ふたりぐらし

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2026年9月22日カカサス,全年齢,中編,原作軸,完結済み日常,ギャグ,オリジナル設定有,ほのぼの,平和IF

秘めた気持ち

 家に帰ると笑顔のカカシが「おかえり」と言う。怪我をすれば心配するし忍術書は一緒に読んで解釈を教えてくれる。父さんや母さんが生きていたらこんな感じだったのだろうかと感じながら、……いや、父さんはこうじゃないなと思いながら夕食を作って明日の修行について話をする。
 早く強くなりたいサスケにとってその環境は願ってもいないものだった。なんと言ってもカカシは強い。そのカカシが寝食を共にして修行をつけてくれるんだから、夕食も適当なものは作れない。
 この生活になってからサスケの料理のバリエーションはかなり増えていた。そして「美味しい」と言う言葉を聞きながら取る夕食は悪くないとも思っていた。
 サスケの中でカカシの存在は大きくなっていき、いつの間にかちょっとしたことでもカカシに聞くようになっていった。

 ソファで2人、いつものように映画を見ながらサスケの様子を伺うと、忍術書をめくる手が止まっている。もたれかかっている頭の重さ、規則正しい寝息。どうやら今日の修行は体術を徹底的にやったせいで疲れたらしい。
 ここでカカシの中の二つの勢力が戦を始めた。
 眠っているから今ならキスをしてもバレないのではないかVS万が一起きたら誤魔化しきれないやめとけである。
「……サスケ? 寝ちゃった?」
 話しかけて見ても反応はない。しっかりと眠っている。
 これはチャンスだ! 今まで我慢し続けたキスをする! これ以上ないチャンス!!
 いやいや万が一を考えろこの生活を続けたいならその気持ちはサスケが大人になるまで封印すると決めたでしょ……!!
 時間だけが無意味に過ぎていく。とりあえずテレビの電源は切ってサスケの様子を見続けるがカカシの中の戦は拮抗しており勝敗はなかなかつきそうにない。
「ベッド、に、移動させてあげようかな……。」
 これでもサスケが起きなければキスのひとつくらい問題ない、このチャンスを逃すな!
 いやいやそもそもサスケの意思を確認せずにそういうことをするのは倫理的にダメだ!
 もたれかかるサスケの膝の上の忍術書をテーブルに置いて抱き上げる。ああ、軽い……そうだよな、12歳だしこのぐらいの軽さだよな……と思いながら寝室の扉を開けてゆっくりとサスケを下ろす。やはり目が覚める気配はなく熟睡しているようだ。
 認知されていないことは事実にならない今ならサスケの唇を奪っても誰も責めないさあ行け!
 こんなあどけない子供に大人で同性の俺がキスなんて倫理的に絶対ダメバレてもアウト何もいいことはないやめておけ!
 布団をかけながらサスケの顔を見つめていたらサスケが何か寝言を言った。
「……カシ、これ……」
 俺の名前……!? サスケが俺の夢を見ている!!?
 ほら相思相愛だ今だやれ今しかないぞ!!
 自分に都合よく捉えすぎるのは駄目だ絶対にやるな!!
 口布をそっと下ろす。いや下ろしたことに特に意味はないだっていつも寝る時は外しているわけだし。別にキスをするために下ろしたわけじゃなくてこれはいつものことだから深い意味はなくてだな。
 サスケはまたすうすうと規則正しい寝息を立てて穏やかな顔で眠っている。そういえばうちに来たばかりの頃は悪夢にうなされていることも多くて脂汗をかいていたことも多かったっけ……今は安心して眠れるようになったという事は俺との生活はサスケにとって良かったという事でいいんだよな……?

 じゃあキスしてもいいよな……?

 待て待て待て待て待て何考えた俺の馬鹿タコ間抜けサスケはあくまで俺を師として慕っているだけでそういう感情はない! そんなそぶりも見せてないし! ダメ!
 とはいえ俺の前でこんなに気を許しているサスケを目の当たりにすると必死に言い聞かせようとするカカシの声は遠くなっていく。
 ほんの一回だけ、それだけでもうなんだって我慢できる、だからほんの一回、少し触れるだけなら……。
 サスケを覗き込むように顔と顔の距離を近づけていく。あと少し、もう少しだけ……ええい、行ってしまえ……!
 と思った瞬間に、サスケの目が開いた。
 心臓がヒュッと縮んだような感覚、慌てて顔を上げる。
「……? カカシ何してんだ。……あれ、寝てたのか俺。」
「いやよく眠ってるなあって見てたんだけど急に目空いたからびっくりしちゃった。」
「いや……なんか顔に息かかってんなと思って目が覚めた。……本当に見てただけか?」
「珍しくソファで眠っちゃってたから無理させたかなーと思って心配しただけ、まあちょっと長く見ちゃってたかも。」
「心配だからってあんな至近距離で見なくても……。」
 あああああ誤魔化せ俺! 頭捻るんだ!!
「顔見てたら、サスケまつ毛長いなーと思って思わず近くで見ちゃった。」
「まつ毛? まあ、そういえばよく言われるな。」

