繰り返さない

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2025年5月30日成人向,中編,原作軸,現代パロ,連載中,カカサス小説転生,エロ,お付き合いしてるふたり,シリアス

脅威

「その話が本当なら、兄さんにも記憶があるってことか? 記憶を持つ条件は? 大蛇丸にも記憶が……」
「いや、大蛇丸には記憶はない。記憶があると確認できているのは今のところ、イタチ、シスイ、俺、そして君だ、サスケ君。」
「全員、うちはの……」
「うちは一族全員に記憶があるわけじゃない。推測だが、万華鏡写輪眼の開眼者……だと俺は考えている。」
「……マダラの計画はオビト、あんたが手引きしていた。でも、こっち側と言ったな。大戦を防ぎたい、で合ってるか。」
「俺も死に際になってカカシやナルト君に気付かされた、自分のしてきたことは間違っていたと。だから今はあんな計画に与する気はない。むしろ逆だ。」
「薬師カブトは今どうしてる。あいつがマダラを穢土転生させたはずだ。」
「カブトも同じだ、今はこの施設で医師兼児童福祉士として孤児の世話をしている。」
 ……そうだった、カブトは兄さんの術で心を入れ替えて……ナルトが火影になったあと、孤児施設の院長としてその生を全うしていた。
「であれば、マダラは所詮昔の人間だ、生き返るわけもない。実行者がいないなら大戦も起きないはずだ。」
 それを聞いたオビトは持っていたクリアファイルの中から一枚の紙を出した。その紙にはどこかの町の人事が書かれている。その町長の名前が、うちはマダラ……だった。
「なんで……今の世界にマダラが……」
「わからない。だが、マダラが存在するからには……大戦も起きる可能性はある。推測が正しければマダラにも記憶はあるだろう。」
 マダラがいるのなら……千手柱間は? インドラの転生者に対するアシュラの転生者である柱間もまた、この世に存在するかもしれない。
「千手柱間はいないのか」
 オビトは首を横に振った。
「千手柱間という人物は地方の都市の市長だった。……50年前の話だ。現代では、今のところその存在は確認できていない。」
「……子孫はいるのか。」
「ひとりだけいる。千手綱手という、今は医科大学で教授をしている人物だ。……以前の五代目火影ではあるが、大戦では五影が集まってマダラに挑んでいた。その他の影は海外にいるため、現状コンタクトを取るのが難しい。俺は、記憶のある、そしてうちはである俺たちが何とかするべきだと思っている。」
 数年後……俺はまだ多分学生だ。そんな俺に何ができるんだ? 写輪眼も輪廻眼もない。ただの子どもだ。自衛隊に行った兄さんなら……待てよ、兄さんが夏休みに一緒に過ごしていた干柿鬼鮫は確か暁の……。
 暁といえば、尾獣を集めて計画を推し進めていた実行部隊だ。
「暁は、今もあるのか?」
「ある。……ただ、暁が計画に加わったのはマダラを名乗っていた俺がリーダーであるペインに持ちかけたのがきっかけだ。それまでの暁はただの傭兵集団だった。今、自衛隊の中に〝暁〟……同じ名前の特殊部隊が存在する。恐らく、それが現代の暁だ。イタチもその中に入るだろう。」
 ということは、警戒すべきなのはマダラひとりだけ。とはいえ、あのマダラだ。ひとりだからといって、安心できる相手じゃない。
「マダラを止めるにあたって、サスケ君、君の存在は重要だ。イタチも、シスイも、そして俺もマダラを倒す前に死んでいる。計画がどのように阻止されたのか、マダラをどう倒したのか、君しかわかる人間がいない。そしてだからこそ、君はマダラから狙われる可能性がある。」
 カカシが控えめに手を上げる。
「その、マダラ、ってのは、そんなにやばい奴なの?」
 オビトはカカシに目を向けた。
「一人で国をひとつ滅ぼすことさえ容易な奴だ。油断できる相手じゃない。」
 ナルトがいたから、なんとか戦えた。でもそのナルトは、俺と同じ運動神経がいいだけのただの子どもだ。九尾が中にいるわけでもないし、仙人の力も六道の力もない。
 マダラの計画をどうにか出来たのはナルトの存在が大きかったし、サクラも力になってくれていた。でも、記憶がないふたりをこの戦いに巻き込むわけにもいかない。……いや、記憶をなぞるのであれば何らかの形で関わる事になる可能性は高い。けど、今こんな荒唐無稽な話をしたところで信じてくれる保証はない。
 オビトの言うように、記憶を持つ俺たちが何とかするしか。事前に大戦を起こさないようにする、一番手っ取り早い手段は暗殺……あのマダラ相手にそんな事ができる気がしない。
 オビトはクリアファイルからもう一枚紙を出す。
