価値
離さない
「寝室はこっちか。」
サスケが指差す方向を確認して、頷く。着替えを置きに行ったんだろうか。ついていくと、寝室のドアをくぐったと思ったら、胸元を引っ張られて口布を下され、その唇が合わさっていた。両頬に手を添えられてそのまま蕩けそうなくらい熱い舌が口内に入りぐるりと口の中を舐めたあと舌と舌を絡め合わせる。
「……っ!!」
思わずその肩をドンと押す、後ろによろけるサスケ。口を手で拭い俺を見上げる。
「あんたの大切な価値のあるサスケはこんな事を誰にでもする奴だぜ。なあ、それでも俺に価値があるって言うのかあんたは。」
言葉に詰まってしまった。なんて言うのが正解なのかわからなかった。うろたえる俺を見てサスケは俺に歩み寄りしゃがんでズボンの前をはだけると迷わずそれを出して口に入れる、熱い舌が全体を舐めて唾液で濡れたそれに手を添え舌で刺激しながら手と頭を動かして俺のそれはどんどん硬くなっていく。
「サスケっ、やめ、るんだ!」
頭をグッと押すがサスケは俺のそれから口を離さない。口をすぼめて吸い付くように上下させてもうガチガチに勃ったその先端から我慢汁が溢れていた。
「サスケ!!」
思わず強い口調で言ってしまった。サスケは俺の顔をチラと見上げて口の周りを舐めながら口を離した。手はまだ俺のものを扱いている。その手を振り払って、それでも俺はなんて言うべきなのか迷っていた。
サスケは左手の指を咥えて舐めしゃぶりその手をズボンの中に入れる。
今度は何を始めたんだ、俺はどうしたらいいんだ、でもきっとこれも止めるべきだ。
「やめ……」
サスケが動いた、ベッドの上に上がってズボンを脱ぐ。
「ほら、こっち来いよ。俺を止めたいんだろ。」
脱いだズボンと下着を布団の上に放り投げる。挑発するような目、乗ってはいけない。けれどサスケを止めなければ何をしでかすか。
「ちょっと調子に乗りすぎじゃないの」
一歩ずつベッドに上がる。サスケは足元の方へ移動する。それをゆっくりと追うと、突然タックルされてよろめき倒れてしまった。マウントポジションをとったサスケはニヤと笑いながら硬く立ち上がった俺のそれを握りしめ、腰を浮かせる。
「待っ……!!」
にゅち、とサスケの中にそれが入っていく。ずぷぷ、とゆっくり、少しずつ。
だめだ、だめだ、だめだ、
「あんただったな、この有利なポジションを保つ力の入れ方を教えてくれたのは。」
教えた事がこんな形で仇になるなんて思ってもみなかった。状況を覆そうと身体を動かしてもサスケがそれに対応して動きを封じる。そうこうしている内に全部サスケの中に収まって、サスケは腰を動かし始めた。
「気持ちいいならそう言えよ、なあ、あんたまだ言えるか? 俺に価値があると。」
熱いサスケの中に俺のそれが出たり入ったりする。嫌でも快感が走り抜ける。抵抗すれば封じられて、サスケがそうするのをただみていることしかできない。サスケは上下の動きから体勢を変えて自分のものを俺の腹に擦り付けるように前後に腰を動かし始めた。快感がぐっと増す。荒くなっていくサスケの息。時折漏れる声。
「は……、あんたのちんこ、具合いいぜ、っ、なぁ、なんとか言えよっ!」
動かれるたびに快感の波が襲ってくる。サスケ、なんで、なんでだ、なんでこんな事を……!
「今すぐっ、やめろ、サスケ……っ」
それを聞いて、サスケは腰の動きを早くする。
「やめろ、やめっ……!!」
駆け上がる射精感、だめだ、我慢でき、
「っ……く、」
ビク、ビク、と中でそれがはぜている。サスケの中に。俺のものが。サスケもそれに気がついて動きを止めて満足気に俺の顔を見る。
「教え子とセックスした感想は? センセイ。」
俺は答えられない、答えがわからない。どうしたらいいのか、もう何もわからない。
「あんたの大切な価値のあるサスケは、こういう事を知らないおっさんとやってるんだぜ、なあ。それでもあんた、俺に価値があるって言い張るのか?」
ただサスケが俺を突き放して、孤独に堕ちていこうとしているのだけは、わかった。でも俺にはその言葉がサスケの「たすけて」というこころの叫びのように感じた。だからサスケの手を離したりなんか、しない。何があろうと、サスケそこから救い上げる。どんな手段を使ってでも……!
