さよならを
復讐なんてやめろと、言ったその顔はいつもの貼り付けたような笑顔。表情のコントロール。そこからわかる意図。
「俺にはイタチは殺せない」
……だからやめろと、死にに行くようなものだと言外に含めてあの笑顔。
俺がそんな言葉に素直に従う奴じゃないと知っているくせに、理性に語りかけるその口。
届かねえよ、カカシ。
わかるだろ、復讐者である俺は感情で動いている。理性なんてクソ食らえだ。なのに敢えて感情に訴えかけないのは、あんた自分が怖いからだろ。
あんたが何か隠してるのは知ってた。大切な人はみんな死んでる、そこがあんたの核なんじゃないのか。
仲間を大事にしない奴はクズ、言い換えればあんたはそのクズなことを過去にしたんだろ。だから大切な人を全員見殺しにしてるんだよ。で、次は俺の番か。
俺を死なせたくないあんたのエゴに付き合ってられるほど俺の復讐心は浅くない。
あんたの元にいたら確かに手も足も出ないかもな。それは痛い程わかった。
だから復讐はやめろ、それは通用しねえ。
俺は里を出る。
力を求めて大蛇丸の元へ行く。
あんたと修行していたっていつまでも追いつけないのは目に見えてる。
さよならを、言おうもんならまた縛り上げるんだろ。
大蛇丸は三代目火影を殺した犯罪者だ、そいつの元に向かうと分かったら止めるのは当たり前だ。
だからさよならなんて、言ってやらねえ。
俺があんたにとって大切な人だったのかは知らねえけど、また見殺しにするよりも視界からいなくなる方が、あんたも楽だろ?
強くなるためなら何だって利用する。
イタチを殺すためなら何でもやる。
残された最後の1人としての責務を果たす。
世話にはなった。
でも、ここまでだ。
バックパックに多少の着替えと忍具を入れて、立ち上がり背負った。
家を出て、胸の中に何かが引っ掛かっているのがわかる。
怖気付いたのか。
違う。
大蛇丸の元へ行く事への躊躇いか。
違う。
違う。俺が出ていく可能性を考えて、本気で止めるつもりなら忍犬にでも見張らせている筈なのに、……俺の歩みを止めようとする者は現れない。
止めて欲しいのか。
違う。
……違う。
止められない事であんたにとって俺は止めるだけの価値のある大切な存在になれていなかった、それを突き詰められている事に対して……何とも言えない悔しさ……虚しさ……そうだ、この胸の引っ掛かりは、あれだけ仲間を大切にしてきたのに、俺は誰にも大切に思われていない、そう知らしめられている事に対する虚しさ。
出ていく、と決めておきながら、誰も止めに来ない事に虚しさを覚えるなんて、馬鹿だな、俺は。
仲間ごっこがしたかったんじゃない、七班は俺にとって本当に大切な仲間だった。
カカシにとっては、数多く育ててきた部下の1人にすぎない、それだけなのに。
あの間抜け面が後ろから肩に手を置くのを期待している。俺の名を呼ぶ声を期待している。
そんなことはありえない、やるならもっと早く止めに来るはずだ。無駄な期待であり、俺が選ぶ道には必要ないもの。
それなのに、どうしてこんなにも……。
けじめをつけよう。
声に出して、もう戻らないと。
「……さよなら」
大切だったものは全てこの言葉と共に置いていく。
すべての未練をこの言葉と共に捨てていく。
「……ありがとう」
俺の進む道を肯定したあんたの事を、忘れない。
俺は進む。


