繰り返さない

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2025年5月30日成人向,中編,原作軸,現代パロ,連載中,カカサス小説転生,エロ,お付き合いしてるふたり,シリアス

俺たちの約束

 カカシは俺の家までついてきた。もう少しちゃんと話がしたいと。前世……の記憶について聞きたいらしかった。
「その記憶の中の俺と今の俺は本当に俺なの?」
 側から聞くと意味がわからない問いだろうな、と思う。
「口元を隠してるのも、左目の傷も同じ。先生なのも同じ。同一人物にしか見えない。……けど性格は少し違う気がする。」
「記憶の中の俺はどんな奴だった?」
「……強かった。仲間思いで、ただ自分のことはあまり口にしなかった。今のあんたみたいに自分の気持ちとかも、そんなには言わなかった。言葉よりも態度とか行動で表現することが多かったと思う。」
 カカシはそれを聞いて、マスクで覆われた口元に更に手を被せる。
「あ、いや……。今日は伝えなきゃいけないと思って、話したけど、普段は俺もそういう感じだ。」
 ……カカシは、……カカシも、ナルトみたいに同じ、なんだ。記憶の中のカカシと。
「なんでサスケはその、離れて行ったの。」
「兄さんは、俺たちの父さんをはじめとした一族が、クーデターを起こそうとしていたのを止めるために、里からの命令で俺以外の一族を全員殺した。そしてひとり残された俺に生き延びて自分の元へ来いと言い残し、いなくなった。クーデターとか里の命令とか何も知らなかった俺は一族の復讐のために、兄さんを殺すために、その力を得るために里を抜けた。」
「現実の今、お兄さんは……?」
「自衛官になるための学校に通ってる。もちろん放火犯なんかじゃない。一族、って言うほど俺の家系は人数がいるわけでもないし、兄さんに関しては……俺のことを愛してくれている事以外、記憶とは全然違う道を歩んでる。」
 それを聞いて、カカシはほっとしたみたいだった。俺が復讐心を抱えているわけじゃないと知って安心したんだろうか。
「……でも、国のために……っていうところは、同じだね。」
「そうだな、俺もそんな兄さんの後を追いたいと思ってる。……尊敬してる。」
「それで自衛隊……。」
 納得したようだった。まだ中学生の俺が自衛隊に入りたいと言った理由がわかったんだろう。
「自衛隊になるための学校は全寮制だ。だから俺は記憶と同じようにあんたの目の前から消える。……記憶の中のあんたは、俺を追いかけては来なかった。ずっと俺を追い探し続けてくれたのはナルトと、……のちに結婚するサクラだけだった。その二人のおかげで俺はまた里に戻って、結婚して子どもも作って、ナルトの子の師匠になって……。けど今のあんたは、俺を諦めないと、追いかけてくれると、言ってくれた。記憶とは違う。実際にそうしてくれるかどうかは置いておいて、そう言ってくれたのは嬉しかった。」
「……言ったことには責任を持つ。実際にサスケが寮に入った後も俺はサスケと連絡を取り続けるし、会える時は会いに行く。……多分、こんなにも〝今度こそは〟と思うのは、前世の俺も本当はサスケを追いかけたかったからだと思う。きっと、何か事情があってそれが出来なかっただけだ。」
 事情……そうなのかもしれない。上忍であり、六代目火影にまでなったカカシは里から何か重要な任務を負っていて追いかけようにも立場上出来なかったのかもしれない。そうだったらいいのに、と思う。大蛇丸の元にいた際に、ナルトとサクラしかいなくて、カカシの姿がなかったことはずっと気がかりだったから。
 何か、事情が……あったんだと思いたい。あんなにも俺を愛してくれたカカシが俺のもとへ来なかった事情が。
 本当は今目の前にいるカカシのように、俺のことをずっと想い続けてくれていたのなら、少しは救われた気持ちになれる。
「俺はどんな事情があろうと、サスケに会いに行くしサスケを離さない。そのサクラ……っていう子にも負けないくらいに、サスケのことを大切にするしどこに行っても追いかける。……それが、前世で俺が果たせなかった、今の俺のやるべきことなんだと思う。」
 嬉しい、……嬉しいのに、まだ疑ってしまう自分がいる。どんな事情があろうと、って言っても今カカシは市立学校の教員で、来年には市内の別の学校に異動になるかもしれない。だから絶対、なんてことはあり得ない。離れてしまうのは俺じゃなくて、カカシの方かもしれないんだから。
 だから、このまま記憶と同じようにカカシと関係を築くことを躊躇していた。関係を築いた先に別れがあるのなら、最初から期待したくない。カカシの愛情を知りたくない。でも、今目の前にいるカカシはきっとそんなの許してくれない。今度こそ離さないと強く思っているのは、俺たちが関係を持つ前提での話だ。
「話すことは、大体話したと思う。あんたの考えも聞いた。その上で、俺はやっぱり、あんたとそういう関係になる事は……避けたいと思ってる。」
「っなんで!」
「運命には逆らえない、あんたが何を言ったところで大きな波には飲まれるしかない。だから……」
