ふたりぐらし

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2026年9月22日カカサス,全年齢,中編,原作軸,完結済み日常,ギャグ,オリジナル設定有,ほのぼの,平和IF

心配性

 用事があってその日は修行に付き合えず、ごめんねと声をかけてカカシはその場から姿を消した。来年のアカデミー卒業生の班分けの会議にはその年のルーキー担当上忍も加わる。
 今までの成績や交友関係、性格、技量、チャクラ量、アカデミー教師の評価を見ながら、このふたりは同じ班にしたらいい化学反応が起きそうだとか、この一族とこの一族は同じ班だろう、などと数日にわたってしっかりと見極めていく。
 一番最初のスリーマンセルは今後の忍人生を左右すると言ってもいいほど重要度が高いだけに、アカデミー教師のみならず多種多様な上忍が集まって話し合う場だった。
 カカシが家路に着く頃には陽が傾きかけていた。サスケはもう帰ってるだろうな、と扉を開く。
「ただい……ま」
 そこは薄暗くしんと静まりかえっていて、サスケの気配はなかった。
 いつも夕食を作る時間には帰ってきてるのに、何かあったんだろうか。
 外に探しに行くか、このまま待つか、玄関の前をうろうろしながら心臓が少しずつ凍っていくような怖さを感じる。何かあったのなら早く行かないと。でもすぐに帰ってくるかもしれない。暗い部屋の中で頭を抱えながら「よし、探しに行こう!」とこころを決めて勢いよく扉を開けたらそこには探しにいくはずだったサスケがいた。
 突然開いた扉に驚いたのか見開いた目はカカシの顔に向けられている。
「た、だいま、つい熱中して、遅くなって悪かったな。」
 カカシは抱きしめたい衝動に駆られながら無事で良かったとこころから安堵してサスケを家の中に迎え入れる。
「おかえり、遅いからどうしたのかなって、少し心配しちゃった。」
 俺はいつもの作り笑いができているだろうか。
 そんなカカシの思いを知らないサスケはすっと横を通り過ぎて台所に向かう。しかしその足に赤い擦り傷があるのを見てカカシはサスケの手を掴んだ。サスケが驚いて振り向きカカシはしまった、と思うが足に視線を落としてサスケに声をかけた。
「念のため、消毒した方がいい。万が一破傷風になったら」
「……いや、問題ない。ナルトを蹴飛ばした時に少し掠っただけだ。」
 手を離すとサスケは台所で下拵えを始める。
 思わずその手を掴んでしまった自分の行動に、サスケは特に思うことはなかったらしくカカシは安堵した。

 カカシが用事で修行に付き合ってくれないからと、ナルトを誘った。こいつ本当にドベだったのかと思うほどナルトの成長は著しい。それに負けていられない。俺の方が努力してきたという自負があった。ただナルトも俺にだけは負けたくないと思っているらしく、実戦演習を続けていたらいつの間にが陽が暮れかけていた。
 変わり身の術でナルトの攻撃をかわし、声をかける。
「そろそろ時間だ、終わるぞ。」
「くっそ、勝てねえーー!!」
「演習に勝ち負けなんてないだろ、行くぞ。」
 バックパックを背負って、足にヒリヒリとした痛みがあることに気がつく。足の甲あたりだ。多分蹴りの時に怪我をしたんだろう。でも任務に差し支えるようなものじゃない。
 帰り道食材を買いながら、遅くなってしまったと早々に買い物を終えて家路を急いだ。
 カカシのマンションに着く頃にはすっかり陽が暮れていた。扉を開けようとドアノブに手を伸ばした瞬間、勢いよく扉が開く。そこに居たのは、焦りの色を抱えたカカシだった。
 もしかして、心配したんだろうか。
「ただい、ま」
 カカシはサスケの顔を見て、安堵した様子だった。やっぱり心配させてしまったらしい。
「つい熱中して、遅くなって悪かったな。」
 しかし家の中に入ると今度は手を掴まれて思わず振り向いた。その視線の先は擦りむいた左足に向いている。
「念の為、消毒を……」
 擦り傷程度でカカシは何言ってんだ?
「問題ない。ナルトを蹴飛ばした時に少し掠っただけだ。」
 するりと手が離れる。そんなことよりも夕食を作らないと。買ってきたレジ袋を置いて野菜の下拵えを始めた。遅くなってしまったからあまり時間をかけたくないが、手抜きもしたくない。そういうときは丼系と相場は決まっている。
 炊飯器のスイッチを入れておおむね作り終えると、サスケはシャワーを浴びに浴室に向かった。
 その後も数日間カカシは用事とやらで修行をつけてもらえず、仕方なくナルトに声をかけて夕方まで実戦演習に力を入れ続けた。ただ、帰る時間は気にかけて陽が落ちかける前に切り上げるようにはしたが、あの日以来どうもカカシは心配性になったみたいで今日は怪我はないかと聞いてくる。
「そんなしょっちゅう怪我するほど間抜けじゃねえよ。」
 呆れ半分でそう言ったら、それからは怪我チェックはなくなった。
 
