魅入られた者

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2025年4月4日成人向,短編,現代パロ,連載中,カカサス小説オカルト,エロ

夢じゃなかった

 夢の中でこれは夢だと気がつくこと、いわゆる明晰夢と呼ばれるそれを、どうにかしてみる方法はないだろうかとスマホで検索する。
 神隠しで何が起きていたのか分からない。
 でも現在進行形で見ている妙な夢は、どうにかして朝まで覚えておく方法を見つけたい。
 それが神隠しのヒントにもなるかもしれないのだから。
 ともかく眠りを浅くするのがひとつ、夢を覚えておく方法としては有効らしい。俺はその日は明かりをつけたままベッドに横にならずに座って壁にもたれかかることにした。なかなか寝付けないのは想定通りだ。うとうとするくらいの浅い眠りを保って、見た夢をスマホのボイスメモに残す。そのために、ボイスメモは一晩中録音を続けることにした。三時間座ったまま目を閉じて眠っては半分起きて、を繰り返しながら、ちょんちょんと肩を指でつつかれて顔を上げると、カーテンの隙間から差し込む月明かりに照らされた、その顔は確かにカカシのそれだった。
「……ふふ、可愛い。そんなに俺と愛し合うのを覚えていたいの?」
 あいし……? 何言ってんだ、カカシ。……カカシ……? カカシはこんな表情は、しない。
「……誰だ、カカシのふりはやめろ」
 そいつは俺の頬を包み込んで、目を覗き込む。
「俺はカカシだよ、サスケが大好きな、カカシ。ね?」
 ぐにゃりと思考が歪んでその声が頭にまとわりつくように離れない、見つめられる目を見ているとその目以外何も見られなくなる。何かが狂っていくのに何なのか分からない。目の前にいる、俺の目を覗き込んでいる、この人は……そうだ、カカシ、だ、おれの、すきな……。
「……カカシ……」
「そうだよ、俺はサスケが好きなカカシだ。」
 優しいキスが、ついばみながらじわじわと舌が口の中に舌が入ってきて、それが気持ちよくて夢中になる。
 口の端から垂れる唾液も舐め取られて、ドキドキと興奮する胸が唇が離れるのを惜しみながら次を期待していた。
「サスケは俺のことが大好きだよね?」
 だいすき、だい、すき……おれはカカシが……だい、すき……
「……すきだ、大好き……」
「俺も好きだよ、サスケ、今日も愛し合おうね?」
 今日も……あいし……?
 カカシは月明かりに照らされた右半分の顔にいつもの笑顔を浮かべてじっと俺を見ている。
 そうだった……毎日俺たちは……愛し合って……
「いい子だねサスケ、……現世は邪魔が入ってよくない、夢の中においで。」
「ゆめ……の、なか……」
 カカシの腕が俺に背中と膝の裏に差し込まれて、抱き上げられる。
 ああ、今日もまたあの幸せな……
「んっ、ふ……っ、ぁ、んっ!」
 キスをしながら後ろの穴に入った指が敏感なところを刺激して、その甘い快感に震えながらキスに応える。
 蕩けるような口の中の気持ちよさにその刺激が加わってその大きな背中を抱き寄せながら漏れる声と熱い息。
 大好きなカカシと愛し合える喜びに震えながら夢中になって舌を絡めてこころも身体も満たされていく。
 カカシが好きだ、大好きだ。早く繋がりたい……と思ったとき、ハッとして目を開けた。
 俺は硬い壁にもたれかかっていた。そうだ、座ったまま俺は寝て。何かしなくちゃいけなかったはず……スマホ……そうだ、見た夢を……。
「カカシ……きす……ゆめで……あいし……」
 眠くて頭が回らない。かろうじてそれだけ呟いて、また眠りに落ちていく。
 裸のカカシと俺が、俺のベッドで折り重なっている。
「っあ、あっ、あ、んっ!」
 そこはすでに繋がっていてキスの雨を受け止めながらカカシが動くたびに俺は声を上げていた。夢……夢だ、現実にはありえない。これは今俺が見ている夢……なんて幸せな気分なんだろう。こんな夢なら覚めたくない……けどこれは夢……。
「か、かし、っ、あっ、んぁっ! あっ、かか、」
「ん……また意識がある? ……おかしいなぁ、足りなかったかな。」
 カカシがまた俺の目を覗き込む。その目を見ていると頭の中が溶けていく。その感覚も気持ちいい。何を考えていたのか思い出そうとしたら腰の動きが早くなって背が弓形になる。
「っあ゛! あっ、あ! っぅあ、あ゛っ!!」
「何も考えないで俺だけを感じて、サスケ、愛してる。」
 かかし……だけを……かんじたい……
「あっ、あ、いくっ、あ゛っ! い、っ~!! っあああ!!」
 びゅるる、びゅる、とほとばしる精液。
 カカシは満足気に笑った。
「そう、たくさん感じて、たくさんイッて、一緒に気持ちよくなろうね」
 はぁっ、は、と息をしながら、止まらない快感にまた喘いだ。
 気持ちいい、カカシと、愛し合って、幸せで気持ちいい。
 意識が朦朧とする。
 気がついたら、硬い壁に背を預けている。
 あ……今の、夢……だ、記録を……。
「カカシ……せっく、す……しあわせな……」
 眠くて今がまだ夢の中なのか現実なのかよく分からない……すぐにまた眠りに落ちそうな頭をなんとか動かしてスマホに喋りかけた。
 ……だめだ……ねむ……
「あっ! あ、あああっ! あっ! きもち、あっ! カカシっぁあっ! あっ、あああっ!!」
 激しくぶつかり合う肌の音、脳にガンガンと響く強い快感に頭がおかしくなりそうになりながら汗ばむ身体にしがみつく。何かを考える余裕もなくただただカカシを感じて、その行為に夢中になっているその顔を見て胸がいっぱいになる。
 好きな人と愛し合う幸せを、セックスがもたらす快感を感じながらこんな夢なら覚めないでと、脳裏に浮かんだ考えに驚いた。
 夢、そうだこれ、夢だ。
「っあ゛! あぁあっ!! かかっ、ぅあっ! っあああ!!」
「可愛いね、サスケ……一晩中愛し合おうね。」
 息の乱れたこのカカシの声も、脳幹に響くような快感も、この幸せな気持ちも、すべて夢……夢だったらもっと、もっとこのままカカシを感じ続けたい……。
 
