あの頃のぼくら
つながる想い
「サスケ君ってさぁ、最近変わったよね。」
お弁当を食べながら、サクラはカカシに話しかける。
「どの辺が?」
イチャパラのページをめくりながら、カカシは内心ドキドキしていた。
「アカデミーのとき、サスケ君ってすごくクールで、こんなに表情見せてくれることもなかったし。あ! もちろんクールなサスケ君も今のサスケ君も素敵なんだけど……何だろう、今の方が自然な感じがする。」
ふむ、イチャパラから目を離し、サスケを見る。
ナルトと何やら喋りながらおにぎりを食べていた。
以前のサスケなら「うざい」の一言で遠ざけていたであろうところを、ちゃんとナルトに対して反応を返している。
ちなみにお弁当が貧相だという言い合いをしているらしかった。
「おにぎり二個の方がしょぼいだろ!」
「このおにぎりは特別性だ! お前こそ何だそれ、野菜が入ってねえ」
「サスケだって入ってねーじゃん!」
「よく見ろ、トマトがあるじゃねーか!」
程度の低い言い争いに、思わず苦笑する。
「波の国以降ちょっとギクシャクしてたけど、心配いらないみたいね。」
くだらない言い合いは仲のいい証拠だ。
うんうん、とサクラも頷く。
(やっぱり、同世代のナルトの方が、サスケには良いのかな……)
カカシは少しだけ複雑な胸中で家路についていた。サスケの転居届をカカシの家で出したことで、アレコレ聞かれて参ってもいた。
まあ、これは避けられないことだから仕方がない。やましいことはしていない……と言いたいところだが、がっつりやましいことをしてしまっているので、話に整合性を持たせるために事前に想定問答を作っておいたのが役に立った。
(サスケ……今日は修行してから帰るって言ってたなぁ)
カカシの家に住むにあたって、サスケは家賃がわりに食事を作ることになっていた。そして毎日できるだけ一緒にごはんを食べよう、というのが一応のルールだ。
だいぶキッチンの使い勝手に慣れてきていて、和食ならほとんどカバーできているくらいの腕前になっている。
(もう、帰ってるよな? )
トン、トン、トン、と階段を上っていくと、我が家の換気扇が回っている音に気づく。
(ああ、やっぱり。)
換気扇の音とともに、出汁の良い香りが漂ってくる。
玄関の前で鍵を出そうとポケットを探っていると、ガチャ、と音がして、玄関の扉が内側から開かれた。
「カカシ、おかえり」
俺の気配に気づいたサスケが鍵を開けてくれたのだ。
まあ、そう仕向けるようわざと足音を立てて階段を登ってきたのはカカシであるが。
サスケはカカシを迎え入れるとパタパタとキッチンに戻っていった。
カカシは靴を脱ぐと、額当てを外してタンスの上に置く。口布も下ろして、ふぅ、と一息ついた。
「サスケ、修行はどうだった?」
「ああ、そういえばあんたに聞いておきたいことがあって」
「なんかあったの?」
「今、毎朝修行に付き合ってくれてるだろ。」
「ちょびっとだけね。」
「それを二日に一回にして、カカシの修行はインプット、で、カカシがいない日はアウトプット、みたいに分けた方が効率がいい気がして。」
ふむ、確かに一理ある。
でもサスケがカカシから少しずつ離れていってしまうようで、チクリと胸が痛んだ。
「そういうことなら、試しにそうしよっか。」
味噌汁の味見をしながら、サスケは「ああ、頼む」と短く答える。
サスケにとって、俺ってどんな存在?
聞きたくて、聴けないでいる。
恋人同士、先生と生徒、上司と部下、それとも親と子?
「サスケ、いつもごはんありがとね。」
「何言ってんだよ、約束しただろ。」
家賃がわりに食事を作る。
確かに約束した。
約束したからサスケはごはんを作る。
約束した当人なのに、なぜか心がチクチクと痛む。
「もう出来るから、座って待っててくれ」
魚を焼くいい香りが漂ってきた。今日はサンマかな。
「それじゃ、待ってるね。」
ローテーブルの前に座り、カカシはイチャパラを取り出す。
ちょうどそこは「致している」シーンで、それがサスケに見えて、ドキドキしながらページをめくる。
(サスケとしたいなぁ……)
膨らみかけた股間に気づき、慌てて本を閉じた。
まだ食事の時間だ、お楽しみは、そのあと。
サスケが味噌汁とごはんをローテーブルに運んでくる。いつもながら、彩があって美味しそうだ。
香の物とサンマの塩焼きも並んで、サスケが向かいに座り、手を合わせる。
「いただきます」
カカシも手を合わせた。
「いただきます。今日も美味しそうだなぁ。」
味噌汁をすすって、ふぅ、と息を吐いた。
「サスケのこのお味噌汁飲むたびに、幸せになれるんだよねぇ。」
ニコ、とカカシが笑いかけると、サスケは目を丸くして、傍に視線を逸らし、何か言いたげに口を開いてから、それを飲み込む。
(なんて、言おうとしたのかなぁ)
カカシは、いつもサスケの欲しいものを、言葉をくれる。
ありがとう。嬉しい。俺も、あんたに食べてもらえるのが幸せだと、言いたくなっては飲み込む。
あんたは俺のどんな言葉が欲しい? どうされると嬉しい?
