本当の想い

213 View

成人向,中編,現代パロ,カカサス小説エロ,シリアス,性癖強め,甘々

 サスケは数年前に両親を失って兄とふたりでつつましく生活していた。年の離れた兄イタチは既に就職していたが、サスケは自分も家計を助けたいとイタチに訴えて新聞配達のバイトを始めた。
 三時に販売店に行きチラシを挟む作業が終わると三つの町内を回って郵便受けに新聞を入れる。だんだん地図を見ずに配れるようになってきた折、いつも最後に配る家の人が郵便受けに新聞を入れると、玄関の扉を開けて「おはよう、今日もありがとね」と言ってくれるようになった。
 それが嬉しくて、サスケはいつも少し浮ついた気持ちで配達を終えて販売店に戻る。
 
 朝刊の配達に慣れてきた頃、販売店の店長から夕刊の配達もできるかと尋ねられた。パートさんが一人辞めてしまったらしい。部活に入っていないサスケは「出来ます」と即答した。
 夕刊は朝刊と比べると購読している人が少なく、すぐに最後の家に到着した。最後の家はやっぱり、あの人の家だ。家の前に自転車を止めると、玄関の扉が開く。
「あれ? 夕刊も始めたんだ。」
「あ、はい。なんか一人辞めちゃって人手不足らしくて。」
「大変だね、頑張って。」
「ありがとうございます。あ、これ夕刊です。」
 持っていた新聞を直接手渡しした。この時はじめてその人の家の玄関の横にある表札を見る。「はたけ」……はたけさん、っていうのか。
 その名前を頭の片隅に入れながら、販売店まで自転車を走らせた。
 
 台風の日だろうが新聞は配達しなければならない。サスケは暴風雨の中レインコートを着て自転車を走らせ、朝刊を配って回った。さすがに今日は出てこないだろうなと思っていたら、カカシはいつものように玄関から出てきていた。
「雨と風、すごいですよ」
 ビニル袋に包まれた朝刊を渡しながら言うが、お構いなしにカカシは声をかけてくれる。
「こんな日に大変だね、はいこれ。」
 渡されたのはクッキーだった。受け取っていいものなのか悩んでいると、
「内緒にしとけば大丈夫だから」
 と言われて、サスケは頷き懐にしまう。
「ありがとうございます。」
 自転車に乗って走り出す後姿をカカシがずっと見ていることに気付かないまま、サスケは販売店まで戻って行った。
 
 学校からの帰り道。朝には暴風警報が解除されたものの、その日は一日中豪雨が降り続いていて、いつも通っている道が冠水していた。サスケは仕方なく遠回りをしてカカシの家の前を通ると、ちょうど玄関から出てきたカカシと鉢合わせる。
「あれ? 通学路?」
「いや、いつもの道が冠水してて通れないんです。」
「家どこ?」
「ふじみ町です。」
「ああ、あそこ低地だから、多分どの道から行っても冠水してるよ。配達の時間ももうすぐでしょ? 制服で配るわけにはいかないだろうから、俺の服貸してあげるよ。」
「え、そんな悪いです。」
「いいからいいから、おいで、ほら。」
 カカシは玄関の中にサスケを入れると奥に入って行き、黒いズボンとTシャツを差し出した。
「汚しちゃいますよ、本当にいいんですか?」
「気にしないで。最後俺の配達に来た時に制服返すから、その服は洗って返してくれればいいよ。」
「ありがとうございます、はたけさん。」
 ありがたく服を受け取って、玄関で着替えた。サスケには少し大きいが、制服のままでは配達に行けないから仕方がない。脱いだ制服をカカシに渡して販売店に急いだ。
 あちこちの道路が冠水していて、夕刊だからまだよかったものの、やっぱりズボンはびしょぬれになってしまった。最後にカカシの家に配達に来た時に、約束通りにビニル袋に入った制服を受け取る。
「助かりました、ありがとうございました。」
「気にしないで、困ったときはお互い様。」
 頭を下げて自転車に跨り販売店に戻った後、冠水した道路をザブザブと歩いて何とかアパートに着いた。一階は床上まで浸水している。うちが二階で良かったと思いながら鍵を開けて玄関に入り、その場で濡れた服と靴下を脱いでから洗面所にタオルを取りに行って足元を拭くと、服を洗濯機に入れた。明日まで冠水が収まってると過ぎてるといいんだけど。
 メールで兄さんに家周辺が冠水していることを伝えると、今日はホテルに泊まると言われ、サスケはひとりで食事をとった。
 兄さんの仕事は時々すごく遅くなったり、泊りがけになることもあるからサスケは時折こうしてひとりで夕食をとるが、誰もいない室内はやっぱり寂しい。皿を片付けてシャワーを浴びると、すぐにベッドに入って眠りについた。
 
 翌朝、配達の時間までに冠水は収まっていてホッとする。いつものように三つの町内の配達に回って最後のカカシの郵便受けに新聞を入れると、いつもと変わらない様子のカカシが出てきた。
「道、大丈夫だった?」
「はい、もうすっかり水は引いてました。」
「そっか、良かったね。」
「昨日はありがとうございました。」
「いいって、気にしないで。」
 はたけさんは、優しいな……
 サスケはぺこ、と頭を下げてからカカシの家を後にした。
 
 その日の夕方、「トラブルがあって今日は帰れそうにない」と兄さんからメールが届いていた。
 サスケはひとまず夕刊の配達を終わらせようと販売店に向かう。
 いつものようにカカシに新聞を手渡すと、カカシは首をかしげて
「なんか今日元気ないね」
 とサスケに言った。
「今日は兄さんが家に帰れないらしくて……ひとりで夕食とるのがちょっと嫌だな、なんて。」
 サスケは作り笑顔で立ち去ろうとするが、引き止められる。
「ならさ、うちで一緒に食べない?」
「……いいんですか?」
「俺もいつもひとりで寂しいしさ。構わないよ。」
 ひとりで食べる食事の侘しさを知っているだけに、カカシからの提案は嬉しかった。
「じゃあ俺、作ります。買い物行ってからまた来るので。」
 サスケは自転車に跨って販売店に戻ると、スーパーに寄ってからそのままカカシの家を訪れる。インターホンを鳴らすと、「ちょっと待ってね」と声が聞こえてきて、少ししてから玄関の扉が開いた。
「簡単なものしか、作れないですけど……」
「気にしないで、作ってくれるだけでも嬉しいよ。さ、入って。えーっと、……そういえばまだ名前聞いてなかったね。」
「うちはサスケです。」
「俺ははたけカカシ。よろしくね。」
 優しく笑うカカシに、サスケは何だか嬉しくなる。
 買ってきた食材を台所の上に置くと、サスケはさっそく調理を始めた。
 