サスケの頭に手を伸ばす。両手で抱きしめて俺の胸に押し付ける。
「強がらなくていいサスケ。お前は本当にこんな事がしたいのか。俺と暮らせばこんなことはもうする必要なくなる。だから……」
「強がり? はっ、俺はあんたに俺の真実を見せてやっただけだ。勘違いも甚だしいな。いいか、俺にはあんたが言うような価値なんて無えんだよ。いくら大切にしようが俺は変わらない。金のためにおっさんのチンコ咥えて満足させる、それが俺だ。そんな俺に、価値も何も、ない。」
「ある、サスケにはちゃんと価値がある、尊厳もあるっ……今見失ってるだけだ、サスケにはサスケにしか無い価値があるんだ、だからそんな事言うな……!」
「俺の中にチンコ入れたまま何言ってんだか。自分の立場わかってねぇなあんた。上司だから部下の管理が必要、だったか? 管理できるもんならしてみろよ。所詮あんたも俺にとってはたくさんいる男のうちの一人だ。俺の中に射精したのがいい証拠じゃねえか。なあ気持ちよかったんだろ? じゃなきゃ出さねえよな。宿代として特別に明日もしてやるよ。思い知るといい、俺がどんな人間なのかを。」
サスケが腰を浮かせて、それがずるっと中から抜け落ちる。ポタポタと垂れてくる白濁液。サスケは身を起こして俺を侮蔑の眼差しで見下ろした。
このままじゃサスケはひとりぼっちになってしまう。自分には価値がないからと、進んで自分を傷つけようとしてしまう。自ら尊厳を落としてしまう。そんなこと、そんな悲しいこと、そんなつらいことは、俺が、止める。
とはいえ、どうしたらいい……。俺が思っていたよりも、サスケの状況は悪かった。もう被害がどうこうなんて次元じゃない。自己紹介の時のあの暗い目は、単に復讐心を抱えているだけじゃなかった。つらい目に逢い続けた挙句に、自分の価値を下げる事でこころの平穏を保とうとしたんだろう。それが重なって、重なって今サスケはどん底にいる。
カウンセラーは尊厳が傷つけられた子には愛が必要だと言った。どうすればサスケに愛を伝えられる。全てを拒絶して孤独に足を踏み出しているあの子にどんな言葉なら通じる。価値とか尊厳とかそんな言葉はサスケにとっては薄っぺらい戯言だ。もっと何かないのか、サスケに届く言葉は、他に。
「なーに悩んでるんですか? 先生」
公園のベンチで考え込んでいた俺の顔をサクラが覗き込んでいた。慌てて作り笑顔で「何でもない」と言おうとして、同じ年頃のサクラなら何かヒントをくれるんじゃないかと思い至った。
「んーと……愛を知らない子に、愛とは何か教えてあげるにはどうしたらいいのかなぁって。」
サクラは目をパチクリさせてあっさりと俺に言う。
「愛してるって言い続けるのじゃダメなの? 先生。」
「愛してる、って?」
「だって言わなきゃ伝わらないじゃない。」
「愛って何、って聞かれたら?」
「あなたのこと何もかも全部ひっくるめて大切で大好きって言う意味! って伝えるかな、私なら!」
サクラなら、サスケの傷を癒せるんじゃないか、と思ってしまった。こんなにも単純で、純粋なこたえで、いい、のか。
「俺より、サクラの方が頭いいかもしれないなぁ、そっか。」
「もしかしてそんなことでずーっと悩んでたの? 先生も不器用なとこ、あるのね!」
キラキラと笑うサクラが輝いて見える。サスケもいつかこんな風に笑える日が来るだろうか。
いや俺が、サスケをここまで連れてくる。何年かけてでも、愛してると言い続ける。ずっと、サスケの隣でサスケを見守り続ける、そうする以外に方法はない。
「ありがとね、サクラ。お礼に……そうだなぁ、今度みっちり修行でしごいてあげようかな?」
笑いかけるとサクラは、「えーっと、他のお礼がいいかな~……なんて」と視線を逸らした。
サスケ、お前がすぐに変わるなんて思っていない。俺は本気でお前をそこから救いたいと思ってる。お前に何があろうと、お前が何をしようと、お前が大切な気持ちは揺るがない。
家に帰ると、すでにサスケがいた。ダイニングテーブルでお茶を飲みながら巻物を読んでいる。ごく普通の下忍の姿。俺が帰ってきたのを見て、その顔が妖艶に笑う。
