サスケ誕生日おめでとう!2023
任務後、サスケは解散しようとしたらカカシに呼び止められた。
「二十三日、何か予定ある?」
「ないけど……なんか用か?」
「じゃあ、任務後に俺の家来てよ」
サスケは面食らった。
カカシはプライベートは謎に包まれていて、ましてや家に呼ばれるなんて思ってもみなかった。
「わかった、任務後だな。」
「これ、住所ね。」
カカシはポケットからくしゃくしゃの紙を渡すと、「じゃ、そういうことで」とどこかに消えた。
七月二十三日、任務が終わるとサスケは家に帰ってシャワーで汗を流す。
脱衣所から出て麦茶を取りに台所に行くと、冷蔵庫に住所が書かれたくしゃくしゃの紙が貼ってあった。
(しまった、今日だった)
急いで身なりを整えて紙を手に取り、カカシの家に向かう。
たどり着いたその部屋でチャイムを押す。
玄関の扉が開いたかと思うと、パン! という音が三つ。飛びだす色とりどりのテープ。
「サスケ君、誕生日おめでとう!」
そう声を合わせるのはナルトとサクラとカカシ。
突然の展開に驚き、サスケは呆然と玄関前で立ち尽くした。
「ほら、主役がいつまでもそんなところにいないで入ってよ」
カカシに促されて「お、おう……」と靴を脱いでお邪魔する。あの日以降誕生日を祝われることなんかなくて、サスケは思わず口元が綻びそうになった。
テーブルには五人分くらいはありそうなオードブル。
「っしゃ! やっと食べれるってばよ!」
ナルトが嬉しそうにテーブルにつく。
「お前サスケの誕生日だってわかってる?」
呆れたようにカカシが言う。
サクラも席について「サスケくん、こっちこっち」と隣の椅子をぽんぽん叩く。
その椅子に腰を落ち着かせると、カカシが冷蔵庫からジュースを持ってやってきた。
「サスケは炭酸好き? オレンジジュースとかの方がいい?」
ジュースのラインナップを見て、「サイダーでいい」と答えると「うん、じゃあ、食べようか」とコップにサイダーを注いでいく。
「いただきまーす!」
ひときわ大きいのはナルトの声。
サスケもオードブルに手を伸ばした。
お腹いっぱいに食べたナルトは「もう食べれねぇ」と言いながら絨毯の上で横になっている。
サクラもソファに腰掛けて少し眠そうだ。
今日は朝から蒸し暑い猛暑日で、そんな中朝から夕方までの任務だった。その疲れもあるんだろう。二時間かけてワイワイ喋りながら食べた後、疲れ切ったナルトとサクラは今にも眠りそうだった。
カカシは二人にブランケットを掛けると、サスケに耳打ちする。
「ちょっとだけ出かけない?」
「二人はいいのか?」
「寝たみたいだから、そっとしておこ」
静かに玄関を開けるカカシに続いて、サスケも靴を履いて外に出る。
十数分後、二人はちょっとした山の麓にいた。
「こっちだよ」と指差すのは何段あるのかわからない先の見えない長い階段。
カカシの少し後ろについて階段を上っていくと次第に赤い鳥居が見えてくる。何を祀っているのかはわからないが大切にされているらしく、よく手入れされた建物が目に入った。
カカシはその神社の本殿の手前までやってくると、道を逸れてガサガサと植木を分け入って行った。
「おい、いいのかそこ入って」
「どうせ誰も見ちゃいないよ」
そうして木々を潜り抜け辿り着いたのは、里を一望できる高台。
「……ここは?」
「よく、見えるでしょ。里全体を見ることができる数少ない場所のひとつ。
この場所のことは二人の秘密、ね。」
「何で俺をここに?」
「サスケはさ、いつかイタチを殺すために里を出ちゃうでしょ。
それがいつになるかは分かんないけどさ。
だからサスケに見せておきたかったんだ。この里を。」
あそこがアカデミー、それから木の葉病院。
集合場所の橋はあの川にかかってる。
第四演習所は向こうの木が生えてるあたり。
さっきの俺の家はそこの住宅街だ。
