俺が僕だった頃

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カカサス,全年齢,短編,原作軸独白,オリジナル設定有,シリアス

 僕が感じているこの感覚は言語化することができず長い間僕の胸をぎゅうっと締め付け続けていた。
 その正体のわからない何かとの同居にすっかり慣れてしまって胸が苦しいことが普通になっていった。だから僕はどんなこともへっちゃらになった。
 どんどん敵を倒して、倒すたびに仲間から賞賛の眼差しを浴びて、それでも同居している胸の苦しさは変わることがなく、大戦が終わって戦う必要がなくなってから僕はまた改めてこの苦しさと向かい合うことになった。
 人を殺すこともなくつまらない任務をこなしながらこの胸の苦しさはどんどん存在感を増していく。任務中に見かけた幸せそうな護衛対象の顔を見たら更に胸は苦しくなった。
 でも大丈夫、任務には支障ない。僕は出来る、だってあんなに殺してきたんだ。
 でもその後も大戦は起きることがなく世間は平和になって行った。あの殺し合いの時代はなんだったんだと思うくらいに気が抜けるほどの平和の中で僕は胸の苦しみと向き合わざるを得なくなった。何もすることがないからそうなるんだと本を買って読むようになった。気を逸らすことさえできればよかった。何冊か読んで、本屋に行って、また読んで。部屋の中に本が増えていくけど内容は頭に入ってこない。次の一冊を、と手にとった本。それだけは、今までの本とは全然違う、何か新しい価値観を僕の中に流し込んでくるような、そんな本だった。

 新しい任務が与えられたけど僕がやるようなことじゃないと感じたし実際にその任務に当たる機会は訪れなかった。
 その間僕はあの本を読んで、読んで、暗記できるくらきに読んで、そしてこの物語には続きがあると知ってその本を買ってまた読んだ。新しい任務のおかげで暇な時間は山ほどあったし相変わらず戦争も起きそうになかった。だから僕はその本の物語に夢中になってその世界に入り込むほど没頭することができた。
 新しい任務は相変わらずつまんない条件をつきつけては霧散する。ほらやっぱり僕にはそんな任務は向いてない、だって僕が得意なのは敵を確実に殺すことだけなんだから。
 そんな暮らしが何年続いただろう、いい加減に僕という人材の有効な使い方は敵を殺すことだって考え直して欲しかった。本をたくさん読んでも胸の苦しさはそのままずっと残り続けている。だけど本の世界に入っている間は忘れることができた。どこにいくにもその本を持ち歩いて暇さえあればページをめくった。何が僕をそこまで駆り立てるのかはわからないけどこの本の物語は僕の気持ちを掴んで離さない。そしてまたいつもの季節が巡ってくる。今度はどんなつまんない奴らだろう。もう期待もしてなかった。けどその年だけは特別に僕に任せると言われてしぶしぶ相手をしてやることにした。
 下忍になったばかりのガキ。僕はその歳の頃には中忍だった。そして戦って戦って生き延びて殺していた。平和な世の中で育ったガキどもなんて面倒見ても仕方ない。僕が教えられるとしたら殺す技術だけで平和ボケしたガキどもがそれを望むわけがない。
 そう思いながらアカデミーの教室に入ったとき、例のあの子どもと、例のあの子どもが同じ部屋にいた。
 片方は聞いてないんだけど……まあいいや。

 どうせこいつらもつまんない。いつもの試験で案の定つまんないことばかり仕掛けてくるその3人に午前の時点で半分くらい不合格の判定を下していた。
 特に任された子どもに関しては群を抜いてつまんないやつだった。こういう奴が戦場では真っ先に死んでいく。フォローしてやる価値もない奴だ。そう思いながら一応は観察を続けた。
 そしたら予想外のことが起きた。予想外すぎて自分でも何が起きたのかわからなかった。僕はその子どもの頭に手を置いて合格と伝えていた。
 理解できない。だけどずっと読んできた本の中の人物と、僕は同じことをしていたことに気がついた。たくさん読みすぎて、世界に浸りすぎて、本の中の人物が僕に憑依したかのように。
 やりたくない任務だった。だけど合格と言ってしまったからにはやらなければならない。この三人が中忍になって巣立つまで見守りながら忍として強くしていくという任務を。
 それを覚悟したときにいつもよりも胸がぎゅうと苦しくなった気がした。なんで今。僕の中で何が起きている。でも今は目の前のことをこなしていかなければならない。ガキの面倒なんて、僕には1ミリも向いちゃいないのに。なんでこんなことになったんだろう。

