きみもいっしょに

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その他,全年齢,超短編

 ジャムおじさんのパン工房の庭にはたくさんの机が並べられて、真っ白なテーブルクロスの上にはパンから天丼まで色とりどりのいろいろな食べ物が並んでいた。
 真ん中にはひときわ目立つ生クリームたっぷりの3段重ねのケーキ、チョコレートのプレートには「誕生日おめでとう!」と書かれている。
 二週間前から招待状を書き、一週間前から材料の仕入れをして、この日は早朝から仲間たちが集まって料理を作りながら、パーティが始まるのを待っていた。
 続々と招待した人たちが集まってきたところに、パトロールを終えたアンパンマンが地に降り立つ。
「誕生日くらいゆっくりすればいいのによぉ」
 呆れ顔で視線を向けるカレーパンマンに、アンパンマンはにこっと微笑んだ。
「だってお祝いしてもらっている間に誰かが泣いているのは嫌じゃないか。」
「そういやアンパンマンはそういう奴だったな。」
 ははは、と笑って人々の輪の中にいるジャムおじさんの隣に歩を進めた。
 ジャムおじさんはアンパンマンの顔がきれいか確認してから、その背中に手を添える。
「みなさま、今日はアンパンマンの誕生日のために集まってくれてありがとうございます!存分に祝ってやってください!」
 「おめでとう!」という声と共に拍手が湧き起こって、アンパンマンは顔に花を咲かせる。
 そして北の空を見上げた。
(来て、くれないのかな。)
 すると、ちょんちょん、と肩を突かれた。
「アンパンマン、これ私が作ったの、食べて!」
 てっかのマキちゃんが可愛らしい笑顔でお皿に盛った鉄火巻きを差し出している。
「ありがとう!じゃあひとつもらうね。」
 一口頬張り、「おいしい!」と笑顔を向けると、マキちゃんもニコッと笑った。

 バイキンマンは封筒を手に、UFOの前を行ったり来たりしていた。
 今日はアンパンマンの誕生日だからメチャクチャにしてやろうと計画していたところに届いた一通の手紙。
 それはアンパンマンの誕生日パーティへの招待状だった。そこには、「主賓として招待します」と書かれていたが、バイキンマンにはその漢字が読めず、一体誰がなんのつもりでこれを送ってきたのかもわからないまま、行くべきか行かざるべきか悩む羽目になっている。
 時計を見るともう11時を回っていて、招待状に書かれているパーティはもう始まっている頃だ。
 ドキンちゃんは興味なさそうに「わたし行かなーい」とうつ伏せに寝転びながら漫画を読んでいるし、ホラーマンは右腕の骨をなくして探し回っている。マイペースな奴らだ。
「……覗きに行くだけ、行ってやるか……。」
 招待状を手に、バイキンマンはUFOに飛び乗った。

 楽しく談笑しながら料理を食べる人々の上空に突如として現れたUFOを見て、誰もが震え上がった。
 バイキンマンだ、きっとアンパンマンの誕生日の邪魔をしにきたに違いない。
 人々の注目がUFOからアンパンマン、カレーパンマン、食パンマンの3人に向けられる。
 この3人が揃っていれば、きっとすぐにやっつけてくれるはずだ。
 みんながそう思った、それなのにアンパンマンはUFOに気がつくとにっこり笑って上空に向けて手を振る。
 いったいなぜ?
 ゆっくりと降りてくるUFO、中から出てきたのはやっぱりバイキンマンだ。UFOから降りると、バイキンマンは封筒を持つ手を前に伸ばした。
「招待されたからには俺様も仕方ないから祝ってやる!」
 封筒に注目が集まる。招待状、と書かれていた。いったい誰がバイキンマンなんかを?
 ヒソヒソとざわめきが起こる。
 そんな中、アンパンマンだけが笑顔でバイキンマンの手を両手で包み込んでいた。
「よく来てくれたね、嬉しいよバイキンマン。」
 
 嬉しそうに笑うアンパンマンにはきっとこのざわめきは聞こえていない。
 怪訝そうな顔をしているパン工房の二人、カレーパンマンと食パンマン……ひとりだけ笑顔のアンパンマン。恐らく招待状の主はアンパンマンだろう。
 このままアンパンマンが俺様を招待したことが公になったら、このお人好しのバカまで冷たい視線を浴びることになる。
 ……まったく手のかかる奴め。
 