他人のことを、こんなに考えるのは初めてかもしれない。
チラリとカカシを見ると、カカシはニコ、と笑う。目が合うだけで嬉しい。心が満たされる。まるで家族みたいに。
家族、家族。
俺は、何を考えてるんだ。カカシをなんだと思ってるんだ。俺にとってカカシは何なんだ……?
「ごちそうさま、食器下げるの手伝うよ。」
「おう……サンキュ。」
まだサスケはどうするのがいいのかわからないでいた。
カカシとどんな会話をする? どんな顔をして? 俺とカカシの関係って何なんだ?
一緒に住んで、ごはんを作って、……セックスをして。
「サスケはもうシャワー……浴びちゃってるよね、修行してたんなら。」
カカシは「今日は一人かー」と言いながら風呂場に向かう。
サスケは手早く洗い物を処理しながら、モヤモヤとした気持ちが晴れないでいた。
自分の気持ちがわからない。
ただカカシと手をつなぐと、声を聞くと、肌に触れると、安心する。……ああ、そうか、これはあの事件の前に兄さんに抱いていた気持ちに似ているんだ。
じゃあ、カカシは……カカシは、俺にとってイタチの代わりなのか……?
修行をつけて欲しかった。もっと一緒にいたかった。もっと喋りたかった。もっと認められたかった。そして自慢したかった。兄さんはすごいんだと。
カカシが笑いかけてくれるたびに、優しかった兄さんの困ったような笑顔が脳裏に浮かぶ。
サスケは首を振る。
違う、カカシにそんなこと求めていない。
イタチはイタチ、カカシはカカシだ。
違う。……違う、のに。なんで今、イタチのことばかり頭に浮かぶんだろう。
憎むべき男。一族を滅ぼした存在。俺に呪いをかけた、実の兄。
「くそっ」
サスケは水を止めて、割烹着を脱ぐ。その下はもう寝間着だ。
リビングの明かりを消して、寝室に向かう。ちょうどそこに、カカシがシャワーを終えて顔を出した。
「サスケー、悪いけど、バスタオルとってくんない? 持ってくの忘れちゃって。」
ああ、くそ、どんな顔したらいいんだ。丁寧に畳まれたバスタオルを、カカシに渡す。顔は伏せたまま。
(……なんか、あったのかな? )
カカシはゴソゴソと髪を乾かしながら、サスケが黙って寝室に行くのを見守った。
ベッドの中で、サスケは腕で顔を隠すように横になっていた。
「もう、寝ちゃった?」
カカシが小声で尋ねるが、返事はない。
無言でベッドサイドに腰を下ろし、サスケの髪の毛をすくってキスをした。
「おやすみ、サスケ」
そしてカカシも布団をかぶる。
サクラとナルトがいるときのサスケは自然体だ。年相応の子どもって感じがする。でも、カカシと一緒にいるときは、なんだか喉に言いたいことが引っかかってなかなか出てこないように感じる。
俺じゃ、頼りないのだろうか。いや、決して自分が頼りがいのあるタイプであるとは思わないが、何を考えてるのか気になるし、なによりサスケが心配だった。
もしかしたら、俺との生活を後悔している、としたらどうしよう。
ゴソゴソと布団の中に入り、サスケの方を向いて抱きしめると、ピク、と手が動く。
「サスケ、大好きだよ。」
サスケの首元に顔をうずめて、ギュッと抱きしめると、サスケが顔の上に載せていた手をどけて、カカシを見た。その目には、写輪眼が現れている。まるで泣いていたような顔で、サスケはカカシに抱きついた。
「サスケ……大丈夫? ……じゃ、ないね」
カカシを抱きしめたサスケは、その手をスルリと動かしてカカシのパジャマの裾から手を入れ、背中をなでる。
(あたたかい……)
「あの……その、サスケ君?」
カカシが戸惑いながらサスケの頬に手を添える。
「……あんたに触れてると、安心するんだ……だめか?」
(そんなの、反則じゃない? )
カカシはサスケの顎を掴み、キスをする。
サスケはカカシのキスに弱い。
「っん……、は、んぅ……」
ついばむように唇に触れ、舌を絡めて、どんどん深く、むさぼるようなキスをする。
サスケの顔は真っ赤になっていて、でも写輪眼はまだ消えていなかった。
サスケの服をたくし上げて、つつつ、と脇腹をさするとビクンと身体が跳ねる。脇腹の、肋骨の下がサスケの感じるポイントなのだ。
