価値

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2025年1月14日成人向,中編,原作軸,完結済み,カカサス小説エロ,シリアス,モブサス

なにができる

 カカシは再び応接室に連れてこられて、左右を護衛に挟まれていた。呆然と座っていた。さっきまで目にしていたもの、耳にしていたものは幻術だったのではないかと現実逃避をしようとしてもまだ耳に残っているサスケの喘ぎ声。
 扉が開いてあの男が向かいに腰を下ろす。
「実際に目にして、お分かりになったでしょう。僕と彼は今の関係をお互いに望んでいる。」
 何も言い返す気力がなかった。この男の言う通り、サスケは自らこの男とセックスをしにきている。止める事は出来ないと思い知らされた。
「ご理解いただけたのであれば、以後口出しは無用です。……聞いています?」
 サスケ
 サスケ……
 どうしてこんなことになったんだ
 何があってこの男と……
「ひとつ……尋ねる。いつからだ、この関係は。」
「さて……1ヶ月ほど前……でしたかね。」
「何がきっかけだ」
「ひとつじゃなかったんですか? まあ、いいでしょう。彼とは腐れ縁があって、お金に困っている風だったので誘いました。」
「金……金、か。」
「お分かりいただけたのなら、もうお引き取りください。」
 左右の護衛が両脇を掴んで無理やり立たせる。カカシはおぼつかない足取りで応接室を出て、両脇を抱えられたまま玄関まで連れてこられた。扉が開くと背中を蹴り飛ばされて前につんのめる。頭の中はサスケのことでいっぱいでどう家に帰ってきたのかも覚えていなかった。
 頭に染みついて離れないサスケの喘ぎ声、カカシのそこはずっと勃っていた。あのサスケが、あんなことをして、あんな声を。それに反応してしまっている自分にと腹が立つ。俺はサスケをそんな目で見ていない。サスケは大切な部下で教え子で、まだ下忍になりたての男の子で、性的対象としてなど見ていない。なのになぜあの声を思い返すと興奮するんだ。反応するんだ。――落ち着けまずは冷静になれ。
 サスケを止めるにはどうしたらいい。
 金を渡せば行かなくなるだろうか。
 それとも性的に満足させれば?
 ――腐れ縁、とは何だ。
 以前にも同じことをしていた?
 