 炊飯器が電子音を鳴らしたとき、ちょうど料理が出来上がっていた。台所のすぐ後ろにあるテーブルにそれを並べて、ごはんをよそって置く。カカシは食器棚から箸を二膳取り出してテーブルに並べる。
「いただきます」
 食べながら、いろんな話をした、両親が他界していること。兄さんと二人で生活していること。先日のテストで学年三位だったこと。図書館で本を借りて読むのが好きな事。
 食べ終わってお皿を片付けようとすると、カカシはサスケを呼び止めた。
「そのはたけさん、って呼び方なんかよそよそしいから、カカシって呼んでよ。敬語も使わなくていいから。俺もサスケって呼んでいい?」
「……いい、のか? じゃあ、そうする。」
「うん、そうして?」
 サスケはお皿を重ねてシンクまで運んだ。蛇口を捻って水を出すと、スポンジに洗剤をつけて一枚ずつ洗っていく。
「皿洗いまで悪いね。」
「いや、いいんだ、台風の時のお礼もあるし。」
 水切りかごに洗い終わった食器を置くと、サスケはカカシを振り向いて、じゃあ今日はこれで……と言おうとしたら、カカシが先に口を開いた。
「何だったら、今日泊まってく?」
「え?」
「ひとりの家に帰るのもあれでしょ。」
「それは、まあ……」
「ん、じゃあ風呂入りな。ちょっと待っててね、お湯張るから。」
 カカシは廊下の奥に向かって行った。サスケはそわそわしながらテーブルで待つ。食事だけでなく泊まるなんて、本当に良いんだろうか。でも、ちょっと嬉しい気持ちもあった。
 数分後、準備を終えたのかカカシが戻ってきた。
「10分くらいでたまると思うから。」
「ありがとう。……でも着替えも持ってきてないのに、」
「ああ、俺の服貸してあげるから気にしないで。」
 きっとまたぶかぶかなんだろうな、と思いつつカカシの厚意をありがたく頂く。
「何から何までお世話になって……何だか、」
「俺から誘ったんだから、細かいことは気にしなくていーの」
 
 お風呂に浸かりながらサスケは久々の湯船を堪能していた。いつもシャワーだから、お風呂に浸かるなんていつぶりだろう。身体が温まって脱衣所に出ると、バスタオルと一緒にパジャマと下着が置いてあった。少し悩んでから着込んでみたけど、やっぱりブカブカだ。
 ドライヤーで髪を乾かしてから脱衣所を出てキョロキョロしていると、「こっち」と声がかかる。その部屋は寝室らしい。すでに布団が二組敷いてあった。客間かな、と思っていたら一緒に寝るようだ。
 カカシは入り口近くの布団に目をやると「サスケはそっちね。」と指を指した。
「ありがとう、カカシ。」
「お風呂上がりだから、何か飲んでおきな。何がいい?」
「麦茶か、牛乳とかがあれば……」
「フルーツ牛乳でもいい?」
「それでいい、ありがとう。」
 台所からコップを持ったカカシがやってくる。
 フルーツ牛乳を受け取ると、サスケは一気飲みした。
 カカシはそれを見届けて空になったコップを手に台所に行き、「俺も風呂入るね」と脱衣所に入っていく。
 布団の上でカカシが出てくるのを待っていると、なんだかほてったように身体が熱くなってきた。久々のお風呂でのぼせたんだろうか。息も荒くなってきて頭がふらつき、布団に横になる。
 アラームを早めにセットしておかないと。ふわふわとした頭でスマホを操作していると、心臓の鼓動が早くなっていることに気付く。えーと、アラームはどこをタップするんだっけ……時計のアイコン……これだ。
 そこに、カカシが戻ってきた。
「顔真っ赤だよ、どうしたの。のぼせた?」
「……多分……」
「明日も朝早いんでしょ? 早めに寝な?」
 カカシは、やっぱり優しいな……と思いながら、スマホがぽろっと手から落ちる、頭がぐるぐるして朦朧とし始めた。
「サスケ?」
 声が聞こえるが、ろれつがまわらない。
「……あれ……なんれ……」
 そのまま意識が遠くなっていって、サスケは目を閉じた。
 
「……お酒、弱いんだねえ……まあ、中学生だしこんなもんか。」
 フルーツ牛乳には焼酎が入っていた。
 それ自体にはあまり味がなく、味の濃いジュースに混ぜてしまえばお酒が入っているなんてわからない。
「サスケ?」
 肩を揺する。
「ん……」
 僅かに反応はあるがくたっとしている。意識はなさそうだ。
 カカシはローションを手に取り、サスケのズボンと下着を下げて後ろの穴に指をそわせる、ぬぷ、と中指を入れるとサスケは「っん……」と身をよじった。
 ゆっくり指を中に沈めていって前立腺の裏を撫でると「ぅあ、あ、」と声を出す。が、やはり意識ははっきりとしていない。
 抽送を繰り返しながら指を増やしていって、十分に慣れた後、カカシは自分のそれにゴムをつけてローションを塗った。
「サスケ?」
「………………」
 頬をペチペチと叩いて反応がないことを確認してから、後ろの穴にゆっくり入れていく。
「ん……、んう……」
 サスケの眉間に皺が寄ったが、あそこまで入れるとピクンと反応した。
「あ……ぅ、」
 カカシは気をよくして何回かそこをなぞるように律動してから、ゆっくりと奥まで挿入する。
「……う……んっ……」
 額にキスをして抽送を始めた。そこを抉るように腰を動かすとサスケの息は荒くなっていき、わずかに声を出す。少しずつ腰の動きを激しくしていった。
「んん……ぅ、……あ……んっ」
 パンッパンッパンッパンッと腰を叩きつけていると、サスケの目が少しだけ開く。
「あっ、んっ! あ、あっ、んんっ、は、あっ! んぁっ、な、……に、あっ」
「……酔い、醒めちゃった?」
「あっ? あ、ああっ、んっ! はぁっ、あっん、あ、あぅっ!」
「はぁ……気持ちいい。サスケは?」
「んっあ、あっ! あ、あっ! んっ、あぁっ! きもち、あっ、いっ!」
「んじゃこのままいこうか」
「えっ、あっ! あ、ああっ! あっ、あああっ、あっ、うあっ! あ、あっ!」
 パンッパンッパンッパンッ
「あ、あ、あああっ! かか、んぁっ! ああああっ! らめっ、れちゃ、あっ、あっ! あああっ!!」
 ビクンッとサスケの身体が跳ねる。白濁液が腹を汚していた。カカシも何度か律動した後、奥に突きつけてビュウッビュウッと精液を吐き出す。
「……っん、……あっ……あ、……はぁっ、」
「サスケ?」
「……んぅ……ぁ、……」
 サスケはいつの間にか、また目を閉じていた。
 カカシは唇に触れるだけのキスをすると、中に挿れたままサスケを抱きしめた。
 
