魅入られた者
消せない現実
思い出せないけどいい夢だった気がすると、感じることから始まる朝。少しだるい身体を起こしてスマホで自分の立てたスレッドを確認するが、やっぱり有益なレスはついていない。寺で祓ってもらえ、と何件か書かれていて、近所の普通の寺でもそういうことができるんだろうかと思ったけど、何もしないよりは良いかと次の休みの日に寺廻りをしてみることにした。
……結果としては、全滅だ。祓うどころか、そういう存在を知らない坊さんばかりで話にならなかった。やっぱりそういうものが専門のちゃんとした寺に行ってみないといけないらしい。
スレッドにそのことを書き込んだら、何件かおすすめの寺の情報が返ってきた。ただ、どこも県外だ。高校生が気軽には行けない場所ばかり。
当面、寺のことは置いておいて他に似た経験をした人がいたら教えて欲しいと書いてスマホをしまう。
こうやって俺が無駄な足掻きをしている間もカカシは毎日俺を良いように操って俺を好きなようにして精気とやらを食っていると思うと何だか腹が立ってきた。
明日は土曜日だし、今日は一晩中起きて、朝になってから寝てやる。カカシが約束を守るなら起きている俺の前には姿を現さないはずだ。
寝る時間を過ぎても、俺は机に向かって勉強を続けた。問題集の問題を解きながら、時々参考書を開いてノートにメモ書きをして、また問題を解く。少しは眠かったけど勉強に集中していると時間を忘れられた。
そうして何時間が経っただろうか。後ろから肩をちょんちょんと突かれて手を止める。……まさか、と振り向いたら、しゅんとした顔のカカシがそこにいた。
「……おい、約束はどうした。」
「……だって……サスケ寝ないから。」
「姿を現すな、俺が寝てからにしろ。という話だったはずだ。」
「でも繋がってるから俺はサスケに引き寄せられちゃうんだよ。しばらく窓の外で様子見てたんだよ? しばらくっていうか何時間も。でも全然寝る気配がないから、俺もこの引力に逆らうこと出来ないし。」
……そういえば、忘れてたけど繋がりのせいでこいつ、毎日俺のところに来ざるを得ない、んだった。
「なら俺が寝るまでそこで座って待ってろ。」
「……サスケ、寝るつもり……ある?」
「眠くなったら寝る、それまで待て。」
「んー……我慢できるかなぁ……。」
俺はそのカカシの言葉を、カカシ自身が我慢できるか、という話だと理解してせいぜい我慢してろとまた問題集に目を落とす。
カカシがいると思うとあまり集中はできないが眠くなることもなかった。ただその代わりに、何だか身体がほてっているような、初夏にはまだ早いし夜なのにのぼせたような熱を感じて、風邪でも引いたのだろうかと薄手のカーディガンを一枚羽織る。だんだん胸も鼓動が早くなって、同時に息も上がり始めた。……風邪だ、これは。寝ておきたい……ところだけど背後に座っているカカシの存在を思い出して、今夜一晩は何とか頑張ろうと思い直す。机の上のペットボトルの水を一口飲んで、ほてる頬に手の甲をあててみたら、やっぱり熱っぽい。体温を測っておこうと、リビングにある体温計を取りに行くために椅子から立ち上がった時、衣擦れに得体の知れない感覚が走った。
「……っ、?」
布が肌に当たり、擦れる度にその感覚が強くなって、特に顕著に感じる股間に目をやると傘を張っている。
「……は……?」
勉強してたのにどこに勃つ要素があるんだ。
身動きするとどうにも何もかもが刺激として感じてしまう。机に手をついて立ち上がった姿勢のまま俺は固まった。
何なんだ、どうなってるんだ、何が……まさか、これカカシの仕業か……!?