 つまんない日々を順調に続けながら顔に張り付けた仮面が馴染んできた頃に僕たちの前に殺すべき敵が現れた。僕の頭の中は歓喜で溢れていてどうやって殺そうかと頭が急速に回転していく。でも後ろにいる三人のガキのことを思い出して仮面を貼り付けて安心させてやってからそいつを殺しに行った。結局殺すことに失敗したけどそれはまた殺す機会が現れるという意味でもある。いつ来るかという緊張感を久しぶりに感じて胸の鼓動が早くなる。
 あいつを殺す、それが俺の役割、早く俺に殺されに来い、そう思いながら待ち続けてあいつはようやく現れた。なんだかお供に子どもを連れてるみたいだけど関係ない。一対一に持ち込めば殺せない奴なんていない。久しぶりに人間の身体を貫いた右腕。だけどあいつではなく、それはお供についてた子どもの心臓を貫いていた。
 このために連れてきたのか、頭の回る奴だ。でも次は殺す。30秒後にこの右腕が貫いているのはあいつの心臓だ。
 そう思っていたらどうやら風向きが変わったらしく、そいつは敵ではなくなってしまった。無駄に子どもを一人殺しただけだ。でもまあ、この子どもも忍らしいから敵であることには変わりない。
 その次に耳に入ったのはガキどもの声だった。そういえばほったらかしにしてたなと思って様子を見たらひとり死んでた。あれ、あいつ一番強いガキじゃなかったか。なんで雑魚が生きてて強いガキが死んでんの。
 その瞬間僕の胸は立っていられないほどぎゅうぎゅうに締め付けられて苦しさに膝をついた。なんだこれ、こんなの、はじめて、……はじめて、……はじめて? 本当にそうだった? こんな苦しさは……わからない、けど前にもあった気がする、思い出せない、なんなんだこれ。
 深呼吸をして身体を起こしてガキどもの方へ歩み寄った。泣きながら死んだガキを抱きしめてる女のガキが何かに気がつく。そして僕もまた死んでるそいつの異変に気がついた。確かに死んでたはずなのに、息を吹き返している。少しして目を開けたそのガキは口を開いて言葉を口にした。
 ……生き返った? いや、これは最初から……仮死状態だった。すっかり騙されたってことか。胸の苦しみがスッと楽になっていく。もしかしてこの胸の苦しさはは、僕の動揺を表しているのか。いや、それだと説明がつかない。何より色んな仲間の死ぬところを見てきて今更ガキ一人死んだってどうとも思わないはずなのに。あのとき確かに胸はぎゅうぎゅうに苦しくなった。なんで。そもそもこの苦しみはいったいなんなんだ。
 自覚してなかった。このとき僕ははじめてその正体のわからない感情と向き合ってその正体を確かめようとしていたことを。無意識のまま考えていた。これは何だと。
 
