繰り返さない

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2025年5月30日成人向,中編,原作軸,現代パロ,連載中,カカサス小説転生,エロ,お付き合いしてるふたり,シリアス

大切なもの

 俺は柔道部から陸上部に籍を移した。カカシを避ける必要がなくなったのと、やっぱり競う相手……ナルトがいる陸上部の方が楽しいだろうと思って。
 短距離のタイムを見たカカシは、これなら県大会より先にも行けるねと笑う。
 小学校と違って大会があるのか、と思うとモチベーションも上がった。
 そしてもうひとり、他の部活から陸上部にマネージャーとして移ってきた生徒がいた。印象的なピンク色の髪、サクラだった。
 カカシの元に、かつての第七班が揃った。他にも一年生はいたけど、やっぱり俺たち三人はカカシに師事する事になるんだなと思った。
 
 学校が終わると、カカシは必ず俺の家まで来て一緒に過ごした。ただ一緒に過ごすだけの日もあれば、キスやセックスをする日もあって、ただセックスとは言っても記憶の中のそれとは違った。多分カカシは勉強しているんだろう。どうすると気持ちいいのか、一緒に探りながらする、という感じで、共同作業みたいなセックスだ。
 記憶のカカシは最初からそれがわかってたという事は、経験があった、という事なんだなと思うとその相手が誰だったのか少し気になった。記憶の中にしかいないカカシに対してそんな事を考えたところで意味なんてないんだけど。
 でも、今一緒に探り合いながらしているセックスも、カカシの愛情が伝わってきて、気持ちいいセックスまではまだ遠そうだけど、そうして身体を重ねる時間は好きだった。
 
 陸上部にいる俺に一目惚れしてマネージャーとして入部したと言うサクラの存在は、記憶の中で結婚した相手だと伝えてあったせいか、カカシの胸中は複雑なようだった。
 記憶の中の俺のようにサクラに「うざい」なんて言葉をかける事はせず、サクラからの告白にも「他にもっと大切な人がいる」と断った。けどサクラが諦める風はなかった。それが、カカシには気にかかるらしい。
 大丈夫だ、今サクラに対して何も思うところはないと伝えても、隙あらば俺に近寄るサクラを見るのは嫌なんだろう。
 先生である間も、カカシは本当はもっと俺と一緒にいたい、触れていたい、すぐ隣にいたい、でもそこにはすでにサクラがいる。そして先生である立場上、サクラと同じようにすることも出来ないジレンマを感じているらしい。
 記憶の中のカカシもそうだったんだろうか。カカシは言葉にすることも、態度に表すこともなかったけど。
 
 勉強、部活、そしてカカシとの生活。任務こそないけど、俺たちは記憶に沿うように同じように過ごした。それは穏やかで、幸せで、少なくとも3年間はこの生活が続くと思うと嬉しかった。
 あっという間に一学期が終わって夏休みに入り、俺とカカシはずっと俺の家で一緒に過ごした。その頃にはセックスもだいぶ慣れて、カカシはどうすると気持ちいいのかわかったみたいだった。俺が声を出すのがよっぽど嬉しいのか、毎日のようにセックスばかりしていた。
 お盆に兄さんが帰ってくるまでは。
 
