一夜の思い出

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成人向,短編,原作軸,カカサス小説エロ,シリアス

「珍しいな、お前が俺を呼び出すなんて。」
 そう言いながら、アスマは川にかかる橋の上で待っていたサスケに歩み寄る。
「それで? 用件ってのは何だ?」
 サスケは少し躊躇いつつ、アスマの口元を見ながら話し始める。
「カカシの事を……忘れられないような思い出を作っておきたい。俺はいずれ里を出て復讐に行くから、その前に……。」
 アスマが口に咥えていたタバコをポロッと落とす。
「おいおい、そりゃあ……どういう意味だ。まさか、好きになったのか?」
 サスケの表情は真剣だ。
「好きだ。だけど、カカシに伝えるつもりはない。」
 落ちたタバコを足で踏みつけて火を消す。
 目を伏せながら話すサスケはどうやら本気らしい。
「伝える気がないなら良いが、思い出、ねぇ……。ないこたないが、まあ参考までに聞いとけ。」
 
 カカシはいつもの居酒屋のカウンター席で枝豆をおかずに酎ハイを飲んでいた。その隣に、体の線がはっきりわかるワンピースを着た黒いロングヘアの女が座る。
「ジンジャエールと……焼き鳥のモモと皮、タレで二本ずつ。」
 厨房から「注文入りました!」と大きい声が響く。
 カカシがその顔を見ると、女は静かに笑いながらウインクする。
「お姉さん、一人なの?」
「カウンター席なのに、そんなこと言うの?」
 クスッと笑いながら厨房から差し出されたジンジャエールを一口飲む。
「お酒苦手なんだ?」
「酔いやすいのよ。介抱してくれる人がいないと飲めないの。」
「……俺が介抱してやろうか?」
 カカシは笑顔のまま女の背中に手を置く。
「……なら、飲んじゃおうかしら?」
 女も微笑んだままメニューを開いた。カクテルのページを指でなぞると、カウンター越しに厨房へ注文を伝える。
「すみません、カルーアミルク、濃いめで。」
 メニューを置くと、カカシに視線を戻した。
「甘いのが好きなんだ。」
「子ども舌なのよ。」
「そういう人も、俺は好きだよ。」
「ふふ、それって口説いてる?」
「さぁ、どうだと思う?」
「……ワンナイトの相手を探していたの。あなたさえよければ、どうかしら?」
 カカシはさして驚きもせず、「大歓迎」と口にした。
 
 女は本当に酒に弱かった。
 カルーアミルク一杯で顔を紅潮させ、ふらふらになっているのを、カカシが肩を支えながら自宅マンションまで歩く。
 鍵を開けてベッドに直行し、女を横たえると、ジャケットを脱いだ。
「気持ち悪くはない?」
 はぁっ、はぁっ、と荒い息をする女に話しかける。
「気分は……大丈夫、そんなことより早く……」
「積極的だね、そういうとこも、嫌いじゃないよ。」
 ぎし、とベッドに上がった。仰向けに横たわる女の上に覆い被さり、ディープキスをする。
 慣れてないのか、それとも酔っているせいか、最初は消極的だった女の舌が次第にカカシのそれと絡み合い始める。
 キスをしながらカカシはワンピースのスカートを手繰り上げて陰部を触る。と、そこにある違和感。
 キスをやめて上半身を起こし、冷たい顔で言った。
「……君、本当は誰? 誰かの刺客にしては随分お粗末じゃない?」
 荒い息の女が顔を背ける。
「クリトリスもマンコも付いてない。……お前本当は男だろ?」
 顔を背けたまま、目を細めて苦々しい顔をする。
「……言う気はないんだ? なら……拷問部隊に引き渡すよ。」
 女は渋々印を組むと、変化の術を解く。ぼんっと煙が舞い、そこに現れたのはサスケの姿だった。
「サスケ? ……なーにやってんの……」
 カカシが呆れたようにサスケのおでこにデコピンする。
「俺を騙してどうするつもりだったの。」
 サスケはデコピンされた額に手を当てながら黙り込んで動かない。
「聞いてるんだけど。これはどういうことなの?」
 言えるわけがなかった。カカシを忘れられないようにしたいだなんて。
 カカシは黙り込むサスケのズボンをずらして小さいそれを扱き始める。同時に、上の服をたくし上げて胸の突起に口を付けた。
「……っ! おま、俺は男だぞ!?」
「それが何? したかったんじゃないの?」
 ズボンを膝下まで下げてくにくにと後ろの穴を押す。サイドテーブルからローションを取り出すと、それを右手にとろりと出して指にローションを塗り拡げた。
 また後ろの穴をくにくにと押して、少しずつ指を沈めていく。
「なっ、や、くっ……」
 痛みと圧迫感、そして異物感に目をぎゅっと閉じる。
 慣らすように何度かゆっくりと出し入れを繰り返して、指がなじんできたところで内壁をなぞるように指が動く。お腹側の弾力性のあるところを探ると、そこを優しく押しながらまたゆっくりと指を出し入れし始めた。
「っぁ、……え? ……あっ」
 そこから駆け上がってくる感覚にサスケは戸惑った。気持ち、いい……!?