 ネットの記事をプリントアウトしたもののようだった。
「50年前のうちはマダラが遺していた研究だ。夢について研究していたようだ。今、大蛇丸にはその研究について研究させている。あの宗教団体が大きくなったのは、その成果だ。テロ事件の被害者も、眠るという被害を受けた事に対するインタビューにこう答えている。〝幸せな夢を見ていたのに辛いばかりの現実に戻ってきた事に絶望している。あのまま目覚めたくはなかった〟。……そのインタビューは放送される事はなかった。が、大蛇丸がそこまでの成果を出しているということは、マダラはもっと上を行っているかもしれない。」
「……なんであんたはそんなに色んなことを知ってるんだ。放送されなかったインタビューまで……。」
「大蛇丸だよ、奴の情報収集力と頭脳は馬鹿に出来ない。かつての手下も集めて色んなところに潜入させている。白ゼツ程ではないが、伝説の三忍の一人なだけのことはある。重要な情報は俺に流す事になっている。自衛隊にいるシスイやイタチはなかなか自由には動けないからな。」
 シスイ、って人はよく知らないけど、その人も自衛隊に……兄さんが言っていた友、ってもしかしてその人なんだろうか。
 大蛇丸が研究と情報収集、オビトがそれを集約していて兄さんとシスイは自衛隊、そして兄さんは暁に配属される事になる。あのとき唯一生きていたのは確かだけど、今はただの中学生にすぎない俺には何も役に立てることはない。六道仙人が現れるわけがないし、俺は何をすればいいんだ。
「サスケ君、記憶のうちはマダラの最期を教えて欲しい。」
「……無限月読を発動させた後……仲間、黒ゼツにやられた。だから俺たちがマダラを倒したわけじゃない。」
「……無限月読は、防げなかったか……。だが、仲間に裏切られた……んだな?」
 オビトは少し考える風を見せた。
 カカシは話についていけない顔をしている。
 俺も聞かれた事に答えることしかできない。
「マダラの配下に誰かを潜入させるか……うちはでない、マダラが油断するような人間。あの大戦の場にいなかった奴が好ましいな……。」
「うちはじゃだめなのか? 例えば……マダラの弟、イズナだったか。マダラは俺とイズナが似ているからすぐには殺さなかった。イズナにそっくりな人がいれば、その人をイズナと偽って懐に紛れ込ませる事ができるかもしれない。」
「弟、か……それは検討しても良さそうだ。シスイに伝えておく。サスケに似ているうちはの人間が自衛隊にいないか。」
 うちはは愛情深い一族だと、初代火影は確か言っていた。肉親の生まれ変わりのような存在がいれば、油断するかもしれない。
 自衛隊に、本当にうちはの同胞が沢山いるのであれば見つかる可能性もゼロじゃない。
「……そろそろ時間だ、一応見学の体で来ているから施設の中を案内してから帰す。」
「ナルトも……ここで育ったんですよね。」
「その頃はまだ俺はいなかったからよく知らないが、いたらしいな。」
「そう……か。」
「その頃は俺も自衛隊にいた。今も一応予備自衛官だが。」
「じゃあ、記憶がある人間は全員……」
 それなら、やっぱり俺も自衛隊を目指さなければ。そうでなくとも、有事の際に動くのは自衛隊だ。ただの学生のままじゃ、何もできない。俺も、防衛大学に入れば学生の身であろうと何か役立てるかもしれない。
「何か知らせる際にはカカシを通して伝える。普通の電波に乗せるのは傍受の可能性があって危険だからな、暗号文書を使う。カカシ、そのつもりで頼む。」
「……まだよくわかってないけど、俺にもできる事があるなら協力するよ。」
 施設の中を一通り案内された後、俺たちは孤児施設から出た。
 カカシがふぅ、と息を吐く。
「……何だか大事になっちゃったねえ。」
「……それだけの事が、あったからな。」
「サスケとずっと一緒にいたい、それだけで良かったんだけどそうもいかないみたいだね。」
「……俺だって、あと数年は猶予があるわけだし、その間はカカシとの時間を大事にしたい。……とはいえ、マダラは放置していい奴じゃない……。」
「でも現実、サスケはまだ中学生なんだから今出来ることはあんまりないんじゃない? オビトからの連絡を待つくらいしか、さ。」
 カカシの言う通り、ただの中学生である今の俺には何もできない。出来ないのに、記憶の中ではマダラに対抗した俺が、マダラから狙われる可能性がある、なんて言われてもどうしたら良いのかわからない。
 オビトも大蛇丸もカブトも、記憶の通りにはなっていない。オビトが干渉したから、かもしれないけど、それならマダラだって死に際は柱間と何か話していた。マダラはそれでもまた同じ事を繰り返すのだろうか?
