魅入られた者

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2025年4月12日成人向,短編,現代パロ,連載中,カカサス小説オカルト,エロ

好きか否か

 カカシが赤い左目を見せたとき、ショックだった。神隠しの犯人で、毎朝の違和感もカカシの仕業で、それも正体が淫魔だと言われて。
 人間のカカシが好きだったから、裏切られたような気持ちだった。けど、選択肢を提示して約束を守ってくれたことで安心した。安心すると共に、毎日カカシの痕跡を感じて日が経つにつれ苛立つようになっていった。
 何に対して苛立っていたんだっけ。何で寝ないでやろうと思ったんだっけ。確か、カカシだけ俺を良いように扱っているのに腹が立っていた。
 それの何がそんなに腹が立ったんだろう。
 カカシは約束通りにしていただけだったのに。
 でも、そうだ、何だか悔しかったんだ。色々調べて結果は出なくて、俺は悪あがきをしているのにカカシは毎日変わらず俺に暗示をかけて夢の中で好き勝手やっていると思うと悔しかった。
 ……ここは深掘りして細分化しよう。
 カカシが毎日来ている痕跡を感じたこと。
 カカシは俺に暗示をかけていること。
 カカシは夢の中で俺を良いように扱っていたこと。
 俺は何かいい方法がないか足掻いていたこと。
 どれに対してどう感じたのか。
 ボイスレコーダーと明晰夢で断片的にカカシが俺に何をしていたのかはわかっていた。
 それを毎日されている、その痕跡を感じるたびに、今日もまたああいうことを夢の中でしたんだろうと思った。それに苛立ちを覚えた。何で苛立ちを覚えたのか。されたくないことをされているから。
 されたくない事って何だ。
 ……暗示をかけられる事、夢の中とはいえカカシとセックスをしている事。
 カカシとのセックスを、俺は望んでいなかった。それであれば、好きなんて感情が生じるわけがない。
 ……やっぱり考慮にも値しない、考える時間を無駄にした。俺がカカシを好きだなんて、カカシにとって都合がいいだけの勝手な思い込みだ。
 つまらない考え事をメモしたノート、そのページを破って教室のゴミ箱に捨てた。
 
 カカシの授業で、頬杖をついてカカシの顔を眺める。先生をしているカカシには確かに好感は持っていた。神隠し前の元の関係に戻れるものなら戻りたい。
 ……そういえば、逢魔刻の体験談10個、どれも隠世の者との遭遇の経験だけどなんで俺だけ「繋がる」事になってしまったんだろう。
 神隠しのときにきっと何か特別なことがあった。俺は覚えてないけど、カカシは覚えているだろう。
 俺は左手を挙げた。
「はたけ先生」
 問題集から拾った適当な問いかけをすると、カカシは以前のように言う。
「……その問いについてはまだ先に習うことだから、後で個別で教えるね。」
 そして教科書に戻って板書を再開した。
 
