見なければよかった

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全年齢,超短編,原作軸,カカサス小説シリアス

 第七班を受け持ってから一ヶ月が経った。
この時期に担当上忍がやらなければいけないことがひとつある。それは、家庭訪問だ。
受け持ちのそれぞれの下忍の家を訪問して、日ごろの暮らしぶりや任務の負荷などを親御さんも同伴で聞き取り、今後の育成方針に活かす狙いがある。
……とはいえ、第七班の中でご家族が揃っているのはサクラだけで、ナルトとサスケは独り身だ。家庭訪問といっても普段の会話を各々の家でするだけで終わるだろう。
と、思いながら面談の日程を組む。任務中でもなく、ご家族が家にいる時間、となると夕方以降になる。
最初にナルト、次の日にサクラ、そして最後にサスケの家を訪問することにして、伝令のための分身を三人の家に向かわせた。

ナルトは少し古いが広めの1LDKの部屋に住んでいた。ただし、物で溢れかえっていて、せっかくの広々としたLDKが台無しな感もある。
普段何を食べているのか聞くと、ラーメン、ラーメン、ラーメン、ラーメン………頭をコツンと叩いた。
「野菜と肉もちゃんと食べなさい」
「チャーシュートッピングしたタンメンならいいってことだな!」
もう一度頭をコツンと叩く。
「ラーメン以外のものを週三日以上食べること!」
ナルトから不平を訴える声が上がるが、成長期の大事な時期に栄養が不足するような食生活は看過できない。
……とはいえ、カップ麺にお湯を注ぐ以外の炊事経験はないらしく、下忍の少ない給料で弁当ばかり買ってくるのも厳しいだろう。しばらくはナルトの家を訪問して、買い物や簡単な料理の仕方を学ばせることにした。
任務の負荷は物足りないくらいだと言うので、今後は演習の負荷を増やすことにしてナルトの家を出る。

翌日、サクラの家。
玄関のベルを鳴らすと、ご両親が玄関で出迎えて深々とお辞儀をする。
そんなに畏まらなくていいですよ、と笑顔を向けながらリビングで話を聞いた。
築十五年程の一軒家で、サクラの個人の部屋もあるらしい。毎日お母様の手作りの食事とお弁当で、夜はしっかりお風呂にも入り、翌日の準備をしてから眠るのだという。温かみのある家庭で正直羨ましいな、と思った。ご両親も上忍で任務に支障がありそうなものは何もなく、サクラには安心して任務を任せられそうだった。

最後に、サスケの家。
まだうちは一族が暮らしていた集落の自分の家に住んでいるらしい。
所々に血液痕が残る荒廃した集落の様子を眺めながら、こんな環境で暮らしているのかと驚いた。
サスケの暮らす家だけ手入れが行き届いており、玄関のチャイムを押すとサスケが玄関の扉を開ける。
今回の訪問の目的を簡潔に話すと、サスケは普段は自炊している、と台所に目を向けた。
そこは大人向けの高さで、背丈が足りないのだろう、小さな台がシンクの前に置かれている。冷蔵庫を見せてもらうと、野菜も肉や魚、豆腐や納豆、卵に牛乳と、自炊に必要な食材がひと通り揃っており、食生活には問題なさそうだった。
サスケは廊下を通って自分の部屋まで俺を案内する。
布団が一式と、台としか形容し難い机のようなものがあるだけの質素な部屋だ。幼少期からこの部屋で寝起きしているらしい。庭に面している大きな襖を開けると月明かりが差し込んでくる。
もう一箇所襖があり、そこも開けようとしたら、「そこはダメだ!」とサスケが珍しく声を荒げ、驚いて手を引っ込める。
「余計なことして悪かった、ごめんな」と手を合わせてみせると、サスケはふん、と腰に手を置いた。
……この襖の奥に、きっと何か大切なものがあるんだろう。
任務の話に戻り、サスケの部屋で聞き取るとナルトと同じく物足りなさを感じているようだったので、次から演習の難度を上げるよ、と伝えてサスケの家を後にした。
帰り道もやはり荒廃した集落が立ち並ぶ道だ。
毎日どんな思いでこの道を通っているんだろうと思うと初日に語った野望も理解できる。
売り払って普通の住宅街に居を移すことも出来たはずだろうに、あえてここに住み続けているのは初心を忘れないためなのだろう。