「……おいあんた、俺に何しやがった……!」
カカシはさも平然と答える。
「淫魔と繋がってるって、そういうことなのよ。ましてや間近に俺がいる今の状況じゃあ、発情するのはごく自然なことだよ?」
「ならどっか行け!」
「それが出来るならとっくにしてるって。……それで、どうするのサスケは。寝たら俺がちゃんとその身体も満足させてあげられるけど。」
それが気に食わなくて起きてたのに、結局そうしろと? 負けたような気がして嫌だ。とはいえ、このままでもいられない。
「自分で抜くからあんたは部屋の外にいろ。」
気配が動いて、部屋の中から消えた。
ズボンを脱ぐと傘を張っているパンツの先が濡れている。いつの間にこんな事に……。
ティッシュをすぐ取れる場所に置いて、それに手を伸ばす。ガチガチに勃っていてすぐにイきそうな事に安堵と疑問を持ちながら扱くと、思っていた通りにすぐに白濁液を吐き出した。……なのにそれの硬さは衰えない。何がどうなってんだ。
3回繰り返して変わらない現実に、言われた言葉を思い出す。
『間近に俺がいる今の状況じゃあ、発情するのはごく自然なことだよ?』
カカシは寝れば何とかするとか言っていた。それ以外にどうにかする方法はないのか、これは。
「……カカシ、入ってこい。」
音を立てずに気配だけが近づいてくる。扉の外に行く時もそういえば物音がしなかった。
「ほら、我慢できなくなったんでしょ。悪いこと言わないから寝なよ。」
「それ以外になんかないのか、どうにかする方法は。」
「悪いけど、俺父親に育てられてきたから、寝てもらう以外よくわかんないんだよね。淫魔として今サスケに何をしてあげられるのか。」
……ああ、くそ、もう降参するしかないのか。腹は立つけどこうなるともう止むを得ない。
「……わかったよ、寝れば良いんだな。」
動く度に衣擦れの刺激で身体が震えそうになるのを耐えながら、羽織っていたカーディガンを脱いでベッドに上がる。布団を整えて寝ようとしたその瞬間、目の前にカカシの顔があった。
「……ごめん、俺もちょっと我慢の限界。」
どういう意味、と聞く前に唇が奪われていた。熱い舌が口内を蹂躙しながら舌を絡めていくのを抵抗できずにそのまま受け入れるどころか俺はその舌の動きに応えて絡め合っていた。……気持ちいい……身体がまた熱くなっていく。その身体をカカシの手が撫でて、その感覚にまた刺激を感じながら、服がはだけられていくのに俺はキスの気持ちよさに夢中で気が付かなかった。頭を支えられながらゆっくりと倒されていく上半身。唇を離したカカシはその額を合わせた。
「夢の中に行こうサスケ、声出してもいいように……。」
こえ、って、なんのこと、だ。
暗転して次に気がついた時、俺はベッドに身を任せながら、カカシがそこをじゅぼ、じゅぼ、と音を立てながら咥えていた。強烈な気持ちよさに喉が震える。
「は、っあ、はぁっ、っあ、く、だめ、だいく、いっ、……っ!!」
ドク、ドク、とカカシの口の中に4回目の迸りがはぜる。カカシはそれを飲み込んで丁寧に舐めとった。
「は……、ごめん、後でちゃんと謝るから……」
謝るって、なにを……? と思っていたら、後ろの穴にぬるっと何かが入ってきた。俺の身体はそれを待ち侘びていたように震える。
「あ、あっ、はぁっ、あ、っん、あっ!」
何なのかもうよくわからない、けど気持ちいい、気持ちよくて何もかもどうでもよくなってくる。薄目を開けると俺を見るカカシの顔が、いつになく余裕がなくて、目が合うとまた「ごめん」と言われた。
何を謝っているのかわからないままほてった身体を慰めるような快感に堪らなくなって伸ばした手がカカシの首を捕らえた。離すものかと引き寄せたらまた唇が触れ合う。
「ん、……んっ、んぅっ、んんっ! っん、あっ!」
カカシが俺の顔を見てる、息を乱しながら、何か我慢しているような顔で。中の刺激で声を上げる俺を見ながら、半開きだった口を結んだ。
中に入っていたものが抜けていって、すぐに熱くて大きいものが押し付けられ、それが中に入ってくる。
「ぁ、っ、な、に、あっ、う、んっ、あ、あっ、……っ!」
それが奥まで届いたとき、さっきまでとはまた違う快感が走って手に力を込めた。
そのまま始まった律動に、それがカカシのものだとわかって、けれどさっきまでとは全然違う強い快感にまた頭の中が真っ白になる。