 〝俺の身体にはもう価値なんて残っちゃいねえ〟
 
 孤児……を売っていた……あの組織……まさか。
 サスケの口から出てきた話だ、可能性はある。
 しかし証拠は何も残されていなかった。
 証拠……待て、うちは一族を監視していたカメラ、あれは今どうなっている。もしまだあるのであれば。
 ベストを着て足早に里の中枢に向かう。暗部しか知らない木の葉の秘密、うちは一族の監視任務。それに使われていた無数のカメラのうち、ひとつは一族の頭領だったフガクの家を映していた。つまり、サスケの家を。
「火影様、確認すべきことがあり、うちはの監視カメラの映像閲覧許可を頂きたい。」
 突然、執務室に入るなり早口で話すカカシに、三代目火影は目を見開く。
「火急の要件のようじゃが、何を確認したい。」
「先日の、小児性愛者買春組織……サスケが被害に遭っていた可能性がある。」
 火影の目が険しくなった。
「……許可しよう、行け。」
「ありがとうございます!」
 すぐに執務室を出て、暗部しか知らない隠し扉を潜り抜け、階段を降りる。
 いくつも並んでいる部屋の4つ目、扉を開けると一面にモニター。監視装置でサスケの家を監視するカメラの画面を映す。最後の記録は……、どういう、ことだ。今も監視カメラが動き続けている……?
 細かいことは後だ、事件後家に戻った時期……家に帰るサスケの姿、それを見送る暗部の影。早送りで再生する。家に帰るサスケ、家から出かけるサスケ、そして暗部の影、延々と見続けていると暗部ではない男の姿が画面に入ってきて再生を止める。
 これは誰だ。後ろ姿ではよくわからない。再生すると家の鍵を壊して中に入っていく。少しして、男の後ろにサスケがついて歩き家から出る様子が映し出される。再生を止めて男の顔を拡大する。……こいつ、不鮮明だがあの重要参考人の男……間違いない。
 二人の姿が画面から消えてまた早送りする。5時間後、また二人が現れた。男は玄関でサスケが中に入った後、その場を後にする。
 サスケはあそこで何らかの被害に遭っていた。間違いない。頻度は? 何回も? この日だけ?
 夜が明けるまで監視カメラの映像を見続けた。男はおおむね月に一回、サスケの元を訪れ連れ立って去っていった。最初はサスケが7歳の時。それがアカデミーを卒業する寸前、11歳まで続いていた。50回弱にわたる……。
 〝俺の身体にはもう価値なんて残っちゃいねえ〟
 何をされてきたんだ、何が起こっていたんだ、こんなに、幼いサスケに……。
 本人に聞いたところで……話はしてくれないだろう。あの商人……腐れ縁とやら、恐らくこの男と関係がある。しかしあいつもまた口を割るとは思えない、正式な手続きを経て尋問にかけようにも根拠が薄すぎる。
 孤児仲間……サスケと同期の。何か知っているだろうか。同期の孤児は……たったのふたり。ひとりはナルト……ナルトは恐らく「噂」のことがあるから被害に遭っていない。もうひとりの子……下忍になれずアカデミーに戻っている。話を聞きに行こう。
 朝も9時を回っていた。アカデミーに向かい教室の扉を開けて中に入る。机に伏してつまらなさそうに鉛筆を回しているその子に声をかけた。
「ちょっといい? 聞きたいことがあるんだけど。」
 その子は突然現れた俺に眉をひそめる。
「あんた、誰。」
「はたけカカシ、うちはサスケの上司だ。」
 サスケの名を聞いて、表情が警戒に変わった。
「俺から話すことなんて何もない。」
 孤児、サスケ、……金。
「タダでとは言わない、それなり情報料は渡そう。」
 その子は警戒の目をそのままに、「場所を変える」と立ち上がった。
「この前新聞に人身売買組織が摘発されたのが載ったのは知ってるかな。」
「新聞は見てないけど、仲間内では話題になった。で?」
「サスケがそこで被害に遭っていた可能性が出てきた。同じ孤児の君はどうだった、教えてくれ。」
「聞いてどうする、どっかにチクるのか。」
「俺の個人的な調査だ、誰にも言わないし秘密は守る。」
「……質問ひとつにつき二千円。」
「ありがとう、まず君も被害者かい?」
 頷く。
「サスケもそうだった?」
 頷く。
「あの牢屋に入れられた?」
「アカデミー生は消えると怪しまれるから別待遇だ。やることやったら家に帰される。」
「やること……ってのは何?」
「その質問は一万円。」
「わかった、渡そう。」
「仮面をつけた大人の男たちのいる部屋に連れて行かれて、1番高い金額をつけた男とベッドのある部屋に行って…………そいつの要求に応える。」
「具体的にはどんな?」
「一万円。」
「……わかった。それで。」
「ちんちん舐めたり、けつの穴に指とか、よくわからないやつとか……それでそいつのちんちんを入れられる。動かれて、ちんちん出し入れして、そいつが満足したら終わり。」
「……っみんな、そうだった?」
「知らない。多分、同じだと思う。」
「その大人の男の中に、こいつはいたか?」
 あの商人の顔写真を見せると、その子は眉をひそめた。
「……多分一番最初の奴、こいつだ。『キツネ』。」
「どんな奴だった」
「『はじめて』はいつもキツネに持って行かれる、って話し声を聞いた。他の奴と比べると……マシだったけど。聞いた話の通りならサスケの『はじめて』もこいつだと思う。」
 ……繋がった。
「……君たちは脅されてここに?」
「最初はそうだった、けど金を渡されるから、迎えが来たら自分から進んで行った。」
 ……金、金か、……それで孤児が都合が良かった訳か。
「……ありがとう。約束の情報料。」
 財布からお札を数えて、裸で渡す。奪い取るようにもぎ取って、金額を確認してからポケットに突っ込んだ。
「秘密は守れよ。」
「もちろんだ。」
 走り去る背中を見送って空を見上げ、顔を手で覆う。
 サスケは金と引き換えに性的虐待を受け続けていた。最初の相手がキツネ、あの商人だった。下忍になって金に困っていたサスケにあの商人が契約の話を持ち込んだ。サスケは自らそれに応じて金を得ながら身を売っている。

