ふたりぐらし

16,511文字約33分29 View

2026年9月22日カカサス,全年齢,中編,原作軸,完結済み日常,ギャグ,オリジナル設定有,ほのぼの,平和IF

適任

 うちは一族滅亡の事件の次の日に三代目火影から命じられたのは独り残されたうちはサスケの護衛だった。
 かつてのイタチの上司でもあり、写輪眼を持つカカシが選ばれたのもまあ頷ける。
 イタチは寡黙な青年だった。でもそのまなざし、口調、発せられる言葉からは里に対する愛着と平和を望む気持ちが見え隠れしていて、そんな彼がなぜ同胞を弟だけ残し皆殺しにしてしまったのか、カカシには納得のいく動機が見つからず、本人も姿を消した今それを知る者は誰もいない。
 イタチを知らない奴からすると、あいつは何を考えているのか分からなかった、だから何かをしでかしてもおかしくないと思っていたんだと熱弁を振るう。
 あのうちは一族を全員一夜にして滅ぼした実力の持ち主を追う小隊の構成にも随分と議論されたらしかった。
 そんな噂話を耳にしながらアカデミーに向かう朝とアカデミーから帰る夕方、気取られぬようにその弟をじっと見守る任務。
 いつイタチが現れても応戦出来るように気を張り続けながら気配は隠す、難易度的には中の上くらいだろうか。
 唯一残されたうちはを絶対に失ってはならないという上層部の言も分からなくはない、戦場で見せたかの一族の活躍は誰もが一度は救われた経験があるはずだ。それほど優秀な忍ばかりが集まった一族をひとりで滅ぼしたというのも信じ難いが、事実として今わかっているのは唯一の生き残りで証言者でもあったこの幼い護衛対象が話した言葉だけだ。それを証明するかのようにうちは一族の集落の至る所に設置されていた監視カメラにはイタチの姿以外何者も映ってはいなかった。
 つまり、イタチは本当にひとりで全員を殺した。父も、母も、あろうことか弟の目の前で。
 少しの間上司だったにすぎないカカシが「何か理由があったはずだ、彼は無差別に殺すような奴じゃない」と言ったところでこの証言と映像が知らしめる事実を変えることはできない。
 うちはサスケの護衛は半年の間続き、カカシは暗部から外れてアカデミーを卒業した新人につくよう命じられた。うちはサスケの護衛には以後テンゾウがあたるらしいと聞いて、あいつなら大丈夫だろう、とその任を引き受けた。
 そうして引き受けることになってしまったのは暗部時代護衛として見守り続けていた最後のうちはだった。
 アカデミーから帰った後も修行に励んでいたことをカカシは知っている。河原で親子が手を繋ぐ様子を静かに見つめていたのもカカシは知っている。そしてあの日監視カメラに映っていたイタチが一族の者を淡々と殺していった様子も知っている。
 下忍、ようやく忍としてスタートラインに立った三人に聞いた将来の目標。最後のうちはは予想通りの答えを返した。その反面で、一番仲間思いだったのもまた最後のうちはだった。
 見守り続けてきた、ほとんどの事を知っている。今までしてきた努力も、失ったものの大きさに苦しむ姿も、そして実の兄を必ず殺すという修羅の目も。
 再びカカシの眼下に置く采配をしたのは間違いなく火影様だ。今までは見守るだけで手出しはしなかった。これからはその望みを叶えてやるために、しっかりと導いていくのがオビトの眼を引き継いだカカシの役割、ということなんだろう。
 少し重い荷物にはなりそうだったけど悪い気はしなかった。見ることしかできなかった今まで。これからは手を貸せる、助言できる、手伝える。
 サスケはきっとそんなカカシの事情は何も知らない。得体の知れない上司としか今は映っていないだろう。
 カカシは静かに見守りながら、さり気ないサポートを、ちょっとした助言を、そして時々一対一の修行をつけながら、サスケの信頼を得ていった。
 ストイックに己を磨く様はまるで父を亡くした後の自分のようで、痛々しいと感じるとともにサスケを強くしてやらなければならないと、カカシはいつからか強く思うようになっていった。でもサスケはカカシとは決定的に違うところがあった。
 仲間思いなところ。
 スリーマンセルで動くようになってはじめて知ったサスケの別の一面だった。単に強くなりたい、早く上忍になって……そう考えていた俺とは違う。まるでオビトのようにナルトに手を差し出しサクラに声をかける。
 サスケがカカシの元に来たのはまた別の運命があったからなのかもしれない。
 そんな折にナルトのわがままがきっかけで波の国に赴くことになって想定外に強い相手が立ちはだかった。
 里に戻るか増援を呼ぶか、考えたが下忍になりたてのサスケとナルトがコンビネーションを組んでカカシをサポートした様子を見て、カカシはこの三人なら行けると判断した。
 その判断ミスは、カカシにとっても三人にとっても致命的な事態を生んでしまった。