 今日で用事とやらは終わりらしい、明日からはまた修行をつけてもらえる。と思うとやっぱり嬉しい。ナルトとのじゃれ合いも連続するとナルトのパターンが読めて面白みが減っていったところだった。そんな折の修行再開。サスケのテンションは嫌でも上がる。
「今日はどんな修行だ?」
「ナルトと実戦形式でやってたらしいね? ちょっと成果を見てみようか。」
 こうして演習場の森の中での一対一の実戦演習が始まった。
 カカシ相手では術、体術、どちらも不利だ。手数を増やすしかない。つまりは全力で挑まなければならない。ナルトとはまた違った緊張感の中で手裏剣術を駆使しながら蹴りと打撃のコンビネーションに火遁、瞬身に次ぐ死角からの武器攻撃と手を休める事なく攻撃に徹する。が、最期にはあっけなく片足を掴まれ逆さ吊りにされてしまった。
「チィッ!」
「いや、ちゃんと伸びてる。うん。俺の特性……左目が塞がっているのをしっかり考慮したコンビネーションは上手かった。」
 褒められているが宙吊りの状態である。説得力がない。サスケは身体をくるっと捻ってカカシの手首に手刀を落とし、地面に着地した。
「どこをどうすればもっと強くなれる。」
「帰りながら話そうか。」
 サスケは頷いて、カカシの隣を歩き始めた。
 とはいえ商店街に着けば夕食の話に変わっていく。
「今日はトマトが安いね。」
「そうだな、これは買いだ。」
「ほうれん草も新鮮じゃない?」
「いや、ほうれん草は高い。小松菜にする。」
「小松菜で何にするの?」
「魚屋でしらすが安ければ和えるか……あとはナムルとか。」
「しらす安いかな。」
「その前に肉屋だ。」

 いつものやり取りをしながらカカシはほっとしていた。自分が見ていなかった数日間の間にもし何かが起きていたら気が気でなかっただろう。実際に擦り傷に過剰に反応してしまった。俺がきちんと見てやっていたら絶対に怪我なんてさせないのにと。
 買い物を終えて家路を歩くその手を握りたい衝動に駆られながらだめだ、今はサスケにこの気持ちを知られるわけにはいかないと自分を律する。
 ふたりで家に帰りただいまと言い合ってサスケは買い物袋を手に台所へ向かっていく。カカシはいつものようにシャワーを浴びに行ってソファで髪を乾かしながら自分の気持ちが日を追うごとに強くなっているのを感じていた。
 このままではいつ漏れ出てしまうかわからない。というか既に寝言でやらかしている。今までは何とか誤魔化せたけどこれからも誤魔化せるとは限らない。
 ひとまわり以上年上の男が好きだなんて知ったらサスケが今カカシに向けている尊敬の眼差しも軽蔑に変わるかもしれないしなによりもふたり暮らしが終わってしまうかもしれない。
 ……それは嫌だ。
 もっとサスケと一緒に暮らしたい、だったらこの気持ちは押し留めておかないと。

 食後、カカシが座っている二人掛けのソファに腰を下ろして忍術書のページをめくる。テレビの映画に向いていたカカシの視線も忍術書に写った。
 幻術に関する本で一般的な印を組む方のチャクラの練り方なんかが書かれている。ただ、写輪眼でも幻術を見せることはできるはずだ。同じ結果を出すにも必要とするチャクラや印の面で写輪眼を使ったほうが楽ならその方がいい……けど聞ける人はカカシしかいない。
「幻術って、ちゃんと印を結んだ方が良いのか? それとも写輪眼の方が」
 カカシの顔を見上げたら思いもよらず近くにその顔が勝手カカシのあごに俺のおでこがぶつかった。
「っ悪い、大丈夫か」
「いや、俺も覗き込みすぎたから大丈夫。幻術は基本的には印を結んだ方がチャクラ効率はいいんだけど、俺の写輪眼は左目にしかないのと使うことにコストがかかる、というのも含めてだから、サスケの場合は実践練習してみてどっちがいいのか検討した方が良いかな。ただどちらも使えるに越したことはないって感じ……。」
 忍術書に視線を落としながら説明するカカシに何なのかはよくわからないが違和感を覚えた。
 その顎を手で掴んで俺の顔を見るように角度を変えると、一瞬目が合って視線が泳ぐ。
 嘘は言っていないと思うんだけどこの感じ、何かを隠してるか嘘ついてるように見える。
「まだ俺に話してない事あるだろ。」
 また視線が泳いだ。
「……えっと、ごめん幻術に関しては上忍以上じゃないと知らせてはいけない領域があって、全部を説明してあげるってことが出来ないって事情があって……。」
 上忍以上じゃないと知らされない……それは確かにカカシが言えないものだ。つい言いそうになって言わなかったのが違和感の正体という事だろうか。
 しかし幻術にそんな領域があるなんて、きっと危険な使い方なんだろう。
「なら実践するときに俺が危ない事をしてないかも教えてくれ。」
「そこも含めて部下の管理だし、それはちゃんとやるよ。」

