特別なクナイ

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全年齢,超短編,原作軸,カカサス小説シリアス,ほのぼの

 演習が終わり、七班の三人はそこら中に刺さったり落ちたりしているクナイと手裏剣を集めていく。
「俺は今日手裏剣九個とクナイ三本使った」
「俺ってばそんなの数えてねえよ……」
「持ってきた数と今ある数照らし合わせたらどう? ちなみに私は手裏剣五個とクナイ八本」
「じゃあ、残った分がナルトだな」
 サスケが手裏剣とクナイを拾おうと手を伸ばす。手裏剣九個、クナイは……
 拾い集めたクナイは全部で一三本だった。
 そうすると、ナルトは二本使ったことになるが、今日の演習では確かもっと多く使ってなかったか……?
 サスケは自分のポーチの中のクナイを確かめる。
 ……ない。あるはずのクナイが一本足りない。
 思わず舌打ちする。
「集め損ねたクナイがあるみたいだ。探してくる。ナルトとサクラは先に帰ってろ。」
「今から探すのか? だって……」
 もう、夕闇がすぐそこに迫っている。
「サスケ君、手裏剣もクナイも基本的には消耗品なんだから、一本ぐらいだったらまた買えばいいんじゃない?」
 その消耗品をわざわざ毎回集めているのは、下忍の少ない給料から少しでも出費を減らすためだ。一つや二つ見つからないことはしょっちゅうある。
 そういう時はじゃんけんで負けた人が足りなかった分を補充するのが暗黙の了解だった。
「あのクナイは……特別なんだ。いいからお前らは自分の分拾ったら帰れ。」
 サスケは演習場の中に戻って行った。
 
 クナイを投げた場所は三箇所。場所も覚えている。暗くても見つかるはずだ。
 まずは一箇所目……カカシが丸太を身代わりにした、ここだ。
 へのへのもへじが描かれた丸太をくまなく見る。ない。次だ。
 二箇所目、起爆札を付けて投げた、森の中の木……確か、この辺りから太陽を右にして正面に投げ、木に刺さった。時間は一五時ごろ……ということは、北東。爆発した痕跡のある木を探すと、あっさり見つかった。が、回収済みなのだろう、そこにはない。……最後だ。
 最後はカカシに向けて投げた。それをカカシは……かわしていない。手でパシッと掴んで、指でクルクル、と回した後……どこにやった? 落としてはいない。返ってきてもいない。……もしかして、カカシがまだ持っている?
 演習場の森から出て、カカシがいた場所を探すが、見当たらない。
 と、そこにカカシがやってきた。
「サクラから聞いたけど……こんな暗いのにクナイ探してるって?」
 ちょうど良いタイミングだ。
「最後、あんたに向けて投げたやつがあっただろ。あれどこやった?」
 カカシは顎に手を置き思い出そうとする。
 確かにサスケのクナイは掴んだ。その後? ………俺のポーチの中?
「俺持ってるかも」
「返せ」
「いいけど……はい。」
 カカシはポーチから一本クナイを出して渡す。
 サスケはそれをまじまじと見て確認すると、
「これじゃない」
 とカカシに突き返す。
「……何か特別なものなの? そのクナイ。」
「あんたが持ってるやつ、全部出してくれ。」
 ジャララ、とクナイを全て出す。二一本。
「ああ……確かに一本多いね。」
 サスケは暗闇の中、写輪眼を光らせながら一本ずつ確かめていく。
「……あった。」
 それは他の物とどこが違うのかわからないくらい、普通のクナイだ。
 だけど、サスケにとっては違うらしい。
「どこが違うの? それ。」
 カカシが地面に並べられたクナイを拾いながら尋ねると、サスケは刃の根本をさする。
「……ここに、うちはマークがある。これはうちは一族が代々使ってきた忍具屋のもので……」
「……もので?」
「……いや、何でもない。ともかくこれで用は済んだ。俺も帰る。」
 サスケはスタスタと歩いて去って行った。
 カカシはその小さい背中を見送る。
 何か含みのある言い方だったな……。
 うちは一族の御用達ならもっと特別な何かがあるのかもしれないけれど、どう見ても普通の忍具店で売っているものと変わらない、ただうちはマークが付いてるだけのクナイだった。
 大切にしているのは分かるけれど、こんなに暗くなってまで探さなければいけないほど特別なものなんだろうか、と思うと疑問が残る。
 カカシは道中、みたらし団子屋に寄ってからサスケの家に向かった。
 