 ……どう解決したらいい、何から手をつける。
 キツネの摘発には証言が必要だがあの様子では話す子どもを見つけるのは難しそうだ。何せ自分が何をしてきたのか公にしなければならない。そんな子はきっといない。
 サスケは金を求めている、十分に暮らせるだけの最低賃金の設定……すぐには実現しないだろう。法律の整備が必要だ。
 セックス自体も今はもしかしたら望んでいるかもしれない。だとしたらどうしようもない。代わりがいない……いや、俺が代わりに……。
 俺がキツネの代わりになって、金を渡してセックスをしたら、サスケはやめてくれるだろうか?
 でもそれは根本的な解決にはならない。サスケを説得してもっと自分を大事に……4年にわたって男たちにいいようにされてきたサスケにそんな説得は、きっと無意味だ。
 どうしたらいいんだ、俺はサスケに何が出来るんだ。何をしてやれるんだ、ずっと虐げられてきたサスケに……!
 頭を掻きむしりたくなる。自分の無力さが嫌になる。俺はサスケに何もしてやれない。金は渡せてもきっとあの商人の方が金額が大きいだろう。毎月同じ金額を渡していたら俺の生活が成り立たなくなる。あいつに勝てない、あの商人、キツネに俺が勝てる要素がない。サスケを取り戻せない。でも、諦めたくはない……!

「あれ、誰かと思ったらカカシさんじゃないですか。」
 不意に声をかけられて、振り向いたらそこにはアカデミーのミズキ先生がいた。
「ちょっと、悩み事があって」
「子どもに関係のあることでしたら、力になれるかもしれません。どんな悩みですか?」
 にこ、と笑うミズキ先生に、思わず話していた。
「尊厳を傷つけられた子どもに対するケア……についてご存知ですか。」
 ミズキ先生は間髪入れずに尋ねる。
「それって例の……人身売買の被害者、ですか。」
 俺は驚いていた、まるで今の話を聞いていたかのようにすぐその事件の話が出てくるなんて。
「……よく、わかりましたね。」
「アカデミーの教師の間では、かなり大きい関心ごとですから。よかったら、カウンセラーと話をしてみますか?」
「ぜひ……一度話を聞きたいです。」
「では、話を通しに行きますね。ちょっと待っててください。」
 驚きもせず表情ひとつ変えず、被害者の話をしているのに笑顔のままのミズキ先生に違和感を覚える。
 あの人、何かあるな。
 少しして、再びミズキ先生が現れて「こっちです」と俺を誘導する。
 医務室の隣にある相談室、その中に入ると中年女性が穏やかな笑みを湛えてこちらを見た。
「ご相談、があるそうですね。」
「はい、どうしたら……いいのか。」
「秘密を守ることはお約束します。何があったんですか?」
 俺は、サスケの名前は出さずに洗いざらい全てを話した。
「その子のために何をしてやればいいのか、わからなくて……。」

 夕方、サスケの家を訪れていた。玄関をノックすると、サスケがガラガラ、と扉を開ける。
「話、いいかな。」
「話だけなら。」
 がらんとした家、使われていない部屋、サスケは台所のある部屋で過ごしているらしい。こんな寂しいところで、一人で。
「俺にとってお前は大切な存在だ。」
 話を切り出した俺に、サスケはため息をつく。
「で、何が言いたいんだ。」
「サスケは俺にとって価値のある存在なんだ。」
「前にも言ったが、俺には価値なんて」
「ある。俺にとってはある。俺にとってサスケはかけがえのない……」
「そのあんたにとっての価値とやらは金になるのかよ。」
「お金なんかじゃ計りきれないほどの価値があるよ。」
「へぇ、そう。で?」
「だから俺と一緒に住まないか?」
「……は?」
「大切だから、そばにいて欲しい。もう自分を切り売りして欲しくない。」
「まだあの人との関係を邪魔するつもりか?」
「サスケの行動を縛ったりしないよ。そこは安心して。」
「俺にはあんたと暮らすメリットはない。」
「後悔させない、来て良かったと思えるようにする。」
「……抽象的すぎる。」
「サスケが抱えている荷物を一緒に持ちたいんだ。」
「……だから、話が抽象的すぎるんだよ。」
「これからは一緒に悩んだり苦しんだり喜んだりしたい、サスケひとりに背負わせるのじゃなく、一緒に。」
「……話にならない。」
「サスケが大切なんだ、大切にされるっていうのがどういうことか、サスケに伝えたい。」
 サスケはため息をつく。侮蔑するような目で俺を見た。
「三日間。……三日間で思い知らせてやるよ。俺があんたの思ってるような「価値のある」存在なんかじゃないことを。」

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