迎えに巡る
毎年恒例だ、テレビでもラジオでも繰り返し注意喚起がされる。
『故人を偲ぶ際はその礼拝は1、水も酒もコップ一杯まで、お一人につき30秒で、熱中症対策を……』
晴れ渡る空、ジリジリと熱射光線を放つ太陽、何百人と並んでいるその中に俺も並んでいた。
下忍だろうな、という子が「火影様の列はこちらです!」と叫んでいる。
「二列に並んでください!」と後ろの方で声がするからまだまだ訪れる人は増えているみたいだ。
(ミナト先生、後で行きますんで。)
大戦や九尾襲来で多くの忍が犠牲になって、そして孤児として残された子どもたちは施設に入り、その生家は里が徴収した。おかげで「実家」なんてものがない奴らはこうしてこの慰霊碑の行列に並ぶしかない。
木の葉隠れの里の住宅事情は案外厳しく、人が住める面積に対して住民が多すぎる。だから昔ながらの平屋はそうやって理由をつけて里が徴収して、どんどん集合住宅を建てている状況。昔ながらの景色が残っているのは、何故か里が手を入れようとしないうちは一族の住居跡地だけで、由緒ある家柄以外は集合住宅に身を移す者が大半だ。
土地所有者に高額な税金を課したり一軒家を建てる際の建築申請に結構な金がかかったりと、そういうわけで今時一戸建てを建てようなんて人は余程の金持ちくらいだ。
その結果がこの何百人の列だ。
少しずつ前に進んでいるものの、いつ慰霊碑にたどり着くのやら。毎日来ている身からすれば盆だからって足を運ぶのってどうなの、と思うけど、故人を偲ぶ気持ちも理解できるから黙って並んでいる。
列が少し進んで、四代目……ミナト先生の慰霊碑の方が少し見えた。やっぱり二列に並んでいて、そして30秒で二人の忍が「終了時間です、次の方」と列を捌いている。慰霊碑の前にはどんだけ、というくらい精霊馬が置いてあって、ミナト先生、どれに乗るか選ぶの大変そうだな……いや、影分身して全部に乗ろうとするかも、などと考えていたら、列が進んでようやく慰霊碑が見えるところまで来た。
一人30秒しかないからこれだけ並んでいても案外早かった。何時間かは待つだろうなと思っていただけに。
30秒なんて短すぎるから、慰霊碑が見え始めたところで俺は心の中で呼びかけた。
(俺さ、ミナト先生みたいに下忍を受け持ったよ。一人はオビトみたいな馬鹿、一人は恋愛に夢中なお花畑、一人はうちはの子。なんだかなあって思ったけど、そんな子達が下忍になれる時代なんだなって思い直した。平和って、いいもんだね。お前らにも大人になって、この感覚味合わせてやりたかった。そっちでは二人で仲良くやってる? それとも別々なのかな。別々だとしたら……今日、この慰霊碑の前でミナト第七班が揃う……と良いんだけどね。残念ながらミナト先生は火影になったから別枠らしい。俺さ、下忍を受け持って改めて、もう誰も死なせない……って思った矢先にやらかしちゃってさ。……だめだね、俺。また失うところだった。運良く生き残ってくれたけど、本当に運。運に恵まれた、とも考えられるけど、指揮官としては失格だよ。……もう2度と、そんなことにはさせない。じゃないと、お前ら二人にとても顔向けできないよ。)
「次の人、どうぞ」
慰霊碑にコップ一杯分の水をかけて、葉っぱを慰霊碑の前に置く。数えきれない精霊馬。
(ああ、ごめん作ってなかった。ま、オビトなら走ってくるでしょ。リンはオビトに背負ってもらってくれ。)
きゅうりだの茄子だのに爪楊枝が刺さっているそれらを見てから、慰霊碑に刻まれた二人の名前を確認する。
(俺はぼちぼちやってるよ、お前らも……気長に待っててくれ。)