 アラームの音で目が覚める。何でだろう、頭がガンガンする。それになんだか変な夢を見た気がするけど思い出せない。
 隣の布団で寝ていたカカシもアラームの音で目を覚ましたらしい。サスケに優しい笑顔を向けた。
「おはよ。」
「おはよう、……頭痛い……」
「大丈夫? 配達いける?」
「あ、行かないと……カカシ、服ありがとう。」
 サスケは着替えて足早に玄関に向かう。カカシはそれを見届けて、扉が閉まったのを確認してから、鍵をかけた。
 
 家に帰ると、服を着替えて自転車に跨る。販売店に着くと、すでに店長とパートさんが折り込みチラシを入れる作業をしていた。サスケもその中に加わり、配達の準備を整えると、自転車のかごに新聞を入れて走り出した。
 カカシは玄関から出て待っていた。新聞を手渡しすると、心配そうな顔で声をかけられる。
「頭痛、大丈夫?」
「ああ、なんとか。ありがとう。」
 その日から、サスケはカカシの家をよく訪れるようになっていった。カカシはいつも優しい笑顔で迎え入れてくれて、軒先で一緒に話をしながらお菓子を食べたり、ボードゲームで遊んだり。……時折頭に載せられる大きな手にくすぐったさを感じる。父さんが生きていたら……こんな感じだったんだろうか。サスケはカカシの面影に父親を重ねていた。そしてそんなカカシに好意を寄せていた。
 イタチが家に帰らない日はカカシの家に泊まるようになって、お風呂上りには必ずお茶やジュースを飲ませてもらった。お茶を飲んだ時は、何だか独特の風味がするなと思ったけれど、そういうお茶なんだろうと深く考えなかった。
 疲れているのか、飲み物を飲んだ後はどうやって寝たかも覚えていないくらいよく眠れる。
 サスケはその間何が起きているのか知らない。
 ただ、カカシの家に泊まった翌朝目が覚めたときに、決まって頭がガンガンと痛むのは不思議に思っていた。
 
 イタチが出張で帰らなかった次の日、夕食の席で「ひとりにさせてごめんな」と言うイタチに、サスケはカカシの家に泊まっていることを話した。
 以前から新聞配達で良くしてもらっているという話は聞いていたから、一度お礼に行かないとな、と考えていると、サスケは気がかりなことを話し始める。
「お風呂に入るのが久しぶりだからなのかわからないけど、いつものぼせた感じになっていつの間にか寝てるんだ。そのせいなのかわからないけど、朝起きたら頭がガンガン痛くて。」
 のぼせて翌朝頭が痛くなる? そんなことがあるのだろうか。いや、それはまるで……
「サスケ、何か……飲み物を飲んでいないか。」
「ああ、お風呂上りにいつも飲ませてもらってる。」
「変な味はしないか?」
「いや、普通のジュースとか、お茶だけど……お茶は確かに、ちょっと変わった風味はしたかな。」
 イタチは真剣な顔になって、サスケの手を握った。
「……次、もし行く時は、何か貰っても飲んだように見せかけて捨てなさい。スマホをつかんだまま寝たふりをして、そしてその人が何かしてきたら緊急通報するんだ。」
「通報? そんな大袈裟な……」
「真面目な話だ、サスケ。お前は変なものを飲まされているかもしれない。」
 イタチに全幅の信頼を寄せているサスケは、その真剣な顔に頷く。
「……わかった。」
 
 一ヶ月後、その機会はやってきた。
 イタチの言う通りに飲み物は捨てた、スマホを握りしめたままフラフラと布団に横向きに寝そべる。
「サスケ大丈夫? のぼせた?」
 心配そうにサスケの顔を覗き込むカカシ。サスケは寝たふりを決め込んだ。
「………」
 反応がないのを確認したカカシは掛け布団をどけると、サスケのズボンと下着をずるっと下ろす。
「……っ!」
 緊急、通報……っ
 サスケはスマホを握りしめた。
 すると、カカシはその手を止める。
「なんだ、起きてるじゃない。飲まなかったの?」
 サスケはあくまでスマホを握りしめながら寝たふりを続けた。しかし、そのスマホはカカシに抜き取られてしまう。
「起きてるのはわかってるよ。寝てたらそんなに強く握れないから。」
 サスケは片目を薄く開けて様子を見た。カカシはローションを手に垂らしている。
「っな、!?」
 思わず声が出てしまった。もう寝たふりなんかしてる場合じゃない。
「何って、いつもしてることだよ?」
 カカシはそう言いながら、はだけられたお尻にぬるっと指を入れて前立腺の裏をなぞる。
「っあ……!?」
「まあ何回も同じ手が通じるとは思ってなかったけど」
「……あっ、んっ! はぁっ、っあ!」
「飲まなかったのは誰かの入れ知恵かな?」
 なんだこれなんだこの感覚。
「や、んっ、あっ、あぅっ!」
 そこをなぞられらたびに快感が走り抜ける。一体何が起きているんだ。
 サスケはビクッと震えながらその指がもたらす快感に声を漏らした。
 指が抜けてほっとしたのも束の間、今度は二本になって入ってくる。
 一瞬抵抗を感じて身体を固くするが、またそこをなぞられはじめてビクっと震えた。
「やっ、め、あっ! は、ぅあっ、っん!」
 嫌なのに出てしまう声。なんで?
 その動きに翻弄されていると、更に増えて指の数は三本になった。
 グチュグチュと音を立てて指が出入りする度に中は柔らかくなっていく。サスケは困惑しながらそこから駆け上がる快感になすすべもなくただ喘ぐ。
 三本の指が抜けて様子を伺うと、前をくつろげてゴムをつけているカカシの姿が目に入り、サスケはうつ伏せになって布団から逃れようと這ったが、腰を掴まれてまた元の位置に戻される。後ろの穴に熱くて硬いものが押しつけられたのを感じて、畳に爪を立てた。
「っひ、や、めっ……!」
 ぬぷぷっ
 そこをなぞって奥まで一気に奥まで挿れられる。
「っぅああ!」
「身体は覚えてるもんなんだね」
 カカシは律動を始めた。
「あっ! あっ、やっ、っんぁ! は、あ、あっ!」
 なんで? なんで? 気持ちいい? なんで?
 サスケの頭は快感と疑問で訳がわからなくなっていた。
「いつもこうしてたんだよ」
「んっ! あ、あっ! っは、や、めっ! ぅあっ!」
「そんでいつもそうやって喘いでた」
 律動が早くなっていく。抵抗することを忘れて突かれるがままにサスケは喘ぐ。
「あああっ! あっ! あ、ああっ! あああっ!」
「ねえ、サスケ、気持ちいい?」
「え、あっ! あ、あああっ! そんっ、あっ!」
 気持ちいい、どうにかなりそうなくらいに。でもそんなこと恥ずかしくて、口にできない。お尻に挿れられて、気持ちいいだなんて。
「俺は気持ちいいよ、……サスケ」
 いつもより低いトーンで囁かれる言葉に、サスケの顔がカーッと熱くなる。
「あっ! あっ、んぁっ! は、あっ! んっ!」
 後ろの気持ち良さに興奮して、前までガチガチに勃って、むずむずと射精感が疼き始めた。
 だめだ、だめだ、このままだと……だめだ、気持ち、よくて、もうっ……
「いやっ、やぁっ! こんっあ! こんなっ、あっ、いやだっ、あっ、ぅああっ! や、あ、ああああっ!!」
 ビクンとサスケの身体が痙攣して、その先端から白濁液が飛び出した。
 カカシも最奥に突きつけると、ビュウッビュウッとその精を放つ。
 はあっ、はあっ、はぁっ、
 サスケが荒い呼吸を吐きながらそれを抜こうと這うのをカカシが抱きしめて引き止める。もっと繋がっていたいと言わんばっかりに抜けた分更に奥に挿れる。
「っ! なん、でっ、こんな、こと……っ!」
 サスケは抱きしめるカカシの腕を引っ張りながらその拘束から逃れようとするが大人の力にはかなわない。
「……好きだから。」
 耳元で呟かれた言葉にサスケは耳を疑う。
「は? ……え!?」
「で、誰の入れ知恵? お兄さん? ナニをされました、って言うの?」
「っ……! 好きって、本気で言ってんのかよ! 好きならなんでっ、なんで無理やりっ……!」
 カカシはサスケを腕の中から解放した。ぬるっとそれが抜けて、後ずさり距離を取ろうとするサスケにスマホを投げ渡す。
「……サスケに拒否されたくなかったの。」
 サスケはスマホを受け取ると握りしめる。両サイドのボタンを押し続ければ緊急電話に繋がる。
「だからって、無理やりこんな、……拒否するに決まってるだろ!」
「通報、する?」
「……通報は……っしたく、ない」
 スマホをギュッと握り締めながら俯く。
「なんで?」
「俺もあんたが好きだった。優しくて。気にかけてくれてっ。一緒にいると、安心して……っ」
「嫌いになった?」
「そんな簡単に嫌いになれねえよ!」
 頭が混乱してる。
 俺はカカシの家に泊まるたびに何かを飲まされて、そして意識がなくなった俺に、今みたいなことをしていて……、俺は今日、意識があるのにあんな、ことをされて。
 それでも優しいいつものカカシを思うと、警察に突き出そうなんて思えなかった。
 でもその優しいカカシが俺に、あんなことを、泊まるたびに…… その理由が好きだから? めちゃくちゃだ。
 なのに、あんなことをされたのに俺もカカシのことは嫌いになれなくて、俺もカカシのことは好きだった、けどそういう好きじゃない、カカシに対して思っていた好きはそんなのじゃない。俺は……俺がわからない。カカシのこともわからない。頭がめちゃくちゃだ。でも、酷いことをされたのは、それだけは確かなことだった。
 