 兄さんは、先輩にあたる人だと大柄な男性を俺に紹介した。干柿さんという名前で、少し変わった風貌の人だった。
 この人、見たことがある。記憶の中で、俺が里を抜けるきっかけになった出来事の際に兄さんと一緒にいた人だ。
 今こうして紹介される、ということは兄さんも記憶の縛りの中から完全に脱している訳ではなさそうだった。
 そして、少し言いにくそうにしながら、兄さんは言った。
「この人と、俺は今お付き合いをしている。だからせっかく帰ってきたけど、一週間のうちの3日はこの人と一緒に過ごしたいと思う。」
 少し驚いて、そして俺たちはやっぱり兄弟だなと思う。自分も言うべきか悩んで、先生と生徒、である事を考えて、今はカカシのことは黙っておく事にした。
 兄さんは家にいる間、学校がどんな感じなのか、寮生活がどうなのか、色んなことを話してくれて、国を護るために何が求められていて、どうあるのが正しいのか勉強しているのだと教えてくれた。
 国を護るための組織、だけど実態は軍隊だからそれなりに厳しい。上下関係もある。そして人を殺す道具である銃の扱い方も学ぶ。
 それを聞いて、記憶の中の忍と似ているんだなと感じた。国のために、俺のために一生を捧げた記憶の中の兄さんと重なって不安になる。いつか兄さんが国のために同じことをしてしまわないかと。
 それが顔に出てしまっていたらしい。兄さんは困ったように笑いながら、俺の頭をくしゃっと撫でる。
「心配するな、鬼鮫……干柿さんもいるし、かけがえのない友もできた。俺は大丈夫だ。……サスケも、同じ道を選ぶんだろ? そのときは先輩としてしっかり鍛えてやるから、覚悟しておけよ。」
「兄さんも、……無理はしないでくれ。ひとりで抱え込んだりとか、しないように。」
「ああ、わかったよ。」
 久しぶりにふたりでとった食事。兄さんの二の腕が少し太くなったように見えた。厳しい訓練を受けている証だろう。
 ひとりで抱え込んだから失敗したと聞かされた、記憶の中でナルトは兄さんからそんな話をされたと言っていた。
 俺もあとを追うから、同じ道を行くから、だから今度はひとりで抱え込まずに俺も一緒に考えたい。何かを起こす前に。
 俺に心配させまいとする兄さんの言葉に、どうしても不安が募る。でも……友がいて、干柿さんもいるのなら、兄さんは今はひとりじゃない。そう思いたい。
 話題が変わって、俺の話になった。部活、勉強、先生、そしてナルトとサクラのことを話して、もうすぐ行われる地区大会に出ること、一位を取るつもりで頑張っていることを話した。
 剣道で全国まで行った兄さんのように、俺も陸上で全国を目指すと。
 それを聞いた兄さんは嬉しそうだった。
「離れていても、俺は応援しているからな、サスケ。精一杯頑張れ。」
 兄さんからそう言われると、素直に嬉しい。
 そして俺も、兄さんが……男だけど、いいパートナーと巡り会えた事が自分のことのように嬉しい。
「ところであの、干柿さん、って、どこに住んでる人なんだ?」
「詳しくは聞いてない、だが海辺で育ったとは聞いた。冬は雪かきが大変だとも。多分、東北の海沿いじゃないかと思っている。」
「ずいぶん……遠いんだな。」
「そうだな、少し距離がある。せっかくの休日なのに悪いが……」
「俺のことは気にせず、ふたりの時間を大事にしてくれ。寮に戻ったら、キスも出来ないんだろ?」
「……サスケ、お前」
「兄さんが俺に言ったんだ、前を向けって。兄さんにとっての前はどっちなんだ。弟か、恋人か。」
「……少し見ないうちに、ずいぶんませたことを言うようになったな。」
「……中学生だぜ、もう。いつまでも子ども扱いしてたら追い抜いてやる。」
 実際、もうセックスまでしてる。大切な人との時間の尊さも知ってる。俺は兄さんの足を引っ張りたくない。俺だって、兄さんのことは応援したいんだ。
「参ったな、……ありがとう、サスケ。」
「東北のどこかは知らないけど、思いっきりいちゃついて来いよ。兄さんの幸せは俺の幸せでもあるんだからさ。」
 兄さんは、記憶の死に際に見せたのと同じ笑顔を浮かべた。俺を愛おしむあの笑顔を。
「そう言ってくれるのなら、明日の朝にでも出発するよ。予定よりも早いが……。」
「俺は構わない、行ってくれ。待ってるんだろ、干柿さんが。」
「……まだ中学生になったばかり、と思っていたが、もう中学生、なんだな。お前のその成長が俺は嬉しい。次会うときにはもっと成長してると思うと楽しみだ。」
「ああ、……次会うときはもっと……兄さんの期待を上回ってやるから。」
「けど、今日だけはこの家で過ごさせてくれ。サスケとも共に過ごしたい。お前は俺の大切な弟だからな。」
 兄さんとの話は尽きる事がなかった。家を空けていた分を取り戻すように、色んなことを話した。
 俺の大切な、大切な存在。……絶対に記憶と同じことは繰り返さない。何があっても、絶対に。あの悲劇が繰り返されるくらいなら、俺は兄さんと一緒に……。
 
 記憶を繰り返したくない、その思いが強すぎて、俺は記憶に縛られ続けていた。その事に気がつけないまま、今このとき何が一番大切なのかを考えるということをしてこなかった。
 兄さんとたくさん話をして、それに気がつく事ができたような気がする。目の前の人を信じるということを、兄さんは教えてくれたような気がする。俺もそうあることができたら、記憶に残っているような別れも、悲劇も、訪れないのだろうか。
 兄さんに次に会えるとしたら、学祭があるという秋。兄さんの学校に俺が足を運ぶ。そのときは、カカシと一緒に行きたい。俺にも大切な人がいるって、そのときには言えるようになりたい。兄さんには、俺の本当のことを伝えたいから。
 俺も兄さんと同じ気持ちだ。兄さんとの時間も大切にしたい。けどもう兄さんから守られるばかりの弟じゃないって伝えたかった。
 
