代償

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全年齢,超短編,原作軸,カカサス小説お付き合いしてるふたり,ほのぼの,モブサス描写有,甘々

「今日の任務は金払いのいいお得意様だから機嫌を損なわないように注意してね」
 任務前のミーディングでカカシはそう言った。任務自体は広大な大名屋敷の草むしりというつまらないものだったが、サスケは普段から依頼人には気を使っていたのでわざわざカカシがそう言うということは何かがあるんだろうと思った。
 
 依頼人の大名は五十代くらいの恰幅のいい男だった。ただ、その後ろに小太りの中年くらいの男がニヤニヤしながら一緒に話を聞いている。
「で、今日の草むしりはこれを着けてやってもらうので終わるまで外さないように。」
 小太りの男が前に出て三人にひとつずつ猫耳型のカチューシャを渡す。
「……は?」と言いかけて口をつぐんだ。
 依頼人の言うことは絶対だし、そもそもカカシから機嫌を損なわないようにと注意を受けている。着けるしかない。
 両手に持った猫耳カチューシャを、少し躊躇してから頭につけると、三人とも可愛らしい姿になった。
「じゃ、このままで草むしりよろしく」
 依頼人は屋敷の中に入っていった。が、小太りの男はニヤニヤ笑いながらその場にとどまっている。
 一旦それは無視してカカシに任務について確認する。
「この屋敷は広すぎるから、手分けして草むしりした方がいいと思う」
「うん、俺もそう思うよ。サクラはこの広場、ナルトは玄関入ったところ、サスケは中庭から始めよう。」
 こくりと頷くその頭上で猫耳が揺れる。
 サスケはさっそく中庭に向かった。
 
 中庭といってもそれなりの広さがあったが、雑草が生えっぱなしということはなくむしろきれいに保たれている。なぜかついてきた小太りの男が「そことそこ、あとあのあたり」とサスケに指示を出すので、指示に従って草むしりを始めるが、小太りの男から舐める様な視線を感じる。
 ちらと男を見ると、ニヤニヤしながら顎に手を当ててサスケの様子をつぶさに観察しているようだった。
 気持ち悪い奴だな……。
 と思いつつ作業に集中していると、男が中庭に降りてくる気配を感じる。
 機嫌を損ねてはいけない。
「何か不手際がありましたか?」
 サスケが尋ねると、男は答えもせずサスケに近寄ってくる。
「うん、うん、やっぱり黒髪には黒い猫耳だよね、うん。」
 独り言のように呟くと、サスケの肩に手をポンと置く。
 ゾゾゾッ
 駄目だ、これは生理的に受け付けないやつだ。
 どうするべきか思案していると、その手が背中を撫でながら下に降りて行き、お尻を揉み始める。
「……っ!!」
 何しやがるてめぇ!!
 ……とは言えないが、尻を揉まれてそのままでいるわけにもいかなかった。
「その手、やめてもらえませんか。任務に含まれていません。」
 頭の中で半ギレになりながら落ち着いて話しかけるが、尻を揉む手は止まらない。
 その手を掴んで折ってやろうか。
 と、思ったところで手が尻から離れた。
 見ると、カカシが男の腕を掴んでいる。
「困りますねえ。忍者はそういった任務は行いませんので、ご希望でしたら花街の女を紹介しますよ?」
「チッ……嫌がってるのを無理矢理やるのが良いってのに……」
 カカシの声は怒気をはらんでいる。
「下女にでもやらせてはいかがです? どちらにしても我々の任務は草むしりです。尻を揉みたかったら別途そういった内容の依頼を出してください。」
 依頼を出したところで受ける奴はいるんだろうか。
 サスケは中腰の姿勢から立ち上がって男を睨む。
「ああ、その目だよその目。君いいよ。ずっとうちで働かない?」
「……御冗談を」
「いたた! 痛い! 腕を放せ!」
 カカシがパッと腕を離すと、男は舌打ちをして「お父さんに言いつけてやるからな」と言い残し、立ち去って行った。
「……災難だったね」
「全くだ」
 カカシが猫耳のついたサスケの頭をぽんとなでる。
「それより……いいのか? 機嫌を損ねて。」
「ああ、……んー、何とかする。サスケは引き続きここの草むしりをしといてね。」
「……わかった。」
 雑草の入ったゴミ袋を手に、また作業に戻る。
 小一時間もすると、指示されたところはすっかりきれいになった。
 最初の場所に行くと、カカシと依頼主が何やら話し込んでいる。
「依頼主の言うことは絶対だろ、忍者風情が逆らうな!」
「依頼されたこと以外は受けかねます。今後の依頼はすべてお断りすることになります。それでよろしいです?」
 依頼主の後ろには例の気持ち悪い男が引っ付いていて野次を飛ばしている。
「依頼内容の変更、ということで我々は一旦撤収させていただきますよ。」
「こっちは高い金を払っているんだぞ!」
「別のところにお支払いください。今後もこのようなことがあっては困りますので。ナルト、サクラ、中断していったん戻るよ。」
 カカシの毅然とした態度に依頼主は顔を真っ赤にして怒っていた。が、それはカカシも同じで、サスケに手を出されたことは相当頭に来ていた。
 三人はそれぞれゴミ袋を持ってカカシの元に集まり、「行くよ」と言って屋敷を去るカカシについていく。
「……カカシ先生、大丈夫なのか?」
「機嫌……損ねてるわよね。」
 カカシは二人に笑顔を向け、「大丈夫、俺の判断。」とだけ言った。
 それを聞いたナルトは敷地の外に出ると猫耳カチューシャを外して踏んづける。
 サスケも猫耳カチューシャを外し、雑草が入っているゴミ袋に入れた。
「じゃ、俺は報告書書くから、解散な。」
 演習場の入り口に戻ると、カカシは右手を上げてドロンと消えた。
 散々な一日だった……サスケが岐路に着くと、アパートの玄関にカカシが立っている。
「報告書はどうしたんだ。」
「俺優秀だからもう終わらせたよ。」
 連れだってサスケのアパートに入ると、カカシがサスケを後ろから抱きしめる。
「……サスケを触ってるの見て殺そうかと思っちゃったよ。」
「それはさすがに大問題だな。」
「猫耳のサスケなんて俺が一番襲いたいくらいなのに。」
「もう二度と着けねえぞ」
「……わかってる。でもこの苛立ちの向けどころがわかんない。」
「そういう時は寝るのが一番じゃねえの。」
「寝るってどっちの意味?」
「……馬鹿か、ウスラトンカチが……。」
「今日くらい許してよ。」
 カカシの手がサスケのシャツの中に入る。
「あの気持ち悪いクソ野郎がしたことを上書きしたい。」
「……あんたほんと、しょうがねえ奴だな……」
 サスケが振り返り、背伸びをしてカカシにキスをする。
「……俺も。」
「なに?」
「俺も……上書きしてほしい。」
「はは、しょうがないね、俺たち。」
 サスケはカカシの手を引いて寝室に向かった。