 失ったものは取り戻せないと嫌というほどわからされてきた人生で、これからは絶対にそんなことにはしないと誓ったのに、奇跡的に何事もなかったかのようにサスケたちは木の葉に帰ってきたけれどカカシの胸中は後悔や自責や……色々なものでなかなか穏やかにはなれなかった。
 そんな折にサスケはことあるごとにカカシに修行をせがむようになった。
 大人の上忍の敵と対峙している姿を見たのがはじめてだったため、サスケはカカシに対する見方を変えて尊敬の念を抱くようになり、そして他にそれを持つ者がいないその左眼の使い方を教えて欲しいと考えるのは自然なことだろう。
 ただ、毎日のように修行に付き合っていたカカシはだんだんとサスケだけにこんなに修行をつけてやるのも、と考えるようになり、サスケに交換条件を出すようになった。
 最初はお使い、つまり使いっ走りだったのが、カカシの夕食を作るようになり、そしていつの間にやら生活を共にするようになった。
 というのも、サスケはひとり暮らしではあったがずっと自炊を続けていた。料理の本を見て、というよりは母の味を再現したいと試行錯誤を繰り返したせいか、料理のスキルはそこらの婦女子ではとても敵わない腕前だ。
 当然サスケの作る夕食もまた美味い。
 カカシがこれは良いと味をしめてふたり暮らしを持ちかけ、サスケにとっても願ったり叶ったりだったことからなんの障害もなく自然とふたりの生活は始まったのだった。
 
 最初にその異変に気付いたのはサクラだった。
「サスケ君とカカシ先生、最近お弁当同じよね。もしかしてサスケ君がカカシ先生の分も作ってるの?」
 特にやましい事情があるわけでもなかったサスケは、素直にそれを認めた。
「修行見てもらう代わりに俺が作ってる。」
 こうしてカカシとサスケが一緒に暮らしていることは公然の事実となっていった。
「カカシ先生ってば、毎日おにぎりでよく飽きねえよな。」
 そんな会話をしながら、カカシはおにぎりを手にナルトに諭した。
「サスケの作るおにぎりはな、なぜか美味いのよ。」
「たかがおにぎりに味の違いとかあんのかぁ?」
 納得いかない様子のナルトにサクラがゲンコツを入れる。
「サスケ君が作ってるんだもの、美味しいに決まってるでしょ!」
 
 修行に明け暮れたあと買い物をしてカカシの家に帰り、サスケが料理している間にカカシがシャワーを浴びて、一緒に夕食を取ったあとサスケがシャワーを浴びに行き、そしてその後は巻物を広げて解釈を聞いたり、はたまたふたりそれぞれ思い思いに過ごしたりと、お互いにとってストレスもなく順調にふたりぐらしは続いていった。
 夜寝るときだけは同じ布団なのがなかなか慣れなかったサスケだったが、そんな生活が1ヶ月も続くと流石に慣れて普通に二人並んで布団に入るようになった。

 そんなある日、サスケがいつもより早く目が覚めて、カカシの様子を見てから起こさないようにそっと布団から出ようとしたときだった。カカシが寝言を呟いたのが聞こえた。
「……サスケ………………好きだよ……」
 布団をまくろうとした手が止まった。
 今の寝言は一体……?
 サスケの中で思考が駆け巡り、出た結論は「俺の名前と好きの間に間があったから、俺の料理が好きとかそういう事だろう。」だった。料理に関しては自慢ではないが自信がある。
 そっと布団から出てベッドを降り、寝室の扉を開けようとしたところで左腕を掴まれる。
「……サスケ? 今何時?」
 どんな夢を見ていたんだ、と聞きたい気持ちを堪えながらサスケは答えた。
「6時前、トイレ行くだけだ。あんたはまだ寝てていい。」
「……いや、俺も起きようかな……。」
 のそりと起き上がったカカシに、そっと出てきた意味なかったなと思いながらサスケはトイレに向かった。

