火影の特別任務

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全年齢,超短編,原作軸,カカサス小説お付き合いしてるふたり,ほのぼの,平和IF

 師走の最中、サスケは一人火影の執務室に呼び出されていた。
 二人きりの室内で、火影はいつになく真剣な面持ちでサスケを見つめており、いやでも緊張する。一体、何の話だろう。全く見当がつかない。
 そう思っていたところに、火影が口を開いた。
「サスケ、お主に特別任務を与える。これは元々うちは一族が担ってきた毎年恒例の任務じゃが、あの事件以降は暗部にやらせていた。お主が一人前のうちは一族の忍となったからには、今年からはお主に担ってもらう。……よいか、これは火影とうちは一族しか知らぬ里の極秘事項じゃ。決して誰にも悟られぬように動け。」
 サスケはごくりと唾を飲み込む。
「わかりました。それで、任務の内容は?」

 24日、深夜。
 赤い服に身を包んだサスケが家から家へと渡り歩く。
 その特別任務の内容はこうだ。
 あらかじめアカデミー卒業前までの子どもたちに欲しいものを手紙に書かせてある。
 それを見てプレゼントを用意し、12月24日の深夜から25日の明け方にかけて子どもたちの部屋に誰にも悟られぬように潜入し、その枕元にプレゼントを置いて、窓の鍵を開けた状態で立ち去る。
 万が一誰かに目撃された場合は写輪眼で眠らせる。
 時々プレゼントに対するお礼として手紙やお菓子などの用意をする子どももいるが、そういう場合は手紙は回収、お菓子は一口だけ食べてその場を去ること。
 つまり気取られてはいけないが確かに誰かが来たという痕跡は残すということだ。

 サスケは火影から伝授された窓の鍵を開ける術を使って静かに室内に入り、素早くプレゼントを置いて次の子どもの家に向かう。
 この日のためにプレゼントは火影の執務室のある建物内の倉庫に少しずつ買い集め、そして子どもの家とプレゼントの内容を地図に書き込んで効率よく回る道筋を練り、それを暗記した。
 火影は宅配で荷物が届く度に送り主の名前のどこかに「S.U.」のサインがあれば倉庫にそれを移した。それを目撃した者には「この時期は中元が多くてな」と誤魔化すのが毎年恒例のやりとりだ。
 一度にすべては持ち切れないためサスケは、配り終えては倉庫に赴き白い袋にプレゼントを詰め込んで、すぐにまた次の配布に向かう。
 時計を確認して、この調子でいけば3時頃に終えれそうだと目星をつけたのがちょうど0時を回ったころだった。今のところ誰にも目撃はされていない。この服を着て配れと言われて渡された真っ赤な服はあまりに目立つが、粉雪舞う天気もあってか路上にも人影はほとんどいなかった。
 木の葉丸が書いた「めっちゃかっこいいでかい手裏剣」はうちは一族ご用達の忍具店で特別に作ってもらった。代金はもちろん経費だ。実用性も兼ねそろえた「めっちゃかっこいいでかい手裏剣」を枕元に置くと、窓辺のテーブルにクッキーとココアが置いてあるのに気がつき、どちらも甘いが任務だから仕方がないと思いながら一口ずつ口にしてそっと窓の外に出る。
 
 この特別任務は里が出来たばかりの頃からあったらしい。
 ただ子どもだけが対象ではなく当時は不遇な経歴を持つ忍もまた対象に入っており、特別な写輪眼を持つ者だけが使える幻術で幸せな夢を見させることもその任務の内に含まれていた。
 しかしその特別な写輪眼を持つ者がいなくなり継続が不可能となってしまったようだ。
 意図した夢を見せることが出来る写輪眼とはどんなものなのだろうか。当然気になったが火影は多くは語らなかった。
 遠い祖先がその眼を使って不遇な者にひとときの幸せを見せてやっていたのを想像するだけでこころが温まる。そんな眼をいつか持ってみたいものだと思いながらも、かつては一族を上げて行ってきたこの任務をサスケ一人が担うのはやはり負担が大きかった。子どもたちの家を回るだけで手いっぱいでとてもそれ以上のことは出来る気がしない。
 最大限に効率化を図ったが全て配り終えることが出来たのは3時半だった。
 