 カカシはいつものように飄々としている。
 ゴムを捨ててティッシュでそこを拭いて、ズボンを上げた。
 なんでそんないつも通りのあんたなんだよ。なんで。こっちは馬鹿みたいに、悩んでるっていうのに。
 サスケは俯いたまま静かにカカシに告げる。
「……もう、二度とあんたには会いたくない。バイトも辞める。」
「……まあ、それが順当だよね。」
「あんたがわかんねえ。拒否されるって思うなら辞めるだろ、何もしないだろ、普通……!」
 その手は震えていた。……泣いているのだろうか。
「好きだから自分を止められなかったんだよ。バレた以上、もううちに来てくれないかもしれないと思ったら、最後にもう一度したかった。」
「んだよ、それ……っ!」
「着替えたら、家に帰りな。もう、会いたくないんでしょ?」
 カカシは寝室から出て行った。サスケはズボンを上げて脱衣所に置いてある自分の服に着替えて、静かに玄関を出る。
 軒先に座っていたカカシは、玄関の扉が閉まった音を確認すると、寝室に戻った。
 
 翌日、サスケではなく50代くらいのおばちゃんが配達に来た。玄関から顔を出すと愛想良く笑いかけてきたから俺も笑顔を向ける。
 けど俺はサスケに会いたかった。サスケに会うために毎朝早起きしてサスケが来るのを待って。
 夕刊も配達し始めたときは嬉しくてたくさん話しかけた。
 サスケと一緒にご飯を食べることになったときは嬉しくて嬉しくて、ダメ元で言ってみた泊まっていきなという声かけに、サスケは嬉しそうにはにかんで、俺は心臓が跳ね上がるような気持ちだった。
 サスケがお風呂から上がってその裸を偶然見てしまった俺はそのときからもう歯止めはきかなくなっていて、酔わせるためにジュースの中に焼酎を混ぜた。その効果はてきめんだった。サスケはすぐに酔いが回って、眠るように意識を失った。
 頬を染めて横たわるサスケに俺は迷わず手を出した。いつ意識を取り戻すか、緊張するとともにスリルでどんどん興奮していった。目を薄く開いたとき、ああ、まずいと思ったけれど、俺は腰の動きを止めることができなかった。むしろサスケの喘ぎ声が大きくなってより興奮した。
 幸いなことに意識ははっきりしていなかったらしく、朝起きたときサスケの記憶からはすっぽりと抜け落ちていたようで安心していつもの笑顔でサスケを送り出した。
 
 サスケも俺と過ごすことを楽しみにしていると感じるようになってからは積極的に声をかけて家に来るよう誘った。頭を撫でたときにくすぐったそうにはにかむサスケを見て、ああ、この子を俺のものにするにはどうすればいいんだろうとひとりのときにひたすら考えた。考えて、考えて、考え尽くしたけれど、サスケの好意は恋愛のそれではない。数年前に両親を失っているサスケにとって、俺はお兄さんでは賄いきれない父性の対象でしかなく、そのまなざしは、こころは、俺の影に父親を重ねていた。当然だ、俺たちは男同士で、年も離れすぎている。俺はサスケを俺のものにすることは出来ないと結論付けるしかなかった。
 だから稀にサスケが泊まりに来るとき、俺は決まって酒を飲ませて泥酔させて、ほとんど意識のないサスケと繋がった。そのひとときだけはサスケは俺のものだった。指で愛撫すると呼吸が荒くなっていくのが愛おしく俺の腰の動きに反応する声は可愛くて俺は夢中でサスケを貪った。
 けれどそれも潮時だった。俺の家に泊まった後決まって頭が痛くなるのをきっとサスケは訝しんだのだろう。そして恐らくお兄さんに相談をして、渡した酒を飲まずに捨ててサスケは布団に横になった。
 握り締めているスマホを見てそれを察した俺はどうするべきか悩んだ。何もせず何もしていなかったことにしてしまうか、いつものようにサスケを貪るか。
 翌日頭が痛くないことで俺が何を飲ませてきたのかを察して、もう会いに来てくれなくなるかもしれない。そう思ったら、それならせめて最後にもう一度繋がりたいと思って素面のサスケをそのまま抱いた。サスケは終始戸惑いながら何が起きているのかわかっていないようだった。
 ……何も知らないままでいてくれればよかったのに。
 それでも何も告げられず会えなくなるより最後の思い出としてサスケのすべてを脳に刻んでから盛大に振られた方がマシだった。警察に突き出されようが構わなかった。どのみちこの行為が終わったら、サスケにはもうきっと会えなくなるんだから。
 ……案の定、サスケはもう二度と俺に会わないと宣言した。そうだろうなと思った。せっかく始めたバイトを辞めるとも言っていて申し訳ない気持ちになった。せめてと思い俺はサスケが俺の家に来なくても良くなるように新聞を解約した。その電話口で、俺が解約したことをサスケにも伝えておいてくださいとお願いした。
 