 コン、コン
 玄関から聞こえるノック音。
 足音はしなかった……こんな時間に、誰だ?
 扉を開けると、そこにはカカシがビニル袋をぶら下げて立っていた。
「よ、サスケ。さっきはごめんね。サスケの大切なクナイ持って行っちゃって。これ、お詫び。」
 買ってきたみたらし団子をずいと差し出すが、
「わざわざそれだけのために来たのか?」
 と受け取ろうとしない。
「みたらし団子……嫌いだった? あんまり甘くないと思ったんだけど……」
「いや……みたらし団子なら食えるけど……」
「なら、はい。受け取って?」
「……とりあえず、上がれよ。玄関開けっぱなしにするな。」
 みたらし団子の入ったビニル袋を受け取ると、サスケは台所に向かって行き、中身を確かめる。
「……おい、五本も食えねえぞ」
「じゃあ、一緒に食べる?」
「……あんたが持ってきたんだから責任持って食え」
 カカシがお言葉に甘えて玄関を閉めて室内に入ると、サスケは団子をちゃぶ台の上に置いた。
 もう一度台所に戻って急須に茶葉を入れると、電気ポットからお湯を注ぐ。
「適当に座ってろ。今お茶淹れてるから。」
「ん、了解」
 カカシはちゃぶ台の前に腰を下ろす。
 サスケは急須から湯呑みにお茶を注ぐと、お盆にのせて運び、ちゃぶ台の上に置いた。
「いただきます」
 カカシが湯呑みをひとつ手に取り、口布を下げてズズ、と一口啜る。
「団子には緑茶だよねえ」
 サスケもちゃぶ台の前に腰を下ろし、湯呑みに手を伸ばしたが、そこでカカシを見て固まった。
「ん? どうした?」
「いや、口布……いいのか? 俺に素顔見せて。」
「ああ……まあ、サスケならいいよ。俺の素顔のことどうこう言いふらしたりしないでしょ。」
「しないけど……」
「じゃ、団子食べよ?」
 カカシの顔を見ながら、サスケは団子に手を伸ばす。
 ……カカシが茶を飲んでる。
 ……カカシが団子食ってる。
 普段絶対に見せない口元を曝け出して。
「……そんなに気になる?」
「気になるだろ、普通。」
「じゃあ、俺も気になってること聞いてもいい?」
「……何だよ」
「あのクナイのどこがそんな特別なの? 普通のクナイと変わらないよね。」
「ああ……、まあ、カカシならいいか。」
 サスケはポーチから三本のクナイを出す。全てうちはマークが入っている。
「これは俺がアカデミーに入った年の誕生日に、父さんがくれた物だ。父さんが誕生日にプレゼントをくれたのは、唯一これだけだった。……形見、みたいな物だ。」
「……そんな大事な物なら、家に置いておけば良いのに。」
「これでクナイを扱う練習しろと言って渡されたものだ。だから演習には使う。……任務には、さすがに持って行かない。」
 サスケがポーチにクナイを戻す。
「なるほどねぇ……。あれ、サスケの誕生日って、いつだっけ?」
「今日だが?」
「ふぅん……えっ今日!?」
「今日だ。」
「前もって言ってくれれば何か用意したのに。」
「『俺は明日誕生日だから何かくれ』ってか? バカのすることだろ。アホくさ。」
 サスケが二本目の団子に手を伸ばす。
「このままじゃこの団子がプレゼントみたいじゃない……それはちょっと、わびしすぎるでしょ。」
「別に何もいらねえよ。あんたの素顔見れたし。」
「俺の素顔がプレゼント? え~嫌だなそれ。何かないの、欲しい物。」
「……欲しいのは、イタチを殺す力だけだ。それ以外、何もいらない。」
 場の空気が一気に冷え込むのを感じる。気まずい。
「………………わかった、わかった。じゃあこれはどうだ。明日から一週間毎日サスケの修行に付き合う。」
 サスケが顔を上げた。
「本当か?」
「どう? これなら気にいるでしょ。」
「ああ、そういうのだったら歓迎だ。」
「……じゃ、明日の朝六時に第三演習場ね。」
「わかった、六時だな。」
 二本目を食べ終わったサスケが、最後の団子をカカシの方に押し出す。
「俺二本で十分だから、あんた責任持って食えよ。」
 正直カカシも二本でお腹いっぱいだったが、仕方なく最後の一本に手を伸ばす。
「サスケのために買ったんだけどなぁ……」
「よく考えずに買うからだ、ウスラトンカチ。」
「はは、手厳しいな」
 カカシは団子を全部口に入れて、無理矢理飲み込んだ。