「時間です。入れ替わってください。帰りはそちらの道から。次の方、どうぞ。」
忙しないもんだ。まあ、この長蛇の列だ、仕方ない。
ミナト先生の方に行くには……ぐるっと回り込まないと無理かな。
灼熱の中その方向に足を向けた。
ミナト先生への挨拶を終えて、我が家に戻ってきた。税金が高かろうがなんだろうが、父さんと過ごしたこの家はずっと残している。父さんが息を引き取った部屋、笑顔を浮かべる父さんの写真の前に、酒を入れたお猪口を置く。慰霊碑の挨拶を済ませてからはここで過ごすのが最近の盆の過ごし方だった。
酒を飲みながら父さんに話しかけたり、畳に横になったり。
実家……ってきっとこんなふうに過ごすんだろう。そういう過ごし方をして、父さんが生きてたらどう言うかなどんな会話するだろう、なんて考えながら、俺はこの家の中では「子ども」として過ごす。
「父さん……俺、とうさんの息子として……立派な忍に……」
炎天下で並んだ疲れなのか、久しぶりの畳の気持ちよさなのか、いつの間にか俺は眠っていた。
身体が……ひんやりしていて気持ちいい……あれ、俺何してたんだっけ……。
目を開けてみたら、そこには何故かサスケがいた。首の後ろと脇の下、鼠蹊部に冷たいものがある。ベストも前が開かれていた。
「やっと起きたか、熱中症だぞ、多分。」
「……なんでサスケがここにいんの?」
「一族の集落に行った帰りに『はたけ』って表札の家あったから、あんたの親族か何かかと思ってノックしたけど誰も出なくて、でも扉開けたら靴あるし、上がってみたらあんたが寝てて耳が真っ赤で。酒飲んでも赤くならないだろ、あんた。だから熱中症だろうと思って処置した。とりあえず水、飲め。」
差し出されたコップの水を飲む。冷たくて美味しくてゴクゴクと一気飲みした。
「事後報告で悪いが、勝手に上がって台所も借りたぞ。もう少し横になってろ、まだ耳が赤い。」
まるで母さんのように俺の面倒を見るサスケ。……仲間思いだから、なのかな。俺の心配までしてくれるなんて。
「しかしあんた、家はマンションだろ。ここは実家か? にしては誰もいないが……っと、もしかして、その写真……。」
サスケが額縁に入った父さんの写真を見つめる。
「父さん、紹介するね。俺の部下のサスケ。でサスケ、あの写真の人が俺の父親だ。」
「……木の葉の白い牙……。」
「へ、知ってるの?」
「教科書に載ってるぜ、二つ名のある忍は大体紹介されてる。……そうか、カカシはその息子……ふぅん。」
口の中に体温計を突っ込まれる。砂時計をひっくり返して額に手を当てられた。……あれ、額当て……ていうか口布……。
「ちょ、サスケ」
「砂時計止まるまで黙ってろ。」
……見られてしまった、素顔。……いやまあ、サスケなら別に良いんだけど……。しかし耳が赤い、だけでよく熱中症だと分かったな。やっぱりサスケは優秀、なんだな。
砂時計が全部落ちたのか、口に突っ込まれた体温計が抜かれた。
「37.5度、もう少し冷やした方がよさそうだ。」
「なんか、悪いね……ありがとう。」
「たまたま俺が通りがかってよかったな。まあ、あんたの顔も見れたしあんたには普段世話になってるし、気にするな。」
照れたように目を逸らすサスケ。
父さんが生きていたら、同じように面倒見てくれただろうか。記憶にないけどもし母さんがいたらこんな風に……。
サスケは部下で、子どもなのに、なんでかこんなことを考えてしまう。誰かが俺を心配して世話をしてくれる、なんて事はリンが死んだ後、なかったから……。
嬉しくて、なんだかくすぐったい。