 サスケはどうしているだろうか、どうなっているだろうか、新聞配達は続けているんだろうか。そう想いを馳せながら本業の執筆に集中してサスケのことを忘れようとした。忘れようとしているのに会いたい気持ちが、好きだという気持ちがどんどん膨れ上がっていく。想いの発露先として書いた事もない恋愛小説もどきを書いて編集に見せてみたら「これは連載にしましょう」と言われて苦笑する。実ることのない俺の想いを原稿にすべらせた片想いを描く小説もどきが雑誌の片隅に掲載され始めると、編集部に何通か手紙が届くようになったらしい。「私も片想いで」と綴られた女性からの手紙を見てああ同じ気持ちを抱えている人は案外いるもんなんだなと思った。
 どんな結末にするのか決めないままサスケへの想いをひたすら吐き出し続けた小説もどきはそこそこの人が読んでいるらしい。けれど編集部から毎週何かしらの反響があると聞かされても、へえ、そう、と返すだけだった。……あの小説もどきの主人公は、最後、幸せになることは出来るのだろうか。
 
 カカシが購読を解約したと聞かされて、その日辞めますと言うつもりだった俺は「そうですか」とだけ答えた。俺が新聞配達を辞めると言ったのを気にかけてくれたのだろうか。
 まだ頭は混乱していた。カカシと過ごす時間は穏やかで、楽しくて、カカシはいつも優しくて。俺はカカシのことが好きだった。カカシも俺のことが好きだったけど俺の好きとカカシの好きは違っていた。でもカカシはただ恋心を抱いているだけではなかった。泊まる度にあんなことをされていたなんて未だに信じられない。けれどあのときカカシは確かにいつもしてると言っていた。
 兄さんに飲み物を捨てたら頭痛はなくなったとだけ伝えると、心配そうに「本当にそれだけか?」と肩に手を置かれる。
「何もされなかったから緊急通報もしなかったよ」
 兄さんを安心させようと笑顔を向けた。我ながら酷い嘘だ。でも本当のことを言ったらきっと兄さんはカカシを警察に突き出そうとするだろう。
「お前が飲まされていたのは多分酒だ。……何故そんなことをしたのかはわからないが、決して良いことではない。」
 俺は何も知らないまま酒を飲まされて意識がない間あんなことをされていた。
 好きだったのに。でも今もやっぱり嫌いにはなれない。
 いつものあの笑顔は、優しい声は、温かい手は、確かに本物だったから。
 
「はたけカカシ、という名前だったな。調べてみたら、それなりに名の通った物書きらしい。」
 インターネットの画面を印刷したものを見せられた。小説のタイトルがずらっと並んでいる。……どんな話を書いているんだろう。
「兄さん、これちょっと借りても良い?」
 もう会わないと決めたのに、俺は俺を好きだと言ったカカシのことが頭の片隅に引っかかっていた。その紙を受け取ると、次の日図書館に出向いてそのタイトルを探した。3冊あった蔵書を全て借りて自室で読む。繊細な心理描写がこころに残った。自分のパソコンで改めてカカシの名前で検索してみると、最近週刊誌で恋愛小説の連載を始めたらしい。
 図書館で借りた三冊を返すついでにその週刊誌を探すと、すぐに見つかった。けれど雑誌は借りることが出来ないらしく、俺はその小説が掲載されているページだけコピー機で印刷して持って帰った。
 ページの片隅にそれは書かれている。『終わった恋』。男か女かもわからない主人公の独白だった。その文中に、引っかかる描写があることに気がつく。
『……早朝、新聞を配達するあなたの顔をひと目見ようと私は玄関で待ちわびる。そわそわと落ち着かないこころをなだめながら、しかし郵便受けがカタンと音を立てるとどうしようもなく胸が高鳴った。私はそれを悟られぬように、扉を開けるとつとめて穏やかに「今日もありがとう」とだけあなたに伝える。……』
 
『……今日は笑顔が見られた。今日は少しだけ会話ができた。そんなささやかなことが嬉しくてたまらない。私が自転車に跨って去って行くあなたをずっと見つめ続けていることに、あなたはきっと気づいていない。気づかなくてもいい、今のままの関係で構わない。ただ毎日朝、顔を見て、挨拶をして、あなたの手から直接受け取った新聞を大切にしまいこんで。そうしてひとり想いを募らせるだけでも、私はじゅうぶんに幸せを感じるのだから。……』
 
 紙を裏返して伏せた。
 なんだこれ、なんなんだよ。
 ……これって、もしかして、いや……。
 ……カカシと、……俺?
 カカシはずっとこんなこと考えてたのか?
 だから、あんなに優しくしてくれてたのか?
 なのになんであんなことをしたんだ?
 カカシのことが余計にわからなくなる。
 この続きを読めばわかるのだろうか。
 俺はそれから、毎週図書館に赴いては雑誌の1ページをコピーして持ち帰った。
 
『……あなたの好意を感じるたびにこの胸が痛む。あなたのそれは私の想いとは違っていて、それでもあなたを繋ぎ止めようと、私はあなたが私に期待する役割を演じ続けた。一緒にいられるだけで感じていた幸せはその役割を演じるたびに薄れていって、その代わりに恋心は大きく膨れ上がっていく。……』
 
『……私は過ちをおかしてしまった。あどけなく眠るその唇にくちづけをして、温かい肌に触れて、今ならあなたのすべてが手に入ると思うと歯止めがきかなくなっていた。もっと近くにいたい。もっとその肌に触れたい。もっとくちづけをしたい。そんなことは許されないとささやく良心を追いやって、わたしはひとときだけ、あなたのすべてを手に入れた。きっとこの恋がかなうことはない。それならばいっそのこと。……』
 
『……ついにあなたへの想いを打ち明けた。そしてあなたはやはりもう二度と会わないと告げて私の元から去ってしまった。私はひとりこの胸に実らなかった恋心を包んで、これはもう終わった恋なんだと言い聞かせながらあなたのいなかった日常に戻っていく。そう思っていたのに、気が付けばあなたに思いを馳せている自分がいる。あなたが今どうしているかと考えている自分がいる。振られれば捨てられると思っていた恋心は私を自由にはさせてくれなかった。……』
 