 その後も修行とふたりぐらしは変わりなく続いた。一緒に買い物をしながら献立について話し合い、帰ったら食事を作ってその間にカカシはシャワーを浴びる。出来上がったらふたりで食べて、片付けが終わったらサスケがシャワーを浴びに行く。そしてその後は寝る時間まで自由に過ごす。
 ただ、なんとなく、サスケがソファで忍術書を読んでいるとカカシが隣に座って覗き込んでくることが増えたような気がしていた。ダイニングテーブルで読んでいてもカカシが向かいの椅子に腰掛けてサスケの様子を見ている。
 最初は気にしていなかったサスケだが、ふとあの日の寝言を思い出して、もしかしてあれは?と自分の出した結論が違っていた可能性を考え始めていた。
 そんな折にまたサスケはカカシの寝言を聞いてしまう。
「……サスケ、キスは…………」
 今度は間がない。しかもキス?『キスは』の後に夢の中で何を言ったんだ?
 これは叩き起こして確認しておかないと気になって仕方がない。カカシの肩を揺すり起こした。
「カカシ、朝だ起きろ。あと何の夢を見ていたんだ?」
 カカシは目をこすりながら眠そうにあくびをした。
「夢……? 何だっけ、なんか見てた気がするけど忘れた。なんで?」
「あんたが変な寝言を言ってたから。」
 サスケがそう言うと、カカシははたと何かを思い出したようだった。
「ああ、そうだ、魚を捌く夢を見た。」
 魚を捌く夢……ということは、キス、というのは魚のことか。
 起こしてよかった、妙な思い違いをするところだった。サスケは少しほっとして、布団から出た。カカシはまだ横になりながら、サスケが寝室から出ていったのを確認して、ほっとため息をついていた。

 その後も大きな変化もなくふたりぐらしは続いていた。しかしある日、修行が終わった帰り道、上忍らしき男とその部下と思われる男が手を繋いでいるところを見てしまった。サスケの頭に疑問符が浮かんだところで、カカシがそのふたり組に聞こえないようにこそっと喋る。
「忍界って女性が少ないからさ、同性のカップルもちょこちょこ見かけるもんだよ。特に大戦経験者に多いんだけどね。」
 そんなもんなのか、とサスケは見慣れないその光景を眺めながら納得した。
 しかしそういえば俺たちも一緒に暮らしている。もしかしてそういう目で見られていたりしないだろうか。カカシの顔を見上げると、カカシはサスケの考えがわかったのか、にこ、と笑った。
「師匠と弟子が生活を共にするのもそんなに珍しいことじゃない、そもそも年も離れすぎてるし、俺たちがそういう目で見られることはないから。」
 カカシがそう言うのならそうなんだろう。サスケは少し安心して、また歩き始めカカシの家に帰った。

 カカシは波の国の任務でサスケが身を挺してナルトを庇ったと知ったとき、サスケにかつての友の面影を見ていた。しかし、サスケとオビトは性格も何もかも全く違う。それともうちは一族というのは一族がひとつの集落で暮らしていたのだから元々団結力があって仲間思いなのかもしれない。
 そう思いつつサスケを気にかける日々が続きサスケからも修行を請われることが増えて接する機会も増え、サスケに対する思い入れも強くなっていった。この子を強くしてやらなければと。
「修行見る代わりに飯でも作ってよ」
 冗談のつもりで言った言葉をサスケはストレートに受け止めてカカシの家の冷蔵庫や調味料を確認した後買い物に出かけて、両手に買い物袋をぶら下げてカカシの家にまた戻ってきた。
 作ってくれたのは味噌汁に肉じゃが、冷奴にナムルと家庭的な料理ではあったがその味はそこらの定食屋よりも美味しかった。
 それに味を占めて毎晩のように夕食を作らせながら、ふと一緒に住んでしまった方が楽なんじゃなかろうかとカカシの家でのふたりぐらしを持ちかけて、サスケはあっさりと了承した。
 こうしてまたふたりで過ごす時間が増えた。
 ふたりで過ごす時間を重ねるにつれうちはサスケという子は魅力的だなと思い、サクラはじめ色んな女子がサスケを好きになる理由が理解できた。
 整った見た目だけでなく勤勉さやまっすぐな性格、そして何より料理がうまい。
 男心を掴むなら胃袋を掴めとはよく言ったもので、カカシはだんだんとサスケに対して単なる部下でも弟子でもない、特別な感情を抱くようになった。
 ただ、何分サスケはまだ幼いし異性同性問わず恋愛なんかにかまけているような子でもない。
 この想いはこころの内に秘めておこうとカカシがそれについて言及することはなかった。
 ただ気になるものは気になるしそばにいたい気持ちが行動に現れるようになって、ソファで隣り合って座っているときにふとサスケがカカシの顔を見上げたときにキスをしたい衝動に駆られたりしながら作り笑顔でそれを誤魔化すような日々が続いた。
 しかしこころの内に秘めているとはいえ寝言まで制御することはできない。
 ある日の朝サスケに肩をゆすられ起きたとき、変な寝言を言ったと聞かされて夢の中でサスケとキスをしようとしていたことを思い出して、持ち前の誤魔化しでどうにか出来たもののそこまで自分の想いが膨らんでいることに頭を悩ませた。
 正直に告白したらこのふたり暮らしも終わってしまうかもしれない、サスケの立場からしたら自分の先生かつ上司かつ師匠たる人物が自分を恋愛対象として見ていると知ったら気持ち悪いと感じても仕方がない。
 告白するとしてもサスケが大人になってもまだこのふたり暮らしが続いていてサスケの野望が叶ったその後だ。
 カカシは自分の気持ちを秘める事にした。

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