 どうにかして誤魔化したはいいけどもうこれ以降ふしだらな事は考えずに清く生きよう、とカカシはこころに決めた。
 そしてその代わりにメモ帳に自分の気持ちを認めて、気持ちのやり場を作ることにした。
 そしてそのメモ帳は日を追うごとに2冊目、3冊目と増えていき家の中にこれがあるのはまずい、と書いた手帳は全て誰も来ないような森の奥に埋めることにした。

 ふたり暮らしは平穏に続いていき、中忍選抜試験でいよいよ人を殺す具体的な術を教えることになった。連日の激しい修行、夜になればサスケはくたっと眠りにつく。野営用の寝袋じゃ季節柄暑いかなとバスタオルをかけてその寝顔を見守る。力には責任が伴う。サスケにこの力を渡すことによって変に変わってしまうことがないといいんだけど。例えば危険な任務が増えるとか……。いや、忍ならそれはやむを得ない。サスケの目標がイタチへの復讐である限り、危険な任務をこなす事はむしろ経験値を積むことになる。
 いままでの生活で普通の下忍とは一線を画す実力をサスケは身につけてきた。ただ修行上であって実戦ではない。実戦を積めばサスケはもっと強くなる。
 そして、いつか俺の手を離れて復讐に向かう。
 あのうちはイタチに勝てるだけの全てをそれまでに教えてあげなければならない。千鳥の習得は通過点だ。
 復讐を……終えた時にサスケは俺のところに帰ってきてくれるだろうか。それとも一族の復興のために女性への興味を示すだろうか。
 それもサスケの大切な夢だ、俺が邪魔をする事はできない。
 切り株を背に眠るサスケを見ながら、カカシはまたひとつ決意を胸に秘めた。
 
 何だかんだあって中忍になれなかったサスケは悔しそうだった。とはいえ一連の事件の中でサスケが危険な目に……遭ってるけど……なんとか落ち着いて良かったと思う。来年の試験に向けてまた二人三脚で修行に励めばいい。
 一方でカカシが森の奥に埋めている手帳の数は20冊を超えていた。
 万が一誰かに見つかってもバレないように固有名詞は書いていないからサスケ本人にさえ見つからなければ問題ない。
 そしてサスケは翌年の選抜試験でしっかりと結果を残し無事に中忍になることが出来た。
カカシは……家に帰ってきたサスケを迎え入れながら「ちょっとしたお祝い」と木箱に入った手裏剣の10個セットをサスケに渡す。
 サスケは少し照れたようにその木箱を受け取った。
「……けど、カカシのおかげだ。カカシのおかげで一歩進めた。」
「そりゃそうだ、俺が特別に見てる弟子なんだから。でも、サスケの頑張りの成果でもあるよ。おめでと。」
「……目標までには、上忍くらいにはなっていた方が良いのか。」
「当時のイタチは中忍だった……とはいえ暗部で分隊長もやってる。実力は上忍以上だった。……でもそれは今のサスケも変わらない。中忍だけど、実力だけで言えばサスケは上忍と引けを取らないよ。ただし、実戦経験はもっと積んだ方が良い。あとは里の任務としてイタチを追うことを考えてるのなら、上忍になる必要はあるね。……イタチは別格だ。」
 もしその任務のためのチーム編成がされるとしたら、写輪眼を持つカカシも含まれるだろう。俺と、更に強くなったサスケなら、討てる可能性はある。

 一方、子どもたちの間でひとつの秘密が共有されていた。森の奥の奥、誰も入らない藪の中に1箇所だけ不自然な石がある。
 それをどかして地面を掘ると、誰かの手帳が大量に出てくる。内容を読むと、どうやら片思いの記録らしい。ただ、誰が書いたものなのかはわからない。
 そのミステリアスな手帳の存在はアカデミーの女子を中心に大人は知らない子どもだけの秘密として噂の種になっていた。

 サスケが食事を作る、カカシと一緒に食べる、カカシに質問する、カカシが答える、一緒の布団で眠る、一対一の修行、変わることのない生活の中で、ひとつだけ変わったのは切れ味のいい10個の手裏剣がサスケのポーチに入っていること。
 サスケは翌年の上忍選抜試験を無事に突破して、そして5代目火影である綱手に訴えた。
「行かせて下さい、実力は積みました。」
「……少し考えさせてくれ。」
 イタチは暁という組織に身を移している。そして火影である綱手は引き継ぎ資料からイタチの一族殺害の経緯も知っていた。イタチは弟のサスケを生かし、自分を殺すように誘導し、そしてそのイタチの思惑通りにサスケは強くなりイタチを殺すための任務を出して欲しいと嘆願してきている。
 ……この兄弟、本当に殺し合わせて良いのだろうか。
 万が一サスケが真実を知るようなことがあればどう考えを変えるかわからない。ただしイタチ本人の口から語られる事はないだろう。
 ……何にしても1人で向かわせられる任務ではない。師であり写輪眼を持つカカシは必須。それと医療忍者としてサクラを。……ナルトが自来也と修行中なのは幸いだった。あのバカは場を引っ掻き回しかねない。
 うちは以外を含む隊であれば真実が明かされる可能性も低くなる。