 アンパンマンとバイキンマンの周りから、少しずつ人々が離れていく。不安そうな顔を見せながら。
 バイキンマンはアンパンマンの手を振り払った。
「はっはっはー!招待されたなんて嘘に決まってんだろバカめ!これは道中見つけた間抜けから奪い取ったものだ!」
 バイキンマンは封筒に書かれた「バイキンマンへ」という文字が見られないように招待状をグチャ、と握りつぶしてからまたUFOに乗り込んで行った。そして飛び上がり、下部から機械のアームを伸ばして大声を上げる。
「ハーヒフヘホー!こんなパーティ、メチャクチャにしてやる!!」
 アンパンマンがうろたえながらUFOに手を伸ばす。
「やめるんだ、バイキンマン!今日はぼくときみの特別な日なんだ、一緒に……!!」
 機械のアームがグーの形を作りアンパンマンめがけて伸びてくるのを、カレーパンマンがパンチでしりぞけた。
「なーに言ってんだ、平和ボケしてんじゃねえ!」
 先端にハンマーのついたアームが現れてアンパンマンの頭上に振り下ろされるのを、食パンマンが身体を張って止める。
「相手がその気なら戦うしかないです!しっかりしてください!」
 アンパンマンは動揺していた、どうしたらいいかわからなかった。蜘蛛の子を散らすように逃げていく人々。バイキンマンと戦う仲間たち。
 こんな、こんな日になるはずじゃなかったのに。
「ぼくは……今日は戦えないよ、バイキンマン!ぼくはきみと……!」
「うるさいうるさーい!!貴様の顔なんか見たくもない!!パーティもめちゃくちゃにしてやったことだし、今日はこの辺にしといてやる。ありがたく思え!」
 アームがUFOの中に収まって、バイキンマンはそのまま北の空に消えて行った。
 料理の載ったたくさんのテーブルだけが残されて、笑顔で祝福する人々はもういない。
 祝福されるはずだった彼も、いない……。
「バイキンマン……。」
 アンパンマンは肩を落としてうつむいた。
 そこにチーズが駆け寄ってくる。
「アンアーン!」
「チーズ、……頼み事はどうだった?」
「アン!」
 アンパンマンはにっこりと微笑むチーズを抱きしめた。
「お前は本当に名犬だよ、チーズ。」

 基地にゆっくりとUFOが降りてくる。
 ドキンちゃんがテレビを見ながらポテチを片手に「おかえりー」と声をかける。
 UFOから降りながら、バイキンマンは誇らしげに胸を叩いた。
「アンパンマンの誕生日をめちゃくちゃにしてやったぞ!ふっふっふ、奴の顔といったら……いやーいい気分だ!……ん?」
 UFOの中の足元に、見慣れない箱がある。なんだこれ。手を伸ばしてそれを取ると、手紙がついている。招待状と同じ字で書かれているのは「お誕生日おめでとう、バイキンマン」という文字。箱を開けると小さなケーキが入っていた。
 バイキンマンがUFOを降りている隙に、名犬チーズがこっそり忍ばせていたのだ。
「……いつの間にあいつ……お人好しにも程があるだろ……!」
 ドキンちゃんに見つからないようにそっと隠しながら自分の部屋にそれを持って行った。
 少し不恰好なそのケーキは甘くて甘くて、アンパンマンがひとりでこれを作ったであろうことが想像できた。
「甘すぎるだろあのバカ、味見くらいしろ……。」
 そういえば。
 バイキンマンはアンパンマンにおめでとうと言っていない。今からでも言いに行くべきだろうか。
 いや、パーティであんなことをしておいてそれは。
「……ふん、これは借りにしといてやる。」
 バイキンマンは甘い甘いケーキを味わいながらアンパンマンのことを頭に思い浮かべると、こころがあたたまるような気がして、頭をブンブンと振る。
「俺様はアンパンマンの敵、奴を倒すためだけに生まれた。奴がどう思っていようが何をしようがそれは変わらない……!」
 食べ終わったケーキの箱をゴミ箱に突っ込んで、次のロボットの設計作業に入った。

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