 謎は解けないまま時間だけがすぎて、いよいよ三人のガキを中忍試験に放り込むことができた。と思ったらまた別の問題が立ち上がって、よりにもよってあの死んだガキが標的になった。どんな星の下に生まれついたらそうなるんだよって笑いたくなったけど、このガキの前ではそれは笑いにならない。だってもっとガキの頃に家族や仲間を全員殺されてるんだから。
 話の流れで僕の殺す技術をそのガキに教えてやることになった。まあ、教室にこいつがいたのを見た時点でそうなることは予測できていたけどこんなにも早くそういう機会が来るとは思ってなかった。元々頭も良くて強いガキだから割とすんなり技を覚えて実用できる段階まで持っていくことができた。これだけ教えておけば後は放っておいていいだろうとことの成り行きを見守っていたら、二人きりの修行で何か感じたのかそいつはことあるごとに僕を訪ねてくるようになって、僕は仮面をかぶることをやめた。
「弟子が師匠を頼るのはわからなくもないけど、そんなに通い詰める必要ある?」
 暗に来るなと言ったつもりだったけどそのガキは何度も俺のところに来ては会話をしたり忍術について聞いてきたり、一応先生という立場であんまり無碍にすることもできなくて応えてやれることには応えていた。
 後になってから気がついたことがある。この一度死んだガキが僕を訪ねてくるたびに、胸を締め付けていた苦しさが少しずつ解けていた。
 それに気がついたのはそいつの家族や仲間を殺した張本人が何の目的なのか再び里に現れてからだった。
 あんなにも殺す事においては自信があったのに僕よりも何歳も年下のそいつに僕は勝つことができなかったばかりか、完膚なきまでにやられてしまった。その上、殺されなかった。あのガキも同じらしかった。完膚なきまでにやられて、でも殺されなかった。
 なぜ殺さなかった。なぜ生きさせた。わからないままそのガキの病室を一応見舞いに行って、ただいつものような意志の強い目はどっかに吹っ飛んだ様子だった。
 そりゃそうだろう、このガキはあいつを殺すために力を磨いてきたのだから。僕が勝てなかった相手にこのガキが勝てるわけがない。仕方ないよ、そんなの。
 それよりも気がかりなのは殺されていないことだった。何らかの意図をそこに感じた。でもその意図まではわからない。そしてそのガキが来るたびに胸の苦しさが解けていた事にその日気がついて、僕はまたこれはどういう事だと悩むハメになった。
 そもそもこの苦しさは何なんだ。いつから? 思い出せ。いつからかずっと感じていた。そう、このガキと同じくらいの歳の頃から。……いや、違う、もっと前から。いつだ、いつが最初だ。思い出せ。最初にこれを感じたときのことを。
 頭の中で時を遡って遡ってひとつの場面が鮮明に蘇る。天井からぶら下がった大きな身体。ああ、これは死んでる父さんを見つけた時だ。でもこの時じゃない。この時は苦しさなんてなかった。そのあと……そのあと。
 父さんの骨が入った小さな箱を火葬場から家に持ち帰るときに聞こえてきた父さんをなじる声。なじられても仕方がない事をした父さんが悪い。掟を破ったんだから、非難されて当たり前だ。死んだのは父さんが弱かったからだ。そう思いながら家まで帰った。家の中に入ってから、仏壇にその箱を置いて、まだ天井にぶら下がっていた縄を外しながら、父さんが悪い、父さんは弱い、でも僕はそうはならない、僕は強くなるし正しく生きる、そう思っていた時にはじめて胸に違和感を覚えた。あの胸の違和感が、きっとはじめてそれを感じた時だった。

 そこまで思い出してもこれが何なのかはわからない。何でこのガキと接するたびに楽になるのかもわからない。それにあの時はこんなに苦しくはなかった。苦しかったけど今の方がよほど苦しい。だったらまだ何か思い出せていない何かがある。何だ、それは。
 考えながら覇気のなくなったそのガキの目が窓の外に向いている事に気がついて、窓の外を見た。何にも面白いことはない、空しか見えない窓。その窓の向こうをぼんやりと見る目。……この目……どこかで、見たような……。
 手を洗っていた。洗っても洗ってもきれいにならなくて、手を洗いながらふと視線を上げた時に鏡に映っていた僕のその目……同じ目……。
 何で手を洗っていた、何の汚れが落ちなかった。汚れ……洗い落とさなきゃ……いけない、死がこびりついた右手……。
 殺してきた、たくさん殺した、敵は全員殺した、けど殺したのは……敵だけじゃ、なかった……誰かに、守ってくれと託された……。
 胸が苦しくなる、呼吸が乱れて、あのときのように胸を抱えて膝をついた。これはだめだ思い出したらだめだこれ以上追いかけたらだめだ思い出したら僕は……僕はきっとどうにかなってしまう。
 深呼吸をして、落ち着いて、立ち上がって、……これの正体なんて知らなくていい、だって今までこれと一緒に生きてきた、これからもそうするだけだ、それが一番いいはずだ。思い出したことも全部忘れてしまえ。そうだ、本を読もう、本を開けば、僕はその物語の世界で……。