カカシが玄関を出ていくと、サスケは夕食の準備を始める。
小松菜を取り出してザク、ザク、と切っていくと、沸騰しているだし汁にまな板を傾けてざっと入れていく。
グリルには二つの魚の切り身を入れて火をつけた。
絹ごし豆腐を半分に切り、二つの皿にそれぞれ乗せると上から鰹節と醤油を振りかける。
出来上がった焼き魚とすまし汁、豆腐、そしてお茶碗に盛ったごはんを二つのお盆に並べ、両手でそれぞれのお盆を持って自室の前に置き、襖を開いてからまたお盆を持って中に入ると、カカシが開けようとした襖の前でもう一度お盆を置いて襖を開ける。
かち、と電灯をつけるとそこには大きな仏壇があった。
その仏壇の前にある膳の上にお盆をひとつ置き、手前にある膳の上にも同じようにもうひとつのお盆を置いて襖を閉める。
仏壇の引き出しから蝋燭と線香を取り出して火立に蝋燭を刺し、マッチで火をつけると、線香を半分に折って蝋燭で火をつけて香炉に刺す。
仏飯器の中にお茶碗のご飯を移した後、サスケは正座してまだ埋葬していない両親の遺骨に向けて手を合わせた。

……父さん、母さん、今日の任務も難なくこなせました。ひとりでする修行はなかなかうまくいかないけれど、手裏剣術の腕は確実に上がっています。チャクラのコントロールも上達して火遁の勢いを強くすることができました。
アカデミーの時のようにテストの点数がつけられるわけではないけれど、少しずつ父さんと母さんの仇に近づいていると思います。俺が必ず仇を取るので、どうか安らかに眠っていてください……

サスケは静かに膝に手を置き、もう一度手を合わせて「いただきます」と呟いてから箸を手に持つ。
食べる人のいないもうひとつのお盆を見つめながら、すまし汁に口をつけた。

………見なければ、良かった。
カカシは興味本位でサスケにつけた影分身を屋根の上に移した後、術を解く。
サスケは毎日、食べる人のいないご飯をもうひとり分作って、ああして仏壇の前で手を合わせているんだろう。
何を祈っていたのか、もしくは話しかけていたのかはわからないが、まだ埋葬されていない遺骨がサスケの想いを語っているようで胸が痛んだ。

どんな想いで食事を作っているんだろう。
どんな想いでそれを食べているんだろう。
とても十二歳の子どもが背負える重さではない。
苦しいほどに胸が痛んだ。
それでいて平然と任務をこなし、演習に取り組んで、ときに怒ったり笑ったりしながら、七班の中ではまるで普通の子どものようにそこにいる。
普通の子どもを演じているのだろうか。
それとも、七班の中では普通の子どもとして過ごすことが出来ているのだろうか。
俺が今まで見てきた七班の日常が、途端にいつ崩れるのかわからない儚いものなのだと気付かされる。
俺に出来ることは、このいつもの日常を崩さないように、いつも通りの笑顔で温かく見守ることだけだ。
……そしてサスケの野望を叶えるために、引き上げてやることだけだ。

翌日、俺は集合場所に着くと三人の部下から「遅ーい!!」といつもの声をかけられる。
苦笑しながら三人の頭に順番に手を置き、くしゃっと撫でた。
三人は驚いたように目を見開き、お互いに見つめ合って、「カカシ先生、なんかあったのか?」とナルトが尋ねてくる。
「何となく、したかっただけだよ」と笑顔を向けて、今日の任務の説明をした後、
「じゃ、行くか!」
といつものように三人の先頭に立って歩き始めた。

……どうか、この尊い日常がずっと続きますように。

その願いは、結局届かないことを、俺は後に知らされる事になる。

 

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