サスケの……うちはの集落は里の外れのあそこだね。
あそこは…………
指を指しながら、ポツポツとあかりが灯る里を指さしていく。
「……平和、だよね。」
「……そうだな。」
……としか、答えられなかった。
サスケが物心ついた時にはすでに大戦は終わっていたから、その凄惨さは言伝に聞いた話ばかりだった。
でも、カカシは……きっとその大戦の凄惨さを知っている。
あの日俺が見たそこらじゅうに同胞の骸が転がる光景と同じものを、カカシもきっと見てきたはずだ。
カカシは仲間を、大切な人を失った悲しみを、辛さを、憎しみを、戦いの中で敵にぶつけてきたのだろうか。
俺がイタチを憎み殺したいと思う気持ちと同じものを感じてきたのだろうか。
今のカカシの横顔からは、そんな薄暗い感情は見当たらない。今の尊い平和を守りたい、そんな顔だ。
……俺は里の平和なんて興味ない。あるのはイタチへの復讐心だけだ。
大戦が終わって里に平和が訪れた今、カカシの中に仇を憎む気持ちはもうひとかけらも残っていないのだろうか。
だとしたら、どうやって自分を納得させたのだろう。
戦争だったんだから仕方がない?
それとも仇は全て討ち取った?
「サスケ、イタチは強いよ。」
……知ってる。誰よりも近くで見てきたのだから。
「……イタチより強くなってみせる、どんな手を使ってでも。」
「呪印の力も?」
「……必要なら、使いこなす。」
「俺がいても?」
「あんた……イタチより、強いのか?」
「はは……痛い質問だな。でも、サスケに教えられることはまだまだたくさんあるよ。お前はまだ俺より弱いだろ。」
「……そう、だな。」
サスケも里の夜景に目を移す。
うちはの集落も……あの住宅街のように、あかりが灯っていたはずだった。
それが今は廃墟が立ち並ぶだけだ。
……イタチが、俺を孤独に突き落とした。憎しみという呪いと一緒に。
でも、今は隣にカカシがいる。少なくとも、第七班に入ってからは孤独を感じることは少なくなった。
……カカシは俺をどのくらい強くできる?
俺はカカシと同等の強さを手にできるのか?
……手にできたとして、それはいつになる? その力だけで、俺はイタチを殺せるのか?
……あの父でさえ、イタチの凶刃には敵わなかった。
そのイタチを殺せる力を、俺はこの里で手にすることは……できるのか。
「あんまり焦るなよ、サスケ。いつも任務後に一人で修行してるだろ?」
「……なんで知ってんだ」
「その右足、怪我してるのはわかってるよ。」
修行中に着地を失敗して捻った足首。
「こんなの怪我のうちに入らねえよ。」
「……俺はお前らのコンディションを確認して演習の難易度を変えてる。いくら隠そうとしても右足を庇いながら動いてるのはわかるよ。」
「でも、任務や演習には問題ない。」
「あのね、サスケが万全の体制じゃないと、演習の難易度も低くせざるを得ないの。何が言いたいか、わかる?」
「……俺のせいで、今ナルトとサクラの演習の難易度も低くなってるのか。」
「そういうこと。俺に教えられることは全部教える。必ずお前らは……お前は、まだまだ強くなれる。だから焦るな。修行したいのなら、俺がついてやるから一人で無茶をするな。」
カカシはサスケに笑顔を向けた。
「……わかった。本当に修行、つけてくれるんだな?」
「ま、俺からの誕生日プレゼントだよ。もっと俺を頼んなさい。」
カカシが手を差し出す。
今までも何度も差し出されてきた大きな手。
その度に「ガキ扱いするな」とあしらった。
でも、今日のその手は違う。ガキ扱いじゃない。約束が込められた手。
サスケはカカシの手のひらに自分のそれを重ねる。
「……いつかサスケの野望が叶ったら、また一緒にここに来よう。見える景色も、違って見えるかもしれない。」
「わかった。約束する。」
カカシがサスケの手を握った。
「サスケ、誕生日、おめでとう。」