 人間の脳みそって残酷だなと思うよ、だって思い出したくない事を思い出させられる事もあるし、見なかった事にしたかった事も見せつけられることがある。
 それも、夢の中で出してこられたら僕はどこにも逃げられないじゃないか。
 ……残酷だよ、本当に。
 この左目を僕に託した仲間が死にゆく場面と、その仲間が守ってくれと僕に託した子を、僕がこの手で殺した事を、……思い出させたのだから。
 目が覚めてから、案外冷静なんだなと、僕は思った。思い出したくないと昨日あれほど強く思ったのに、思い出してしまった事に対して、もっと取り乱すのかなと思ってたけど、こんなもんなんだね。
 でもこの胸の苦しみがいつ強くなったのか、わかったよ。正しい事をしようとした結果死んだ仲間、正しい事をした結果僕自身が殺すしかなくなったあの子。
 正しい事をしたはずなのに、ねえ、何で死んでしまったの。違う、何で僕は見殺しにしたの、守れなかったの。正しい事を、したはずなのに。
 ……だめだ、これ以上考えたら。本は、あの本はどこに、あった。ページを、開いて、文字を。
 自分を信じる、という表現が多く出てくる。誰かと関わる事で、優しさを覚えていく描写が。会話をすることで、誰かの気持ちが伝わる描写が。それらは僕を深い物語の世界に連れて行ってくれていたのに、どうして今読むと胸を針で突き刺すような痛みになるの。

 僕は本を閉じて、あのガキの病室へ向かう。
 骨がバキバキに折れてるくせに、座って外を見つめていた。僕に気がついて、名前を呼ばれる。
「……俺は弱い」
 弱いなりに強い方だと思うけど。
「……全然足りなかった」
 僕でさえ負けたんだから仕方ないよ。
「……復讐なんて、できるのか……」
 まあ、厳しいよね。
「……あんたなら、俺を強く出来るか」
 完敗してる身としては答えづらい質問だった。ある水準まではいけるけど、あいつは例外的な強さを持っていた。普通に鍛えても……多分無理だ。
「強くは出来るけど、ある段階まで強くなったら、自分で新しい技術や力の使い方を開発していく事になる。その段階までなら、強くできるよ。」
「そこまでいくのに、どれくらいかかる」
「……今13歳でしょ、まあ、16歳くらいかな。」
膝の上の手がぎゅっと握りしめられた。
「……3年も……」
ガキにとっては長いんだろう。けど日常的に戦う環境でない今、実戦経験がないままだとどうしても時間はかかる。けど僕はこのガキをどうにかしてあげたかった。出来ることは何でも協力するつもりでいた。でなければ、このガキは次にあいつと対峙した時に死ぬ。
「……っ!」
 胸が、苦しい、部下が死ぬなんて、慣れていたはずなのに、こいつが死ぬところを想像した途端に……。
 ……死んで、欲しく、ない……?
 違う……そんな単純なものじゃない……。
「……俺が守るし、強くするし、……もう死なせない」
 守る? 何言ってんだ、実力がない奴は死ぬ。それはこの世の力学だ、弱い奴を守るなんて、リソースの無駄で、正しくなんてない。
 ……正しさ……?
 ……正しい、事をしたはずなのに、あの二人は死んだ。父さんは、正しくないから死んだ。どっちなんだ、正解は。
 僕が正しいと思ってきたことは、間違っていた?
 父さんは、正しかった?
 ……違う、だって父さんは、正しくなかったから非難された、弱かったから死んだ、だから正しく、強ければ問題ない、はず、だろ。