『……あなたと過ごしていたときあんなにもキラキラと輝いていた景色はすっかり色あせてしまった。この恋も色あせてしまえばどんなに楽になれることか。逢いたい。顔を一目見たい。けれど私はもうあなたに逢うことはない。逢ってしまえば再びこの恋心は花開きあなたに期待してしまう。それに私とはもう逢わないというあなたの気持ちを大切にしたかった。あなたのことがまだ、好きだから。……』
 
 ……こんなにも、こんなにも想いを寄せているんだったら、なんで……いや、それでもきっと、俺とカカシの想いが重なることはなかった。カカシは俺のために俺の求めるカカシであり続けて、俺は何も知らないまま無邪気にそれを喜んで、結局カカシを苦しめ続けるだけだったのかもしれない。
 どうであれ俺たちは噛み合うことなく、終局を迎えるしかない運命だった。
 そう思うと、なぜだか胸が苦しくなる。
 雑誌をコピーしに図書館に通うのをやめた。
 俺はカカシの想いを知ってしまった。けれどやっぱりその想いには応えることは出来ない。俺がカカシに甘えて身勝手な好意を抱いたことがカカシを過ちに導いてしまっていたのであれば、なおのこともう会うわけにはいかない。
 もうカカシを苦しめたくなかった。会うことでまたカカシを苦しめることになるのなら、……もう、絶対に会わない。
 
 ……そう、誓ったのに。
 近所に住んでいるんだから当然そういうこともあるだろう、とは思っていた。
 何のこころの準備もないまま、俺たちは道端でばったり鉢合わせた。
 カカシは踵を返して元来た道を戻ろうとする。俺は無意識にその手を掴んでいた。カカシはその俺の手を見つめた後、俺の顔を見る。
「……何?」
「あんたこそ、なんで逃げようとしてんだよ。」
「もう二度と会いたくないのはサスケの方でしょ。」
「……あんたまだ、俺のこと、好きなのか。」
 カカシは視線を逸らした。
「サスケにはもう、関係ないことだよ。」
「まだ俺のことが好きなんだったら、関係あるだろ。」
「……そんなこと聞きだして、何がしたいの。」
「悪かったと、思ってる。俺があんたに父さんを重ねていたことを。」
 カカシはもう一度サスケの顔を見る。
「そんなこと言うなら、俺だってサスケに悪いことしてる。けど許してもらおうとは思ってない。だから謝らないよ。」
「俺もただ……悪かったって、伝えたかっただけだ。許してもらおうなんて思ってない。」
「……伝えるだけ伝えて、はいさようなら、ってこと?」
「伝えたことで、またあんたが苦しむことになるんだったら、それも謝る。」
「……もしかして、サスケ、あれ読んだのか。」
「あれ、が雑誌のことなら、読んだ。俺があんたを苦しめていたのも読んではじめて知った。俺はもうあんたにこれ以上苦しい思いをして欲しくない。」
「だったらもう何も言わずに帰りな。サスケと話す時間が長くなればなるほど、俺は……」
「……わかった。」
 掴んでいた腕を離した。カカシは元来た道を戻って行った。
 俺は道の真ん中でどうするのが正解だったのか、しばらく考え込む。
 風で揺れたレジ袋がカサ、と音を立てて、ようやく俺は歩き始めた。向かったのは家じゃなくて、図書館だった。
 
 雑誌のバックナンバーを出してもらい、そのページをコピー機で印刷していく。
 最新号まで印刷が終わると、3枚の紙を手に家に帰った。
 レジ袋を台所に置き、ダイニングテーブルに3枚の紙を置いて、座って読み始める。
 
『……夢の中であなたに逢った。あなたは少しはにかみながら新聞を私に差し出す。私は笑顔でそれを受け取ると、「いつもありがとう」と一言だけ告げる。自転車に跨るあなたの後姿を見守って、受け取った新聞を抱きしめながら私は玄関に戻って行く。あの頃は幸せだった。それだけで幸せだった。なのにいつの間にこんなにもわがままになってしまったのだろう。なぜあなたのすべてが欲しいなんて思ってしまったのだろう。目が覚めると配達の時間はとっくに過ぎていて、でももうあなたに逢うために早起きをして待つ必要はないのだと思うと寂しさを覚えた。……』
 
『……料理をしていても、仕事をしていても、湯船に浸かっていても、あなたのことが頭から離れない。今何をしているのだろう。そろそろ夕刊を配達しているだろうか。何を食べるのだろう。今日はお兄さんと一緒だろうか。ああ、逢いたい。後姿だけでもいい、あなたをこの目に焼き付けたい。少しずつ色あせていくあなたとの思い出を忘れたくない。幸せだったあの頃に帰れるならば、私はもう決して過ちは繰り返さない。でも、あなたはいつも私ではなく私の中の誰かを見ていた。私自身を見てはくれなかった。私のこの想いは繰り返したところで結局、実らない。……』
 
『……あなたを想い続けることに疲れてしまった。どんなに想ったところであなたはもう二度と私の前に姿を現さない。あなたがそう望む限り私はあなたに逢うことはない。逢いたいという気持ちも日を追うごとに薄れていく。私はそれを悲しみながら、恋の終わりとはこういうことなのかと思う。あなたのことを忘れていくのが悲しい。こんなにも想っているのにあなたを過去にしようとするこころが憎い。いつかには早く捨てたいとさえ思っていたこの恋心を、本当に手放すときがようやく来たのだろう。けれど私は捨てたくなんてなかった。あなたを想い続けたかった。たとえかなわない夢であったとしても、あの幸せな日々まで捨てたくはなかった。……』
 