「ッカ、カシ……」
お互い寝間着がはだけて、肌と肌が重なる。
「俺、これ……好きだ、カカシの……」
「じゃ、脱ごっか」
カカシは起き上がって、バサリと寝衣を脱ぐ。
サスケもそうしようとしたが、カカシの手がするりと入ってきて、愛撫されながら脱がされた。
再び、抱きしめ合う。
「カカシ……」
イタチなんかじゃない。カカシだけだ。
こんなふうに肌を合わせて安心するのは、カカシだけ。やらしいことをしたいと思うのも、カカシだけ。
サスケの足に、カカシの勃起したものが当たっている。きっと俺も、同じだ。
サスケはカカシにチュッとキスをする。カカシもサスケにキスを返す。
「したい、サスケと。いい……?」
カカシの胸に顔をうずめて、サスケはコクリと頷いた。
「は……ぁっ、ん……」
お互いに股間をまさぐると、息が荒くなっていく。ズボンの中に手を差し込むと、それはしっかりと隆起していた。
サオをなでつけると、ピクンと反応する。そのままパンツとズボンをスルリと下ろす。
「カカシも……」
腰を少し浮かせると、サスケはカカシの下衣を足首まで下ろして、カカシのものをその口内におさめた。
「サスケっ……」
亀頭を丁寧に舐め、先端をチロチロと舐めると、奥までくわえこむ。
「はぁ、……ッサスケ、」
カカシと一緒になりたい。
イタチにはそんな感情は持っていなかった。
カカシだけに感じる気持ちだ。
サスケがカカシのものを解放すると、それは唾液でぬらぬらと濡れていた。カカシはそっとサスケを押し倒し、キスをする。ついばむようなキスではない、口内を蹂躙するキス。
「んぁ……は、ぁう……」
ベッドサイドのローションを手に垂らし、サスケの後ろの穴に手を這わせる。くにくにと穴の場所を確かめてから、カカシの長い中指がずぷずぷと入ってくる。
「んっ……く…」
十分に慣らして、指を増やす。前立腺を刺激すると、サスケの小さな身体が跳ねた。
「カカッシ、あっ!んんっ……っも、入れ、て、くれ……あぅっ!」
カカシは指をずるりと抜くと、サスケのそこにカチカチに勃起したそれをあてがった。
「挿れるよ、サスケ」
「あっ――あ、あっ、ん、っん!」
ゆっくりと、入れたり、抜いたりを繰り返しながら、ゆっくりと奥まで挿入する。
「サスケ……全部、入った。サスケの中に。」
ゆっくりとサスケが目を開ける。まだ写輪眼が赤く光る目。カカシの筋肉質な身体を、サスケはギュッと抱きしめた。それが合図かのように、カカシは腰を動かし始める。
「あっ、あ、はぅっ!ん、んんっ」
「サスケ、好き……好きだよ」
「あぅ……はっぁ、……れも……おれ、も」
サスケの中がキュウキュウと締まる。
「は……サスケ……、ナカ、すごい」
「んっあ、あっ!あ、あっん、……っぁ!」
カカシが好きだ。
カカシが好きだ。
どう伝えればいい?
どんな言葉を選べばいい?
身体が熱い、時折降りてくるカカシのキスで、頭が蕩けてしまう。カカシの腰の動きに、翻弄される。
「ッカシ、あ、あっ! あぅっ、ぁ、あっ!す、き……っ、あ、んっ!」
サスケの感じるところを、集中的に攻める。ビクンと小さな身体が跳ねて、喘ぎ声が一層高くなる。
「……っ、サスケっ、は……ぁ、サスケ、サスッ」
「も、出る、あ、あっ! あ、あっ、カカ、カカ、シ!」
カカシはサスケの奥深くを突いた。ビューッビューッと中で迸る。サスケも、同時に果てた。
「は……サスケ……」
「もう少し……」
「ん?」
「繋がったまま、もう少し、このまま……」
サスケがカカシをギュッと抱きしめる。カカシも、サスケの髪を撫でてから、ギュッと抱きしめた。
「俺、カカシが好きだ。あんたの肌に触れると、安心するんだ。幸せ、だと、思うんだ。でも俺は、俺はイタチを……」
「わかってる、わかってるよ、サスケ。大丈夫。お前がどうであれ、俺もお前が好きだから。大丈夫。」
しかし、ずっとサスケの中にあるカカシのものは、再び硬さを取り戻しつつあった。
「……ね、サスケ、あのさ、もう一回、ダメ?」
カカシの情けない声に、サスケはフッと笑う。
「ウスラトンカチだな、あんた……んっ」
カカシはゆっくりと、腰を動かし始めた。