 またなんとか誤魔化せたけど危なかった、サスケの近くにいたいあまり顔を近くに寄せすぎてしまったとカカシは反省していた。その動揺が伝わったのもすぐにカカシが建て直せなかったのも失敗だと少し落ち込んだ。
 上忍以上でないと言えない幻術なんてものは当然出鱈目だけど、多分サスケが他の上忍にそこを確認する機会は来ないだろう、基本的には担当上忍のカカシが教えることになってるんだから。
「けど正直幻術は他の忍術よりも優先度は低いと思う。幻術を極めるよりもチャクラコントロールや他の忍術、体術の方が」
「いや、相手が一人ならともかく多数を相手にする場合幻術は有効だよ。例えば意識を朦朧とさせて眠らせることも出来る。当然相手もそういう可能性を考えて対策してきてるから、ここ、ってところで強力な幻術が使えると結構重宝される。」
「多数を相手にする前提であれば写輪眼よりも印を組んだ方が良さそうだな……」
「本気で幻術をある程度使えるようになるには結構時間がかかる。という意味では、印を組んだ幻術を実戦で扱えるようになるまでは写輪眼で代替するのはアリだと思う。他の仲間との相性もあるけど写輪眼の強いところは目を見ただけで術にかかること、だからわざと注目を集めさせて写輪眼を使えばチャクラ的にもエコに利用できる。」
「ふーん……さすが大戦の経験者だな。今後同じような大戦が起こる可能性ってどのくらいあるんだ?」
 カカシを見るサスケの視線から逃げるようにカカシはテレビに目を向ける。
「現状は……少なくとも戦争の芽はない。けどいつ何が起きるのかはわからないからねぇ。……。」
 カカシは苦い過去を思い出す。そう、いつ何が起きるのかはわからない。そしてそれに適切に対応できるかどうかもわからない。どれだけ強くなったところでそれは変わらなかった。だからみんな死んでいった。
 サスケは……サスケだけじゃない、ナルトも、サクラもそんなことにはさせない。
「……なら幻術も覚えてみるか……。何が起きても対応できるに越した事はない。」
「うん……そうだね、ただ術を磨くだけでなく状況判断能力も必要になる。そこは実戦を重ねないと瞬時の判断は難しい。その時最善と思っていても……後からそうじゃなかったと思うこともある。」
 黙り込んだサスケの顔を見れない。またおでこゴチンは気まずいしサスケの目を正面から見るとカカシはどうしても照れてしまう。黒曜石のような黒い瞳に吸い寄せられてしまう。
「あんたも、判断を間違ったことがあるんだな。」
 波の国でのことだって判断ミスだよ、なんてカカシは言えない。スリーマンセルの指揮官の立場で、自分の判断ミスだと言ってしまったら最悪統率が取れなくなる。
「戦ってばかりの日々の中で、全ての判断が正しい……なんて事はないよ。」
 もしかしたらリンを殺さずに済む方法があったかもしれない。けどカカシには効率的に人を殺す術しかなかった。
 今となっては、だ。
 自分が殺す技術を磨き続けたのは間違いだった。他の仲間の力をもっと頼るべきだった。役立たずだと決め込んでいた傲りがリンを殺した。
「……なら、今のカカシの判断は信頼できる。成功し続けたわけじゃないんだろ、失敗もしてきた人間の言うことの方が聞く価値がある。明日は幻術の修行をつけてくれ。」
 ……そうやって、カカシの悔いを上書きしようとしてくれるサスケの方が……価値があるとカカシは思う。
「もちろん、実戦レベルまで上げていこっか。」

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