 翌朝、早い時間に兄さんは大きな荷物と共に家を出て行った。
「またな、サスケ」
 その一言だけで、俺には何もかもが伝わった。
 干柿鬼鮫、兄さんをちゃんと幸せにしろよ。悲しませるようなことは、つらい思いをさせるようなことはするなよ。そのときは、俺が許さない。
 兄さんを、頼む……ひとりに、しないでくれ。繰り返さないでくれ。
 
 新幹線に乗ったよ、というメッセージを最後に、兄さんからの連絡はなくなった。きっとその隣にはあの人がいる。信じてる、兄さんを大切にしてくれる人だと。兄さんが選んだ人なんだから、俺も信じる。
 コン、コン、と玄関から音がした。このノックの仕方はカカシだ。鍵を開けたら、玄関の中に入って最初に俺を抱きしめた。
「……たったの一日、だと思ってたけどだめだね、俺。サスケに会いたくて仕方がなかった。」
「中に入れよ、一日分抱きしめてやるから。」
「うん……サスケ、大好きだよ。」
「俺もだ、だから早く靴脱げって。」
 腕が離れていって、カカシは靴を脱いで部屋の中に入ってきた。今すぐにでも抱きたいという顔をしながら、「朝ごはん食べた?」なんて言うものだから笑ってしまった。
「あんたがしたいのは、そうじゃないだろ。」
 カカシの手を引いてベッドまで行くとまた抱きしめられてキスをする。俺もカカシの背中に手を回して、ぽん、ぽん、と背中を撫でた。
「……なに、俺もしかして、慰められてる?」
「さぁな。」
 記憶をなぞっているようでいて、俺も兄さんのように少し違っていた。記憶の中ではずっと受け身だったけど、今は違う。目の前にいるこの人が好きだ。カカシとの時間を大切に過ごしたい。カカシが言ってくれた言葉を、カカシを信じてるから。
 キスをしながら股間に触れてみたら、もう硬くなりかけていた。その手首をそっと握られて俺はベッドに縫い付けられる。
 唇が離れて、俺たちは服を脱いだ。カカシの体温を直に感じられるのが好きだった。下を脱いだら、俺のも少し勃っていてふたりでふ、と笑う。
 ベッドの下に隠してあったローションを取り出したカカシはお互いのそこにつけて、また抱きしめ合いながら擦り付け合うとどんどん芯を持っていった。
 抱きしめていた上半身が離れて手にローションを垂らしたカカシが後ろの穴にその指を挿れる。
「……っあ、ん、……っぁ」
 すっかり慣れた手つきで、でも優しく、中を撫でながら、挿れる準備をするカカシ。毎日のようにしているから、そんなに慣らさなくてもすぐにでも挿れられるくらいに柔らかくなっているのに。
「サスケ、気持ちいい?」
「っん、ぅ、気持ちい、い……っ」
 はやく、挿れて欲しいのに、カカシはその愛撫を続ける。そこも気持ちいい、んだけど、はやくカカシのが欲しい。
「カカシ、っもう、挿れて……っ」
「……挿れるだけがセックスじゃないんだよ、もっと全身を愛したい。……でもそんな事言われたら、挿れたくなっちゃう。」
「いいから、早く……」
 カカシは指を抜いて、ゴムをつけてローションを垂らした。手で馴染ませて指が入っていたところにあてがう。
 ゆっくりと入ってくるカカシのそれ。こころが満ちていく。胸がいっぱいになっていく。
「カカシ、カカシ好き、だ……っ」
「うん、俺も」
 繋がりながら抱きしめ合うのが好きだった。カカシは全身を愛したいといつも言うけど、俺はこの瞬間が一番好きだ。
「離さないで、ずっとこのまま、カカシ……」
「言われなくたって離さない、サスケ、愛してる。」
 またキスをしながら奥まで入っているカカシの感覚を脳に刻み込みながら、夏休みなんて終わらなければいいのにと思った。
 ずっとこのまま、一番近い所でカカシを感じ続けたい。
 抱きしめる腕に、力を込めた。