 生徒指導室に行くと扉が開いていた。覗き込んだら、カカシがいつもの椅子に座って笑いかける。
 俺は黙って入って扉を閉め、鍵をかけてからいつもの椅子に座る。
「それで、聞きたかったことは何?」
 優しい声、先生のカカシ。
 このカカシもカカシで、夜のカカシもカカシだと思うと複雑な思いがする。
「神隠しの日に俺に何をしたのか答えろ。なんで俺たちは繋がったんだ。」
 カカシは笑顔を崩さない。
「……知ってもいいの? 後悔しても知らないけど。」
 自分の身に起きたことを知るのに後悔なんかしない。
「いいから話せ。」
 カカシは背もたれに背中を預けた。ギシ、とパイプ椅子が鳴る。
「サスケは俺たちの時間まで教室で自習をしていた。時間が遅いことに気がついて昇降場まで来たときに、俺とサスケは鉢合わせた。そのタイミングがちょうど……」
「逢魔刻、っていうんだろ。調べたから知ってる。」
「……うん、そう。逢魔刻に隠世の俺と鉢合わせたお前はその陽と闇が混じり合う時間の中に入り込んだ。滅多に起こらないんだけどね。俺はいい餌を捕らえられたと思ってお前に暗示をかけて、まあ、何をしたかは想像がつくでしょ。」
 そのときが、最初にカカシに食われたとき、か。
「ただ陽と闇が混じり合う時間も永遠じゃあない。陽が昇る前に俺はサスケを解放して、現世の姿に戻ってから偶然を装って教室でまだ夢の中にいたサスケを起こした。」
 ……特別なこと、は何もしてないのか。でもそれじゃあどうして繋がったんだ。
「起きたとき、サスケは俺を見て『カカシが好きだ』と言った。暗示が残っていたかな、と思っていたけど、教室からこの部屋に移動してサスケを横にしたときに違和感を覚えた。『繋がってる』ってね。」
「……は? なんで、あんたが何かしたから繋がったんじゃなかったのか?」
「繋がる、ってのはね、滅多に起きない中でもかなりのレアケース。その条件は、逢魔刻の中で、互いに互いが好きだと思うこと。……つまりその時点で、サスケは俺のことが本当に好きだったわけだ。暗示なんかではなく。」
「……100歩譲ってその時はそうだったとしてやる。だけどあんたへの好意は正体を知ったときに失っている。もう一度逢魔刻の中にいるときに俺があんたへの好意を感じていなければ、繋がりはなくなると思っていいのか。」
「……残念だけど、前にも言ったけど繋がった後にそれを解いた例は俺は見たことがない。だから知らない。父母の話をするけど、淫魔の母よりも早く息を引き取った父は、その息を引き取る寸前に母が夢の中に誘い込んだ。ふたりは今も目覚めることのない夢の中で繋がり続けていて幸せにやってる、ってこと。まあ、夢に誘い込まずにそのまま死ねば、さすがに繋がりはなくなるかもね。」
 身体は死んでる、だから目覚めることのない夢……永遠にふたりで過ごしている、ってことなのか。死んでも断ち切れない繋がりなんて、……なんとも出来ないじゃないか。
「可能性として、一生淫魔と添い遂げた事で父も隠世に近い存在になっていたのかもしれない。だからそんなことが出来ているのかもしれない。……『かもしれない』としか言えないんだよね。悪いけど。」
 何百年生きているのかわからないカカシでも繋がりを断った例を知らない、なら実質繋がりを断つのは無理……。
「というわけで、俺の正体を知るまでの間、サスケが俺を好いていたのはまず事実なの。その後関係はまあ、変わったけど、こころの奥底ではまだ俺のこと好きなんじゃない? と思ったんだよね、サスケの様子を見てたらさ。」
「……そんなわけがない。俺なりに考えはしたが、あんたの正体を知って以降、あんたを好きだと思う理由はなかった。」
「……教室に捨ててあった紙切れ、あれってやっぱサスケのだったんだねぇ。」
 ……なんで教室のゴミの中身知ってるんだよ。でもそれなら話が早い。
「俺があんたを好きだという根拠はなかった、あのゴミのメモを見たのならわかるだろ。」
「……いや、検証が甘いなぁと思ったよ。まだ高一だから仕方ないけど、あそこで思考をやめるには早かったね。……まあ、だからと言ってサスケが出した結論を軽んじるわけじゃないけど。」
 問いを紐解いて教えるように先生の顔で、声でそう言われるとまた苛立つ。
「結論は出した、あんたを好きだなんてのはあんたの勝手な妄想だ。聞くことは聞いたから俺はもう帰る。」
 鞄を持って立ち上がる俺を見つめながら、カカシが何か呟いた。何を言ったのか聞き返そうとしてその顔を見たら、先生の顔じゃない、夜の顔でカカシは俺を見ていた。
「……また夜にね。」
 陽が傾いている、『半分半分』だ。……長居する理由はない。鍵を開けて廊下に出て、すぐに扉を閉めた。
 胸の鼓動が早くなっていた。多分、あの顔を見てしまったから。……なんで? 昨夜のことを思い起こしたのだろうか。
 