「あ゛っ! あっ、っぁあ! ぅあっ、あっ!」
これを待っていた、待ち望んでいた。カカシにこうされることを。そう感じたことに動揺して、違うそんなわけないと打ち消したかったのにカカシは考える暇を与えてはくれない。
「やっ、あっ! いくっ、あ゛っ! いく、いっ、っああ!」
ビク、と下半身に力が入ってびゅる、びゅ、と精液を吐き出す。力が入ったせいか中にあるカカシのものをぎゅうぎゅうに締めつけているのがわかる。
俺は動きを止めたカカシに訴えていた。
「ッカカシ、もっと……も、あっ、あ、あっ!!」
応えるようにカカシは律動を再開して、俺はまた喉を震わせる。渇望していたものが満たされていく感覚にうっとりとしながら、それを繰り返した。
気がついたら、ベッドで普通に寝ていた。でもまだアラームは鳴っていない。カーテンを開けると外はまだ暗かった。夢の中の痴態を思い出して、夜だからまだカカシがいるはずだとその名前を呼ぶ。
「……いるんだろ、カカシこっちに来い」
カカシは窓を通り抜けてするっと入ってきた。でも俺とは目を合わせない。
「寝る前の記憶を消せ、あんたなら出来るだろ。」
「……ごめん、暗示をかけてるときしかそれ出来ないの。ごめん。」
「……は?」
何言ってんだこいつ、それじゃああの鮮明な夢を覚えていろとでも言うのか。
「……おいふざけんなよ。」
「だから後で謝るって言ったの。サスケを何とかしてやりたかったけど、俺も我慢できなかったから。ごめん。」
「なんで、暗示かけなかったんだよ!」
「……ごめん、そのままのサスケを抱きたかった。」
「は? 意味、わっかんねえ……!!」
正座して俯くカカシに何を言っても「ごめん」と言われるばかりだった。
そのままの俺を抱きたかったってどういう意味だよ。自分の思い通りになるように暗示をかける方がいいに決まってるのになんで。
繋がりがどうとはいえ俺はカカシとああいうことをするのを望んで、望んだ通りになったことで感じた幸福感がまだ頭に染みついていて、何もかも信じられなくて、信じたくなくてその憤りをカカシにぶつけた。でもカカシはごめんとしか答えない。俺は頭を抱えた。
あんなの嘘だ。
カカシを求めていたなんて嘘だ。
全部繋がりのせいだ、そうじゃないとおかしい。
俺はあんなこと求めてなんかない。
「サスケがいつも通りに寝てくれてたら、良かったの。でもいつまでも寝ないし、繋がりで縛られてる俺はサスケとしないとどうにかなりそうになる。とは言え約束を守れなかったことには違いないから、そこは本当にごめんとしか……。」
繋がりで縛られてるのは俺も同じだ、でないとカカシの言う〝発情〟なんかにはきっとならなかった。
それに窓の外で待っていたとしても至近距離にカカシがいたことになるのは変わりない。カカシが目の前に現れていなくても俺は多分〝発情〟して何をどうしたらいいのかわからないまま扱き続けていたかもしれない。
だからってこの記憶を持ったまま、普通に生活するなんてもう出来ない。カカシの顔を見る度にきっと思い出してしまう、さっきの夢のことを。あんなにも強い感覚を脳に刻み込まれたら、もう忘れることはできない。朝起きる度に、きっと今日の夢の中でもそうだったんだろうと思ってしまう。そうした思考の行き着く先を考えると、俺は多分その波に逆らえない。そのくらいに俺は夢で何をされることでどう感じるのか知ってしまったし最初から最後まで記憶に残ってしまっている。
……寝ないでいようなんて無駄な足掻きをしようとしたのが間違いだった。カカシの言う通りさっさと寝ていればいつものように記憶に残らないまますべてが終わっていたはずだったのに。
「……もういい、行けよ。」
カカシはその場に溶け込むように姿を消していった。窓の外は地平線が白みかかっている。隠世の時間が終わるんだろう。
俺はこれからどうすればいいんだ。この記憶を持ったまま生活するしかないのか。記憶を消す方法がない以上そうするしかない。でもそれは、カカシのことを忘れられないのと同じだ。
隠世の者と繋がりを持つということは、やっぱり相応のリスクがあったんだ。ただで済むわけがなかった。考えが甘かった。
スマホを手に持ちすがる思いであのスレッドを見る。ずらりとどうでもいいレスが並ぶばかりで有益な情報はやっぱりない。
俺に出来ることはため息をつくことぐらいだった。