 やっと終わった……。
 肩で息をしながら最後の家の屋根の上でしばしの休憩を取る。
 不遇な者、か……。
 真っ先に浮かんだのはいつかサスケに「大切な人はもう皆死んでる」と言ったカカシだった。
 息を整えるとサスケは立ち上がってカカシのマンションに向かう。
 その広いベランダに気配を消して降り立つが、当然だがカーテンで室内の様子は伺えない。
 火影直伝の窓の鍵を開ける忍術でそっとその窓を少しだけ開けて中に入ると、口布をしたまま寝ているカカシがそこにいた。
 ベッドのヘッドボードには第七班の4人が揃った写真の隣に、若かりし頃のカカシとその仲間と思われる写真が置いてある。
 ……この人たちを全員失っている、ということだろう。
 この人たちが生きていて、全員年を取って大人になって、4人で鍋を囲んだりする夢を何とか見せてやれないだろうか。サスケは写輪眼をその眼に光らせ幻術を使おうとカカシの瞼に指を近づけるが、触れるまでもなくその両眼が開いた。
「っ!」
 この任務は決して誰にも悟られてはいけない。早く眠らせなければ、と思うがカカシもその写輪眼を開いている。そのカカシ相手に幻術勝負をするのはどう考えても分が悪い。
 サスケは最終手段として持っていた催眠弾を握り締めるが、それを使う寸前でカカシが口を開いた。
「ストップ。大丈夫だ、俺も暗部だったからそれをやった経験がある。火影の特別極秘任務でしょ?」
 ゆっくりと起き上がったカカシはサスケにニコッといつもの笑顔で言う。
「懐かしいな……その恥ずかしい服。そっか、サスケも下忍になったから、うちは一族としてそれを担うことになったんだね。」
「あんたも……やったことがあるのか。」
「ああ、俺のときは暗部三人で分担して回ったよ。サスケは一人で?」
 こくりと頷くと、頭の上に大きな手が載せられる。
「大変だったろ、お疲れ様。……で、なんでうちに来たの?それも写輪眼で。」
 サスケは本当のことを言うべきか悩んだ。その視線が左に揺れる。
「俺に幻術をかけようとしてたよね?なんでそんなことを?」
 ……そこまでバレてるなら、仕方がない。
「元々は……不遇な者に幸せな夢を見せてやるのもその極秘任務の内に含まれていた、と聞いた。それであんたのことを思い出したんだ。」
 カカシは少し驚いたように目を開く。
「……俺が不遇だって、サスケは思ってるの?」
「前、言ってたじゃねえか。大切な人は全員死んでるって。だから……。」
「大戦や九尾の襲来を経験した忍なら……俺みたいな奴はそんなに珍しくはないよ。」
 ……両方とも、俺の知らない遠い昔の出来事だ。
「そうか、不遇な者はそんなにたくさん、いるのか。」
 俯いたサスケの頭をカカシは優しく撫でる。
「……一族を全員失ってるサスケの方が、よっぽど不遇だと俺は思うけどね。」
 え、と思って顔を上げると、カカシの写輪眼が赤く光っていた。
 (しまっ……)
 サスケはふらっとその場に倒れる。床に身体が落ちる寸前で、カカシがその身を支えた。
「お疲れ様、サスケ。いい夢見れるといいね。」
 そのまま抱き上げてベッドに寝かせると、赤い服を脱がしてカカシの大きいパジャマを着せ、布団をかける。
 カカシは忍服に着替えて、サスケが身に着けていた赤い服と白い袋を手に火影の執務室に向かった。

 火影はパイプから口を離すと、紫煙を吐き出した。
「わしはサスケからの任務完了報告を待っておったのだが……何故カカシがここに?」
「……あの子は、優しいですね。」
 カカシは赤い服と袋を火影に手渡す。
「この特別極秘任務の、かつての役割も果たそうと、俺のところに来ました。」
 火影は服と袋を手に取ると、一瞥してからまたカカシに視線を戻す。
「……確かに、お主も不遇な経歴ではあるな。」
「サスケと同じ孤独を抱えてきたナルトじゃなくて、俺なのか~……って。……俺って、そんな不幸そうな顔してます?」
 頭を掻きながら笑うカカシに、火影はあくまで真剣なまなざしを向ける。
「……ふむ……元々はわしが託され、わしが担う予定であったが……今、その服をここに持ってきたお主に託すとするか。カカシ、お主に特別極秘任務を言い渡す。」
「……と、言いますと?」
「サスケを幸せにせよ。夢ではなく、現実にじゃ。」
 あまりに存外な話に、カカシは頭を掻く手を止める。
「……もちろん大切な部下で、仲間ですから、きちんと導いてあの野望も叶えさせてやりたいとは思っていますが……」
「……サスケが最後にお主の元に向かったのは、サスケにとってお主の存在がそれだけ大きいからであろう。だからこそお主に託すのだ。……サスケを必ず幸せにせよ。この意味は、わかるな?」
 どうやら、火影はお見通しのようだった。
 誤魔化す必要はないらしい。
「……その任務は、お断りします。」
「理由は。」
「そんな義務感で、あの子と接したくないんですよ。俺が幸せにしてやりたいと思っているから、幸せにしてやるんです。任務だから、なんて余計なものは必要ありません。」
 火影は紫煙を吐き出しながら、口角を上げた。
「なるほど、そうであれば……」
「では、いつまでもこんな所で油売っていたくないんで、俺は失礼しますよ。」
 カカシは踵を返して、右手を上げ、ひらひらと動かしながら部屋から出て行った。
 扉を閉めるとすぐに走り出し、自宅に戻ると、寝室ですやすやと穏やかに眠っているサスケの顔を見てから、またパジャマに着替える。
 そっと布団に入って、眠るサスケを横から抱きしめた。
「……ありがとね、サスケ。……好きだよ。」
 サスケはどんな夢を見ているだろうか。
 家族と過ごしている夢だろうか。
 七班の3人と過ごしている夢だろうか。
 それとも……。
 穏やかな顔で眠るその額にそっとキスをして、カカシも眠りに入った。

 

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