「あんた、なんて顔してんだよ」
 そう言われて、ハッとした。顔の大部分は布で覆っているのに、それでも変な顔をしていたということ。
 このガキの前では、何かが崩れる。何かが芽を出す。それでも放っておけない、この矛盾は何だ。
 掘り返したくないことまで、このガキの前では。
「……昔を思い出してた」
 正しいのは何だ。
「お前が気にすることじゃないよ」
 俺はこれからどうするべきだ。
「今は回復が優先」
 父も仲間も見殺しにしてきた俺は、俺の全部が間違っていた?
 生き残るのはいいことだ、強さの証でもある。
 死ぬことは悪いことだ、弱さの証だ。
 父さんは、仲間は、弱かったから死んだんだ。俺の正しさとか関係なく、弱かったから利用されて、弱かったから罠にかかって。
『仲間を大切にしない奴はクズだ』
 なんだ……これ。
 仲間を、大切に? でも弱い奴を守ったって。
 いや、俺は弱っちいガキ3人を、守って……違う、それは俺が先生だからで、役割として当然に。
 ……じゃあ、部下は。部下も上司なら、守らなければ……いけない……違う! 弱い奴が死ぬのは戦では当たり前だ、俺は正しい事をしてきた!
 たとえ、クズだろうと。……クズ、何でこの言葉が、こんなに胸を刺すんだ。
 俺は……俺は、ずっとそのクズなことを、今まで、正しさのために、強くあるために。
「おい、あんた大丈夫か。」
 ……全身骨折で動けないはずなのに……なんでこっちに歩いてきてるんだこいつ……。
「昔のことって、何かあったのか。」
 ……色々あったよ、教えてやんないけど……。
「あんたが教えてくれたように、俺にとってもあんたは大切な仲間だ。……一人で苦しんでるのかよ。」
 そういえば、このガキが弁当を分けたのを見て、反射的に合格出したんだった。
 復讐を抱えながら根は仲間思いな……仲間……。
「……うん、俺はクズだから仲間を大切にしなかった、だから大切な人はみんな死んだ。」
 ガキの足が止まる。
「……昔の話だろ、それ。今は俺たちを大切にしてるじゃねえか。」
 顔を上げた。俺が? 仲間を?
「だからもう、クズじゃねえよ」
 クズ……じゃ、ない……?
 違う俺はクズだだって仲間は死んでる俺が大切にしなかったから! 父さんだって俺が味方になってれば死んでなかったかもしれないのに俺は周りに同調して父さんが悪いと言ってだから父さんは死んで仲間も死んで大切だった人は全員死んで
「俺が言うことじゃないけどあんた、今は立派に仲間思いで強くて優しくて俺に力もくれた、俺たちにとってはなくてはならない大切な存在だ。」
 嘘だそんなの嘘だ、俺は、クズだ、仲間を大切にしなかった、クズだ。
「もし昔何か間違ったことをしてたとしても、俺たちには正しい在り方を教えてくれてる、ちゃんと出来てる。だからそんな顔するなよ。」
 会話が……あれは、そういうことだったのか。あの本に繰り返し出てきた……でも自分を信じるなんて、俺には出来ない、自分なんて何も信用できない。
「俺たちはあんたを信じてるからついていく。」
 何でだろ、鼻水が出てくる。
 あれ、目頭が……熱い。
 俺は、クズ……クズ、だった? 今は、クズでは……ない……?
 ぎゅうと苦しかった胸の痛みが、ほろほろとほどけていく。比例するように、目から涙がこぼれ落ちる。
「3年後、俺を強くしてくれるんだろ。それまで通い詰めるからな。」
「……通わなくても、強くするよ……」
「いや、遅刻魔のあんたは信用ならないから、俺からいく。」、
 遅刻魔……そう、毎朝俺は……あれ、何してたんだっけ。
「信用されたり、されなかったりだね……」
「まあ、それがあんただし」
 ……この子を、強くしてあげなければ。俺を信じてくれているこの子を。他の二人も。
「ハンカチ、使うか」
 ……仲間想いってのは、そういうとこだよ。俺にはそういうこと、できない。だから……
「わかってなさそうだからもう一度言うが、あんたは俺たちの大切な仲間で先生だからな。あんま余計なこと考えるなよ。」 
 ……子供に説教されるなんて、思ってなかったな。
 でも何でか、その言葉を信じたくなる。
 もう一度やり直そうと思いたくなる。
「じゃあ、みっちりしごくけど根をあげないでね。」
「もちろん、かじりついてでもついていく」
 物語の人々の言葉が、ストンと入ってくるかのようだった。
 許されたわけじゃない、何が正しかったのかもわからない、けど少なくとも俺はこの子の前では、クズではなくちゃんと先生になれてるんだ。
 ありがとう、と口にしようと思って、唇を結んだ。俺がやるべきことはそうじゃない。
 これで、合ってるんだよな? なあ、オビト……。

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