰めていく。
(安い店でも、このくらいはするのか)
 頭の中で計算しながら、何でもかんでも買えるわけではないので、必要なものを取捨選択してショッピングカートに入れていく。
「結構、すごい量だね。」
 カートを覗きながらカカシが呟く。確かに持ち帰るのが大変そうだ。
「そうだな。」
 この分だとサスケの両手で持ち切れるかわからない。
 チラリとカカシを伺うと、カカシはニコッと笑って親指を立てた。
「ま、二人ならなんとかなるでしょ」
 サスケはほっとする。
 カカシはサスケの欲しいときに、欲しいものをくれる。いらないときにも無理やりよこすのが問題でもあるけれど、サスケはその度にほっとする。安心、そう。あの事件があってから感じることのなかった安心感を、いつもカカシはくれる。
 
 レジにカートを横付けすると、サスケはカカシが財布を出そうとするのを制して、自分の財布を取り出した。
「俺が欲しいものなんだから、これは俺が買う。」
 カカシは「えー、甘えてもいいんだよ?」と言いながらも、すんなり引き下がった。
 何でも与えられてばかりでは対等な関係とは言えないし、ただ甘えるだけの関係をサスケが望んでいるとも思わないからだ。
 一応、上司として、先輩として、年長者として、財布を出しただけで、サスケが嫌がるのはわかっていたから、さっさと戻した。
「全部で七万八千五百円だね。この包丁は切れ味が悪くなったら向かいの磨屋に行くといいよ。ま、見たところ下忍さんのようだから、手裏剣なんかと同じように自分で研いでもいいけどね。」
 サスケは財布からデビッドカードを出すと、店員に渡した。このカードはわざわざ口座からお金を下ろしておく必要がないから、大金を持ち歩かずに済むので、サスケはよく使う。一応下忍になるとクレジットカードも持てるようになるのだが、借金をするのは嫌で作っていない。
「はい、はい、デビッドね」
 店員も慣れた手つきで決済をする。その間に、買ったものを段ボール箱に詰めていく。先に大きいものから。アカデミーの何かの授業で見た、壺の中に石を入れて……というものを思い出す。
 最初は大きい石を入れる。入り切らなくなったとき、「この壺はもう何も入らないですか」と教師が問う。大半の生徒が「入らない」と答えたのを確認した後、教師は小石を壺の中に入れていき、更に「この壺はもう何も入らないですか」と問う。半分くらいの生徒は「入らない」と答える。最後に教師は砂を壺に入れていく。
 これがもし逆であれば、砂が壺にいっぱいになった後は、小石も石も入れることができない。
 教師が何を言いたかったかというと、自分の心の中にまずは一番大きな希望を入れなさいということだった。心にはキャパシティがあって、砂のような雑多なことをごちゃごちゃ詰め込んでしまうと大きな気持ちを入れられない。ときめきやわくわく、心が動くものをまず大切にして、雑多なことは隙間に詰め込んでおけばいいという話だ。
 けれどサスケは、普通に実用的な知識としてこの話を聞いていた。それで、箱詰めもそのような詰め方をしている。鍋類やボウル、ザルなどの大きいものを先に。まな板は隙間。お玉や包丁、菜箸は最後だ。
「はい、終わったよ」
 店のおばちゃんがデビッドカードをピッとサスケに渡す。
「ありがとうございます」
 サスケは受け取って、財布にしまい、箱詰めも終えた。この量で三箱に収まったのはまあまあじゃないだろうか。
 ちょっとした達成感に、フンと鼻を鳴らすと、長い手が伸びてきて箱を二つひょいと持ち上げた。カカシだ。
「俺の荷物だ、俺が二箱持つ」
「え~、多分サスケがふたつはキツいと思うよ?」
 重いのなんか平気だ。舐めてやがる!
 ムッとしたサスケがカカシの持つ箱に手を伸ばす。
「キツくなんかない、よこせ。」
 持ってみたら、やはり全く重くない。子ども扱いしやがって。思いながら、下に置いてある箱に重ねて、下の箱を持ち上げたときだった。サスケはカカシの言っている意味がわかった。
(………前が全然見えない)
「キツいでしょ?」
 キツくない、と言った手前、すぐ掌を返すわけにはいかない。
「大丈夫だ」
「前、見える?」
「大丈夫だ!」
 フン、と鼻を鳴らす。
 カカシはおもむろに荷物を下ろすと、サスケの持っている箱をひとつさらって、自分が持っていた箱に乗せ、もう一度持ち上げた。
「大丈夫だって言っただろ!」
「俺は大丈夫じゃないもん、せっかくのデートなのにサスケの顔が見えなくなっちゃうのはさ。」
 口をパクパクさせて、赤くなるサスケ。思いがけずいい顔が見れたカカシは上機嫌だ。
「さ、この荷物をまず家に置きにいこっか」
 このままでは、他の買い物ができない。調理器具だけでは、料理ができない。それでは意味がない。
「……わかったよ」
 まだ耳が赤いサスケと並んで、一旦家路に着く。
 こんな日がいつまでも続いたらいいのに、と思いながら。