 そこを押す指の力が少しずつ強くなる。指の抽送も早くなっていき、快感もどんどん強くなる。
「やめっ、そこっ、あっ! はぁっ、ぁっ」
「何、したかったんじゃないの?」
 カカシの声色はあくまで冷たい。冷たい声で、顔で、サスケに快感をもたらすギャップ。頭がどうにかなりそうなのを、シーツを掴んで何とか堪える。
 ぐちゅ、ぐちゅ、と音を立てながら出入りする指が二本に増えた。圧迫感に顔をしかめるが、痛みはもうなかった。そこをなぞられると身体がピクンと跳ねて脳に快感を伝える。
「は、あっ、……っ! っあ、」
 乳首をいじっていた手が、サスケのものをまた扱き始める。前と後ろで感じる二重の快感に、成す術もなかった。
「あっ、はぁっ、なん、でっ、ぅあっ! はぁっ、」
「誘ってきたのはお前だろ、サスケ。」
 二本の指が引き抜かれた。カカシがサスケの顔に近づき、自分のそれをサスケの口元に当てる。
「ちょっと萎えちゃったから舐めて。」
 サスケは大きく口を開き、手を添えてそれを口内に入れると、丹念に舐め始めた。カカシの腰が動き、喉の奥を突いては引いていく。えずきそうになりながら、唾液をたっぷり含んで亀頭を舐めしゃぶると、徐々に固く大きくなっていく。これ以上は、口に、入りきらない。そう思ったところで口からそれが引き抜かれ、また後ろの穴に指を添わせされる。今度は、三本。
「……っ!」
 強い圧迫感。でも今口の中にあったカカシのものは、指を何本入れても足りないぐらい大きい。
 相変わらず指はそこを刺激し続ける。その度にサスケは声を漏らす。
 だんだんと異物感が減っていき、快感が大きくなっていく。波のように押し寄せては引いていくその感覚は、射精感とは違う、中が疼くような気持ちよさだった。
「は、あっ、……っ! はぁっ、っあ、あ、あっぁ!」
 そこを押されるとピクン、ピクンと身体が勝手に反応する。――恥ずかしい。恥ずかしいのに、身体は勝手に跳ねるし、口から出る喘ぎ声が止まらない。
 カカシは指を抜くと、ゴムを着けて再びローションを右手に垂らし、自分のそれを数回扱いてローションを塗り付ける。
 サスケの膝を押してM字になるように開くと、そこにローションで濡れたそれをあてがった。
「……あ、」
 あの大きいのが、入る、入ってくる……!