 ……ドキッとした。『私自身を見てはくれなかった』という記述に。カカシに父さんの影を重ねて見ていた俺は、この連載を読むまで本当のカカシを見ようとも知ろうとも思っていなかったことを、今気づかされた。俺を想うカカシにとって、それはどれだけつらかっただろうか。
 ……謝りたい。謝らないといけない。けれどきっと会いに行ったら、カカシはまた苦しむんじゃないだろうか。そう思うと自分まで胸が苦しくなる。
 でも謝って、改めてカカシ自身を見つめ直したい。カカシという人に対して、俺がどんな気持ちを抱くのかを知りたい。
 あんなことをされても嫌いになれなかった本当の理由がそこにあるような気がして俺はカカシの家に向かった。
 インターホンを鳴らすが反応がない。留守だろうか、と思ったら玄関の扉が少しだけ開いた。
 その奥にいるカカシは俺の姿を見るとすぐに扉を閉めようとしたが、俺は足を間に挟んで「カカシ」と呼びかける。
「頼むから、もう、来ないで。俺に関わらないでよ。」
 そう言って扉を閉めようとするカカシの意に反して俺は上半身を無理やりドアの隙間にねじ込み「話がしたいんだ!」と大声を上げる。
 ドアを閉めようとする力が弱くなって俺は玄関の中にもぐりこんだ。背後で扉が閉まりガチャ、と音がする。明かりがついていないせいでカカシの表情がよく見えない。
「あんたのことを、もっと知りたい。あんた自身のことを。なんで俺に酒を飲ませたのかも。なんであんなことしたのかも。ちゃんとあんたの口から聞きたい。俺は勝手にあんたに父さんを重ねてた。父さんが生きてたらカカシみたいに優しかっただろうかと思った。そうやって父さんの姿ばかり追ってカカシのことをずっと見てこなかった。だから」
「待って。落ち着いて。サスケ。俺はサスケに何をした? サスケが俺をどう見ようが俺がした過去は変えられない。俺は本来裁かれるべき人間だ。お前に話すことなんて何もないよ。話したところでやっぱり最低だとしか思わないよ。何しに来たの? 何が聞きたいの? 今更なんで?」
「ちゃんとカカシを見たいんだ。本当のカカシを知りたいんだ。本当のことを知りたいんだ。俺馬鹿だからやっと気付いたんだ。ちゃんとカカシを見てなかったことに。」
 しばらく沈黙が続いた。
 何十秒? 何分? わからない。けれどとても長く感じた。
 カカシはその沈黙の後、
「台所においで」
 とだけ言って廊下の奥に消えていった。
 サスケも靴を脱いでその後を追う。
 台所の明かりがついた。中に入ると、テーブルに腕を置いて座るカカシの姿。
 向かいの椅子に腰を下ろして重たい沈黙を破る。
「なんで俺に酒入りのジュースを飲ませたんだ。」
「好きだから、サスケのすべてが欲しくなった。脱衣所に上がった裸のサスケを見て、歯止めが利かなくなった。酔わせて朦朧とさせたらサスケを自由にできると思った。」
「隠し通すことも、できたはずだろ。あの日なんで酒を飲んでない俺にあんなことをしたんだ。」
「お酒を飲ませてたことはバレちゃうだろ。どうせバレてサスケに会えなくなるのなら、最後にもう一度抱きたいと思っただけだよ。」
「……好き、になると、抱きたいとか、すべてが欲しいとか、そう思うもんなのか。」
「想いが募れば……キスもしたくなるし、抱きしめたくなる。セックスもしたくなる。」
「無理やりにでも?」
「……うん。俺は無理やりにでもお前を俺のものにしたかった。」
「そんなに、好きなら、なんで言わなかったんだ。なんで好きだって言わなかったんだ。」
「だってお前は……俺のことを、そういう目では見てなかったでしょ。」
「……そのことは、謝りたいと思ってる。カカシ自身をちゃんと見てなかったこと。勝手にカカシに父さんの面影を重ねて見ていたこと。……悪かった。」
「だってサスケは子どもなんだもの。仕方ないよ。そんな子どもを好きになった俺の方がおかしいんだよ。お前は悪くない。謝る必要もない。俺が勝手に好きになって、無理やりヤって、幻滅された。シンプルな話だ。」
「好きとか恋とかそういうのって、相手がいるからこそだろ。なんで一人で勝手に完結させようとするんだよ。あんなことをされたのに、俺はずっとあんたのことを嫌いになれないでいる。小説であんたの想いを知って、あんたをこれ以上苦しめたくないと思った。会いたいと思ったけど、会うことであんたがまた苦しむのならもう絶対に会わないとも思った。これ以上あんたを傷つけたくないし苦しませたくない。俺のこの気持ちは、……カカシは、何だと思う。」
「何……って、言われ、ても……。そう、思ってくれた気持ちは、……嬉しいよ。」
「俺は、……俺は、俺もあんたのことが好きなんだと思う。」
「でもそれは……恋愛対象としての好きとは、違うんでしょ。だから」
「……俺はあのとき、あらかじめちゃんと好きだって言って欲しかった。いきなりとか無理やりじゃなくて、話し合って二人で決めたかった。もっと早くあんたの本当の想いを知っていたら、もっと違う結果があったはずなんだ。俺もあんたが、好きだから。」
「だからその好きは、俺の好きとは……」
「違わない。俺もあんたを恋愛対象として好きなんだ。だからもう一人で苦しむのはやめてくれ。教えてくれ。話してくれ。直接、あんたの想いを聞かせてくれ。……まだ俺のことを、好きだと思ってくれてるんだったら。」
 
 拒否される怖さが今ならわかる。そんな思いを抱えさせてしまった原因は俺だ。俺がカカシの演じる優しさに甘えたせいだ。今からでも、償いは間に合うんだろうか。
 カカシはなかなか口を開かない。もう俺への恋心はとっくの昔に色褪せてしまっているのかもしれない。
 そうだとしても、カカシの口からきちんと答えを聞きたかった。振られるならそれで構わない。カカシがもう俺のことで苦しむことがなくなるということだから。
 