「サスケの兄さんは、前世と違ったんでしょ? 俺だって、前世の俺と一緒じゃない……!」
 カカシの言いたいことはわかる。よくわかる。けど俺はどうしても踏み切れなかった。同じ事を繰り返したくはないから。
 口ごもった俺を見て、カカシは立ち上がった。部屋の隅にある薬箱を開けて中を探って、そして俺の手を引いてベッドまで誘導する。
「カカシ、まさか」
「サスケにどう思われたって構わない、俺がサスケのことをどれだけ想っているのか今ここで証明してみせる。それで嫌われてもいい、俺はずっとサスケを追い続ける、何があろうと、ずっと……!」
 マスクを捨てて唇が重なる、その唇の中を舌が割り入って入ってくる。同時にベッドに横にされて服がはだけられていく。カカシの目は見たことがないような……執着、なんだろうか。怒りのような、悲しさのような、愛情のような、複雑な色を見せながらはだけた服を脱がして捨てていく。
 求めている、求められている、俺の意思なんて関係なく俺を追い続けると、今のカカシは俺のことしか考えていない。考えられていない。そのくらいカカシは俺のことを、離したく、ないんだ……。
 きすをしながら中心に触れた手が上下に扱き始めた。こんなにも求められている事に戸惑い、そして嬉しくも思い、今のこのカカシとの距離が懐かしくてまた胸から何かが溢れ出そうになる。
 中心を扱いていた手は離れて、ぬるりとしたものを纏って後ろの穴にゆっくりと入ってきていた。
 俺は、このまま、カカシに抱かれるのか。
 抵抗、しなくていいのか。
 ……だって、カカシとこうなることは何度も夢で見てきた。カカシに抱かれたいと思い続けてきた。それがどんな形であれ叶うのなら、今日一晩だけでもいい、カカシに抱かれたい。
 カカシの大きな背中に手を添えると、中をほぐす指が増える。快感なんて感じない、ただ異物が入ってきている感覚だけ。なのに俺は、カカシとこうなることを望んでいた。こんな関係になるのは避けたいと口で言いながら、気持ちはカカシと一緒にいたいばかりで、……記憶の中のカカシはこんな風に強引にしようとすることなんてなかった。そらは今目の前にいるのが記憶の中のカカシじゃない、今のカカシであって、そして記憶のカカシと今のカカシはやっぱり違うんだと認めざるを得なかった。
 仲が柔らかくなったのか、指が抜かれてカカシが気持ち短く息をしながらズボンをくつろげる。そして露出したそれに……さっき薬箱から出したんだろう、ワセリンを塗って俺に覆い被さるようにして、抱きしめられる。
「……痛かったらごめん、言って」
 後ろの穴に当たっている熱いもの、記憶の中で何度も繰り返したその行為。ぐっと圧がかかったかと思うと、ぬる、とゆっくり中に入ってくる。
 痛くはない、けど気持ちよくもない、ただ、カカシの大きいそれが俺の中に入ってきている感覚。その感覚を、こんなにも嬉しくて待ち望んでいたなんて。
 奥まで入ったのか、動きが止まってまた強く抱き締められる。
「サスケ、……好きなんだ、愛してる。今度こそ俺は、サスケをこの手から離さないと決めたんだ、俺のもとにいてくれ。……サスケ、お願いだから俺のそばにいてくれ。」
 震えている声、泣いてるのか……?
 俺、カカシを泣かせたのか……?
 俺はまた、カカシに酷いことをしてしまってるのか……?
 ゆっくりと動き始めて、やっぱり異物が出入りしている感覚しかない。けれどカカシの荒い息、熱い体温を感じながらそうされて俺は、カカシに対する愛おしさが胸から溢れ出て、背中にまわした手に力を込めた
 ごめん、ごめん、カカシ。
 せっかくまた会えたのに、酷いこと言ってごめん。
 離さないと言ってくれたのに、疑ってごめん。
 俺もあんたのことが大切だから、あんたを悲しませたくないから、だからあんたの言葉、信じてもいいか。俺を離さないでいてくれるのか。別れなんて来ないのか。もし本当にそうなんだったら、俺もあんたのこと、もう一度愛するから。そばにいるから。だから泣かないでくれ。俺、今度はあんたと一緒に、幸せな未来を……。
 荒く吐く息と、結合部のぬち、ぬち、という音だけが部屋に響いていた。
 カカシの呼吸が時々乱れる。そして少しして鼻を啜る。やっぱり、泣いてる。泣かせたのは、俺だ。
「……ごめん、泣かせて」
「こんなことしてる俺に、謝らないで」
「カカシ、ごめん、俺も、あんたのこと」
 抱きしめる腕の力がひときわ強くなる。中で感じる鼓動。
「あんたのこと、愛してるから、そばにいるから、泣かないでくれ。」
「……っ、サスケ、愛してる……」
 俺たちはそのまましばらく抱きしめ合っていた。
 繋がったまま、一番近い場所でお互いを感じていたかった。
 ああ、好きだ。カカシが好きだ。
 この先に別れが待っていたとしても、カカシと一緒に生きていきたい。カカシのそばにいたい。
 未来がどうなるかなんてわからない。けど短くてもいい、カカシと一緒に過ごす時間を少しでも増やしたい。カカシと愛し合いたい。
 カカシが、好きだ。この運命の波には、逆らえない。
 