 カカシはゆっくりと腰を進めて、ぬぷ、とサスケの中にそれを埋めていった。指とは比べ物にならない圧迫感と異物感。ローションと指で慣らされたおかげで痛みがないことだけは幸いだった。
 奥まで入れると、「きつ……」と漏らしながら、ゆっくりと抽送を始める。
「はぁっ、はぁっ、……っう、……はぁっ、っく、……あっ!」
 そこをなぞられる度にまた中で快感が疼く。しかしまだ圧迫感と異物感が強く、サスケの苦しげな声が寝室に響く。その声が徐々に快感を伝えるようになり、カカシは腰の動きを速めていった。
 ずちゅっ、ずちゅっ、とローションが音を立てながらそこを擦り、奥まで一気に入れては浅いところまでまた一気に引いていく。
「あっ、はぁっ、ぅあっ! あ、あっ! んぁっ!」
 パンッパンッパンッパンッ
 皮膚がぶつかり合う乾いた音、ローションの湿った音、そしてサスケの喘ぎ声。
 圧迫感と異物感は快感にとって代わっていった。中の疼きが脊髄を通って脳に届き、頭がそこの感覚を拾うのにいっぱいになる。
「ぁ、あっ、ぁあっ! あっ、ぅあ、はぁっ、」
 冷たかったカカシの顔が、いつの間にか情欲を含んだ顔に変わっていた。
 その顔を見てしまったサスケは、より感度が上がっていく。
 俺の中が、カカシをこんな顔にさせてる。普段絶対に見せることのないカカシの表情を、今俺は独り占めできてる。
 腰を動かしながら、カカシの顔が近づいてきた。腰に添えていた左手がサスケの後頭部を支え、唇が重なったかと思うと、その舌が乱暴にサスケの口内を蹂躙する。
 貪るようなキスにサスケも応えていると、カカシの抽送がまた早くなった。
「んっ! んんっ、あっ……んっ! んぅっ!」
 唇が離れると唾液がつぅっと橋をつくる。カカシは右手を腰に戻し、角度を変えて一際奥にそれを打ち付ける。奥の引っかかりを更にぐいっと押し込むと、ぬるっと更に奥に入る感覚がしたかと思ったら、サスケは悲鳴のような声を上げていた。
「あ、あ゛っ! あああ゛っ!!」
「……ああ、やっぱり届くな。結腸。」
 ぬぷ、と奥で結腸に入れたり、引いたりを繰り返す。
 目がチカチカするような激しい快感、奥の奥に打ち付けられる度にビクンと身体が跳ねる。
 何度目かの挿入で、サスケは身体中がカーッと熱くなり、ビクビクッと跳ね、絶頂していた。
「あ゛ッ、あ゛あ゛あ゛あ゛ッ!!」
 中も痙攣しているかのようにキュウキュウとカカシのものを締め付ける。
「……っは、イッてるじゃん。」
 射精はしていない。中イキだ。
 カカシは腰の位置を戻すと、奥までの激しいピストンに切り替える。
「ぅあっ、あっ! あっ! っあ、あぅっ!」
 イッたばかりなのに休む間もなくカカシは抽送を続ける。その額には汗が滲んでいて、完全に情欲の色に染まっており、余裕なさげに荒い息をしている。そんなカカシの表情に、サスケは興奮していた。
「…………っ出すよ」
 抽送がぐんと激しくなったかと思うと、奥の奥に突きつけて、ドクン、ドクンと精を放った。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ、は……」
 荒い息はもはやどちらのものかわからない。
 カカシは最後の一滴まで中に放つと、それをぬるっと抜いてベッドの端に座った。ゴムを外して結びゴミ箱に放り投げると、サイドテーブルの中からウェットティッシュを取り出して手とそれをきれいに拭いていく。
 サスケは足をM字に開いたまま、荒い呼吸を鎮めようと深呼吸していた。さっきまで中に入っていたものがなくなって、寂しいような、ぎゅっとした気持ちになる。
「ほら」
 カカシがサスケにウェットティッシュを差し出し、サスケが起き上がって受け取ると、後ろの穴の周りのローションを拭きとる。
 カカシはパンツとズボンを履いて、サイドテーブルの上の煙草を手に取り、一本取り出してライターで火をつけた。
 サスケも脱がされたパンツとズボンを履いて所在なさげに煙草を吸うカカシを見つめる。
「サスケ」
 振り返らないままカカシが話しかける。
「どういうつもりだったかは知らないけど、今日のことは忘れな。」