「よぉ、センセイ。今日はどんなプレイをご所望だ?」
俺は靴を脱いで、サスケが座っている隣に歩み寄り、その視線に合わせて腰をかがめた。
「サスケ、俺はお前を愛してる。だからお前のことは全て受け入れる。」
想像していなかった言葉だったんだろう、少しだけ目を見開いて、それから笑い出す。
「何、勘違いしてんだよ。愛してる? はいはい、イッだ後のおっさんがよく言うセリフ。ふ、あっそ、全て、ねえ。それならあんた、俺のことをよがらせてみろよ。愛してるならできるだろ? センセイのチンコでよがる教え子をその目に焼き付けてみせろよ。そんでもう一回同じセリフを吐いてみろ。自分がどんな薄っぺらいこと言ってるのかわかるぜ?」
「サスケがそれを望むならそうする。そういうサスケも全部ひっくるめてサスケだ。そんなお前を俺は愛してる。……寝室へ行こう。」
サスケの顔が不機嫌そうに変わる。想定と違う答えが返ってきたんだろう。先に寝室で服を脱いでいた俺にサスケは「あんた、本気か?」と尋ねる。何について尋ねたのかわからなかったけど、「本気だよ」と答えた。
服を脱ぎ終えてベッドの上でサスケが来るのを待つ。足のバンテージを外し終えて、サスケはベッドに上がり俺の隣に座って顔を近づける。
そのサスケの首と背中を支えてくるっとベッドに仰向けにする。
「よがらせる……だったな。」
サスケの耳にキスをして「愛してる」と言ってからその唇を奪った。口内を舌で蹂躙しながら胸の突起に触れてくにくにと転がすとびく、と反応する。
唇を離して胸の突起を舐め始めると震えながら声を漏らし始めた。そうしながらサスケのそれを上下に扱いて、空いた手は肌の熱を確かめるように撫でる。
「っぁ、あ、きもちい、っ、んっ、そこっ……!」
ローションに手を伸ばして右手に垂らしかた。そのまま後ろの穴に指をそわせてぬぷ、と滑り込ませる。ゆっくりと指を奥に進めて内壁を撫でているとサスケがビク、と反応した。
「そこっ……もっと、っあ、そう、あ、あっ、あ!」
そこをこするように指を滑らせて、その喘ぐ声をキスで塞ぐ。指を増やして充分ほぐれたら一旦抜いてゴムをつけた。
「それ……何、何をつけたんだ」
「サスケを守るためのもの……だよ。」
その上からローションを垂らして満遍なく塗ったら、ヒクヒクと疼くそこにあてがって少しずつ挿れていく。
「サスケ、……愛してる。」
サスケの身体を抱きしめながら、全部中に入ってからも抱きしめ続けてサスケがもぞ、と動き始めてから腰を動かし始めた。
サスケ俺は、お前を突き放したりしない。セックスは性欲処理じゃない愛の営みだと知って欲しい。
キスをしては愛してると語り掛けて、よりサスケが感じるように腰の動きを少しずつ変えて、声が高くなったところでガンガン腰を振った。
「あっ! だっ、め、おかし、いっ! あっ、あ、あああっ! へん、こんな、ぁ、……っ!!」
びく、とサスケの身体が跳ねて中がきゅううっと締まる。呆然と天井を見上げるサスケにキスをして、俺もサスケの中で果てた。
「今の、なに……」
「イッたんだよ、サスケ」
髪を撫でて、戸惑うサスケを抱きしめる。
「……俺が? うそだ……」
「本来のセックスはそういうものだ、サスケ」
「……まだ、はじめてが、残ってた……」
「はじめて?」
「全部、奪われたと思ってたのに……」
「……これからは俺が良いはじめてをたくさんあげるよ、サスケ。だから」
「そんなものいらない、俺には必要ない、俺には」
「価値ならある、俺にとってサスケは」
「またそれかよ。……うんざりだ。」
「うんざりされようが言い続ける。愛してる。」
「……勝手に言ってろ」
事あるごとに俺は言い続けた。愛してると。サスケは呆れたように俺を見る。届いているだろうか、サスケに俺の気持ちは。愛情を少しでも受け取ってくれているだろうか。なあサスケ……もうお前は一人じゃないんだ。俺が隣にいる、一緒にいる、わかってくれ、心を開いてくれ……お願いだから。
でもそんなに簡単に事が運ぶわけがなかった。サスケは次の日、あの屋敷に行ってしまった。俺の声は届いていなかった。サスケは身体を売りに行ってしまった。
……俺は無力だ。