 数日後、任務が降った。
 隊長であるカカシがサスケとサクラに伝える。
「サスケにとって重要な任務であるとともにSランク、最悪命を落とす危険がある相手だ。必要と判断したら撤退指示も出す。それも含めて俺の指示に従い任務を遂行出来るのであれば、この任務を受ける。」
 カカシとの信頼関係を十分に築いていたサスケは即答した。そんなサスケを見てサクラも頷く。
 いよいよ本丸か……あの日集落の中でひとり膝をついていたサスケが、河原で遠くを見ていたサスケが、野望を果たせる力を持つところまで連れてきた。
 俺たちのふたり暮らしはもしかしたらこの任務の完了を機に終わってしまうかもしれない。
 けどそれは任務には必要のない私情、サスケのためにも……やり切る。
 カカシは長期任務の準備を2人に指示して、空を見上げた。

「一緒に暮らしてる師匠が恋に落ちるなんて本当にそんな事あるのね〜」
「禁断の恋って感じがやっぱり女心を刺激するわよね!」
「細かい描写がロマンス小説よりもリアルでドキドキしちゃう〜!」
「あっ大人が来た! しー……」

 最近女の子たちが噂をしているそれはいのの耳に入っていた。子どもたちはうまく隠しているつもりのようだが中忍のいのが密かに情報収集をするのは容易で、どうやらその噂の元は森の中に埋めてある手帳らしい、というところまで突き止めたがその場所だけはよくわからないまま、興味本位で始めた情報収集は暗礁に乗り上げていた。
「ん〜面白そうな話なのになぁ……」
「何が?」
 いのの花屋を訪れたサクラがその呟きを聞いて尋ねる。いのは知っている限りの情報をサクラに話した。
「ふぅん……確かに面白そうね! でもちょっと任務でしばらく里を離れることになって。その話をしに来たの。生きて帰れるかもわからない危険な任務なんだけど、カカシ先生がいるから多分大丈夫! 行ってくるわね!」
 ……でもなんか引っかかるなぁ、その噂……。

 数ヶ月後、任務から帰ってきたサクラといのはその森の中がどこなのかを調べてついにその場所を見つけた。
「こんな場所に子どもたちが来てるなんて危ないわね。」
「まあでも、子どもって案外遊ぶ範囲が広いしアカデミーの子なら大丈夫でしょ!」
 サクラが石をどかして地面を見ると、掘り起こされた跡がある。ふたりでその跡を掘っていくと、沢山の手帳が姿を現した。そのひとつを手に取って、中を開く。
「……え? これって……。」

 カカシの家に帰ってきたふたりは荷物を下ろしてひとまず座った。
「……改めて、念願を果たせて、良かった。サスケの頑張りの成果だよ。」
「……いや、カカシが何年もつきっきりで修行をしてくれなかったら、こんなに早くは……。」
「……サスケはこれからどうするの?」
「……まだ、頭の整理ができてない……。」
「ま、しばらくは修行もやめてゆっくりしよっか。少しずつ整理したら良いよ。」
「……カカシ……修行とか、そういうの関係なく、……これからも一緒に住んで良いか……?」
 カカシの心臓が跳ねそうになる。サスケは、これからも一緒に?
「もちろん良いよ、サスケは大切な愛弟子で、同居人だ。修行とか食事とか、どうだっていいよ。」
「同居人……そうか。俺は家族みたいだなと思っていたけど。」
「えっ」
「は?」
 少しの沈黙が流れた。その間にカカシの頭は急速に回転していた。
「俺を家族だと、思ってくれてたの?」
「けどあんたにとっては同居人なんだろ。」
「いや、……いや俺にとっては家族よりも大切な存在……」
「家族よりも?」
「あっ、いや……ええとつまり、サスケは特別だってこと」
 それを聞いて、サスケはふっと笑った。
「……そうだな、俺にとってもカカシは特別だ。」
 サスケの口からそんな言葉が聞けるなんてそれだけで今はいい幸せだ、そうだろだって目標をクリアしてもなお俺と一緒に暮らしたいと言ってくれて俺を特別だと言ってくれているんだから……!!
 カカシは感動して涙が出そうになるのを堪えながらトイレに立った。
 これからもサスケとふたり暮らしを続けられる、それだけでいい、今はそれだけで十分だ。
 
 トイレの中で拳を握るカカシは、数日後サクラから鬼のような追及をされる事になることをまだ知らない。

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