 夢を見ながら、意識が現実に戻っては、また夢を見て、永遠にそれを繰り返し続けるんじゃないかと思うくらいに、朦朧とする意識で夢と現実がわからなくなりながら、ひたすら終わりが来るのを待った。
 アラームの音に身体がビクッと動いて、ようやく朝が来たと思った時には、半分眠っていたはずなのに疲労でまた眠りそうになる。
 ……今寝たら兄さんがまた心配する……。
 頭に喝を入れてなんとか瞼を持ち上げてカーテンを開けると、眩い朝の光が少しずつ眠気を飛ばしていった。
 傍のスマホのボイスレコーダーの録音を止める。
 ヒストグラムは二〇回何らかの音を拾っていた。その部分以外を編集して削除し、一番最初の録音を聴く。
『……ふふ、可愛い。そんなに俺と愛し合うのを覚えていたいの?』
 え?
 急激に頭が冴えていく。
 この声、夢の、でも録音されてる、ということは、現実? どういう事だ?
『……誰だ、カカシのふりはやめろ』
 これは俺の声だ、確かに言った覚えがある。その後の記憶は曖昧だけど。
『俺はカカシだよ、サスケが大好きな、カカシ。ね?』
 録音されている音声が信じられない。確かにこれはカカシの声だ。けどカカシがこんな事を言うわけがない。
『……カカシ……』
 俺の声、だけど何かが違う。覇気がない、催眠術にでもかかっているような抑揚のない声。
『そうだよ、俺はサスケが好きなカカシだ。』
 このカカシを名乗る何者かが、この部屋に現れて俺に何かしている。もうこのやりとりの記憶は残っていない。神隠しのときと同じように。こいつは一体何者なんだ。
『サスケは俺のことが大好きだよね?』
『……すきだ、大好き……』
『俺も好きだよ、サスケ、今日も愛し合おうね?』
 今日〝も〟……ということは、神隠しの後からずっとこいつは俺のもとを訪れていた、ということなのか。
『いい子だねサスケ、……現世は邪魔が入ってよくない、夢の中においで。』
『ゆめ……の、なか……』
 ……最初の音声はここで途切れていた。この会話が本当なら、この後俺は眠りに落ちて、この何者かと夢の中でセックスをして……それが毎晩続いている、ということ、だろうか。
 最後の記録は朝の五時過ぎ……自分の声だった。呂律があまり回っていない。けど何を言っているのかは聞き取れた。
『……カシ……また……あいし……』
 ……また、……またあいつが来る、と言いたかったのだろうか。正体のわからないあいつはまた来る……。
 最初のやり取り、夢の記憶が残っていないこと、俺の神隠しの原因は間違いなくカカシの顔をしたこいつ。
 ……カカシとも何か関係があるのか、それとも俺がカカシに好意を寄せているからカカシの姿で現れているのか……。
 これはカカシに相談……するべきなんだろうか。
 月明かりに照らされた右半分の顔しか見えなかった正体のわからないこいつ。……いや、待て、……月明かりに照らされた顔、もう半分の左側、その目、丸い瞳、その色は……血のような赤い色だった。
 子供の頃に怪我をして見えなくなったと話したカカシのその左目はいつも閉じられている。もし、その目が開くとしたらその色は何色なんだ。本当に目がないなら窪んでいる。という事は、義眼か何かをつけている。左目の瞼を開けたときに、その義眼を見ることが出来るはずだ。……あるいは、もしかしたら、赤い瞳が……。
 神隠しに遭った俺を最初に見つけたのはカカシだ。覚えていないその日にカカシは俺に何かをした……?
 自分の考えに、何考えてるんだと否定する。カカシのわけがない、あれはカカシを装ったこの世のものではない何かだ。
 ……でも、左目は確認しておきたい。カカシじゃない事を確かめるために。
 