 カカシを好きだった。そういう意味の好きじゃないと否定してきたけど繋がってしまったということは、そうなんだろう。そこは事実として認めるしかない。
 でもその後は違う。俺はカカシに苛ついて腹が立って、その理由はカカシがしていることが俺は嫌だったから。だからこころの奥底ではカカシが好きだなんてありえない。
 だけど夜、カカシが来るのを待ちながらドキドキする。いつ来るのか、ステイすると言ったカカシが俺の結論を聞いて次は何をしてくるのかわからない不安と緊張のせいだろう。
 次はどんな暗示をかけられるのか、それとも敢えて何もせず正気の俺を弄ぶのか、カカシが何を考えているのかはさっぱりわからない。
 すっと窓から通り抜けてきたカカシは、そのままベッドに座る俺に近寄っていきなりキスをしてきた。
 だめだ、このキスは、体液が、……。
 ぼんやりしていく頭、唇が離れたときそこはもう夢の中だった。
「……あんたは結論を出したのか。」
「うん、まあ俺なりに。」
 またキスをしながらパジャマをはだけていく。
 気持ちいい……何も考えたくない。このままカカシとセックスをして気持ちよくなって、……それでいいんじゃないか……?
 元より抵抗なんて意味がないんだから、全部受け入れてしまえば……。
 そう、思ったのにいざその快感を感じると、自分の声が恥ずかしくなる。痴態を見せたくないと思ってしまう。そんなこころの抵抗なんて意にも止めずにカカシは俺を追い詰めて、そして最終的には激しく求め合う。
 頭は正気でいたはずなのにカカシに夢中になって、カカシと交わることもこわいとは思わなかった。
 イかされ続けて夢から覚めたとき、カカシがそこにいることにほっとして、それが何故なのかわからなかった。
 セックスなんて嫌だと思っていたはずだった。いくら受け入れると決めたとはいえ、こころは抵抗を感じているはずだ。なのに身体は反応してしまう。淫魔なんだから暗示なんてかけなくとも人間を夢中にさせる術を持っているんだろう。そうやって自分を納得させようと思ってもカカシが来ることで、カカシとすることでおかしくなってしまう自分が嫌だし恥ずかしい。
 カカシは多くを語らなくなった。部屋に入ってきたらすぐに夢の中に入っていく。そして夢から覚めた俺の様子を見て上機嫌な顔でまたねと去っていく。
 喘ぐ声を聞かれることも快感に乱れるのを見られることも、夜を重ねるにつれて少しずつ慣れていった。身体がおかしくなることにも心理的な抵抗は少しずつ薄れていった。どうせ一生続くんだ、早くこの生活に馴染んでしまった方がいい。
 カカシが何を思って考えてるのか全然わからないことだけは、なんだか嫌な気持ちになった。上機嫌で立ち去っていくのだからきっと満足はしてるんだろう。あのときと同じだ、約束を守っている間朝カカシの痕跡を感じるたびに苛立つようになったあのとき。
 長い付き合いになるのならもう少し挨拶なり出来ないもんなんだろうか。それとも淫魔にはそういう人間的な常識はないのだろうか。半分は人間のくせに。
 カカシが何を考えているのかわからない、苛立つ原因は多分それだ。そもそも人間じゃないんだからきっと思考回路も全然違う。あいつにとって夢でセックスするのはただの食事。食事ってことは……美味しいとか不味いとかってあるんだろうか。あるとしたら、多分機嫌が良いから美味しい……んだろう。
 何も言わずにいきなり夢に連れて行かれるのも、満足気な顔で夢から覚める俺を見ているのも、カカシは俺のところに来るのをただの食事として考えるようになったからだろうか。
 でも、だったらわざわざ目覚めるところを見ている必要はない、さっさと帰るはずだ。……人間の常識でははかれないからわからないけど。
 一体俺の何を見て満足してるんだ。だんだん俺の反応が変わっていくところを眺めるのが楽しいんだろうか。でもそれは夢の中で見れば充分のはずだ、わざわざ夢から覚めるところを見守らなくても。
 それとも美味しかったと俺に伝えているつもりなのか、料理を作った人に感謝するみたいに。……いや、あの顔はそんなんじゃない。そもそもあいつが感謝という概念を持っているとも思えない。
 ……今何かを思い出した。カカシが言っていた繋がる条件……互いが互いを好き……つまりカカシもその時点で、淫魔のときに俺を好きだった、ということになる。
 ……今は? ……今も?
 好きだから、すぐ夢の中、ふたりきりの世界に入りたい。好きだから、目覚めるところも見たい。……それなら、理解できる気がする。
 カカシが俺を好きだという仮定が正しければ。
 それが正しいことを実証して意味のわからないカカシの行動原理を理解してスッキリしたい。
 今夜、絶対に聞き出す。俺を好きなのか、違うのか。
 そうすれば、苛立っていたのもきっと落ち着くだろう。
 もし違ったら、……また暗礁に乗り上げる。その時はもう直接聞いてやる。何のつもりでそういう行動をとるのか。何を考えてるのか。

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