 あるいは、マダラが関与しない形で大戦が起きる可能性だってある。クーデターは起きなかったのに父さんと母さんが死ぬという運命を変えられなかったように。
 柱間は俺がイズナに似ていると言った。それなら、俺自身がマダラの元に行くのが一番手っ取り早いんじゃないのか。マダラが持っていた万華鏡写輪眼、あれはきっと元々は誰か別の人のもの。でないとマダラは視力を失っているはずだ。それがもし、イズナのものであるのならマダラにとってイズナの存在は大きいに違いない。
 あの町の名前、どこなのか調べてみよう。小遣いで行ける範囲だったら、マダラに直接会って確かめたい。今もあの計画のような事を考えているのか、記憶とは違う道を歩んでいるのか。
「……サスケ、なんか変なこと考えてるでしょ。」
 カカシが俺の顔を覗き込んでいた。……カカシには嘘はつけない。
「マダラにも記憶があるのなら、もしかしたら死の間際に自分のした事が間違っていたと認めていたかもしれない。味方なのか、敵なのかはっきりと見極めたいと思ってる。」
「……本気?」
「よくわからない相手に命を狙われてるかもしれないと思いながら生活するより、実際に会って話をした方がいい。俺はそう思う。」
 どこかの町で町長をしているのなら、大戦まで身を潜めていたマダラとはすでに違う。その可能性に賭けたい。もし考えを改めているのなら、これ以上心強い味方もいない。
 カカシは俺の意思が固いことがわかったのか、頭を抱えてため息をついた。
「それならせめて、俺も一緒に行く。マダラがいる町は群馬県だ、電車だとちょっとかかるでしょ。車出すよ。」
「来週、平日に学校を休んで行く。きっと公務中だ、下手なことはしてこない。だから大丈夫だと思う。」
「もし、記憶の中と変わらなかったらどうするつもり?」
「……話し合う。イズナとして会いに行って説得する。」
「サスケお前……頭良いのか悪いのかわかんないとこあるよね。話聞いた限りマダラは元々大昔の人なわけだろ? イズナもその時代に死んでるはずだ。そのイズナが現れるのもおかしいし、イズナが知るはずのない大戦の話まで切り出すのもおかしい。やっぱり心配だから一緒に行く、俺も休み取るから。」
 カカシの言う通りだ、そうか、イズナ自身はこの時代には現れない。マダラはイズナに似ている俺に考える猶予としてすぐに殺さないという恩義をかけたんだ。
 それなら、うちはサスケとして会いに行けばいい。向こうが勝手に俺にイズナの面影を見てくれる。
「なら、水曜日に。」
「ん、了解。俺も適当に言い訳して休む。朝8時に出よう。」
 マダラの最期……黒ゼツに裏切られ倒れた傍に座った初代火影柱間。その顔は柔らかかった。まるで友に話しかけるように。その声がマダラにちゃんと届いていたなら……。
 水曜日、朝8時にアパートの前に車が止まった。シルバーの軽自動車。運転席の扉が開いて、銀髪が中から現れる。
「時間通りだな。」
「え……俺遅刻した事あったっけ?」
「記憶の中では、……酷い遅刻魔だったぜ。」
「俺が? ……今はそんな事ないんだけどなぁ……。」
 オビトが死んだと思っていて、毎日朝あの石碑の前に立っていたのは知っている。オビトが元気に生きているから、今はもう遅刻はしないだろう。
 助手席に乗ってシートベルトを着けると、走り出した車は北西へ向かっていった。