 カカシは言葉を選ぶように、少しずつ話し始めた。
「……俺はまだ、サスケのことが、好きだよ。でも俺のしたことは、許されることじゃない、と思ってる。」
「……許すかどうかは俺が決めることだ。」
「あと俺のこと、好きって言ってくれたのは、嬉しかったけど……正直なところ、俺は、疑ってる。……いるんだよね、時々、……小説に感化される人。あの小説もどきを読んで……サスケが俺を、気にかけてくれてるのなら、サスケも感化されたんじゃないか、って、思ってる。」
「っ……」
 即座に否定出来なかった。確かに俺は、カカシのあの終わった恋を読んでカカシに対する気持ちが変わっていった。
 俺の今のこの気持ちは感化されただけのまがいものなのか? カカシを苦しめたくないという思いは、カカシの口から直接聞きたいと思うのはただのエゴなのか?
 認めたくないけど、キッパリと否定することも出来ない。もし感化されたまがいものの気持ちなんだとしたら……俺はまた、こうして話すことで、カカシを傷つけていることになる。それは、それだけは嫌だ。
「……カカシをこれ以上苦しめたくない、傷つけたくない、この気持ちは、本物だ。」
「好きかどうかは……わからないんだね。わかるよ。サスケはまだ幼い。感受性が豊かだから、感化されやすい。自分の気持ちがわからなくなるのも、お前の年頃ならよくあることだ。」
「……どうしたら、確かめられる? 何をしたら俺の気持ちがまがいものじゃないとわかる? ……なあ、ひとつだけ思い浮かんだことがあるんだ。それをしたら確かめられるんじゃないかって。」
「……言ってみて。」
「キスと、セックス。」
「……本気で言ってる?」
「本気のつもりだ。」
 見つめ合う。
 10秒、15秒、20秒、30秒……
 カカシはため息をつきながら口を開いた。
「……後悔、しても知らないよ。」
「それでもいい。きちんと確かめたいんだ。」
 カカシはテーブルに手をついて立ち上がった。俺の隣まで歩いてきて、手を差し出す。俺はその手に自分の手を載せて立ち上がった。手を引かれて着いたのは寝室。
 部屋に入る前に、カカシは背を丸めて俺の顎を持ち触れるだけのキスをする。
「……本当に後悔しない?」
「しない。」
 俺の答えを待って、再び唇が合わさる。差し込まれた舌が口内をねっとりと舐めて俺の舌に絡まる。俺もカカシの舌に絡めて、貪るようにキスをする。嫌じゃない。抵抗も感じない。むしろもっとしたい。……ずっとしていたい。
 名残惜しむようにカカシの唇が離れていく。俺の表情を確かめるように覗き込む。
「……するけど、……いい?」
「あのときも……そういう風に、言って欲しかった。」
 手を引かれて寝室の中に入る。一組しか敷かれていない布団に腰を下ろすと、またキスをしながら俺の身体はゆっくりと布団に沈められていく。カカシはTシャツを脱いで上半身を晒し、俺の上に覆い被さった。ちゅ、ちゅ、とついばむようなキスをしながら俺のシャツを捲り上げて、胸の突起をさわ、と撫でる。その手は腰を撫でながらズボンに手をかけてゆっくりと下着と一緒に脱がしていく。
 俺のそこは勃っていた。……何だか恥ずかしい。そんな心の声が聞こえたのか、カカシもズボンを脱いだ。カカシのものも、ガチガチに勃っている。
「サスケとする事考えただけで、俺のはこんなんだよ。……サスケも一緒?」
「……っわかんね……」
 カカシはローションを取ると、手に垂らして俺のを扱き始めた。
「っぁ、はぁっ、……っ、」
「どうする? 一回出しちゃう?」
「っいい、早く後ろに……」
「ん……わかった。」
 ローションで濡れた手が後ろの穴をくにくにとマッサージする。ぬるっと入ってきたのは指一本。抽送しながらあそこを優しく擦り始める。
「っあ、……はぁっ、あ、……んっ!」
「サスケ、ガチガチ……力、抜ける?」
 深呼吸をした。ゆっくりと息を吐くと、カカシの指が更に奥まで入ってくる。
「は……あっ! んっ……ぅあっ、っあ!」
「上手、その調子……」
 ぬちゅぬちゅと出入りする指が一本、また一本と増えていく。
 奥に入る度にそこをなぞられ、切ない快感が背筋を走る。
「あ、あっ! はぁっ、あ、んっ!」
 三本の指がスムーズに出入りするようになって、カカシは指を抜いた。それにゴムを着けて、ローションで濡らしていく。
 カカシと、繋がれる……。
 胸が高鳴った。さっきまで指が入っていたそこにあてがわれたそれは熱くて硬い。
 ぬぷ、と亀頭が入ってくる。
 はぁ、はぁ、と浅く息をしながら、カカシは一気に奥まで貫いた。
「あああっ!!」
「っは、我慢、できない……っ」
 すぐに始まる抽送。俺のそこを抉りながら奥まで突かれ、ずるるっと抜けていく。
「あっ! ぅあ、あ、あっ! んっ、っあ! は、んぁっ!」
 抽送はどんどん早くなっていく。俺は快感に震えながらカカシの背に手を伸ばした。ぎゅっと抱き寄せると、あとはひたすら喘ぐだけだ。
「はぁっ、気持ちい……サスケは? 感じてる?」
「んっ、うんっ、ぅあっ! きもち、あっ、いいっ! カカっ、あぅっ!」
 また抽送が早くなる。その激しさに身体が揺さぶられる。揺さぶられるままに俺は喘ぐ。気持ちいい。気持ちいい。それしか、浮かばない。
「あっ! んっ! あぅっ! はっ、あっ! あ、あっ! ぅあっ!!」
 パンッパンッパンッパンッと肌がぶつかる乾いた音、グチュ、グチュ、とローションが擦れる音、そして二人の荒い息と、サスケの嬌声が部屋の中を入り乱れる。
 カカシは腰の動かし方を変える。奥に突きながら浅く引いてまた奥に、それを高速で動かした。
「あ、ああああ! か、ああっ! ああああっ!!」
 息をする間もないその高速ピストンにサスケの声はもう喘ぎ声ではなく悲鳴のようになっている。カカシの背に回っていた腕がぱたっと落ちた。
 はぁっはぁっと荒い息を吐きながらまた元の抽送に戻ると、サスケは放心状態でまた揺さぶられるまま声を上げる。
「あっ、あ! は、あっ! んっ! あ、あっ! んぁっ!」
「っごめ、もう出そう……っ!」
 カカシはサスケの腰を掴んでガンガン揺さぶった。
「あっ! ああっ! あ、あああっ! あっ! あ、で、あああっ! 出るっ! かか、あっ! あああっ!!」
「ッサスケ、一緒にっ」
 ひときわ奥に突くと、サスケはビクンッと体を震わせる。
「ぅあ、あ、ああああっ!!」
 ビクッビクッと小さな身体が痙攣した。中をキュウ、キュウ、と締め付け、カカシもサスケの奥に吐精する。
「っは、……っ!」
「あっ、あ……、カカ、シ、……っ」
 サスケの腹は白濁液で濡れていた。
「はぁっ、サスケ、サスケ……好きだ、好き、だ……」
「っん、おれ、も……好きだ、カカシ、好き……」
 サスケはもう一度手を伸ばしてカカシの背中に腕を回す。カカシも中に挿れたまま、サスケをぎゅっと抱きしめた。
「はぁっ……好きだ、本当に……繋がってる今、すごく、……幸せだ、カカシ……」
「俺も……今、すごく幸せ。……幸せだよ、サスケ……」
 きつく抱きしめあった。
 まがいものじゃない、これは本当の好き。じゃないと、こんなに今こころが満たされている説明がつかない。俺は本当に、カカシが好きなんだ。感化じゃなくて、本当に……。
 
 名残惜しそうにそれを抜くと、カカシはゴムを外して結びゴミ箱に捨てた。
「シャワー……浴びる?」
「待って……まだ、立てねえ……腰が、」
「ごめんね、激しくして」
 カカシはウェットティッシュを取り出してサスケの身体を拭き、次いで自分のそれも拭いていく。
「……でも、してよかった。サスケが、本当に俺を好いてくれてるってわかったから。……今、すごく嬉しい。」
「俺も、嬉しい。……なあ、これからはちゃんと全部、話してくれるか? あんたの考えてる事、感じいてること、……全部、知りたいんだ。あんたをもう、ひとりぼっちにさせたくない。」
 カカシはサスケの鼻先をピンとはじく。
「12歳の子どもがそんな偉そうなこと言わないの。……大丈夫、ちゃんと話すよ。これからは。」
 カカシは触れるだけのキスをして、サスケを見つめる。その目は幸せそうに細められていて、サスケもまた目を細めた。

5