 カカシの授業を受けながら、そういえばいつもマスクしてるよな、と思う。アレルギーとかそういう話は聞いたことがないし、マスクを外した時に咳き込んだりするところも見たことがない。……なんでマスク、着けてんだろ。思えば、カカシに好感を抱いてはいるけどカカシのプライベートに関しては全く知らない。どの辺りに住んでるとか、そんな話も出てきたことがないし、家族の話をしないから多分独身なんだろうな、くらいで、先生としてのカカシしか俺は知らない。
 別に知る必要はないんだけど、正体のわからない何かがカカシの姿をしているせいで、カカシのことが気になってしまう。
 俺は手を挙げて、今の授業の論点……だけど大学レベルの問いかけをする。カカシはいつものように、それは今教えることじゃないけど気になるなら後で個別に教えるよと笑顔を向ける。
 
 いつもの生徒指導室、鍵を開けて扉を開けるカカシ。中に入って椅子に座り、鞄を置く。
 どうやって左目を見せてもらおうか、聞いてみたらすんなり見せてくれるかもしれない。見せてくれなかったら……昨夜の話をする。カカシの姿で、でもその左目が赤かった事を。だから確認したいのだと。
 扉を閉めてカカシが向かいの椅子に腰を下ろした。さっき問いかけた論点について、俺の知識を確認しながら解を説明する。
「よくわかった、ありがとう。」
「相変わらずサスケは知識欲が旺盛だねえ。」
 背もたれに背中を預けるカカシの左目を見ながら、俺は話を切り出した。
「カカシの左目、義眼みたいなの入ってるんだろ。見てみたい。その瞼って、開くことできるのか?」
 カカシは意外に思ったのか、少し右目を見開いた。
「何で急に気になったの? まあ、瞼は一応開けられるけど。……正直あんまり見られたくないかな。きれいなものではないからさ。」
「一回だけでいい、見せてくれないか? あんたのこと、もっと知りたいし。左目がどうなってても、驚いたりとかしないから。」
 カカシは少し悩んでから、また笑顔を作る。
「うーん……ごめんけど、やめとく。こういうものは、興味本位で見るもんじゃないよ。」
 嗜めるように言われて、昨夜のことを話すしかない、と覚悟を決めた。鞄からスマホを取り出して、ボイスレコーダーを再生する。最初のあのやりとりを。
「……昨日の夜、ずっと録音していたんだ。最近夜変な夢ばかり見るから。それで、この音声が最初に録音されていた。……カカシの声で、カカシを名乗ってる何者かが俺のところに来ていた。そのカカシの姿をした何者かの左目は赤い色をしていた。」
 カカシは興味深そうにスマホを見ている。
「だから、この何者かがカカシじゃないことを確認したくて、カカシの左目を見せて欲しいんだ。」
 スマホの再生を止めて、顎に手を添えるカカシの顔を見る。真面目な顔で、スマホの画面を見続けていた。
「……なるほどね、……そっか、そういうこと。」
 どういうこと、なんだ。聞こうとしたら、カカシがスマホから俺の顔に視線を移した。
「ま、そういうことなら見せてあげる。よく見えるようにこっちに来て。」
 俺は立ち上がって、カカシが座る明日の隣に歩み寄る。カカシは座ったまま、俺の方を向いた。
「開くから、しっかり見てね。」
 固く閉じられていた瞼がピク、と動く。ゆっくりと持ち上がるその重たい瞼の下に現れたのは、血のように赤い瞳孔だった。

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