 身体中がカッと熱くなるのを感じた。
 忘れないために抱かれに来たのに。そうでなくても、こんなこと、忘れられるわけがない。
 カカシは紫煙を吐きながら振り返らない。
「忘れられるわけ、ねえだろ……!」
 泣きそうな自分がいた。カカシにとっては忘却すべき行為だった。それだけならまだいい、むしろ、それでいい。なのに、俺にも忘れろと言うだなんて。
 泣きそうなのを堪えてベッドから降り、カカシの顔を見ないようにしながら部屋を出ようとすると、カカシがサスケの腕を掴む。
「……もしかして、本気なの?」
 サスケは何も答えなかった。答えられなかった。
 腕を振り払って寝室を出て、カカシの家から飛び出すように出ていく。
「……参ったな」
 そのサスケの様子を見送って、カカシは頭を掻いた。
 
 任務の報告書を出しに里の中枢に行くと、アスマとバッタリ居合わせた。
「よう、カカシ」
「ん? ああ、報告書?」
「ああ、お前もか?」
「んー、そうだな……」
 まるで心ここにあらずな様子のカカシを見て、アスマはサスケが何かしたな、と勘付く。もしかして、昨日の話をそのまま実行に移したのだろうか。
「……サスケはどうした?」
 サスケ、という単語を聞いてカカシがアスマの目を見る。
「ごめんけどそれ、どういう意味?」
「どうもこうもねえよ、サスケの相手、したのか?」
 その言葉を聞いて、悟った。カカシがアスマに歩み寄る。
「お前な……言って良いことと悪いことがあるの、わかんない?」
「相手、したんだな? ……お前部下の男のガキでも手ぇ出すのかよ。」
「お前がそそのかさなかったらしてないよ。どういうつもり?」
「俺はサスケの気持ちに応えてやっただけだ。話の流れは黙秘するが、全部サスケが望んでやったことだ。サスケは満足してるんじゃねえのか。」
「満足どころか、コトが終わったらすぐ出てったよ。今日の任務は普段通りだったし、満足って何のこと?」
「普段通りだったんなら、良いんじゃねえの? お前は他の女でも抱いてさっさと忘れろ。」
 カカシがアスマの襟ぐりを掴む。
「忘れろ? 忘れられるわけないでしょ? 何言ってんの?」
 そう言ってから、自分がサスケに言い放った言葉を思い出した。忘れられない。そう、忘れられるわけがないんだ。サスケが自分から俺のところに飛び込んできて、俺はサスケの望むことをして、そしてその後俺はそれを「忘れろ」と言った。その言葉がどんなに残酷なものだったのか、考えもしなかった。
「サスケはお前が忘れることを望んでると思うぞ。」
「お前にサスケの何がわかる。」
「少なくとも今回の件は、俺の方がよく知ってると思うが?」
「なら、今ここで吐け。」
「秘密は守る主義なんでね。」
 アスマは胸ぐらを掴むカカシの手を掴んで、引き剥がす。
「お前は今まで通りにサスケと接すればいいんだよ。」
 それだけ言うと、アスマは報告書を手に執務室へ入って行った。
 
 忘れろ? 忘れられるのか? サスケは本当にそれでいいのか? サスケはどんな気持ちで俺に抱かれに来た?
「本気なの?」という言葉に答えなかったサスケの、その態度が、すべてを現わしているように思えた。……でも本人に聞いたところで、きっと答えないだろう。カカシは答えのない疑問を持ち続けるしかない。そんな状況で、忘れられるわけなんかない。
「……っくそ」
 アスマの言うことが本当なら、俺にできるのは、今まで通りに接して、忘れたふりをすることだけだ。それでサスケが納得するのなら。満足するのなら。
 でも俺はどうしたらいい? この気分はどこに落ち着かせればいい? アスマを一発殴れば少しはマシになるだろうか? ……いや、サスケを拒絶することもできたのに、抱いたのは俺だ。抱かなければこんな事にはならなかったはずだ。
 このもやもやした気分を持ち続けるのが俺の罪に対する罰だ。
「他の女でも抱いて忘れろ、か。」
 今までの女は皆そうしてきた。もう顔も覚えていないし、名前も聞いちゃいない。完全に忘却の彼方に押しやりながら、ワンナイトラブを繰り返してきた。でも今はいつもの居酒屋に足を向ける気分にはならなかった