 服を整えて、ベッドに隣り合って座る。
 強引にしてしまったことを後悔していた。そんなことをしても、サスケのこころが手に入るわけじゃないのに。サスケが俺を拒絶した事に、頭が熱くなってしまった。この先はサスケと一緒にいられると信じて疑っていなかったから、どうにかしてサスケを自分のものにしたかった。
 そんな俺をサスケは、受け入れてくれた。一緒にいたいと言ってくれた。苦しいだけだったであろうセックスにも何も言わずに、今目の前にいる俺を信じると言ってくれた。
 今度こそ、絶対に離さない。どこかに行っても追いかける。たとえそこが地獄の底であろうと、俺はサスケのそばに居続ける。そうこころに決めたんだ。この誓いは、絶対に、何があっても破ったりはしない。
「……なぁ、もう一度言ってくれないか。」
「何度でも、言うよ。絶対に離さない。」
「……信じるからな、それ。」
「どんな運命が待っていようが、必ず守る。」
「今度こそ……離さないでくれ、ちゃんと追いかけてきてくれ。……信じるから。」
 
 あのとき、カカシがいなかったことがショックだった。あんなにも愛し合っていたのにそこにカカシがいなかったことが。
 ……だから絶対に、今度こそ、追いかけてきて抱きしめてくれ。今のあんたならそうしてくれると、信じるから裏切らないでくれ。
 
 しばらく手を繋いで隣り合って座ったまま、俺たちは黙り込んだ。
 握る手の強さが、その誓いの証だと信じて、今こうして隣り合っている事を噛み締めながら、きっと同じような事を考えているんだろう。
 今度こそは、と。
 
 夕食を食べていない事に気がついて、スーパーに行かないと、と思ったら、カカシが今日はもう遅いからコンビニに行こうと言い出した。
 そんな贅沢出来るほど仕送りはないと言ったら、今日は奢るからと、結局近所のコンビニまで一緒に歩いて行った。
 おにぎりを手に取った俺のその手を陳列棚に戻して、成長期なんだから、とトンカツ弁当を勝手にカゴの中に入れて。自分はカップ麺を手に取ってレジに向かった。
 あんなによく喋っていたのに、カカシは言葉少なに、態度と行動でその優しさを見せる。そして記憶の中のカカシと同じように笑う。
 ああ、カカシだ。
 そう思いながら、でも記憶のカカシとは違うと言い聞かせながら、また家まで一緒に戻って、買ってきた夕食を一緒に食べた。
 
 俺たち、今、幸せだよね?
 これから、幸せになるんだろ。
 
 そんなことだけ言い合って。
 寝る時間になる前に、カカシは自分の家に帰って行った。
 この穏やかな幸せが、ずっと、ずっと続きますように。
 そう願いながら、俺は布団に入った。